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連載

雪のダンジョン

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 やっぱり新しい所は顔ぐらい出しておかないと、と言う半分以上観光気分でやってきたフォルカウス西にある雪のダンジョン。まだ実装されて間もないために人も大勢いて、ちょっとした混雑が発生している。こんなに人がいると、狩りをしたい人にとってはやりにくいことこの上ないだろう。観光気分の自分にとってはありがたいけど。

 ダンジョンの中に入ると、ダンジョンの地面、壁、天井すべてが雪で出来ている。幸いなことに、薄暗いので雪の表面が光の乱反射を起こして眩しいという事はない。と思っていた所で……近くに居たプレイヤーの一人が、周囲を明るくしようとして光魔法の明かりを生み出した時にそれは起こった。

「ぐおっ!?」「まぶしっ!」「光を消して! 目を開けていられない!」「!?」

 周囲の雪が一斉に輝きだして、自分を含む近くに居る人達の目を眩ませたのだ。むしろ焼かれたんじゃないか? と思うほどの痛みも感じた。それから視力の回復には数分の時間を費やした。入り口付近だったためか、モンスターに襲われずに済んだのは行幸と言えるだろう。

「す、すまん。まさかこんな事になるとは思わなかったんだ……本当に申し訳ない」

 そう言ってしょげているのは、光魔法を使った男性プレイヤーだった。意図していた訳ではないのだろうが、周囲のプレイヤーに攻撃をしてしまった形となる。それを理解しているからこそ、素直に詫びていると思われる。だが、知らなかったんだと言って開き直りをしない点は素晴らしい。ちゃんと謝れる、これは非常に大切な事だ。周囲も、「次からは気をつけろよ」とか「こっちも気を付ける、お互い注意しよう」と責める雰囲気はない。

 そんな一件があったせいか、なぜか光によって目がくらんだ自分を含む十人ぐらいの団体がぞろぞろとダンジョンを一緒に進む。PTを組んでいる訳ではないのだが、新しい所は何があるか分からないから大人数で歩いてみるのもいいんじゃないか? と言う妙な連帯感が生まれたのかも知れない。まあ、近接、魔法、遠距離と面子もそろっているし……バランス的にはかなり良い。何があってもある程度融通が利くと言った感じで──

「ちょっとストップ」

 と声をかけて止まってもらう。何事? と自分に視線を送って来る他のプレイヤー達だがそれはスルーして一番前に進み出る。えーっと、あそこからあー言う風につながってるのね。そうするとここを踏んで、その踏んだ足が離れると氷のギロチンが落ちて来て体をバッサリ一刀両断する、か。

「氷の刃でできたギロチンが仕掛けられてるな……とりあえず罠の解除を行うから待ってて」

 なんでこんな雪で出来たダンジョンにこんな人工的……と言って良いのかどうかは微妙だが、とにかく面倒な罠があるとは。しかも罠の構造が氷で出来てるくせに細かくて、指では解除行為を行えないな。解除するために七つ道具を取り出し、ちょいちょいといじくる事で罠が稼働しないように調整。

「解除終了、これで進めるぞ」

 そう声をかけると、ナイス! とかよくやった! とかの声が。うーん、見た目と違ってかなりえぐいダンジョンだな。この分だとここにいるモンスターにも、なんらかに鬼畜要素が入っていると見ておいた方がよさそう。人族の領域の中では、トップクラスのいやらしさ……いや、過去にあったオーガキス事件の方がよっぽど嫌か?

 そしてぞろぞろと皆で歩くことしばし。道も解らないので適当に進んでていた所、複数の氷でできた人型の彫像が立ち並ぶ部屋を発見。また人工物? にしては妙に出来がいいような……? しかし、罠の反応は無し。無視して歩いたら突然襲い掛かって来るという訳ではなさそうだ。なら放置して進もうか、となりそうだった時に一人が声を上げる。

「ちょっとだけ待ってくれ。なんか、こう。この彫像が、フレンドと異様に似てるんだよな……まさに、あいつを石膏とかにぶち込んで型を取って、そこに水を入れて凍らせて完成させたような」

 フィギュア作りじゃあるまいに。と言うか表現が結構ひどくないですかい? 借りにもフレンドでしょうに。とは言えそう言われると気になるな。誰が何のためにそんな彫像を作る? 事前に集めていた情報だと、スノーウルフ、スノーバット、スノーラビット、スノーマン、スノーゴーレムとかがこの雪のダンジョンの中に居るモンスターだ。動物タイプの物は真っ先に除外するにしても、スノーマンやスノーゴーレムが、こんな細かい彫像を作れるか? いや、作れたとしても何のために? ──まさか、ね。

