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(久々のログインだな)

 一週間ぶりのログインとなるため、最初に手足の感触を確かめる事にした。VRヘルメットを修理に出して返送されたのが今日だったが、これと言って異常は無かったらしい。念のためにVRヘルメット内の個人情報を除くデータも確認したが、こちらにも異常は無し。とは言え、念を押していくつかのパーツは交換しましたとの但し書きが同封されていた。そうすると、あの声は幻聴だったのか? まあいいか、専門家が見て異常なしと判断された上に、パーツ交換までしてもらったんだ。問題は間違いなく消えたと考える事にしておこう。

 ログイン期間が空いたせいか、最初は多少手足に違和感があった。と言っても一分足らずでその変な違和感も消え去り、立ち上がって歩いてみた。うん、こちらも問題なし。と、ここで周囲をもう一回見渡す。

(そうか、魔王城の一室を借りてログアウトしたんだっけ。一週間もログインしないと、ちょっと内情を忘れかけてしまうな)

 魔王城に戻った後、魔王様に部屋を用意して貰ってそのままログアウトしたんだったな。魔王城を出る前に、魔王様か四天王の誰かに挨拶をしておくべきだな。とりあえず危機は去ったし、ここからようやくのんびりと魔王領を見て回ることができる。その後はツヴァイかヒーローチームのブラックに連絡を取って、何か面白いネタがあるかを確認するか。そう決めて部屋を出ようとした時……カタカタカタと言う何かが震えているような音が聞こえてきた。

(なんだ? 地震か?)

 最初は小さな地震が起きているために、部屋の中にある家具が揺れによって音を出しているのかと思った。しかし、音を出していたのは家具ではなく……自分の腰に収まっている惑が原因だった。何事だと思って手を伸ばそうとした瞬間、惑が勝手に鞘から抜かれて、そのまま宙に浮いた。

『マスター、聞こえていますか?』

 と、唐突に聞こえる声。だがまあ声の主は目の前にいる惑しかいない事ぐらいは言われるまでも無いので頷く。

「ああ、はっきりと聞こえるよ。しかし、急にどうした? 何か問題が起きたのかい?」

 出来るだけ柔らかく聞いてみる。こうやってわざわざ対峙して話しかけてきたのだから、何かしらの大事な用事があるという事は簡単に予想がつく。なら自分にできる事は、ちゃんと視線をそらさずに聞いてあげる事だ。疑問が出てきた時は、最後にまとめて聞けばいい。

『問題……と言うにはちょっと違います。マスター、私はマスターを真の主と認め、一体化しようと決心しました』

 つまりそれは、以前のツヴァイの魔剣と同じってことか。

『以前マスターは、友人が持っていた火の魔剣が一体化して新たな力を振るうようになった所を見ています。覚えていますか?』

 もちろん覚えている、あれでツヴァイが両手剣の二刀流と言うある意味ゲームバランスを無視したような戦法が取れるようになっちゃったんだからな。

『覚えてくださっていてよかった。それならば話が早いです、私と一体化することでもうマスターが私を奪われる可能性は無くなりますし、更なる力を振るう事が可能になります。更にマスターがメインとして用いている弓の行動を阻害する事無く、私を扱えるようになります』

 やっぱり、ツヴァイと同じように普通は出来ない事を可能とする、か。質問は最後にしようと思っていたけど、ここは聞いておくか。

「具体的には?」

 好奇心を隠し切れなかった自分の問いかけに、惑はこう答えを返した。

『私が一体化するのはマスターの右腕です。その後は私を持つと言う動作が必要なくなり、手のひらや腕から私を出す事が可能になります。つまり、マスターが矢を番えて弓を引いている時でさえも私を右腕から出して接近する愚か者を切り捨てる事が可能になる訳です。また、複数の刃を出す事も可能になりますので、遠くの厄介な敵を弓矢で対処しつつ近寄る複数の敵を切り刻むと言ったことも今後は可能となります』

