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連載

修行の仕上げ

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序盤にて、ようやくクィーン分身体の名前が決まります。
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 翌日ログインした直後、指輪からクィーンの分身体がちびキャラ状態で出てきた。それは別に問題はない、ちびキャラ状態なら、一度呼び出せば二週間は出てこれないの条件に引っかからない。それに今は急いでいる訳でもない。しかし、別の形で問題があった。クィーン分身体の着ている服が、メイド服なのである。とうとうこいつにまで……

「どうでしょう? 可愛いですか?」

 メイド服を着てポーズを決めるクィーン分身体。狐耳の美人がメイド服を着ているという所から、こういった物が大好きで支持する人には強烈なアピールとなるだろうが……自分の口から出てきたものは溜息だけだった。

「あーはいはい、かわいいかわいい」

 自分の棒読み台詞に、ぷくーっと頬を膨らませる分身体。つか、いい加減こいつの名前を決めるか。色々とありすぎて今の今まで放置して来たし、いちいち分身体だと考えるのもなんだかなーと思ってるし。さて、そうするとどんな前にしようか。あんまりにも適当な名前では可哀そうだし、凝った名前を付けてもそれはそれで面倒くさい。名前を付けるってのは難しい、うーんと、これにするか。ぷりぷりとお怒り状態の分身体に向かって、自分は口を開く。

「えーっと、今の今までかかったが名前を決めるぞ。お前をこれからは『ルエット』と呼ぶ事にする。良いかな?」

 突然の名づけに、膨れていた顔からぽかんとする表情に切り替わった分身体……いや、ルエット。元はシルエットから取った。安直だが、自分の頭から引っ張り出せる中では比較的響きが可愛い……と思われる部類ではないだろうか。どうやらルエットもようやく自分に名前を与えられたと理解した途端、表情が緩んだ。

「ついに、ついに私にも名前が与えられたのですね! これでもう私は、あのクィーンとは別の存在となった! 嬉しいです! 今日は指輪から出てもいいですよね!?」

 良いわけないでしょうが。一回出たら二週間もかかる。その二週間内にとんでもない事件が起きないとは限らないのだから、切り札をそんな事で使えるか。冷たいかもしれないが、こっちの世界は冷たいときには容赦なく冷たい。いざという時に使えませんが許されないのだ。

「ダメだっての。いざってときの切り札が使えないのは困る」

 この言葉を聞いたルエットは再び頬を膨らませたが、そのうち『そ、そうですね。良い女というのはいざというときに頼りになる存在であらねばなりませんね』などと自己完結して勝手に納得していた。まあ、それで良いならいいよ、実際過去のエルの時のような状況に追い込まれた時に打破できる助っ人として頼りたいのは本音だからな。そうして二、三ルエットと雑談をしながら装備を整えていると、部屋にルイ師匠が入ってきた。

「あ、アース君起きたのね。じゃ、食事をとって軽く体を慣らしたらいよいよ今回の修行の仕上げに入るからね。そのつもりで心の準備を宜しくね」

 そうか、さんざんぼてくりこかされながらも何とかついて行った修行の成果が出る時がやってきたのか。そうやって気合を入れられれば良かったんだけどなぁ。何というか、今回はほんとにただ目の前に出された課題とか、組手で必死にルイ師匠と戦ったと言う記憶しかないのでいまいちこうしっくりこない。本当に自分の技量とかは上がってるのか? って疑いの感情しか浮かんでこない。そりゃスキルのレベルはいくつか上がったけど、この世界じゃスキルレベルが上がっても、それで戦いに勝てるっていう世界じゃないし。

 と言っても、行動するしかないわけで。考えるな、感じろの形で行く事にした。とりあえずやってみて動いてみれば何かが分かるだろうし、考えるのはそれからで良い。新しい技を教えるとも言われているのだから、それなりの進歩はあったはずだ。そうでなければ、仕上げに入るだなんてルイ師匠も言わないだろう。宿で食事をとり、そこから訓練場へルイ師匠やアクアと共に移動。アクアは今日も見学である。これが終わったら、思いっきり走らせてやらないとな。

「じゃ、軽く動きましょうか。でもその前に、アース君は全部の武器や防具を装備解除してね。今日はこの訓練場を出るまで、装備をつけちゃダメ」

 ルイ師匠の言葉に従い、すべての装備を外す。これで着ている物は、街の人が着ている物と変わらないシャツとズボンだけになる。ここまで無防備な姿を晒すのは、基本的にログアウトするためにベッドに入る時だけだ。こうやって昼間にこんな姿になった事は今までにない。指輪などの外しようがない物だけは勘弁してもらった、何せカースユニークだし。

「じゃ、軽くやりましょうか。あくまでウォーミングアップだからに気楽にね」

 すいません師匠、そんな言葉を信じることはできません。ほらやっぱり! 師匠から飛んでくる蹴りのスピードがまた上がってる! ちょ、まっ、反撃する余裕がない! これのどこがウォーミングアップなんですかっ!? 師匠の攻撃をよけきることは当然できず、攻撃がかすり始め……やがていいのを貰い始めてノックアウトされる。これを気楽にという師匠は鬼や!

