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決勝終了、そして事態急変

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(そろそろ始まったかな。頑張れよレイジ)

 闘技大会もとうとう大詰め。今日行われるレイジVSシルバーの決勝戦を残すのみだ。ここまで勝ち上がってきた外の国からやってきた猛者同士の戦いとあって、例年よりも盛り上がってるとはカレーを食いに来た獣人さんからの情報。まあこういう物は盛り上がってなんぼだよね。

 しかしその一方で、いまだに例の残党たちとの決着がついていないのも確か。部下達も必死に探ってくれているのではあるが……残念ながらこの日を迎えるまでに解決することが出来なかった。こんな所でそんな有能さを見せつけてくれなくてもいいのに。とにかく今できる事はカレーを売りながら、部下達の情報から指示を飛ばすことぐらいだ。

 そして闘技大会の決勝が始まり、決着した。優勝者はシルバーのおじいちゃん。レイジも良い所まで行ったらしいが、残念ながらあと一歩及ばずと評されたらしい。まあ仕方がない、次の機会に頑張ってほしい所である。レイジにとっていい経験になっただろうし。そして少し時を置いて表彰式が始まる……その寸前、普段見せない慌てた様子の義賊リーダーがカレーを売り切って露店をたたんでいる自分の所にやってきたのである。

(親分、申し訳ねえ!! 完全にやられやした! 表彰式に中央議会の議長を務める護衛兵の中に、親分やあっしらが追っていた連中が何時の間にやら紛れ込んでいやがったんでさ! 隠蔽兵の新人やベテランの何人かをいつの間にか殺して、すり替わっていたようで!)

 なに!? と、言う事はだ……

(こちらの情報は途中から完全に漏れておりやした! くそっ、あっしとしたことがこんな大失態をしちまうとは……なさけねえっ! 通りであっしらが必死で探しても、あいつらの尻尾がつかめねえわけだ!)

 ──不味いな。今回は連中の方が上手だったか。そんな事を考えていると、義賊リーダーがまだ話がありやすと言ってきたので、とりあえず報告のすべてを聞くことに専念する。

(それでも連中の行おうとしている悪事は何とか判明したんでやすが……まずはこの後行われる表彰式にて、中央議会の議長を拘束して拉致。そしてそれと同時にこの街に住む子供達を数人ほど拉致。この二つを合わせて身代金を要求し、自分達の盗賊団の再興資金に充てるつもりのようなんで)

 なるほど、自分達によってぼこぼこにされてしまったから……もう一度立て直すためにはまず資金の確保が必要だったという事か。金があれば大抵の事は何とかなる。そしてある程度盗賊団が復興すれば、また街の人達から金品を巻き上げる状態に戻せる、と。どう転んでも悪事から足を洗ってつつましく過ごすという選択を取るつもりはないという事か。

(あっしの部下や、協力してくださっている忍者の皆さんや北町隠蔽辺の皆さんと協力して、今は街の子供をさらおうとしている連中を食い止める為に戦っている最中で……今、中央議会の議長様を護る影の護衛は無いに等しいんで! しかし、こっちも議長様の護衛に今すぐ割けるだけの余裕がありやせん!)

 チッ、と舌打ちを反射的にしてしまった。今日この日まではっきりとした情報が上がってこないのも、敵の尻尾がつかめなかったのも、こちらの事が筒抜け状態だったからという事なら納得がいく。完全に後手に回った! このままでは議長はほぼ間違いなく連れ去られる。

(──子供達の方は何とかなりそうなのか?)

 行動を起こす前に最終確認。議長を攫われるのも困るが、子供達を攫われるのも困る。どちらも大事な命であり、どちらかを切り捨てても良いという訳ではない。とりあえず今は子供達の方がどうなのかを確認しておきたい。

(へい、あっしの部下もですがね、忍者の皆さんや隠蔽兵の生き残りの皆さんがこれ以上やられてたまるかと奮闘しているお蔭で、賊連中は始末が進んでいる様子ですぜ。しかし、やはり議長の所へ向かう余裕はねえそうで)

 つまり今すぐ動けるのは自分だけ、か。よし、自分も切り札を切る事にしよう。やはり温存しておいてよかった。

(今すぐ案内してほしい所がある、闘技場の内部を狙撃できる場所はないか?)


