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獣人連合出国、龍の国へ

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 さて、その後どうなったかを結論から言うと……自分の仕事はあの闘技場で行った狙撃を完遂した時点で終わっていた。子供達を連れ去ろうとした盗賊団の連中は、怒りに燃える隠蔽兵の皆さんや忍者の皆さんの活躍があって全員死亡。

 そして残党狩りや、闘技場の生き残りから吐かせた情報からアジトとして使われていた場所の探索などを経て、獣人連合のなかで暗躍していた盗賊団は完全に潰れた。今回のお祭りに乗じての作戦が最後の賭けだったらしい。

 闘技場でとらえられた二人や、アジトに残っていた数名の盗賊団の面子は、情報を吐かせられるだけ吐かせた後に処刑されたと隠蔽兵のカリーネさんから教えてもらった。

 その報告をするカリーネさんの表情はかなり悪く、今回の一件については失態続きであった事に頭を痛めている様子だった。特に守るべき議長の影としていたはずが、盗賊団に殺されてしまった上に情報まで漏らすことになってしまった事で、かなり上の方から厳しく叱責されたらしい。

 当然ながら、これらは本来なら叱責では済まない失態なのだが……これ以上仕事が出来る奴が減ったら困るという思惑もあって、それ以上の罰は無かったそうだ。要は、罰を軽減してやる分もっと働け&新人教育を急げという事なんだろうと、顔色の悪いカリーネさんがこぼしていた。

 そんな話を自分にしてきたのには当然それなりの理由がある。そういう状況なので、ぜひあなたたち義賊団がこちらの隠蔽兵に入ってほしいと勧誘されたのである。しかし、これは固辞するしかないので断ると失意の表情をカリーネさんは隠す事が出来なかった。そんなカリーネさんを見ていられなくなった自分と義賊リーダーは、少し相談した後に一つの提案を投げかけた。

「あっしらは親分の下で動くので、そちらに入ることはできやせん。ですが、そちらの苦しい状況も理解しておりやす。そこであっしから提案なんですがね、そちらの新人教育をある程度手伝いやしょうか? あっしらの技術を一から十まで教えることはできやせんが、最初の一歩と言う教えるのに時間がかかる部分だけでもお手伝いと言う形でならやれやすよ? 相応の御代は頂きやすけど」

 カリーネさんはこの提案に食いついた。無理もない、仕事をしながら新人教育なんてやってたらそれこそ人数ががた減りした隠蔽兵の皆さんがパンクしてしまう。どんな物事でも『始めの一歩』が一番難しいのだ。だが、一歩でも歩けるとその後の二歩三歩は結構歩けるものなのである。その一番手間がかかる部分を教える為に義賊団の中から人員を派遣する、という事だ。

「感謝します! それだけでも弱体化してしまった隠蔽兵にはありがたいお話です!」

 その後は教育の報酬などの話になったが、教材として必要な金額は全額獣人連合もち。そして授業料はほどほどの値段にしておいた。技術の安売り、なんて思われるかもしれないが、裏の守りがスカスカで今回のような事件がポンポン起きるようになってしまったら、自分達の義賊団が協力しても捌ききれなくなってしまう。それでは困るのだ。はっきり言えば、自分達のような存在がヒマであればあるほど世の中にとってはいい事なのだから。

「では親分、教育を行うためにこちらに残す面子はあっしの判断で宜しいですかい?」

 義賊リーダーの言葉に頷く。自分は義賊団一人一人の能力を詳しく把握していない以上、義賊リーダーの阪南に口をはさんでも悪化しか招かない。ここは一任しておくのが最善の手段だろう。

 そんな裏側の話し合いが進んでいる一方で、表はと言うと……まず、あの闘技場表彰式に乱入があった事は、優勝者がどのような状態に陥っても対処できるのかの仕込みであった、という事にされてしまった。あの騒ぎは一体なんだったのかと詰め寄る人もそれなりに多かったらしいが、そう言う一種の仕掛けだったと発表されると『悪趣味だが、それで優勝者の剛腕を目にする事が出来たから良いか』と言う流れになった。もちろんあの時ぶった切られたのは人間ではなく、人間に似せて魔法で動かしていた人形と言う扱いにしてごまかしていた。

 真実を伝えるよりも、敢えてお祭り中のちょっとしたハプニング演出とした方が混乱を招く可能性が下がる。と緊急で開かれた中央議会に出席した議員の考えがほぼ一致した。せっかくの景気づけとして少々無理に行った祭だと言うのに、ここで余計な冷や水を掛けられて明るい未来を演出する流れを失いたくない。そう考えたためだろう。

 こうして真相は一部の人が知る形で埋没していくことになる。その知っている一部の人は、獣人連合からのお願い……と言う名の金銭や、資源の融通などで口止めされることになる。なお、自分の義賊団も口止めとしてある程度の金銭をカリーネさんから渡された。一度は断ったのだが、受け取ってもらえない方が怖いとの言葉を聞いたので受け取っておいた。この金は、後で部下の活動資金として回せばいいだろう。

