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フォルカウスという街

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 宿屋の方は問題なく一室を確保できた。ただ、フォルカウスの街にある建物は宿屋に限らず二階建て以上の高さを持つ物は一切ない。ちょっと気になったので宿屋の主人に理由を尋ねてみると……

「ああ、その事ですか。ここは常に雪が降りますからね……雪を下ろす手間や、雪の重さに耐える設計を重視すると、あまり高くする訳には行かないと言うのが理由でしてな」

 との事。力学とかにはあまり詳しくないので何とも言えないが、ここではそういう事なんだろう。口ぶりからしても、それなりの歴史と経験があってこその選択と思えるし。なにより、このファンタジーな世界に、リアルの公式などをあてはめすぎるのも問題だろう。そもそも、魔法と言う存在一つ取ってみても、リアルとは全く違う。ちなみに、雪下ろしも屋根に上ることは無く、火や風魔法を使って処理するんだそうだ。

 そして二階までしかないのであればどこに更なるスペースを用意するのかと言うと、その答えは地下室であった。特に宿屋などの大勢の人が利用する可能性が高い施設では、地下室は必須となっているらしい。自分の宿泊する部屋も地下室だ。ただ、完全な地下室という訳ではなく、一部だけ土を掘り下げて多少なりとも外の光を取り込むようになっている。もちろんそれでも全体的には暗いのだが……そう言う環境下なので、お値段も地上の半分と安い。それでもあまり人気はないようで、地上の部屋の方が埋まりが早い。

 とはいえ、雪の降る中で野宿と言うのも勘弁願いたい話なので、宿が取れただけでも良しとする。頭の上で置物になっていたピカーシャを下ろし、羽根についている雪を洗面所で掃う。さてと、とりあえず義賊リーダーを呼んでみるか。何かしらの問題が起きそうであった場合は、早め早めに叩く方が良い。ポンポンと手を叩くと、待ってましたとばかりに義賊リーダーが目の前に姿を現す。そろそろ呼ばれそうだと感じていたのだろうか。

「親分、お呼びになりやしたか?」

 やってきた義賊リーダーに、早速近頃の揉め事に関する報告を受ける。が、今回は良い意味で予想外の返事が返ってきた。

「親分の働きで、あっしらの様な義の元に動く者が近ごろ増えておりやす。お蔭で表も裏も、せいぜい出るのは子悪党止まりでさ。親分のお手を煩わせる様な大事は一切起きておりやせん。あっしらも情報は集めておりやすが、ほとんどの部下達は表の仕事に精を出す日々でありやして、比較的今は平和と言って問題はねえと思いやす」

 自分の働きでと言う部分が引っ掛かるが、こちらの動きを見て義賊となった者が現れたのかも知れない。もしくは、プレイヤーの誰かが義賊となって活躍を始めている可能性もある。そういった人達が活動することで、こっちが動かなくても悪事を働く者が裁かれていると言った所か。子悪党はいるようだが、自分の手を煩わせるようなことは無いという事だからな。早めに対応できていると見ていい。

「そうか、それならいい。穏やかに過ごせているのであればこちらが辺にちょっかいを掛ける必要も無い。情報だけは常に集めて貰うが、それ以上の事は無理にしなくて良いからな。もちろん、まっとうに生きている者を傷つけるような悪党がいた場合は、お前たちの判断で──」

 そこから自分は、手を水平にスッと動かす。

「へい、心得ておりやす。一生懸命に生きている者を、己の欲で汚す者には遠慮など無用でありやすから。あっしらも、そのような外道には加減いたしやせん」

 とにかく、そっちの問題が起きていないと言うのはありがたい。対応に追われて、託されたあの黒い球体を使った対策が遅れるのは避けたい所だったからな。これで心置きなく、魔王領が解放された直後に動く事が出来る。──そうだ、もしかしたら義賊リーダーも例の赤いオーラを纏うモンスターに関する情報を仕入れているかもしれない。聞いてみるか。

「話は少し変わるのだが。お前達の情報の中に、気味の悪い赤いオーラを纏うようなモンスターを見たという情報はないか?」

 この質問に関する答えは──

「へい、少々ではありやすが入っておりやす。発生を始めたのは近頃であり、同種であっても襲い掛かるほどの凶暴さ。共食いをしない種であっても赤い膜のような物を纏った奴は平然と行う事。その種では使えないはずの魔法や技術を使いだすと言ったことが特徴のようでありやす。特に水を得意とする種が火を扱えるようになるなどの異様な力を振るいだすと言う話も耳にしやした」

