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魔王領事前説明会

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 翌日ログインした自分は、早速魔王領に関する注意事項を聞くために行動を開始。アクアは宿屋でのんびりしてもらう事にした。アクアも今日はのんびりしたい気分だったようで、日のあたるところでぼーっと日光浴を楽しむつもりらしい。日の光は弱いが、それでもこのフォルカウスでは雪の降らない日は少ないらしいので貴重な一日なのだろう。さて、さっさとこちらは移動しないとな。説明会はワンモアの一日で一回しか行われない。遅れてしまうと、翌日まで待たなければいけなくなる。

 教えてくれる場所に到着すると、他のプレイヤーさんやワンモア世界の人が多数中に居た。けっこうな人数だが、おそらく先日はこれ以上に居たんだろうな。先に注意事項を聞きに言ったツヴァイ達からは、ぎゅうぎゅう詰めで苦しかったとも聞いている。待つことしばし、数名の魔族の人達が壇上に現れた。それとほぼ同時に会場は静かになる。これなら話も聞きやすいだろう。

「皆さま、お待たせいたしました。本日は魔王領へ訪れる皆様に注意事項と、魔王領で行動するために必須となる道具のレンタル作業を行わせていただきます」

 へ? 注意事項は分かるけど、レンタルってなんだろ? とりあえずここは静かに話を聞くか。質問は話が全部終わってからだ。

「さて、まず魔王領にいらっしゃる皆様には一つ、絶対に忘れてはいけない事を申し上げます。それは、『魔王領は極寒の地である』という事です。故に、油断をしたり備えを怠ればあっという間に凍死することになります。この大前提を絶対にお忘れなきよう、お願いいたします。その為、体を寒さから護る道具や防寒具は必須です。防寒具はこの街フォルカウスにてお求め頂く事で対処できますが、寒さに対する道具は生半可な物では耐える事が出来ません。そこで、皆さんにレンタルする道具がこちらとなります」

 そうして掲げられたのは一つのペンダント。

「このペンダントは、魔王様が試行錯誤した結果、製作に成功した魔道具となります。この魔道具を首から掛けておくことで、一定の温度を纏う事が出来るようになります。ですが、この魔道具の力の源は皆様の魔力です。つまり、皆様の魔力が尽きた瞬間、極寒の猛威が皆様を襲う事になります。ですので、魔王領では限界ぎりぎりまで戦う事は死と同義である事を忘れないでください!」

 魔力、つまりはMPか。魔王領に入ると、常時MPを消費することになるのか……これは探索するのも厳しいな。

「一定の温度が周囲にある時は魔道具による魔力の消費はありません。逆に周囲の温度が寒くなればなるほどに魔力の消費量は大きくなります。そうなると、街の外で魔力の消費が大きくなり、街に帰るにしても距離がある場合は死ぬしかないのか? と言う疑問が生まれてくると思います。それに対する答えですが、対策はあります。雪で小さな家を作り、その家の中で暖を取ることで魔力の回復を図ることが出来ます」

 そうして新たに運ばれてくる三つの道具。一つはお好み焼きの調理で使うようなヘラ。一つは手に持てるサイズのスコップ。最期の一つはお椀の底に持ち手をくっつけたような道具。

「順を追って説明します。まずこの道具で周囲の雪をかき集め、雪の小山を作ります。次にこの道具で集めた雪を上からたたいて固めます。最後にこの道具で穴をあけ、中に入れるスペースを作りだします。そしてその中で固形燃料に火をつける事で冷気を遠ざけて体を温める事が出来ます。その時に温かい食事が飲み物を口に含むとなおいいでしょう」

 お椀のような道具で雪を集め、ヘラで雪を固めて、スコップで穴を開けて中に入る……つまり、これはかまくらを簡単に作るための道具という事か? 確かにかまくらの中は温かい。その理由は、冷気を遮断する事が出来るからであることは言うまでもない。

「この後、この雪の家の製作行程を実際にお見せします。その後、皆様自自身に行って頂きます。この雪の家を作れないと、魔王領での行動は大きく制限されてしまいますので……出来るようになるまで挑戦していただきます。出来るようになるまでは、魔王領への入国を認めるわけにはまいりませんので。こちらとしても、凍死者を増やしたくはありません」

 ふむ、入ってきたからには自己責任と言う部分は他国と大差ないのだろうが、それでも一定の成果と言うか生存術を学ばない者を入れて死なせたくはないので許可しませんよときたか。それだけ魔王領の寒さは厳しいのだろう……冬将軍なんて言い方をリアルでもするが、それ以上に厳しいかもしれない。