 ──まずい、これまた強烈過ぎるわ。これは弓使いの自分だけじゃなくて、魔法使いや近接武器を使う人皆に恩恵があるぞ。魔法使いの人なら惑に相手をけん制してもらって詠唱の長い魔法を完成させることが可能になるし、近距離武器使いなら惑に伸びて貰って、自分の間合いに敵を引っ張り込むような動きを取りやすくなるだろう。

『そして、一体化すれば私の意思はマスターの中に溶けて話すことは出来なくなります。その前に、少しだけ一体化する前にこの魔剣わたしのちょっとした昔の話を聞いて下さい』

 魔剣の昔話か、それは興味をそそられる。時間もあることだし、腰を据えて聞いてみよう。その意思を惑に伝えると、惑はゆっくりと話し始めた。

『──私がいつ生まれたのか、それはもう私自身が覚えていません。ただ、マスターの友人が用いていた炎の魔剣よりはずっとおばあちゃんなのは間違いありませんが──』

 そんな前置きと共に、惑は己の過去を語ってくれた。幾人もの手を経た事。各マスターの扱いも随分と違っていた事。そして──

『お前は人を惑わせる。お前は弱者を強者であると間違わせる。故に、お前は惑と呼ばれるのが相応しい』

 と、名前を付けられた事も。なぜなら、惑はスネーク・ソード。鍔迫り合いもこなせるが、その鍔迫り合いの最中に、突如剣先が蛇のように動き額を狙ってきたらどうだろうか? 大半がまず対応できないだろう。対応できても剣を手放すことが大半で、武器を失った所を容赦なく間合い外の中距離から殺す。追いつめられても固有技のカウンターで反撃すれば簡単に逆転できる。惑の歴史は、殺し合いの歴史。それも義や仁と行った物が一切ないドロドロとした人の欲と殺意が渦巻く歴史。

『そして、何時だったか忘れてしまった過去に、あの場所に私は捨てられました。『お前の様な剣があるから、多くの人が惑わせられるのだ。お前が居なければすべてが解決する』との一方的な理由で。そんな私を拾い、そして静かに保管してくださったのがダークエルフの里の守護者様だったわけです。そこからはどれだけの時間が流れたのかは分かりません。私はずっと眠り続けていましたから……もう二度と、目覚めることは無いだろうと思っていましたし』

 ところが、どこをどう転がったのか、惑が目覚める日が来た。それがあのワーム戦で地下に落とされ、命からがらあの守護者の居る場所に転がり込んでしまった自分が原因で。

「そうか……狙った訳ではないし、知っていた訳でもない。だが、起こしてしまった事は詫びよう……済まなかった」

 眠り続けていたかっただろうに、と思って頭を下げたのだが。そんな自分の行動に対する惑の反応は──

『マスター、逆です。私は目覚めて良かった。時代の流れなのかどうかは分かりませんが、マスターのような人に会えて本当に良かった。マスターなら、過去の使い手たちの様に私を用いて他者を面白半分に苦しめる事はしない。闇の剣だからと言う理由で一方的な善悪の決めつけも行わない。そんなマスターだから、生死を共にしたい。だから、私はマスターと一体化したい』

 人生いろいろあるもんだが、剣には剣の歴史がある、か。ましてや何故生まれるのかまだ良く解っていないらしい天然物の魔剣ならなおさらか。そんな剣生を送ってきた魔剣がここまで言うんだ。ここで変に女々しく迷ったり、脅えたりしたら『漢』が廃ると言うもんだろうな。

「そうか、分かった。惑の意思を受け入れる。これからも共に歩もう」

 そう言った後、これってプロポーズに聞こえなくもないような、と。とはいえ共に歩くって所は事実だし、それなりの言葉はやっぱり必要だろう。自分自身に言い聞かせると言う部分もあるからね。

『マスター、私を受け入れた後に新しく使えるようになるいくつかの技術を伝授して、私の意思は消えます。その前に、もう一つだけお伝えしておきたい事があります』

 ん、何だろう? 

