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二か所目の魔力暴走地点

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「魔王様、少々質問してもよろしいでしょうか? あの魔力の暴走は、完全に抑えることは出来ないのでしょうか?」

 再びアクアに乗って空の旅に戻った自分と魔王様。次の目的地に到着する前に聞いてみたかったことを魔王様に問いかけてみる事にした。

「無理だな、と言うかアレは自然現象の一種と言っても良い。他の国などにある津波、噴火、川の増水による氾濫などとそう変わらん」

 つまり、何らかの悪意によって意図的に引き起こされる現象ではない、という事か。自然が相手じゃ、人がどうこうしようってのは無理があるな。その災害が起こる前にできるだけの対策をとっておき、少しでも被害を少なくする方向で考えるしかない。

「それに、あの魔力があるからこそ魔族は高い魔法の力を得たとも言える。そう言ったメリットがあるからこそ、いざ暴走が起きた時は暴走が収まるまでの間戦い続けなければならないと言うデメリットもしょっている訳だ。何事も、メリットだけを常に享受できる様な甘い状況は無いという事だな」

 ふむ、こちらの世界の魔族の皆さんが魔法に長けている理由はそんな所にあるのか。確かに、濃い魔力の元で産まれて育てば、体はその環境に適応していくのも理解できる。リアルでも住む地域や人種によって、その場所で生きていく為に肌や髪の毛と言った部分で違いが生まれているのだから。試しに、こちらの世界の人族夫婦を魔王領に移住させて、その夫婦から生まれた子が魔王領で過ごし続けたらどうなるかとかを試してみたい。これはちょっとマッドな思考かな?

「なるほど、普段は多大な魔力の恩恵を得られるからこそ、いざと言う時には戦うと言う義務を負うという事ですか」

 自分の言葉に、魔王様は「うむ」と頷く。こんな所にも義務と権利の関係があるんだねえ。ちなみに、戦いに出ない人は出ない人でそれなりの仕事があると魔王様の弁。治療はもちろん、食料や武具の調達。戦場に出ないならでないで、それ相応の義務を果たす方法はいくらでもあると教えてもらった。

「そもそも、権利を主張したいのであれば、先んじて義務を果たすべきなのだ。時々自由と言う言葉をはき違えている者が居るが、他者に迷惑を掛ければそれ相応の事を他者からやられても当然であるという事を理解せねばならん。これは人に限った話ではなく、世の摂理だ。獣だろうが、植物であろうが関係ない。縄張りを荒せば、その縄張りの主に攻撃される。他者を駆逐すれば、誰も近寄らなくなって朽ち果てる。むしろこの摂理を一番理解しておらんのは人と言わざるをえんな」

 ごもっともで。権利を主張するののは結構だが、その権利に見合う義務も果たすべきであると言うのはもっともな話だ。

「耳の痛い話です。そうならぬ様に気をつけます」

 とまあ、ファンタジー世界の住人から厳しい指摘を頂きつつ、二か所目の目的にに到着した。今回も見た目は一面の銀世界で入り口は存在しない。という事は又ですか。

「さて、今回も短距離転移をするから我の手を握れ。しっかりと握れよ? 我の手の感触を楽しむぐらいにな」

 あいにく、そんな余裕はありません。あの乗り物酔いに似た気持ち悪さはかなりきついんですよ。とは言え、その方法でしか入れないとなれば覚悟を決めるしかない訳で。はー、気分は例えるならば歯医者さんに名前を呼ばれた子供のような感じだよ。あのきゅぃーんと言う音からくる精神的な痛みに似た物がこみあげてくる気がする。

 そんな情けない事を自分が考えている事などを知るはずもない魔王様は、短距離転移を容赦なく使ったようだ。また景色が目まぐるしく変化して──こんどは、いかにも洞窟! と言う感じの場所だ。RPGならお約束の岩壁のダンジョンと言った趣である。しかし、暗くはない。まだ少し酔って気持ち悪いのだが、好奇心の方がその気持ち悪さに打ち勝って周囲を眺めてみる。そして上を見ると、発行する草のような物がさかさまに生えていた。変わった植生だが、そう言う物なのだろう。

「さて、もう一度飛ぶぞ。きついかもしれんが今は我慢してもらうぞ」

 容赦ない魔王様の一言と共にもう一度短距離転移。うっぷ、ちょっと酔いがひどくなった。おそらくこの酔いは個人差があるんだろうな。三D酔いとかの類と一緒で、酔う人は酔うし、酔わない人は全く問題ない。とは言え今は緊急事態なのだから、弱音を吐く事だけはしない。

「爺! 来たぞ! 大丈夫か!?」

 一方で魔王様は、大きな声で呼びかけを行っていた。視線を魔王様と同じ方向に向けると、そこでは以前であったレッド・ドラゴンの王とあまり大差ない大きさを誇る黒い鱗のヒュドラが一匹、ヴァンパイアロードさんの時と同じような楕円形の闇の方を見つめていた。

