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魔王城を出て、最初の暴走目前個所へ

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 魔王城から出る前に、預けておいた装備一式を返却してもらった。その際魔王様に「今後は城に入る時に武器を所持していて貰っても構わない。抜かなければな」との一言もいただく。城を出てからアクアに本来の大きさに戻ってもらって、魔王様と一緒に乗り込む。後は魔王様が指し示す方向にアクアが飛び立つ。雪を降らせる黒い雲を突き抜け、明るい空の下でアクアが高速で今、アクアは飛んでいる。

「先に言っておくが、これから訪れる場所は魔王領の機密に当たる部分が多くある。貴殿にはこれからそこに我と一緒に赴いてもらう訳だが……解っているとは思うのだが、それでも念押しをさせてもらうぞ。今回の一件が終わった後に、他の国や人の前でこれから見た事を風潮するようであった場合は、貴殿を魔族総出で捕えて処刑することになる。そのような結末を迎えるような真似だけはしてくれるなよ?」

 当然そんな事をするつもりは最初から無い。口が軽い奴ってのはいつの時代でもあてにならんからな。もちろん、それは現代においてもだ。例えば、ある人が深く悩んでいる事の相談をカウンセラーが受けたとする。そのカウンセラーがお酒の席などで、その悩みの内容をベラベラ他の人に喋ったどうなる? また、見た目からはまずわからない難病を抱える患者さんが居たとする。その患者さんを担当したお医者さんが、これまた外部でその患者の事を誰彼かまわず喋ったらどうなる? その結末は言うまでもないだろう。

「了解しています。ただ、ダークエルフの守護者様にだけは報告をさせていただきたい。それ以外の方には決して喋らず、墓まで持っていくという事で宜しいですか?」

 この自分の返答に、魔王様も頷く。まあ、ダークエルフの守護者? は、この魔王領のが抱える爆弾のような物の実情を良く解っているはずだ。そうでなければ今回のような依頼を出しては来ないし、対処できる闇の球体を用意することもできないだろう。

「我が魔王を継いでそれなりの時間が経った。先代から暴走時における心構えは深く刻み込まれたが、やはり憂鬱であった事は否定できぬ。先代の魔王の事態に発生した暴走では、戦いに出た魔族の六割が屍となり、残り四割もかなりの手傷を受けて苦しんだと記録されている。だからこそ、死神殿を四天王に迎えて医療の充実を図っていた。生き残った魔族がその後の生活で出来る限り苦労せずに過ごしていけるようにするためにな。しかし、今回の方法で暴走を事前に抑える事が出来れば同胞の死を見る事を回避できる。王としても、一人の魔族としても、そちらの方が良いのは言うまでもないからな」

 ゲヘナクロスと言う連中との一件もあったからな。ここで更なる大きな争いが起こると、魔族の皆さんはかなり苦しい事になるはずだ。あのゲヘナクロスとの戦いは、ワンモア世界であっても終わるまでにかかった時間は一月未満であったが、それによって受けた痛みはまだあちこちに残っている。そこに更なる戦いが始まった場合は、その先に受けていた痛みがより大きなものとなってぶり返す可能性が高い。そうなれば、魔族の皆さんに出る被害はより大きい物となるだろう。

「そろそろだ。ピカーシャよ、ゆっくりと地面に向かって降下してくれ。それにしても、まさか妖精国の神鳥に魔王である我が乗る日が来るとはな。あっという間に目的の地へと到着できるこの速度を、これほどまでに有難いと感じたことは無いぞ」

 魔王様の言葉を聞いたアクアが、高度を落としてゆく。灰色の雲を突き抜けて地面に降りた先には……足あと一つない銀世界が広がっていただけであった。あるえ? 雨空の上を飛んできたから、魔王様の距離感が狂ったのかもしれない。

「うむ、この辺りだな。そしてピカーシャよ、汝はこの寒さの中でもある程度の時間耐える事が可能か?」

 魔王様はピカーシャから降りて数歩歩いた後に先の言葉を発し、アクアにそんな事を確認している。つまり、同行させると不味いと思われる理由があるって事か。アクアは雪の上に【このぐらいなら、さんじかんはへいき】と平仮名で魔王様の質問に答えていた。その言葉を見た魔王様は満足そうに頷く。

「ならば済まぬが、しばらくそこで待っていてくれ。ここから先は闇の力があまりにも強く、闇に対する親和性を持っている者でなければ悪酔いを起こして倒れてしまうのでな」

 そう言った理由ですか。それなら確かにアクアを一緒に連れて行く訳には行かないか。アクアの属性は水で、闇に対する親和性があるようなそぶりは今まで感じたことは無い。魔法も、水気厭う以外は一切使っていなかったしね。アクアもそれを理解したようで、ひとこと「ぴゅい」と鳴いてから雪の上に座り込んだ。

