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闘技大会が始まったけど

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こういう大会に、主人公が参加せず完全ノータッチと言うのは珍しいんですかね?
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 そして始まった獣人連合闘技大会決勝戦。日程はゲーム内での一日かけてベスト十六をエイトに、そしてエイトから準決勝、決勝とする予定となっている。そして毎回の第一試合開始時刻はリアルでの午後八時ごろ。

 多少前後するのは、ワンモア世界の日の出に合わせる為である。が、自分は当然裏のお仕事がある為に見に行く事はできない。そして自分の開いているカレー屋台の前には今日もカレーを頬ばる獣人の皆さんがいる。

「あの、皆さん。ここに来て頂けるのはありがたいのですが、大会を見に行かなくて良いのでしょうか?」

 カレーをよそい、渡していく合間に自分はそう問いかけた所、獣人さんの一人が手をひらひらとさせた後に答えてくれた。

「見に行きたいのはやまやまなんだがな、もう入場チケットの前売りは見事に売り切れちまってるんだよ。そしてさらに当日チケット抽選にも漏れたのが俺達って訳さ。決勝戦に知り合いが残っていれば優先チケットがかなり安く、確実手に入るんだが……今回は知り合いは全滅しちまったからな。俺も出場したんだが、黒い鎧に片手剣と盾を構えた人族の男にあっけなく負けたよ。世の中強い奴はまだまだいるな」

 ──おそらくこれはグラッドの事かな。グラッドは決勝に進出しているから、まず間違いではないだろう。この獣人さんの言葉を切っ掛けに、俺の所からはこいつが決勝に出たとか、こういった奴にやり込められちまったよと言った話が聞けた。こういう参加者の人の話を聞くのも結構面白いな。

「なるほど、確かに物凄い人の数ですからね。そのメインでもある闘技大会の観戦は一番参加難易度が高いのも仕方なしですか。闘技場が大きいと言っても、全員を収める事は不可能ですし」

 観戦チケットがないときくと、ダフ屋が居そうだなあとかチラッと考えるがどうなんだろう? それともそう言った行為も処罰の対象となるのかね? 後で報告に来た義賊リーダーに聞いてみるか。前にやった打ち合わせの時はダフ屋に関する話はなかった……はず。聞き逃したか、別の言い方をされていた可能性もあるけど。

「特に決勝のチケットはもう倍率がすさまじいわよ。私も前売り券に獲得に挑んでみたけど、惨敗したわね。でも、やっぱり最後の決勝戦は大盛り上がりになるから可能性が低くてもチケットの応募には乗る価値があるけどねえ」

 所謂プラチナチケットみたいな物ですか。確かにこういった大会は、よっぽどの事がない限り一番盛り上がるのは決勝戦だからな。さて、今日は初日なのでトーナメント表の発表もあるはず。どんな感じになったかな? 会場入りしているはずのツヴァイからそろそろメッセージが飛んできてもいい頃合いなんだが。っと、そんな事を考えていたら来たな。

【よ、アース。ウィスパーだと屋台をやっているお前の邪魔になるからメッセージで送ったぞ。ブルーカラー代表になったレイジは今日に第二試合、弓を得意とするダークエルフと戦う事になった。あと、他のプレイヤー参加組だが……グラッドが第七試合。シルバーのお爺さんが第五試合、ガルが第一試合。レイジは今日勝っても、明日はグラッドの一団の一角と戦う事になっちまうな】

 ふむ、プレイヤーは適度にばらけたのかね。後は結果を教えて貰えばいいか。今日は先日よりお客さんが多いので、それなりに忙しい。ツヴァイからのメッセージをしまうと、またカレーの用意を手早く行う。

「今年は獣人以外にも大きく門戸を開いた大会だからな。今までよりも熱気が違う。もちろん今までも熱い戦いが繰り広げられてきたが、今年はそれを上回る事になるだろうと下馬評が経っていた。そしてその下馬評以上の戦いが予選から繰り広げられたからな。いやがおうにもチケットを求める人が爆発的に増えた格好になる。だから、例年よりもはるかにチケットの確保が難しい。チケット取れて見に行けている連中は本当に幸運だぜ」

 また他の獣人さんが、闘技大会をそう評する。なるほどね、新しい風が入ってきたからそれに伴って大会の期待度も大幅に上昇。そしてその期待に応えるどころか、そのさらに上に行ったことでチケットを求める人もドカンとはねあがったという感じになる訳だ。開催者はうっはうはだろうな、この場合は議会になるのか? 