 それから、あの時議長に連れて行かれたシルバーのおじいちゃんだが……噂では引っ付かれて困っているらしい。これはあくまで噂でしかないので真相は分からないが、かなり猛烈なアタックを受けている可能性がある。かつての自分とフェアリークィーンの様な事になるのかも知れないな。


 こうして、心残りもあらかた処理できた自分は獣人連合を後にする事に決めた。そろそろ黄龍様の所に顔を出さないといけないし、鍛えた姿をエルフの村に居る蹴りの師匠に見せるのも良いだろう。最後に痛風の洞窟の件で世話になった道具屋に顔を出し挨拶をしていく。幸い親子間の問題はより改善されているようでホッとした。これで出て行ける。

 アクアを頭にのせて、北街から東街へ馬車で移動。そして東街を後にして歩き続ければ、久々と感じるサーズ近辺の風景が目に入ってくる。獣人連合でも色々とあったから、ここらへんも懐かしいな。相変わらず川の付近では釣りに興じている人がいるのかな。帰り道の途中で、絶対に橋を渡ることになるから見て行こうか。

 そうしてさらに歩き続けて川の付近までやってきた自分が見た物は、人魚さんと談笑しながら釣りをする人々の姿。さすがに釣りをしている人の人数は実装直後よりは減っている。だが、その減った分人魚さんが川岸に腰掛けて釣りをしている人と話せるスペースが確保できている様子だ。どうやら釣りをしている人と人魚の皆さんは、良好な関係を築き上げた様である。

 さらに、川のそばには屋台もいくつか出ていて、釣った魚をその場で捌いて美味しく頂くと言った事を売りとする料理人プレイヤーが居た。〈百里眼〉で軽く確認したが、結構にぎわっているようだ。人魚さんをお姫様抱っこ? して屋台の椅子まで運び、一緒に食事を楽しんでいるプレイヤーもいるな。こちらは平和そうで何よりだ……自分とは雲泥の差だなぁ。

 そんな様子の川から離れて、自分はサーズからファスト、ファストからネクシアへと乗合馬車で移動する。アクアに乗っていけばあっという間なのだが、極端に急いでいる訳ではないのだからとのんびりと景色を楽しむために馬車に乗った。そしてネクシアから龍の国へ。最初はファストからの道しかなかった龍の国だが、今はネクシアからも行けるようになっている。

(カレーの為に使うお米の買い出しとかでちょくちょく来たから、龍の国はなつかしいと言う感じはしないな)

 龍の国からはアクアにある程度の大きさになってもらって、騎乗状態で移動する。空は関所破りになってしまう可能性があるので飛ばない。買い出しの時はそれが面倒だったが、郷に入れば郷に従えと言う言葉もあるし、関所破りでお尋ね者なんかになってしまったら目も当てられない。

 とはいえ、騎乗状態でもアクアになって移動すれば下手な馬よりはるかに速い。この速度ならば十分に余裕をもって六が武に入る事が出来るだろう。基本的に街には入らず、モンスター達は無視。こっちに感づいて追いかけてくる連中だけは矢で始末。そしてこちらの進路上にモンスターが居た場合は……うん、アクアのボディプレスとか、キックとかが遠慮なくさく裂するだけである。

 そんな移動方法を用いたおかげで、六が武にはあっという間に到着した。モンスターの集団に突っ込む事六回。その六回ともアクアの『ちょっとそこ通りますよ』的な攻撃によってモンスター達は壊滅した。

 その時点ではまだ全滅はしていないが、武器を投げ捨てて逃げていくゴブリンやオーク達を追いかける事はしなかった。自分が逃げていく連中全員を射殺したので。お米の買い出しに来た時も六が武には来なかった為、こうやって六が武の中に入るのは久々だ。アクアから降りて、街の中に足を踏み入れる。

 六が武では相変わらず桜が咲いていた。以前ゴロウが一年中咲いていると言っていたが……一年中咲いているとなると風情も何もあったもんじゃないな。パッと咲いてパッと散るからこそさくらは美しいんじゃないだろうか……と言うのが自分の持論だ。まあパッと散るので戦国時代では嫌われていたらしいけど。

 さて、宿屋探しだが……以前使ったあの街のど真ん中にある馬鹿でっかいあの宿屋に入るつもりはない。あそこはある程度まとまった人数で行動している時ならいいけど、一人だとちょっと大きすぎる。なので、ほどほどの宿屋を見つけて休むことにした。この街に長居をする訳ではないのだから、適当でいいだろう。

 見つけた宿屋は、それなりに空き部屋があったのですんなりと入る事が出来た。アクアに小さくなって貰い、宿屋の中に入る。部屋は二、三人同時でもゆっくり休めそうなほどのスペースがある。今は部屋が空いているという事で、一人分の代金で良いですよと言われているが。部屋も確保した事だし、後は風呂に入ってアクアを洗ってからログアウトだな。そして明日、黄龍様の所に行ってみる事にしよう。
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明日からしばらくあちこちにアースが寄り道します。その後に魔王領編をスタートさせます。
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