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戦闘続行中

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 今までの経験と〈義賊頭〉で感じる感覚から、自分は諦めた。背中から感じる気配は自分の首を狙っている事を感じる。速度も速い、ここからどう体を動かしても自分の首は宙を舞う事になる。だから諦めた、『無傷での回避』を。プロのスポーツ選手が、集中した時に一秒がものすごく長く感じる、周囲が止まって見えたなんて言い方をする事が稀にあるが、それを自分も体験しているのだろう。ふつうこんなに長考する時間は戦闘中にはないからだ。

 自分は本能的にアイテムボックスから二つの強化オイルを取り出して地面に叩き付ける。吹きあがる炎、押し寄せる衝撃、やって来る痛みと熱。そして宙に舞う自分の体。単純な事だ、自分の力で避けられないのであれば、他の力に押し出してもらえばいい。真下からは強烈な殺気を纏った気配が駆け抜けた事を感じる。やはりあのスピード、背後から襲われたら次はアウトだな。こんな方法での強制回避という奇策は、通用するのは最初の一回だけ。空中で《フライ》を使用して空中に留まり、ポーションを飲んで自爆ダメージを回復する。

「大丈夫か!?」

 魔王様の心配そうな声に、右手を上げて無事を伝える。強化オイルの熱に煽られたが、頭はよく冷えている。先程感じた殺気で冷やされたのかも知れない。パニックに陥ったら負けだからな。とにかく、魔王様の所へ戻ろう。球体を回収する余裕はない、アレは目の前にいる虎型の闇をどうにかしてからじゃないと始まりそうにない。

「何とか今回はしのげましたが……問答する時間は無いので結論だけ。あの虎の様な闇を何とかする必要があります。あいつをどうにかしないと、球体が暴走している魔力を抑える作業が出来ないような結界が展開されている様です」

 惑を抜きながら、簡潔に情報を伝える。視線は虎型の闇に向けているので、魔王様や黒稲荷さんの表情を伺うことは出来ない。目を離してもう一度しか以外から攻撃を仕掛けられたら、自分はほぼアウトだ。この場にはたった三人しかいない以上、一人でも欠けたら一気に崩れる。戦力としては自分がおそらく一番弱いが、それでも駒として存在しているか否かという事は非常に重要な事だ。

「アースを暴走魔力の元に送ればなんとかなると踏んだが……結界とはな。戦った感じだが、奴の体はほとんどが幻影の様な物だ。黒稲荷殿が言った様に、額のコアらしき物に攻撃を当てねばダメージは取れない。なのに手や足を使った攻撃をする時だけは実体化するかのような感じでこちらが被害を受ける。さらに厄介なのは、そこにカウンター攻撃を当てても奴にダメージを与えることは出来無い事だ。とにかく、一般的な魔獣の類とは別物と割り切らねばならぬ」

 ピンポイント攻撃を要求される上に、相手の攻撃は見た目通りとかどんなハンデだよそれは。厳しいな、ルエットを呼び出せれば良いんだが、残念なことに彼女の召喚を行うにはもうしばらくの時間が必要だ。この戦闘中に召喚して頭数を増やすと言う手段はとれない。だが、《黄龍変身》の方は行ける。ここは変身して、短期決戦を仕掛けた方が良いか。長引くと状況は悪化するだけだと見よう。

「魔王様、ニ分だけなら時間を作れます。奴のコアを貫けるような一発性のある魔法はありませんか?」

 虎側の闇も、体を低くして飛びかかる体勢に入っている。そろそろ相談タイムも終了だ。奴に先手を取られるのは勘弁願いたい。魔王様はともかく、黒稲荷さんはポーションを飲んだとはいえ、体の方は本調子とはいいがたいだろう。そんな状況では、どこに負けに繋がる爆弾が眠っているか分からない。その爆弾が爆発する前に勝負を決めてしまいたい。欲を言えば一気呵成に。

「頼む、詠唱がやや長くて動き回りながら唱えるのはきついのだ。ニ分とは言わない、三十秒だ。三十秒だけ粘ってくれ」

 魔王様の言葉に頷き、自分は〈黄龍変身〉を発動。その身を人型の黄龍に変化させる。その輝きで、暗かったこの場が金色の光に満たされる。

「──まさか、このお姿は黄龍様の?」

 黒稲荷さんは知っていたようだ。が、その疑問に返答する時間は無い。一足飛びに虎型の闇との間合いを詰める。この自分の踏み込みに対し、虎型の闇も反応して飛びかかってきた。このまま進めば、虎型の闇に自分の顔が食いちぎられるコースだ。もちろんそんな未来は御免被るので……

「《虎龍脚こりゅうきゃく》! 先手は頂く!」

 高速移動技、《虎龍脚》にて更なる移動を行い、虎型の闇の不意を突く。先程のバックアタックのお返しだ……人の作った武器ではない為に、変身中でも使う事が出来る魔剣である惑の先端を伸ばし、額にあると言うコアを狙う。しかし敵もさるもので、空中で壁を蹴ったかのような挙動を取って唯一の弱点である額部分への攻撃を回避する。だが、まだこちらの攻撃は終わっていない。魔剣である惑の攻撃は一回避けたからと言って止まるような物ではない。

「惑、もっと伸びろ! もっと追い詰めろ!」

 自分の意思を感じ取った惑いはさらに先端を伸ばし、虎型の闇の額にあるコアを執拗に付け狙う。先程は不意を突くために龍技を使用したが、龍技は使えば変身時間が三秒削られるペナルティがある。だからできる限り使用しないでおきたい。今は少しでも時間を稼ぐことが大事なのだから。魔王様は先程三十秒と言っていたが、こういう時は普段決まる攻撃が決まらなかったりすることがかなり多い。だからチャンスを少しでも作るべく、龍技に頼らないで時間を稼ぐことが肝心なのだ。