 そこから先の説明は他の国と大差ない。殺人をしない、盗みをしない、犯罪行為を行えば最悪処刑もありうる。とまあごくごく当たり前の事だ。それらの説明が終わった後に先程の魔道具を受け取って、かまくら作りの練習場へと皆で移動することになった。こういったことをやるから、この説明会はワンモア世界での一日一回しか行われないのか。説明する方も物凄く大変だよねこれ。


「では、これより実演を行います」

 街の中で、特に雪が多い所に場所を移してからのかまくら製作実演が行われた。外見はやっぱり予想通りのかまくらで、製作時間は何と三分未満。お椀型の道具であっという間に雪が集まり、ヘラでペタペタ軽く触れていくだけで表面が固まる。後はスコップで軽くつつくように穴を空けて内部を広げるとあっという間に出来上がり。なるほど、確かに魔道具だわ……逆にいえば、これぐらい短時間で作れないと緊急避難所として機能しないか。残りのMPが少ないのに、作るのに時間が掛かったらそれこそ凍死してしまう。

「と、この様な感じですね。これから皆さんにも実際に作って頂きますが、製作時間は短ければ短いほど良いという事は言うまでもありません。ましてや実際に作る時はこの様な穏やかな天気の元ではなく、吹雪いている環境下で作ることが多いですから、この天候下でももたつくようでは危険すぎます」

 うむ、モンスターが居ない上に雪が降っていないという好条件の元ですらもたつくようでは、先程の実演を行った魔族の方が言うよに実際の緊急時に役に立たない可能性もあるな。さて、理屈こねてないで早速練習だ。先ほど受け取った道具の扱い方も、個別に魔族の方がやってきて教えてくれたが……非常に単純だ。掃除機とかにある押しボタン、あれとほぼ一緒。しかもオンとオフだけしかないらしく、スイッチを押せば雪を集めて、ペタペタと雪を固めて、その固まった雪をバターのように掘れる。そしてスイッチを切ればそれらの機能も止まる。なお、これら三つの動力源は周囲の魔力なんだそうだ。ソーラー発電のような感じで、周囲の魔力をゆっくりと蓄積してるんだそうで。

 そう教えてもらったので、「じゃあ、あのペンダントも同じ方法でやれればかなり凍死の可能性が減るのでは?」とも聞いてみたが、世の中そんなに甘くない。あれでも魔王様の努力と目の下にクマが浮かぶほどの努力と研究の成果であり、他の種族が使えるようにぎりぎりまで効率化した一品らしい。故に販売は出来ず、レンタル限定。

 ちなみに魔族の皆さんが今まで使って来た物は、普通の人族が使うと五分でガス欠に陥るんだそうで。更に常時発動しておかないといけない為、魔力を吸い集める余裕も無いんだとか。この辺が更なる研究の余地ありとは分かっているが、今はどうしようもない、と。獣人連合の道具屋さんにあった寒さをしのぐ道具は使い捨てだし、持続時間もそう長くないから魔王領ではあまり使えないな。

 そんな事を教えてもらいつつかまくら作りを何回か繰り返す。最初は作るのに十八分ぐらいかかったが、何度か繰り返すうちに五分かからずに作れるようになった。周囲の人達も大体同じ感じ。早い人になると二分かかったかどうかのスピードで作り上げるようになった。魔族の説明を行っている人も「素晴らしい製作速度ですね」と褒めていた。とにかく、かまくらの製作速度も十分だという事で全員が合格を貰って、今回教えてもらった魔道具一式をレンタルする。

 なおレンタル料は無料。ただし意図的に破壊したり、魔王領から出てきたのに返却しなかった場合は素晴らしい賠償額を要求されると言う説明を受けた。ちなみにおいくらほどですか? と聞いてみた所、「そうですね、少なくともお持ちの道具一式をすべて回収させていただいた後に、数十年の労働をこなさないと返却できないお値段です」と笑顔で言われた。周囲の人がその言葉を聞いて、若干青ざめていたのも無理はないな。まあ、魔道具のレンタル品を盗むような奴にはそれ相応の罰は必要だろう。

 説明会が終わったころには、日がもう沈みかかっていた。予想以上に時間を取られたか。今日は大人しく宿屋に戻ってログアウトと言った所か。明日はちょっとフォルカウスのの近くにあるダンジョンを覗きに行ってみるか。攻略は考えていないが、せっかくなんだし見に行くぐらいはやっておきたい。
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魔王様、ただいま爆睡中。
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