『私の名前です。私の真の名前は惑ではなく円花まどかと言います。漢字で書くと、まると言う意味の円に花と書きます。マスターだけで良いので、知っておいて欲しかった……僅かな時間だけでも良いです、覚えていてください。本当の名前を教えたのは、マスター一人だけです……』

 そう言い切ると、惑……いや、円花がその姿を剣から闇の球体に変え、右手の甲にとりついた。だが、それは違うだろう。こっちも大事な事を言い直さなきゃいけないじゃないか。

「円花の意思を受け入れる、円花、これからも共に歩もう」

 そう、宣言を言い直さなきゃいけない。偽りの名前で肝心な宣言をしてしまったら意味がない。事実、自分の言葉を聞いた闇の球体は言葉こそ発しなかったが、自分の手の甲をころころと転がる。その姿はまるでじゃれついているかの様だ。そんなじゃれつきながらも徐々に闇の球体は自分の手の甲に沈んでいく。そしてすべてが手の甲に沈んだ後……いくつかの新しいスキルの発現が頭の中に浮かぶ。

 どうやら剣技のいくつか……《スラッシュ》や《ピアース》、《クロスライン》の基本技三つを闇属性でさらに一歩上に押し上げる&特殊効果を発生させる物のようだ。名前は先程上げた三つの基本片手剣アーツの前に《サドンデス》という言葉が付与する。たとえば《サドンデス・スラッシュ》という感じだ。

 で、肝心の威力や特殊効果だが……まず、威力は一・六倍ぐらいに上がる。もちろん消費するMPも多少増えるが、一・二倍ぐらいなのでそちらは問題なし。ただし、再使用可能になるまでの時間が三倍から四倍に伸びてしまっている。その理由は付与される特殊能力にある。アーツの流れは、闇属性を纏ったアーツを振るって傷をつける所までは、ベースとなったアーツと変わりない。ただしここからが別物で、そこからさらにもう一発追加攻撃を発生させることができる。この追加攻撃で相手の急所を突く事が出来ると……文字通りの《サドンデス》が発生する確率が高まる。要は即死である。

 そして弱点が突けなかったとしても、突かれた部分が強制的に一定時間弱点扱いとなるようだ。ただ、この強制弱点作成には相手を一撃で倒す事が出来るクリティカル判定は無い。それでも弱点を作ることで、自分や他の人の支援になることは間違いないので、無理に弱点を狙うよりも確実に当てやすい部分に攻撃を当ててダメージを多く奪えるようにした方が良いのかも知れないな。この辺は追々考えよう、使っているうちに適したやり方と言う物が身に付くだろうし。更には特殊な刃を作ることもできるようだ。出血を強いる、首を刎ねる、絡みついて締め上げると言ったことに特化した刃を生み出せる。

 最期に腰につけていた鞘を外す。もう必要ない、収める剣がもうないのだから。収まっていた剣は、自分の右手の中にある。そしてもう喋る事も無い。試しに右肘辺りから具現化してみる。出ろ、と念じるだけでするすると出て来る……ううむ、右腕のどこからでも出せるとの事なので、ちょっと変な場所から敢えて出してみたがきちんと出て来るようだ。妙な気分になったが、理解はできた。そんな魔剣に関する確認を行っていると、コンコンとノックの音が。

「失礼いたします、アース様。お目覚めでしょうか?」

 声に覚えがないが、おそらくはリビングメイドさんの声だろう。とりあえず魔剣の事はこれで良いとして、挨拶に向かわなければいけないな。
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ルエットがしゃべらないのは、空気を読んでるからです。

刻月・惑 闇属性の魔スネークソード

Atk+57 スネークソードスキルがないと扱えない 闇属性
         ↓
吸収魔剣・円花

Atk+74 体内に納められた魔剣、右腕のどこからでも発現可能、複数同時展開可能、闇属性

《サドンデス・スラッシュ》《サドンデス・ピアース》《サドンデス・クロスライン》使用可能。

特殊刃形成可能、出血の刃 首取りの刃 抱擁の刃

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