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今回の戦功に対する報奨

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 リビングメイドさんの案内で魔王城のある部屋に通された。そこには魔王様、四天王の皆さん、黒稲荷さんが待機しており、さらにテーブルの上には多数の料理が並べられていた。

「貴殿が起きたとの報告があってな、まずは腹を満たしてくれ」

 との魔王様の言葉に従い、食事することになった。ただ、肉が六、野菜が四の割合だったのでちょっときつい部分もあった。割合が逆だったら文句なかったんだが……魔王領は基本的に寒冷地。そうなると、これだけの野菜を用意するのもたやすい事ではないかと考えなおす。味そのものには一切不満は無い、というか美味しい。自分では絶対に作れないレベルだろう。魔王様や四天王の皆さんに黒稲荷さんも共に食事をしているが、会話は一切ない。何を話していいのか分からないので、自然と無言の食事になる。マナー的にも、口に物を入れて話すと言うのは良くないから、これで良いのかも知れないが。

 一通りの食事が終わり、食器化片付けられた後に食後の軽いワインが用意されたので遠慮なく頂く。アルコール度数もかなり軽い様で、本当に食後の口に残る肉の油を洗い流す事を目的としていると予想する。それにしても、リビングアーマーさんは一体どこに食べ物などが入っていくのだろう。仮面の口に当たる部分に食べ物を運んでいたし、今も優雅にワイングラスを傾けている。あんまりじろじろと見る訳には行かないのでゆっくりと視線を逸らすが。そんなゆったりとした空気が出てきたところで、魔王様が口を開いた。

「まずは今回の一件、魔王として深く礼を言う。貴殿の働きによって我が領土に住まう民の血が流れる事なく、この先しばらくの間危機が訪れる事も無くなった。だが、こちらとしてはその成果はあまりにも大きすぎる故に、どういった報奨を出して報いればいいのかが分からぬのだ。ひとまず、こちらが用意した報奨を受け取ってほしい。その後にそちらの要求を飲めるだけ飲むことにしよう。おい、用意したあれを持って来い」

 魔王様の言葉を待っていたかのように、リビングメイドの数人が部屋の中に紫色の布で包まれた物品を運び込んでくる。

「まずは金だ。五百万グローほどを用意させてもらった。もちろん本来ならばもっと出すべきなのだが、貴殿は冒険者だ。あまりに多額の金を持ち歩くと言うのはあまり喜ばしい事ではあるまい。故に、高額な品が欲しい場合はこちらに知らせよ。数点ならばこちらが金銭を出して用意させよう」

 ──そんな値段を書いていない小切手のような物を一介の冒険者に渡していいんですか、魔王様。人によっちゃこれ幸いと魔剣やら値の張る道具やらを要求すると思いますよ? 自分はもう魔剣は要らないな、円花を取り込んだことだし。

「そしてもう一つの方だが、まずは見てほしい」

 紫色の布を取ると、そこから光沢のある黒いマントが姿を現した。だが黒一辺倒という訳ではなく、縁は銀糸で嫌味にならない程度のアクセントを生んでいる。さらにマントの一部には、花が銀糸で描かれていた。「身につけてみよ」との魔王様の言葉に従い、早速装備してみる。マントの布はかなりの厚みがあったが、その厚みに見合わずかなり軽い。このマントは何かしらの魔法がかかっていると見ていいだろう。そして、先程のマントに描かれていた花は、身につけると心臓部分に描かれていた事が分かった。

「そのマントは、現時点の魔族の職人達が持てる技術をすべて詰め込んだ一品物だ。重量軽減や自動修復はもちろんの事、あらゆる災害を軽減し、困難から身を護る一品となった。ハッキリ言っておくと、我が身につけているこのマントよりも数段性能が高い。しかし、貴殿はそれだけの大功を上げたのだ、ぜひ受け取ってほしい」

 というとんでもないお言葉。なので、マントの性能を確認すると……「ひっ!?」という声を上げてしまった自分が居た。なにせ──


 裏魔王の外套

 金と素材に糸目をつけず、まるで神に奉納するために作られたと言っても過言ではない採算度外視のマント。破れる事はまずなく、破れたとしても魔族の新技術である高速自動修復によって直ってしまう。防御能力も、下手な軽鎧を凌駕する上に軽い。それだけに留まらず、物理攻撃も魔法攻撃も悉く軽減する。所有者には強烈な加護を、対峙者には攻撃の通りにくさから絶望を与えるその性能は、もはやインチキと言ってもあながち間違いではないだろう。それだけに、装備者にはそれ相応の格が要求される。よほどの大功を上げた者しか、着用することは出来ないだろう。

種類 外套、マント(デミゴッズ)

 Def+30+α 全ての物理属性による攻撃30%軽減 魔法攻撃40%軽減 全属性による被害を50%カット、20%の確率で使用者に完全反射 強奪無効化 擬態付与 完全耐寒耐熱付与 地形妨害無効化 高速自己修復付与 自然治癒能力付与 自然魔力回復付与 所有者が苦境に陥ると防御力増大 魔王変身時、全能力上昇 完全破壊無効化 弓攻撃阻害無効化 他者からの鑑定無効化 重量軽減付与 トレード不可 売却不可 アース専用装備