「さて、行こうか。我の手を取ってくれ」

 魔王様が自分に向けて手を差し出してきたので、ゆっくりとその手を握る。その手はとても暖かかった。

「短距離転移を行うから、我が良いと言うまで手を離すでないぞ?」

 その言葉を聞いて、もう少し強く魔王様の手を握る。その直後、自分は雪が降る銀世界からどこぞの塔を連想させるような立派な通路の途中に立っていた。理解が追い付くのに少々時間がかかったが、これが短距離転移と言う物なのだろう。そうすると、ここは地下か。短距離なのだから、それ以外に考えられる可能性がない。魔王様の手を握ったまま周囲を見渡すと、通路にはあちこちに金細工のような物が施されており、銀色の紙吹雪のような物が常に降ってきている。その紙吹雪? に触れてみたが、振れた瞬間にスッと消えてしまった。

「もう良いぞ? 我の手の感触を味わっていたいと言うのであればそのままでも構わんが」

 別にそういう趣味は無いのでさっさと手を離す。それにしても、この見た目からすると闇と言う感じが全然しないのだが……個人的予想では暗視を使わないと周りが全く見えないくらい真っ暗だと予測していたが、そうではなかったらしい。

「ここは、ヴァンパイアロードが収めている領域だ。ヴァンパイアロードとは盟約を結んでいてな、この地の統治を認める代わりに、魔力の一つを安定させる任を担わせている。平たく言えば、ヴァンパイアロードを王とする条件付きで独立している国と言っても良い。まあ、その辺りの細かい話はどうでもよいか。本来なら出迎えを待つべきではあるが、今は時が惜しい。すぐさま……」

 この魔王様の言葉を遮る形で、突如男性の声が聞こえてきた。

「魔王様、構いません。魔王様が訪れた理由はこちらも存じております故、即座に魔力の間へと私の短距離転移を用いてご案内いたします」

 そして再び短距離転移。目が回るったらありゃしない。慣れればそうでもない様だが……実際眼を回して座り込んでいる自分と違って、魔王様は平然としている。そしてその少しくらくらしている頭を何とか支えて視線を横から前に向けると、やや青白い肌をしている男性が一人。なぜかその姿はスーツ姿なのだが……彼がヴァンパイアロードなのだろう。

「突然の短距離転移を用いてこの場にお越しいただいた事、まずはお詫びいたします。ですが、時間がないのも又事実でして……あれをご覧ください」

 そのヴァンパイアロードと思われる男性が指さしたその先には……楕円形の闇があった。その闇の先からは、何かがぎっしりと出番を待ち構えているような雰囲気すらある。ああ、あれは危ない。何というか、アレは闇じゃない。全部を塗りつぶして終わりにする別の何かだ。

「こちらも必死で抑えてはいますが、駄目ですね。そう近くない内に破られてあのゲートから暴走した魔力がこちら側にあふれ出て、またかつてのような激しい戦いとなるでしょう。こちらももちろん魔王領に住む住民の義務として参戦しますが、魔王様も出来るだけ早めに出征のお触れをお出しください」

 ようやく頭の方が落ち着いてきたので立ち上がる。そんな自分を見たヴァンパイアロードさんが訝しげな眼でこちらを見ていた。ん? 何か不味い事でもあったかな?

「それはそうと、何故人族の方をこの領域にお連れしたのでしょうか? 魔王様がお連れしていたので、この場まで一緒にお越しいただきましたが……そう言えば、この場で大量の魔力を浴びていると言うのに気絶をしていませんね? 闇との親和性が人族とは思えぬほどに高いようですが」

 ああ、そうか。魔族のトップである魔王様が、一人の人族と同行していると言う時点で疑いの目を向けられるのは当然の事か。どうにも短距離転移による酩酊感のような物に振り回されて、思考が追い付いてきていない様だ。

「その理由だが、見て貰った方が早いだろう。では、早速だが頼めるか? 短距離転移に慣れぬうちは、目を回してしまうのも無理はない事だが」

 そうだな、いちいち説明するより見て貰った方が早い。懐から例の漆黒の球体を取り出して右手に持つ。そしてソフトボールのウィンドミルと言う投法で楕円形の闇への投げつけた。さて、どうなる?
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今年も、あと一か月ちょっとでお終いですね。
何とか魔王領に到着できてよかったとすべきか。
予定より遅れている事を反省するべきか……。
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