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料理提供と、氷の彫像になっていた理由

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 スープの材料としてにんじんは細切りに。玉ねぎは適度な大きさに切って食べやすくする。後はダシを取ることを兼ねた鶏肉を少々投入。それらを水の中に入れ、弱火で煮始める。そして具の方は豚肉にリド、ニンニク少々に香草を少々。さらに味をつけるために塩といくつかの香辛料を入れていく。豚肉をミンチ状にし、他の素材も細切れにして混ぜ合わせる。そしてよく混ざったら特製の皮で包んでいく。大きさは一般的な饅頭と同じぐらいのサイズ。そしてある程度スープが温まってきたら軽く塩コショウを振って味を確認。

「ね、ちょっと味見させてくれない?」

 と、作業中にそんな事を女性プレイヤーから言われたので、別の器を用意してスープを軽く味見してもらう。

「うーん、味そのものはいいけどちょっと薄くない? もう少し味を足した方がいいような」

 とのご感想。そうだな、このままスープだけを飲むのであれば味がちょっと薄いだろう。でも、この料理はスープ単体を楽しむ料理ではない。

「今はこのぐらいで良いんだよ。これを入れて煮込むとちょうどいい味になる」

 そう告げた後に、先程作った肉まんじゅうをスープの中に次々と投入していく。後はコトコト煮込めば、この肉まんじゅうの中に包まれた具材の味と、スープの味がまじりあってちょうどいい感じになるのだ。皮で包んでいるとはいえ、完全密封してあるわけではないのである程度味がまじりあう事になる。ダンジョン内で、さらに出来る限り製作に時間を掛けずに済んでそれなりに食べれる物を作る為、必要な手順がかなり少ないこのスープ肉まんと言うんだっけか? を採用した。

「うわ、めっちゃいい匂い……まだ完成じゃないのか?」

 氷の彫像状態から助け出されたプレイヤーの一人がそう言うが、まだ煮込みが足りない。あまり高熱で熱し過ぎると味が滅茶苦茶になってしまうのでもうちょっと我慢してほしい。野菜の手持ちがもっと多ければ、でかい鍋で大雑把に切った野菜の煮込み料理を作ると言う手段もあったのだが……ここにいる人の誰かに行き渡らないと言うのは揉めそうだと思ったので、数で均等にわたっている事が分かりやすいと言う今回の料理と相成った。

「──よし、頃合いか。じゃあ盛り付けて渡すから、氷の彫像にされてしまった人達優先で食い始めてくれ。ちゃんと全員に行き渡るように数は用意してあるから急ぐ必要はないぞ。それと、先に食べ終わった人は見張りに行っている人と交代して来てくれよ」

 一人に対し、肉まんの数は三つ。大人数に振舞う事を想定した食材の量を持ち込んでいた訳ではなかったから少なめだ。もしこのダンジョンに食えそうなモンスターが居れば、狩ってもらって肉を補充できたんだが……まあしょうがない。とにかく、この料理で体の中から温まることで振るえている人達を助けられることを祈るだけだ。


肉まんじゅうと鶏肉の出汁スープ

製作評価 8

モチモチとした皮の中に、肉汁たっぷりの様々な具材が詰まった肉まん。そしてその肉まんの味をより高める鶏肉から出るエキスを出汁にしたスープを組み合わせた料理。体が温められ、空腹も癒される一品。ただし、熱いうちに食べないと味が大幅に落ちてしまう。

特殊効果 耐寒(中) 体力自然回復(弱)


「──っかはぁ、温まるぜ……凍えた時に食う温かい食事はたまんねえ」

 そんな声が聞こえて来る。さて、製作評価も八だったし、特殊効果もまあまあ狙い通りだった。後は彼らがかかっている状態異常に効くかどうかだが……

「お、消えた」「俺の方も消えた、温かい食べ物を食うのが治す方法のひとつって事か?」「流石に料理を現地でする事でしか治せないってことは無いよな? それだったらきつすぎるんだが」

 ふむ、どうやら成功したらしいな。多分火の魔法の中に対策となる物があるとは思うんだが、自分の魔法に対する知識はほとんどゼロと言っても良いからなぁ。風の初期魔法しか使えないし、Wikiで情報を仕入れるなんてこともそう言えばもう久しくやってない。そのお蔭で苦労している反面、新鮮さを失わずに済んでいるのかもだが。

「とにかく、効いたようで何よりだ。今ならポーションを飲めば回復できるんじゃないか?」

 この自分の言葉に、「そうだな、飲んでみようか」と氷の彫像にされたメンバーが一斉にポーションを一本飲み干す。そして「お、ちゃんと回復効果が発揮された」「これで死に戻りせずに済みそうだわ」という報告をして来たので、完全に状態異常から脱することが出来たのだろう。

