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四天王による面接試験……二人目

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「無事に最初の試験を通過されてほっとしました。敵意がある方ならともかく、そうではない方が生きて戻ってこれないと言うのはさすがに後味が悪いですから」

 次の四天王が待つ部屋に向かう途中で、ミステさんがそう自分に話しかけてきた。

「おかげさまで何とか」

 と、相槌を打っておく。と言っても、さすがに物語に出て来る脳筋とかじゃない限り、そう簡単に相手の不興を買って「殺すしかない」なんて結論に到達させる事なんでまずないでしょうに。

「先程お会いになられていた一人目の四天王であるマドリア様は少々過激な所もございまして、その、ご本人には面と向かって言う訳には行きませんが、怒りの沸点が極端に低くてですね……特に魔王様を貶す様な発言を軽々しく口にしたら、それはもう口にした方が凄惨な結末を迎える事になるかと」

 ──国のトップである魔王様を貶されたら、沸点が低い高い関係なく魔族の皆さんは怒るべきだと思うのですが如何でしょうか? と言う感じで、ミステさんに問いかけてみると……

「ええ、まあそれはそうなのですが。ですが、まずは『その様な事を言わないでほしい、我々にとって魔王様は大切な方なのだ』という事を言って相手の方を窘めるべきですよね? さすがにこの忠告を無視して魔王様を貶したり愚弄するようなことを言い続ける方であれば、それ相応の結末をたどって頂きますけど。しかし、マドリア様にはその最初の一言は絶対にありません。いきなりバッサリです。なので、今ここでこうして貴方様が生きているという事は、魔王様に対して何かしらの暴言を吐くようなことをしていなかったと言う証明になります」

 あ、そんな部分の審査もあったのか。でも問題は無いな、自分には魔王様を貶す意思も考えも始めから無い。なのでそう言った部分の問題に引っかかる恐れは最初から無かった。

「言われれば、マドリア様の魔王様に対する忠誠心は特に高いように見受けられました。ただ、少々行き過ぎているような気もしましたが……失礼ながら教えていただきたいのですけど、今代の魔王様は男性なのですか? 女性なのですか?」

 マドリアさんが頬を染めていたような気がするから、多分男性なんじゃないか? と予想している。その上で紳士的なイケメン(この言い方はもう死語か?)で、なんでもできるパーフェクトなイメージが頭の中で構築されている。さて、その一方で自分からの質問を聞いたミステさんなのだが、なんだか様子がおかしい。表情がないのにもかかわらず(そもそもメイド服だけで動いているので顔その物が見えないのだが)、困惑しているかのような感じが伝わってくるのだ。

「も、申し訳ないのですが、それは魔王様と謁見できた時のお楽しみという事で。ええ、ええ、ええ」

 ──何だこの返答は。な~んか引っかかるな。少なくともゲヘナクロスの時に援軍を出したり、新しい魔道具を生み出して魔王領での活動し易くなる様にしてくれたりと友好的であることは間違っていないと思うが、一癖二癖あるんだろうか? まぁ、魔王様じゃなくったって、王様ってのは大抵なんらかの一癖を持っているのがお約束っぽい所があるけどさ。

「そうですか。こちらとしても無理に聞き出すつもりは無いので、謁見がかなった時のお楽しみとしておきます」

 と、この話はさっさと切り上げる。言いよどんだ所にツッコミを入れても基本的に良い事は無い。商談矢勝負の駆け引きをしている時ならば絶対に突っ込むべきだがね。しかし、今ここで突っ込むとその先には恐らく地雷原がある。そう、地雷ではなく地雷『原』だ。触らぬ神に祟りなしである。

「そうして頂ければ。そろそろ、次の四天王様が待つお部屋です。準備はよろしいですか?」

 あ、もう次の部屋か。さて、次はだれが待っているのだろう。お手柔らかにと言いたいが、さすがに其れは無理な話だから口にしないがね。そして最初と同じように「ここからはお一人で向かってください」と言われて一本道を進み、その先にあった部屋のドアにノックを三回。「どうぞお入りください」との声を聞いてから、ゆっくりと中に入る。

「お待ちしておりました。私はサキュバス・クィーンであり、四天王も務めているヘテラと申します。よろしくお願いしますね。こちらの椅子におかけください」

 そうしてゆっくりと優雅に頭を下げるヘテラさん。それにしても次はサキュバスさんですか。これはファンタジーではおなじみの種族ですね。特にアレな意味で。アレな意味じゃなくても、何かと出番が多いか。ただ、サキュバス・クィーンという所に引っ掛かりを覚えるが。なんでサキュバスの女王が四天王やってるんだろ? 魔王様の嫁候補とか? 確かに蒼いロングヘアーは実に見事だし、美人さんだからそう言われても納得するけど。

「これはご丁寧に。私はアースと申します、本日はよろしくお願いいたします」

 こちらも丁寧に頭を下げたあとに、勧められた椅子に座る。しかし、こうして改めて見てみるとヘテラさんの服装はサキュバスとしてはかなり異端な服装をしていた。大抵の人はサキュバスと言うと、露出が多いとか全裸で肝心な部分を髪の毛や羽根で隠しているとかで、基本的にきわどい外見をしている姿をイメージするだろう。実際自分もそう言うイメージが強い。しかし、目の前に居るサキュバス・クィーンのヘテラさんは、上半身はロングケープって言うんだろうか? とにかくケープ状の物を身にまとっており、下半身はズボンにシューズで一切肌の露出がない。恐らくケープの下にも、それなりの物を着込んでいるはずだ。