「見に行けないのならば、せめておいしい物を食べようって事でいろんなところで食事をして回ってるんだ。今年は今までと違って色々な物が売りに出されているから、見回るだけでも十分に楽しめる。チケットが手に入らず悔しいのは事実だが、こういった今までとは違う食べ物とかに触れられる楽しみが得られるからかなりマシだな」

 そう言う意見も出てきている。まあなんにせよ、せっかくのお祭りなんだから楽しまなきゃ損だって話だよね。見れなかったからって腐ってばかりじゃもったいない。せっかく色々な物があるのだからそっちで楽しもう、とそう言っているのだろう。

「その楽しむ一環に自分のカレーが末席とは言え参加できているのなら、こちらとしてもうれしい話ですけどね。自分はここから動けないので、最初っから闘技大会を見に行くと言う選択肢はないも同然でしたからね」

 自分の言葉に、「そうか、こうやって屋台を出す人は見に行けないんだよな」なんて言葉も出ている。どこのお祭りでも、縁の下の力持ちが支えていないと上手く行かない物だ。大勢の人が楽しむその裏で、頑張っている人がいるのである。今回の自分はその、祭を支える側に混じったと言うだけである。

 もちろん屋台を出すのではなく、部下を使って警備を行うと言う方面で。屋台を出したのはカリーネさんのわがままを聞いただけだから除外。

「チケットが取れなかったために浮いた金は、賭けに突っ込んじまったからな。当たれよー、頼むからよ~」

 そんな言葉と共に何かに向かって祈る獣人さんを、周囲の人々はおいおいとばかりにややあきれ顔で見つめる。

「お前さん、賭けを止めろとは言わないが……バカみたいな金額を張った訳じゃないだろうね? この闘技大会が終わると金を借りたがる奴が多くて困る」

 そんな言葉に、ビクッと反応した獣人さんが……この場の半数ほど。大丈夫かよ、こんなんで。

「お客さん、あんまり言いたくはないんですけどねえ。賭けは少額でほどほどに楽しむぐらいに抑えておくのが一番ですよ。自分の衣食住を脅かすような大金を突っ込んじまうのはちょっといただけないでしょう」

 心配になったので、ついそんな言葉をかけてしまった。なんというか、こういう人って結構居るんだよねえ……そんなところまでリアルを踏襲しないでほしかったと言うのが本音だ。賭けごとと言えばエリザも結構この気があるが、大丈夫かな? 周囲のブルーカラーメンバーがとめてくれることを祈ろう。

「ほらアンタ、こちらの屋台の人の言う通りだよ! アタシも賭けを止めろとまでは言わないさ、ガスぬきってやつも大事だってのは分かってるからね。だけど、それで家の生活を傾けられちゃかなわないんだよ。今回は……もう帰ってこないから仕方がないけどさ、負けたらキリキリ働くんだよ! 勝ったらほどほどで良いけどさ!」

「わ、悪かったって! かあちゃん勘弁してくれ! そのアイアンクローはやめてくれー!! いででででで!?」

「これが嫌ならあんたの大事な部分をもいでやろうかい? そっちの方が良いならやってあげるよ!」

 突如一つの夫婦がそんな漫才の様な事を始めた、その様子を見ていた周囲の人達は止めに入るどころか、もっとやれー! と騒ぎ立てている。こういったやり取りもまた一つの楽しみか。もっとも、ドタバタ劇を繰り広げている夫婦にはそんなつもりは全くないだろうが。というか、奥さんのアイアンクローを受けている旦那さんの足が地面から離れているようにしか見えないんですが……

「ち、ちょっと!? さすがに止めないと不味いんじゃないですか!?」

 さすがにあせって自分が周囲の獣人さんに声をかけてみるが、獣人の皆さんは笑ってこう返してきた。

「あー、そうか。初めて見る人だったらびっくりするのも無理ないか。だけどあの夫婦なら大丈夫だ。年がら年中夫婦喧嘩をして、最後はいつもあんな風に奥さんが勝つんだが……旦那の方も体が異様に頑丈でな、あんな痛そうなことをされても、数分後にはケロッとしてる化けモンだ。だから心配する必要は全くねえから安心しな。お、また大技が出たな!」

 そんな事を自分に伝えると、また夫婦喧嘩と言うよりは奥さんが旦那さんにプロレス技モドキを次々と掛けて行くと言う、一種の見世物の様な事が続いた。というか、本当に旦那さんは平気なのか? アルゼンチンバックブリーガーの様な技やら、ロメロスペシャルの様な技やらが次々と目の前に繰り出されていく。旦那さんの体からメキメキとか、ミシミシと言った音が聞こえてくるのは幻聴ではないと思う。それにしても容赦ないな、一体どれぐらいの金を突っ込んじまったんだよ。

 しかし、その後十種類以上の技を食らい続けた旦那さんだったが、二分もすると完全に復帰して普通に自分の作ったカレーを口に運んでいた。バケモンや……。そんな一幕もあったが、基本的には平和な状態が続いていた。

 時たまやってくる義賊リーダーからの報告も、物騒な物は少なかった。ちなみに義賊リーダーに確認を取った所、ダフ屋はこちらではチケットシーフと呼ばれていて、処罰の対象だった。処罰の内容は、隠蔽兵に連行されていったのでわからないとの事だったが。
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銀河鉄道999のオープニングテーマはいいですなあ。
その割に書いていることはこんなんばっかりですけど(苦笑)。
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