 そうか、やはり義賊リーダーの耳にも入っていたか。そうなると、それらを討伐して回って居るヒーローズの六人は、陰でかなり苦労しているようだな。

「ですが、そいつらを狩る猛者が現れやして。なんでも六色の鎧を着込んだ一団が襲われていた人々を護りながら討伐していると言う話で。その六人も、あっしらとは立ち位置が異なっているとはいえ、奴らなりの義を持っているようで。その六名があらかた倒してくれたんで、多くの者が感謝をしている様子でありやす」

 そうだな、あのヒーローズは人助けに重きを置くからな。義を持っていると言うのも間違いではない。と言うよりも義の塊と言った方が相応しいかも。何せ積極的に動いている。

「分かった、そちらの方も情報を集めろ。そして、その六人が困っている時にはさりげなく手を貸せ。彼らはお前の見立て通りの人物だ。行け」

 スッ……と姿を消す義賊リーダー。これでヒーローズの負担が少しでも減れば良いのだが。さて、気がかりな事も無いわけだし、もうちょっと色々と情報を仕入れるか。その為にも、街を軽く一周してこないとな。宿の主人にちょっと街を歩いてきますと告げてから外へ。雪は相変わらず降っており、街行く人々の頭部や傘を白く染め上げている。傘をさしているのはこの街の人かな? 冒険者であるプレイヤーや、他の国から来ていると思われる人達は傘をさしてない。まあ、荷物になるからねえ。

 武器やに防具屋、道具屋に鍛冶屋などを始めとして一通り見てきた。品ぞろえもなかなか良く、戦闘中のスペアなどを用意しておきたい人などにはいいんじゃないだろうか? 人によっては作るのが面倒な飛び道具であるポーラ(先端に小さな鉄球がついたなわ。手や足などに投げて絡みつかせることで動きを封じる)とか、トマホーク(投げに特化した小ぶりの斧のような物)などの商品もラインナップに入っている。

 防具は全体的に防御力を上げつつ、防寒を重視した品物が多い。なので重鎧や軽鎧と言った装備でも内側は温かくなるように毛皮が仕込まれていたり、冷たい風を通りにくくする素材を編み込んだりしているようだ。ここに来る前に防寒効果が高い装備を手に入れる事が出来なかった人や、手に入れていてもよりよい防寒具として買っていく人をかなり見かけた。自分は……申し訳ないが、いざという時にはピカーシャの中に包んでもらうと言うインチキが可能だ。

 また、連れている妖精によっては妖精用の防寒具を着せる必要に迫られた人も居る。光や闇と言った妖精は平気なようだが、火の妖精はかなりつらそうだ。土も凍って動きが鈍る為なのか、あまり元気がない。風は別に我関せずと言った様子で、水は元気いっぱいと言った感じだ。特注品となってしまうようだが、ケチる妖精の主は自分の見た範囲ではいなかった。

 また、フォルカウスの西側に、雪で出来たダンジョンがあると言う話も聞けた。そのダンジョンに出て来る敵はすべて雪が集まって形を作った物らしく、雪ウサギとか雪だるまとかの外見をしているんだとか。だがそれでもモンスターである事に変わりはないようで、雪玉攻撃(中にでかい氷入り)とか、つらら飛ばし攻撃(これがほんとのアイスピック……ってやかましいわ)とかの、結構ひどい攻撃を仕掛けて来る。

 その上、痛風の洞窟の様に洞窟の中では一定の強さで風が吹いているらしく、寒さ対策が万全でないと体温を奪われて凍死させられる一面を持つらしい。その風さえなければ凍死の可能性がかなり下がるのに……とは、教えてくれた鍛冶屋の親父さんの言葉だ。そうなると、やはり途中である程度体温を回復できる道具か食べ物。魔法などの手段を持っていないときつい事になりそうだ。お茶とかグラタンとかシチューなどの、体を暖かくしてくれる食べ物が売れそうだな。作ってみようか?

 ひとまず街も一通り回った事だし、今日はこれでログアウトすることにしよう。明日は魔王領に向かうための注意事項を教えてくれる所に行って話を聞くことにしよう……。
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