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連載

VS赤鯨その4

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 弓から放たれた惑だが……まず、いきなり常識と言う物が通用しない事を知った。惑の動きは先っぽが飛んでいくと言うよりは高速で伸びていくという表現が正しい状態で、矢尻の部分はほとんど飛んでいかないのだ。色んな物理法則云々ドコー?

「惑ちゃん、柄から下をもとの形に戻して! あいつを捕まえるよ!」

 あー、ルエットさんや。なんで持ち主である自分より惑の扱いに慣れてるんですかね? 持ち主がいつの間にか変わってるってパターンなんですかねこれは……とはいえ、小さくなって逃げる赤鯨を猛スピードで惑の先端が追いかけているのは〈百里眼〉で見る事が出来ている。明らかにスピードに差があるので、惑の先端が赤鯨に追いつくのは時間の問題だろう。軽く周囲の人を見れば、ぽかーんとしている方も多数いらっしゃる。

「取った! もう逃がさないわよ~?」

 そのルエットの言葉通り、惑の先端が赤鯨の背後から突き刺さって貫通。貫通した先で先端が大きく変形して錨のような形を作り、抜けないようにしている。そしてその状態のまま惑の長さが縮み始める。そうなれば赤鯨は引っ張られるしかない訳で……必死の逃亡を図った赤鯨は、討伐に参加した人達の元にお帰りなさいしてきた事になる。

「さて、とどめを刺すのは人魚さんに任せていいかしら? 散々傷つけられてきた恨みとかもあるでしょうし」

 赤鯨は必死に逃げようとしているようだが、ルエットが手に持っている惑の串刺し状態から逃げる事が出来ないためにじたばたともがいている。ボスもこうなっちゃうと形無しだねえ。

「──感謝する。海の秩序を大きく乱したこいつには、相応の制裁を下すべきだ。そしてその制裁は……死以外にありえないからな。皆、ここはこの方の好意に甘えよう。我らの手で、この海の悪党に止めを」

 静かに集まってきた人魚さん達は、槍を持つ手に力を籠める。そして、その様子を見た赤鯨には脅えるような様子が伺えたが、同情する気にはなれない。人魚さん達の槍が逃げられない赤鯨に何度も突き刺さり、赤鯨は息絶える。とりあえずこれで、この場での戦いは終わったか。

「あー、時間切れが近いわ。ちょっと張り切りすぎて魔力を予定より大きく使いこんじゃったみたい」

 赤鯨を倒した事で、ホッとした空気が流れる中……そんな事を唐突にルエットが言い出した。赤鯨討伐に大きく貢献したルエットであるため、その言葉一つで注目を集めてしまう。

「指輪に帰るわね。それとマスター、悪いお知らせがあるわ」

 悪い知らせってなんだ? まさか、他の箇所の赤鯨討伐隊が全滅したとか言わないよな?

「赤鯨はまだ終わってない。さっき倒した赤鯨から、濁った気味の悪い魔力みたいな物が抜け出して他の赤鯨の方を目指して飛んでいったわ。止めようとしたけど……残った魔力じゃ止められなかった。戦闘で予想以上に魔力を使っちゃったし、さっきの逃げる赤鯨を捕まえるためにより多くの魔力を浪費しちゃったからどうしようもなかったわ。早く合流しないと不味いかも」

 オイオイオイ。まさか赤鯨は、何処かを倒すと、その倒した奴の力を吸収して強くなるってパターンなのか!? そうなると、最後の一匹になってからが本番という事になるぞ! ルエットの話を聞いている他の人達も「マジなのかよ!?」「まだ、全然終わりじゃないって事!?」と話し合っている。

「魔力が飛んでいったのはあっちの方向。たしか、真ん中の赤鯨を討伐するために移動していった討伐体がいる方向だったはずね。私が力になれるのはここまで……後は何とか頑張って」

 そう言い残すと、ルエットの体が光の粒子となって指輪に吸い込まれる。そして当然ながら十位の人から質問を受けるが……指輪は昔フェアリークィーンから貰ったものと説明すれば、あの時の指輪か。とすぐに納得してもらえた。そしてこの指輪の中に、クィーンの分身体が自我をもった状態で存在し、少しの間ならさっきの様に呼び出す事が可能になっている。ただし、一回呼び出すと二週間以上時間を置かないといけないと言う部分も隠さず説明した。

「あの時の指輪が、そんな力を隠し持ってたんか。似たような効果のあるアクセサリーとか、他にもありそうだな。ここの戦いが終わったら探してみるかねー」

 なんてことを言われたりもした。しかし、いま大事な事はそこではない。

「それはさておき。最後にルエットが言ってた事が気になる。ある程度休息をとって回復してから、中央の赤鯨を担当している舞台に合流するべきだと思うんだがどうだろうか?」