「まー、たまたまか。引き留めて済まない。先に進もうか。それにしてもよく似てたなー……」

 立ち去る流れになりかけてたので、今度は自分が引き止める。そして、火の魔法や火の妖精の力でこの彫像を溶かせないか? と持ち掛けてみた。皆が顔を見合わせるが、数人は「あ、万が一って可能性はあるか」と言い出す。そう、これは氷の彫像にされてしまったプレイヤーなのではないか? と自分は考えたのだ。そして溶かしてみたいと言う自分の意見で、こちらの考えを理解した人も居たのだろう。ただにているだけの彫像なら無駄な事をさせたと自分が謝ればいいが、もしこの彫像が人を閉じ込めてじっくりと凍死させるための攻撃手段だとしたら──

 火の魔法を使えるプレイヤーと、火の妖精の協力でゆっくりと溶かされる彫像。爆発させる魔法でぶち壊す訳には行かないので、かなりの手間を掛けさせている。そして溶かした事による結果は……中からプレイヤーが出てきたのである。そして彫像の中から出てきたプレイヤーは開口一発……

「俺だって解ったんなら、もうちょっと色んな可能性を考えろよ! たまたまで済ませんな!」

 と大声で、先程のフレンドに似てるな発言をした人に詰め寄っていた。つまり、ここに有る氷の彫像の中には閉じ込められている人がいるという事になる。そのまま日の魔法を使える人と火の妖精には頑張ってもらい、存在していた彫像全てを溶かしてもらった。しかし、その為に力を振るったプレイヤーと火の妖精はぐったりとしている。かなり負担をかけてしまったか……そしてその一方で、氷の彫像にされてしまっていた人達はこちらにお礼を言いつつも寒い寒いと震えている。

「何か温かい物を口にすりゃいいじゃねえか。さすがに、こんな場所に来るんだから対策となりそうなものを何も持ってきていないという事はないだろ?」

 だれかが、震えている人達にそう言葉を投げかけるが、震えている人達は皆首を横に振る。

「確かに持ってきてはいた。だが、氷の彫像に閉じ込められていると、ダメージを受け続けるだけじゃなくて一部のアイテム……食い物や飲み物が冷えたとか、冷めたとかのアイテムに変化させられてしまったんだ! だから、その手段は使えない」

 うわあ、手持ちのアイテムを劣化させるってのはローグライクゲームによくある妨害行為だが(剣などを錆びさせる、食べ物を腐らせるとかね)、ここでそれを持ってくるのか。そうなるとちょっと厳しいな。

「そういう事か……とりあえず話も聞きたいから場所を変えねえか? ここで長くくっちゃベってたら、こいつらを氷の彫像に変えた奴がまたやってこないとも限らねえし。それに体を温める為にも、何か口にさせなきゃならんだろうが、その為にも不確定要素がある場所じゃ危険だ」

 との意見が出たので、ある程度来た道を戻る。来る途中に見つけていた適度な部屋に全員出入り、そこで話を聞くことにしたのだが……モンスターが妙に出てこないな。しかし、こちらのサーチ出来る範囲には居ないので誘いこまれているとか、包囲されているとかの心配はない。おそらくはたまたまか、先行している人が根こそぎ倒していったかのどちらかだろう。とりあえず暖かい食べ物や飲み物を凍えて居る人達に分け与え、調子の方を聞く。

「どうだ?」「少しはましになった……けど、まだまだ寒い。HPの方もスリップダメージが止まんない。多少体が温まった為か、減る速度は大きく落ちたけど」

 色々な物を飲み食いしても、温かさを取り戻せないか。そんな彼らの冷え込み様から考えると、この場で熱々の物を食わせないと冷え切った体を温める事が出来ないという事だろうか。そうなると何があったかな……いくつかの野菜や肉は常に持ち歩いている。後は餃子の様に包み込む事で一つの料理にするための皮もある。ならば、根菜類と肉の出汁でスープを作り、水餃子の要領で作ってお饅頭サイズに大きくする事でより熱々の食べ物となるだろう。

「済まないが、周囲の警戒を頼んでも良いだろうか? 皆が持ち寄って与えた暖かい飲み物で足りないと言うようなので、この場で温かい料理を作ろうと思う。調理中の自分は作業に集中するため、そっち方面がおろそかになる」

 期待の籠った目で見られることになったが、確かにその手は有効かもしれないという事で引き受けて貰えた。持ってきた食べ物や飲み物では温かさが足りない以上、出来たてを食べさせるしかないからな。それに、せっかく助け出したのに結局死亡させてしまっては色々ともったいない。

 因みに、凍えている人が受けているスリップダメージは、ここでこうして動かずにいれば減少速度はかなりゆっくりであるらしい。しかし、この部屋に入る前に歩いて移動していた時はかなりの速度でHPが減ったとの事。おまけにポーションは寒さで効果があまり望めない。そして魔法による治療も、火の魔法の中にある僅かな回復魔法以外はほとんど効かないらしい。これだけの条件が積み重なってしまった以上、街まで帰ることは難しいだろう。生還させるためには、ここで何とか回復させる必要がある。

 そのためにも、ここで作る料理は重要だ。さて、自分の料理は寒さに震えている人を救えるのだろうか?
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