 今闘技場にある武舞台の中央では、優勝したシルバーへの栄誉を称えて賞金を贈るべく、六人の護衛を伴った中央議会の議長が進み出てきたところであった。表彰式の為、熱気あふれる戦いを見て大いに騒いだ観客達も今は静かに見守っている。

「こほん。では、これより第八二回目の闘技大会、表彰を行います!」

 議長である狐の女性がそう宣言したことで、観客達はワーッ! と歓声を上げて……また二分ぐらい後に静まる。

「表彰! シルバー殿! 貴殿は今大会において素晴らしき力と技を存分に振るい、今大会参加者二千十二名の頂点に立ったことをここに認め、表彰するものであります! これからも益々の活躍に期待しております。おめでとう!」

 ここでシルバーが議長に頭を軽く下げ、観客達は拍手で優勝したシルバーを祝福する。少し時間を置き、会場が落ち着いたところで議長は表彰式を進める。

「そして、その活躍をたたえ、優勝賞金として五百万グローをシルバー殿に授与するもので『おっと、その金は俺達が有難く頂こうか!』」

 和やかなムードは、そんな声と共に議長の首に突如突き付けられた短剣と野太い声で一瞬にして消え去る。その短剣を議長に向けているのは、議長が護衛として連れてきた六人のうちの一人だった。議長がどういう事だ!? と護衛が立っていたはずの場所に視線を向けると……そこには喉を切り裂かれて崩れ落ちる二人の護衛の兵士と、その切り裂いた一人。さらにその切り裂かれた二人を抑えていた別の二人の姿が目に入った。

「これは……どういうつもりだ!」

 議長のそんな糾弾するような声に、ナイフを突きつけている護衛……いや、護衛や隠蔽兵を殺してすり替わっていた盗賊団の一人はその答えとばかりに大きな声で宣言した。

「よーしお前ら、分かっているとは思うが動くなよ? 動いたらこの議長さんの首がポーン! と宙に舞う事になるからなぁ? 安心しろ、俺達が欲しいのはこの賞金五百万グローと、この議長さんの体だけだ。他の連中や、ただ闘技大会を見に来ているだけの客人に傷をつけるつもりはねえよ。だからそこのおじーさんも、それ以上その大剣みたいな斧をうごかすんじゃねーぞぅ?」

 シルバーも、そして武舞台の下で表彰式を眺めていたレイジを始めとしたこの闘技場の中に居る人々は、この言葉で動けなくなった。どうあがいても、自分達が議長を助ける為に動く速度よりも議長に突き付けられたナイフの方が早い。それ故に、ここで迂闊に自分の判断で動く訳には行かなかった。

「いい子だ、そんな素直なお前達に更なる情報をやろう。実はな、俺達はさらに何人かの子供達の命も握っててな。ここでお前達が動いたら、そいつらも殺さなきゃいけなくなるところだった。幸いここには話をちゃーんと聞いてくれるいい子が集まっていたから、そんな事にはならずに済んだがな。もちろん俺達も子供は好きだから殺すなんて真似はしたくなかったからよかったぜぇ。子供達もそのうち開放するから心配すんな、面倒を見ただけの代金は要求するけどなぁ」

 この言葉に、『それは身代金と言うんだろうが!』と会場に居る人達の心の声が一致していた。しかし、下手に動く事が出来ない以上はどうしようもない。ぎりぎりと歯ぎしりをしながらも、動かずにいるほかなかった。下手に動けば、だれかの子供が殺される可能性があるのだ。

「んじゃ、俺達は失礼させてもらう。そのうち手紙で色々と細かい事は連絡させてもらうからな~。ほら、お前はこっちに来やがれ」

 そうやって首にナイフを突きつけられて武舞台から降ろされそうになっている議長を、だれもが見ている事しかできなかった。そう、闘技場の中に居る人達は。


「間に合わなかったか……くそっ!」

 そんな言葉が自分の口からこぼれる。今自分と義賊リーダーは、お偉いさんなんかが観戦のために入るV.I.Pルームみたいな所の屋根上に居る。自分の魔剣である惑で闘技場のくぼみなどに引っ掛けて上ったのだ。どうやれば登れるかのナビは、自分の背中に引っ付いていた義賊リーダーが行った。

「親分、ここで連れ去られたら探し出すのは難しくなりやす! 武舞台の上に居るあいつらが、子供の方の誘拐が失敗したと知ればどんな手段を取ってくるか読みにくくなりやす……ここで阻止できねえと、不味いですぜ……」

 義賊リーダーもその声には焦りが多分に含まれている。そうだな、下手すればあの連れ去られそうになっている議長さんが帰らぬ人になるかもしれん。それに、あいつらは優勝賞金までくすねるつもりの様だ。人の命も金も自分のものにしたいってか? それを許す訳には行かない。

「よし、ここからは別行動をとれ。お前の判断で、この状況を好転させるために動け」

 義賊リーダーが頷き、消えた後に自分は黄龍に変身して魂弓を手に出現させる。この屋根上から、あの賊達を狙撃する。普段の自分にはできないが、黄龍の力とこのエルの魂が宿ったこの弓ならば可能なはずだ。

(エル、頼む。あんな狂った奴らから被害者を救い出せる力を)

 そして、自分は矢を取り出して弓に番えて弦を引き絞る。やり直しは効かない一発勝負……手の震えが止まらない。
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近日中に、6巻制作により、消去する場所の報告を行います。
お見逃しが無いように宜しくお願いします。
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