 と自分が話を振った所で「ちょっと待ってくれ」と制止する声が。

「その前に、今右側の赤鯨を担当している知り合いから連絡が入った。もしかしたら援軍要請かも知れないから待ってくれ!」

 との事なので、とりあえず話を保留して連絡内容をその人に聞いてもらう事にした。そして一分ぐらいのやり取りの後、伝わってきた内容は『右側の赤鯨、討伐成功。ただし被害者が二十名以上』であった。そしてこちらが先程のルエットの言葉を伝えるが……連戦可能な人数は、プレイヤーと人魚さん両方足して二十三名しかいないとの事。他は武器や防具を修理しないとどうしようもなかったり、大けがをしたため治療を優先しないと死亡すると言った状況の様だ。こちらはルエットが大暴れしてくれたおかげで、人員の被害が少なかったからな……。

 とはいえ、気になるのは言うまでもないので動ける面子で中央を担当している部隊の援護に向かう事になった。これと言った変化がなければそれでいいが、もしボスが何らかの変化を起こしていた場合……非常にまずい事になる。そうなってしまった場合は、中央の部隊の戦力だけでは厳しい事になる可能性が高い。でもなぁ、こういう時って絶対フラグなんだよな。そしてそう言った立たなくていいフラグを全力で建てるのがワンモアという世界であって……それなりの覚悟はしておこう。

 と、ここで自分のウィスパーに連絡が。どうやらレッド率いるヒーローズがようやく到着した様だ。なので、中央の赤鯨を担当している部隊が戦っている個所を伝えておく。彼らの戦闘力は一級品だし、ブラックは知略にも長けている。何とかしてくれるかもしれない……周囲に居る人には、ヒーローズが援軍として中央の赤鯨担当部隊の援護に向かったことを伝えておく。

「で、俺達はどうする? 幸い脱落者は少ないが、さっきまでやっていた戦闘で誰もが疲れてるしMPだって少ない。MPはアイテムで無理やり回復させても良いが、疲労の方は休憩しないと抜けないぜ? だけどよ、状況はのんびり回復を図っていても良いって感じはしねーんだよなぁ……」

 ──彼の言う事も最もだ。ゲーム的にはスタミナと言う数値はないが、先程まで戦っていた以上、精神的な疲れはある。特に前衛で赤鯨の出す刃をよけたり水魔法をよけたりして攻撃を仕掛けていたプレイヤーや人魚さん達は、後衛の人達よりはるかに疲れているはずだ。そんなへとへとの状態で無理に救援に向かっても、凡ミスを繰り返してあっという間にやられるだけになってしまうかもしれない。

「俺は急ぐべきだと思うけどな。取り返しがつかなくなるかもしれん」「私は休憩したいわ。何も一時間とは言わない、五分から十分程度でいいのよ」「しかし、今はその五分十分が惜しい気もしますわね……」「だけどよ、ヘロヘロな状態で無理に急行しても、ただの足手まといになる様じゃ逆効果じゃないのか?」「中央部隊との連絡はとれないか?」「だめ、そんな余裕はないっぽいよ……ウィスパーを送っているけど、受け付けて貰えない」

 休むべきか急行するべきか。どちらの言い分にも利があるために決まらない。が、ここで人魚さんの一人が一言。

「今は休むべきだ。確かに急いで援軍に向かいたいという気持ちは理解するし、我々も同じ心境だ。だが、ここは我らの仲間を信じてほしい。新しい武器を手にした我らの戦士がたやすく負けることは無いと私達は友を信じている。だから今は休息をとり、少しでも体調を戻してから援軍に向かうべきだ。それに、休息をとらずに援軍に向かえば、全体が疲労を蓄積した状態で戦わねばならなくなる。その様な状況に陥るよりは、ここで疲労を少しでも抜き、援軍に向かった後に戦っている部隊を少し後ろに下げて休ませる時間を作る事を可能とするためにも、ここで我々は休息をとるべきだ」

 この人魚さんの一言で、十分の休憩をとることが決定。この休憩中は気持ち悪いぐらい静かな時間が流れた。喋る人も居なければ、大きな音を立てる人も居ない。聞こえるのは水の音とたまに起きる金属のこすれ合う音ぐらいなものだった。そんな十分が経過した後、この場に居る全員が中央赤鯨の討伐支援に動き出した。ちなみに、赤鯨戦で吹き飛ばされるように飛んで行ってしまったプレイヤーと人魚のペアは、帰ってこなかった。かなり遠くまで吹き飛ばされたのかも知れない。
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まだまだ戦いは終わりません。

スキル

風迅狩弓Lv50 The limit! 砕蹴(エルフ流・限定師範代候補)Lv42  百里眼Lv38  技量の指Lv54  小盾Lv39  蛇剣武術身体能力強化Lv1 ダーク・スラッシャーLv1  人魚泳法Lv10 ↑1UP 鍛冶の経験者LV30 妖精招来Lv17 (強制習得・昇格)(控えスキルへの移動不可能)

追加能力スキル

黄龍変身Lv1.94

控えスキル

木工の経験者Lv8 上級薬剤Lv34  釣り LOST!  料理の経験者Lv27 義賊頭Lv47  隠蔽・改Lv7

ExP 10

所持称号 妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 竜と龍に関わった者 妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相 託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人 妖精国の隠れアイドル  悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮) 呪具の恋人

二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人

強化を行ったアーツ

《ソニックハウンドアローLv5》
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