「すまん、今回は本当に助かった。もちろん相応の礼をしたい所なんだが……いくら出せばいい? よっほど無茶な金額を提示されない限りは払うつもりだが」

 落ち着きを取り戻した彼らの一人が、自分に向かってそう言ってくる。さて、これはどうしようか……受け取らない、と言うのは駄目だ。今回は色んな人がこの場にいるし、彼らを助け出せたのは自分一人の力ではない。だから、何らかの報酬をこの場に居る救助の回った人達全員が受け取れるようにしないと。さて、その条件を満たす者は何だろう。お金を貰うと言うのが手っ取り早いが、それよりも有益な物は情報か。

「なら、そもそもなぜ氷の彫像なんかになっていたのかを教えて貰えないだろうか? 罠に引っかかってそうなったのか、モンスターの特殊攻撃を受けてそうなったのか。その辺りの話を詳しく教えてほしい、と言うのでどうだろう」

 そう発言した後に同行していた人達を見渡す。見渡す理由は、『この報酬で良いだろうか?』と言う確認だ。その行為に対して反対意見は出ず、「そうだな、その辺は気になる」や「そうだねえ、それを教えて貰えるなら報酬と言っても良いんじゃね?」と言う肯定的な発言が出てきた。やはり、皆気になっていたんだろう。見張りをしていた人にも戻ってきてもらい、話を聞く事にする。

「分かった、助けてもらった恩返しだ。あった事を全部包み隠さずに話す事にしよう。そうだな、まずこのダンジョンに入った所から話そうか」

 そうして、氷の彫像になっていた一団の話が始まる。とりあえず入って出会ったモンスターの強さは大したことは無かったようで、あの部屋に到着するまではこれと言った問題は発生せずサクサクと進めていたようだ。罠も〈盗賊〉スキル持ちが解除して、誰一人として被害に会う事も無かった。だが、あの氷の彫像になっていた部屋に入った時に、それは居たらしい。

「雪で出来たゴーレム、と言って良いだろうな。その巨体から繰り出されるパンチやら体当たりはなかなか威圧感があったが、強さとしてはあんまりキツイとは感じなかった。龍の国の六が武まで行ける奴ならまず問題なくここにいるモンスターは対処できるだろ。だが、その雪のゴーレムと戦っている時にやってきた敵の援軍、こいつが俺達を氷の彫像にしやがったんだ」

 そのスノーゴーレムは三体居たそうだが、そのうちの一体を倒したタイミングで更なるスノーゴーレムがやってきたそうだ。しかも他のゴーレムよりも一回り大きく、頭には氷でできた角を持ち、腕にも氷でできたガントレットがついていると言う外見だった。強敵と予想されるが、逃げないと不味いレベルは無いだろうと判断した一行はそのまま戦闘を続行した。しかし、さらにもう一匹のゴーレムを倒した直後、その一回りデカいゴーレムが、突如一行目がけて大量の雪をぶちまけてきた……

「それは雪崩のようだった。俺達全員はその雪に埋もれてしまったんだ。もちろんまずい! と思って急いではい出そうとしたんだが、何かに雪ごとグッと持ち上げられる感覚がした時点で遅かったんだ」

 なんでも、その雪ごと持ち上げたでかいスノーゴーレムは、その氷のガントレットを職人の指先のように使い、雪をぎゅっと固めてしまったらしい。そうして中にいるプレイヤーの身動きを完全に封じた後に、雪で表面をコーティングして彫刻を始めたとの事。それが分かったのは、目の部分だけは見える様にされていたからだそうだ。

「そうして俺達を全員氷の彫像に仕立て上げた後に、倒したはずの雪で出来たゴーレムをそいつは修復してダンジョンの奥に歩いて行ったんだ。そして俺達はあんた達に助けてもらうまで、寒さと雪で固められて動けないという二重の苦しみを受けてたって訳だ。くそっ、こんな目に遭ったのはかつてのイベントであった『死者の挑戦状』にでてきたレッサーリッチにじわじわとなぶり殺しにされた時以来だ」

 だからさ、なんでワンモアのスタッフはこんな変な所に力を入れるんだってば! オーガのキス事件とか、はっきり言って今回のもゲームに入れる必要は全くないでしょうが!? いったいどれだけのドSが居るんだとぜひ開発室に突撃して聞いてみたいよ、割と本気で。寒いわ動けないわって、もう立派な拷問ですよそれ。まあ、さすがにそこら辺の加減はしてるんでしょうけど。

 それと、見えるようにしているのは、完全な暗闇に入れちゃうと暗所恐怖症や閉所恐怖症の人が発狂しかねないよな。主にオールバックの日本刀持ちとかが。

「な、なんというか……色んな意味で大変だったな」

 そんな誰かの言葉に、深く深く同意してしまった自分が居た。やっぱりこのダンジョンにも、そう言った鬼畜要素があったのか。

「だから、次そいつを見つけたら絶対にそいつから叩くべきだ。放置しておくと俺達みたいに彫像にされちまうからな……俺達だって、次見かけたら絶対に真っ先に叩いてやる」

 話を終えた男性プレイヤーは、同じ轍は踏まんと意気込みを見せる。リベンジしたい気持ちは良く解る。しかし、この情報は大きい。このダンジョンをソロで活動するときは、スノーゴーレムをみたら即座に逃げた方がよさそうだ。
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ぷかっ
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