「うんうん、程よく体の方も温まったわね。じゃあそろそろ本番と参りましょうか」

 くっそう、負けてたまるか! と自分に気合を入れて立ち上がる。やり方はあれだが、確かに体もほぐれてほんの僅かにあった緊張感何て物は見事に粉々になった。よし、なんでもやったらぁ、かかってこいやぁ! の気分である。

「さて、まず最初は……アース君の放てる最高の蹴りの技を私に当てて貰おうかな。ちなみに、私は絶対に避けないで防御に徹します。なので、とにかく一発が重い……もしくは連続攻撃で一番攻撃力が高い技を私にぶつけて頂戴ね」

 どういうことだ? こちらの一撃をわざと受けるとは。とは言え、やらなくちゃいけないと言う雰囲気だよな。ならば、あれで行くか。本来なら相手の体勢を大きく崩さなければ当たらない大技なんだが、絶対に避けないと言うのであれば、その前提条件は無視できる。

「では、行きます」

 師匠に告げてから、自分は痛風の洞窟にて伝授された《幻闘乱迅脚》を発動する。脚力を生かして跳躍し、幻影を纏う。纏った幻影の数は分からないが、さっきぼこられた事や気合いの入り具合からかなり大勢を纏ったと思う。この幻影たちにも攻撃能力があるからな、多いほどいい。

「伝授技、《幻闘乱迅脚》!」

 大きな声で宣言し、気合いを入れてからルイ師匠目がけて急降下しながら蹴りを繰り出す。自分の蹴りはルイ師匠の腕にて防がれたが、このアーツはここでは終わらない。そこからさらに身に纏っていた幻影が次々と追撃の飛び蹴りを繰り出し続ける。全ての追撃は師匠の腕に集中、崩せるか? 一撃を入れられるか!?

「はっ!!」「うおあっ!?」

 が、駄目。ある程度は効いていると思ったが、師匠が腕を振り払って簡単に吹き飛ばされた。背中から地面に落ちたのでけっこう痛い。ドラゴンスケイルアーマーも外套も来ていないから尚更だ。それにしても、《幻闘乱迅脚》を真正面から当てたってのに貫けないとは……現時点の自分が使える最強の蹴り技なんだがなぁ。

「──なるほど、しばらく姿を見せないなりに新たな技は磨いていたという事ね。気になる点もかなり多いけど……いいわ、新しい技を教えるにふさわしい技量は身に付いたと判断しましょう」

 認められたのは嬉しいけど、悔しい気持ちの方が強いな。自分の本領を封じた形の一撃とは言え、満足できる結果ではない。せめて一歩ぐらい後退させれればここまで悔しい思いをせずに済んだかもしれん。が、そんな事を何時までも考えていてもしょうがない。今は新しい技を覚えて、自分の力をもっと伸ばせるようにしないと。弓は成長限界を迎えているが、蹴りはまだ上がる余地があるから落ち込むことは無い。

「そうね、今の貴方に教えられる技は……二つかな。一つは《風華蹴ふうかしゅう》。そしてもう一つが《風結蹴ふうけつしゅう》。この二つね。まず、《風華蹴》は竜巻のように回転しながら下段、中段、上段と蹴りを入れて行って、最後に飛び蹴りで横に吹き飛ばす技ね。もう一つの《風結蹴》は、蹴りを入れながら相手を風で作る結界の中に封じていき、最後の一蹴りで結界の中に貯めた風の力を炸裂させると言う、エルフ流の奥義の一つよ」

 お、ついにはっきりと奥義と言ったか。だが、今の貴方に……と言っているから、さらに上があるんだろう。その習得条件に自分が届くかは分からないけど。まあ、それは後回しだ。今はしっかりと師匠の動きを見てどういうアーツなのかをしっかり理解しないとな。言葉だけではなく、実演もしてくれるのだろうし。
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もしかしたら、今年中に更なる仕事が増えるかも。
そして、新しいアーツを考えるのがしんどくなってきた……
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