 避けても避けても、しつこくねちっこく惑は自分の意思に従って虎型の闇を追いかける。そしてそのついでに、虎型の闇が行う回避パターンをいくつも潰している。思いっきり惑を伸ばした影響で、惑いの長さがシャレにならないぐらいに長くなっている。なのでその長さを利用して牢獄を作っているのだ。その牢獄も、徐々に徐々に小さくしている。そうする事で、ますます虎型の闇は回避行動が取りにくくなる。そうして動きが鈍った所に、魔王様の魔法が刺さればこっちの勝利だ。

「出来たぞ、攻撃タイミングを指示してくれ!」

 っと、魔王様の魔法が完成したようだな。ならば、作り上げた牢獄の上部を故意に空けてやろう。もちろん誘いであると虎型の闇も理解はするだろうが、狭まってくる牢獄の中で回避を続けるよりはましだと判断して、誘いに乗って来る可能性は十分にある。惑に自分の意思を伝え、上部だけを広々と上げた後におまけとして下部から無数の刃を生み出してあげた。その仕込みもあって、勢いよく空に飛びあがる虎型の闇。

「今です!」

 自分の指示とほぼ同時に、魔王様の魔法が発動した。虎型の闇の周囲に、無数の闇穴が開いた。あ、このパターンは、あの穴から色々と出て来るんだろうな。何て自分が考えたのとほぼ同時に、無数の槍が穴から飛び出してきた。やっぱりこういう攻撃魔法と召喚魔法を組み合わせたような魔法は存在してたんだな。一種のお約束な一面もあるし……なんてのんきな事を考えていた自分とは裏腹に、闇型の虎の方はえらい事になっていた。穴から飛び出してきたのは槍だけではなく縄も交じっていたようで、虎型の闇を拘束しようと追い回し……ついに捉える。

「逃がしはせぬ、我が魔力の縄は幻であろうが、『そこに姿を見せている』と言う事象を捕まえる。お前の体がそこにあれば、捕縛できるのだ。幻影を盾にして本体を隠して戦う者に行う強制捕縛呪文だが、お前のような者に対する高速手段ともなりうる。そして、何であろうがお構いなしに貫く無数の槍にて逝くがよい」

 うあ、幻でも容赦なしか。つまり、分身の術を始めとした幻影を見せる魔法や技術を使って惑わそうしても、その見せた幻影を掴んで攻撃してしまえば、そのダメージが本体の方に刺さってしまうトンデモ魔法って事なんだろうな。幻影を出して相手を欺くと言う手段はとても有効な手段だが、そう言った手段に対する最悪のカウンター魔法と言えるな。

 そしてこれで決まったと思っていた。何せ魔王様のトンデモ魔法がさく裂したんだ、その上四肢をしっかりと拘束された虎型の闇は、額に細い物からぶっといものまで多種多様な槍に貫かれたんだ。人間じゃなくったってオーバーキルも良い所だと考えてもおかしくはないだろう? しかし、攻撃を受けた虎型の闇は姿を変えた。虎型の外見がドロリと崩れ、地面に血だまりを作るかのように流れ出したかと思えば再びその流れ出した闇が新しい形を取る。その姿は、ローブを来た老魔導士と表現すればいいだろうか?

「──、───、面白い」

 そして、その老魔導士の姿をした闇がそう喋った。当然、こちら側は身構える。ついでにちらりと変身残り時間を確認すると、残り一分十二秒と表示されていた。さて、ここからどうなる? 喋ったという事から会話はできるだろう。話し合いで引いてもらえればいいのだが……無理だろうな。お互いすでに一戦構えてしまった。それに、先程の『面白い』の言葉には、バトルジャンキーが対戦相手から気持ちいい一発を貰って考えを改めた時のようなニュアンスを感じた。そう、そこから導かれる答えは決まり切っている。

「魔力によって生み出されたこの体、所詮余剰魔力が勝手に生み出して魔力を浪費させて世界を崩壊させないためだけの存在であると思っていた。しかし、お前たちの会話で言葉と言う者を理解し、先程我が身に魔法と言う物を食らってその意味を知った。まっこと面白い。ククッ、ならばこの余剰魔力を用いて、どれほどの威力を生み出せるか。どれほどの大地を砕けるかを試してみるのも面白かろう。そして、そうなればお前たちのような者達がどんなことを喋るのかにも興味が湧いてきた。さあ、戦え。逃げても追いかけるぞ? そして逃げた先で派手に魔法を試してやろう。魔法を発動する方法は、お前達が我が目の前で教えてくれたからな」

 やっぱりこうなるんですねー! お約束の第二ラウンド開始って奴だな。予想が出来ていたから、取り乱すようなことは無かったけどね。
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という訳で、お約束の形態変化させての第二ラウンドです。
お約束ですからねー。
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みんなの感想(1277件)

胼胝
2017.06.19 胼胝

ないしょさんの誤字指摘がウザいですねぇ( ;´Д`)
国語の試験じゃないし、ないしょさんも試験官じゃないでしょうしねぇ(;´Д`A

Rinc
2017.06.19 Rinc

誤字になりますか?
「硬く→家宅」のような気がします

シグリット

先に地面の雪をなんとかしないと屋根の雪の処理が追いつかないんだよねぇ。家が潰れるほどの降雪だと既に街全体が埋まってるレベルだろうし。地面のは魔法で溶かしてるんだろうか。そうなると今度は水が凍って大変なことになるけども。


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