「これは魔王様、ようここまで。本来ならば礼をもって接するべきなんじゃが、今は目の前の暴走寸前な駄々っ子を何とか宥めておる最中でしての」

 そう言って、ヒュドラさんはこちらに一切視線を向けない。もしかすると、魔眼持ちとか? で、その魔眼で暴走を抑えているのかも。だから、こっちを向くとその効果が薄れてしまうために視線を向ける事が出来ない。そう考えれば納得できる。

「爺の魔眼でも、抑えるのは厳しいか」

 そして魔王様が答え合わせをしてくれた。目の前のヒュドラさんは首が四つあって、目が一つの頭に二つづつだから合計八つ。その八つの目で何とか抑えている様だ。という事は、これと同じことができないと、ここのヒュドラさんの後継者にはなれないって事になるな。なるほど、これはたやすく跡を継ぐ者が生まれないなんて話が持ち上がってくる訳だ。

「ええ、いい子いい子も厳しく叱りつけても一時凌ぎにしかなりませんで。申し訳ありませんが、我が子や多くの魔族の皆を戦いの場に立たせることになりそうですのう。儂も歳を取った物で、もう踏ん張りが効かんのですじゃ。何とかもう少し粘っては見ますがの、期待せんで下され」

 此処も限界ぎりぎりか。なら、さっさと行動に移ろう。懐から例の球体を一つ取りだしてしっかりと掴む。こんな所でドジを踏む訳には行かないからな。酔いも収まってきたし、問題は無い。

「魔王様、よろしいですか?」

 最終確認として、魔王様に行動するための許可を貰う。切羽詰まっているのは分かるが、だからと言って勝手な行動をしては混乱させることになりかねない。特にヒュドラさんは、自分の事など知らないのだから。

「許可する、爺の荷物を早く軽くしてやってくれ! 爺、これから別の形で魔力の暴走を抑える儀式を行う! 状況が分からなくてもよいから、これから起こることに対して横やりを入れるでないぞ!」

 許可も下りたので、早速ある程度まで近寄ってから野球のピッチャーのサイドスローモーションで楕円形の闇に球体を投げつける。投げつけられた球体は前回と同じようにぷっくりと膨れ上がり……今度は蛇のように細長くなっていく。あれ? 手じゃないぞ。

「何じゃあれは?」

 ヒュドラさんも先程魔王様から言われたので、目の前で起きている事に対しての横やりは入れない様だが、状況が呑み込めていない様子。魔王様は魔王様で、先程とは違う展開に少し動揺というか、混乱していると言うか……けげんな表情を浮かべている。さて、今回はどうやって暴走間近の魔力を抑えるつもりなんだ? じっくりと見せて貰う事にしよう。

 長く蛇のような形を取った元球体は、楕円形の闇の周囲にぐるぐると巻き付き始めた。全身くまなく巻き付くと、先端が蛇の頭の様にぱかっと別れて牙が生まれる。そうして、その生まれた牙で巻き付いている楕円形の闇に食らいついた。いや、それだけではないな。巻き付いた体を用いての締め付けも行い始めている。その締めあげに伴って、いやな音がこの場に響く。

「「うわぁ……」」

 自分と魔王様の声がハモった。魔王様の声が出た理由は分からないが、自分が声を出した理由は『あんなの絶対やられたくない』と言う心境からである。締め上げつつ、毒? を流し込まれるなんて御免被る。そんな自分達の目の前で、突き立てていた牙を離した元球体は、突如その頭部らしき部分を膨れ上がらせてから楕円型の闇にかぶりついた。まさか、丸呑みするのか?

 どうやらそのつもりの様で、ゆっくりゆっくりと拘束を解除しながら丸呑みしていく。飲まれていくのが人間だったら、ホラー映画のような展開……これ以上考えるのは止めとこう。ホラー苦手なんだし。飲まれていく楕円形の闇は悲鳴を上げる事も無く、ただただゆっくりと飲まれていく。拘束されて更なる締めあげの追撃攻撃でボロボロにされたのかも知れない。

 楕円形の闇を呑み込んで、胴体の一部がぷっくりと膨らんだ元球体。その膨らみが徐々に消え去ると、ダンジョンの壁にへばりつくように移動。へばりついたと思ったら、細長い姿をスライムの様な不定形に変え、そこから扉のような姿に変えた。しばらくごぼごぼと動いていたが、ヴァンパイアロードさんの所とそっくりな外見になると動きを止め、今回も自分の元に鍵が飛んでくる。その鍵を受け取った自分は、同じように動かなくなった扉? についている鍵穴に鍵を突っ込み、鍵をかけた。これでここも終わり、かな。

「──良く解らんが、魔力が一気に穏やかになった事は分かったぞ。その力は、おそらくあのお方の物じゃな……良くここまで、あのお方のお力を運んでこれた物じゃ」

 そんな事をヒュドラさんが口にした。残すはあと一か所だ、さっさと済ませよう。
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おかげさまで、漫画版『とあるおっさんのVRMMO活動記』
のほうが、増刷されるとの連絡が入りました。
お買い上げくださった皆様、本当にありがとうございます。
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