「話をする前に、前もって申し上げておきます。人族ではサキュバスと言うと大胆な姿で男性にぐいぐいと迫るイメージが強いようですが、私達はそんな事は致しません。その様な形で迫るのは心に決めた伴侶だけであり、それ以外の男性の前ではご覧の様に肌を一切晒さないようにしております。本音を言えば仮面をつけて顔も隠したいほどなのですが……さすがに其れはやり過ぎとなりますので」

 あ、世界のあちこちから幻想おおいなるきぼうが木っ端みじんに砕けたような音がした気がする。なんとなく、『サキュバスには期待していたのに!』とか『ワンモアだから、ギリギリまで攻めると思ったのに!』とか『裏切ったな!』とかそんな男性陣とごく一部の女性陣の絶叫と言うか断末魔というか、そう言う感じの物が耳に入ったような気がする。幻聴だよね? VRに入る為のデバイスが故障した可能性もあるな、あとでエラーが発生していないか確認する必要がありそうだ。

「了解です、むしろこちらとしてもそんな風に肌を隠していてくださった方が落ち着いて話が出来るので助かります」

 これは本心だ。イメージ通りのサキュバスが出てきたら刺激が強すぎて、論戦を仕掛けられたらめためたにやっつけられたかもしれない。こちらのサキュバスの貞操観に心から感謝しよう。

「そんな返事が返ってくるのは意外ですね、てっきり人族の男性はがっかりなさると思っていたのですが」

 そうだね、がっかりする人も大勢いると思いますよ。たまたま自分はその範疇に収まっていなかったと言うだけで。というか、試験を受けに来たと言うのに世間話しかしてないような。

「確かに美人の相手が出来るのは、男としての夢の一つではありますね。ですが、相手があまりに美人過ぎると気後れしてしまうと言う面もありますし。女心は難しいなどと言いますが、男心もなかなかに複雑で繊細な面があるものですよ」

 あー、キザすぎるいい方になってしまった。こんなの自分じゃないな。──とはいえ、出た言葉はもう引っ込める事はできない。やっぱり美人ってのは恐ろしいね、知らず知らずに自分とは違う仮面を被ってしまう。良い恰好をしたいという訳じゃないんだが、どうにもこうにも。またまだ自分も青いって事か。ハードボイルドなんて言われる渋い男には到底なれそうもない。

「ふふっ、そう言う事にしておきましょう。確かに心と言う物は難しい物ですからね。たとえ頭で冷静に物事を考えているつもりであっても、心がそれを許さないという事も往々にしてありますし。ですが、だからこそ私達には熱があり、生きていると言えるのでしょう。すべてを冷静に考えるだけでは面白くもありません。もちろん、四天王として肝心な所に感情を持ち込んではいけませんが」

 なんとなく、哲学的なニュアンスだな。色恋沙汰よりも、生きる意味を考えるサキュバス……うん、悪くないかもしれない。そりゃ、一般的ではないかもしれんよ。でも、このワンモアの世界なら、十分にアリなんじゃないだろうか? こういうイメージだから、こうしなきゃいけないなんてレールは、この世界には不要だ。

「その、四天王と言う発言で思い出しましたが、試験の方はよろしいのでしょうか? 今まで雑談のような物しかしておりませんが……」

 そう、そろそろ試験を始めて貰わないと。厄介ごとが終わったらこんな風にのんびりと言葉を交わすのも良いのだが、今はさっさとやっつけたい事が待っているからな。その為にも魔王様に謁見しないといけないから、こうして四天王の皆様と出会っている訳で。

「そうですね、試験の方ですがもうすでに始まっていますよ? そして、今終わりました。アース様は、次の四天王の方の試験に進んでいただきます」

 もう終わった? どういうことだ? 話をしていた時間はほんの数分ぐらいだ。なのにもう試験は終わったと言う宣言。そうなると、今まで話をした事の内容に何かがあったんだろうが……とにかく、叩き出されないのだから、最低限の通過ラインは通ったのだと信じたい。

「どういった試験なのかが全く分かりませんでしたが……とりあえず次に進む事にします。お邪魔しました」

 自分が頭を下げ、部屋を出ようとした時に背中からヘテラさんの声が。

「個人的には、ぜひ魔王様との謁見が叶って欲しいですね。試験はあと二つですが、貴方ならおそらくそう苦しむ事なく通過できると思います。頑張ってくださいね」

 そんな応援を受けて、四天王二人目のサキュバス・クィーンであるヘテラさんの部屋を失礼した。さ、この調子で三人目に行こう。
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なお、後日。サキュバスの露出が少ない事に対してある掲示板では
血涙を流しながらサキュバスへの淡い期待を完全に打ち砕いた運営に対して、
呪いの声を上げる人達が大勢居たそうな。めでたしめでたし。
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