「な、な、何ですかこれはっ!?」

 これはもうマントのレベルに収まる範囲じゃない。というか、アイテムのランクがおかしい。デミゴッズって……殆ど神器あつかいじゃないか。後は付与されている能力の質の高さと数もおかしい。特に完全破壊無効化とか、ダメージ軽減能力とかが軒並み狂ってる。おまけに魔王変身で能力UPとか……そんな驚きに負けて痴態を晒した自分の姿がおかしかったのか、魔王様がにんまりと笑う。

「そのマントには、先ほども言った通りありとあらゆる能力を詰め込んだ。コストが高すぎて付与しにくい物、新しく生まれたがコストダウンがまだ計れない物などもな。その結果、一品作るだけで今回用意しておいた軍事資金の六割以上が飛んだ。当分の間、それと同じ力を持ったマントを作ることは出来んだろう。が、それでもあの暴走魔力を抑える事に失敗し、戦える魔族に出征を強いた場合にかかる費用と比べればまだまだ黒字だ。貴殿には、それを受け取る資格がある」

 確かに、魔王城に戻る前に新しいマントを魔王様に用意して貰おうかと考えていた事は事実ではある。あるが、ここまでぶっ飛んだ物を用意して欲しいとは考えていなかった! 自分がマントを愛用するのは身に纏っているドラゴンスケイルメイル一式を隠すのが主目的であって、後は耐寒装備としての考えしかなかった。こんなマントを貰ってしまった以上、これ以上の要求なんてできるはずもない。

「分かりました、このマントはありがたく頂戴いたします。そして、頂いた資金とこのマントで、報酬は十分です。これ以上の要求は致しません……」

 軍事資金の六割以上を一枚のマントに突っ込むとか、狂気の沙汰じゃなかろうか。そりゃ、軍事資金が浮いたことは事実でしょうけど、それをこんな使い方をするとは……が、職人を育てる為の投資であり、一回完成品を作ることで、今後の技術の向上やコストの削減方法を考える機会にもなると見方を変えれば有益な部分はある、か? 新しい技術を作りましたが、使いどころはありませんでは意味も無いしなぁ。

「そうか? しかし、何度もしつこく言うが魔力暴走の危機をこれほどまでに小さい被害で乗り切れたのは、過去の歴史を紐解いてもまず存在しない。それだけの功を上げた者に対しての報酬を安く済ませては、王としての眼力がないと言われる事にも繋がるのだ。むろん貴殿が立役者であるなどと公表するつもりはないが、こういった物は気がつかぬうちに広まる物だ。貴殿たちも言うではないか、『人の口に戸は立てられぬ』とな」

 な、なるほどな。言われれば確かにそうだ。いつの時代だって、功を上げればそれに対する報奨が与えられなければいけなかった。ちょっとした歴史の話を引っ張り出すと、鎌倉幕府がすっ転んだ理由として、元寇で国を護ったのにも関わらず十分な報奨が与えらえられなかった御家人が、幕府から離れて行ったからという説を聞いたことがある。まあ、幕府としても領地や金品を手にする事が出来なかったわけで、渡せる報奨が無いと言えばなかった。が、それでは戦った者達は納得しない。戦って功を上げると言う責務を果たしたのだから、褒賞を貰うと言う権利を要求するのは当然の事なのだから。しかしなぁ。

「魔王様の仰ることは尤もであると、こちらも理解しております。しかし、この頂いたマントの価値は非常に、いえ、異常に高い事は理解しております。そんな物を頂いてなお、更なる報奨を要求するのはただの欲深な愚か者と私は考える訳でして──」

 足りないのは駄目だ。しかし、貰い過ぎもよろしくない。過剰に貰えば、それがどんな形で後々襲い掛かってくる分かった物ではない。まあその前に信用という目に見えない財産がきれいさっぱり吹き飛ぶことになるのだが。目の前の大金などに目がくらんで誠実さを売り払えば、後に待つのは破滅か後悔だけだ。そんな愚かな道を進みたくはない。

「ふむ、成程。こちらとしても押し付けるように報奨を与えると言うのも問題だな。ならば、何か魔族の協力が必要になった時は遠慮なく言うと良い。城への通行許可はそのマントを目印にしておく。そのマントは、一部の魔族以外にはみすぼらしく見える様に擬態する能力も付与されているからな、問題は無かろう」

 ああ、能力一覧にあった擬態付与は、そう言った能力か。一部の魔族ってのは魔王城に努めているエリートだけだろうし、それなら大丈夫か……

「分かりました、ではそれで。こちらとしても、今はこれ以上の物を頂いてもどうしようもありませんので」

 と、本音の言葉を漏らしておく。正直このマントだけでお腹いっぱいです。五百万グローは要らないです……が、そう言えば魔王様の面子を潰すのは火を見るより明らかな訳で、受け取らない訳には行かない。なんかいろいろと、泥沼の中に両足を突っ込んでしまっているなぁ。こんな大事になるとか、ダークエルフの守護者はひとっことも言って無かったような気がする……自分が忘れているだけか?

「うむ、ではこの話はこれで終いとしよう。所で話は大きく変わるのだがな、部下が集めた情報によると、貴殿は戦うだけではなくある程度の物を作る事も可能らしいが、それは真か?」

 なんだ? 確かにある程度の物は作れるのは事実だが……とりあえずここは頷いておく。

「そうか、では少々力を貸してほしい。もちろん、それに見合った報酬は支払う」

 なんだろ、また何かの面倒事なんだろうか?

「と申されましても、その内容次第でお役に立てるかどうかが分かれますので……」

 一流職人どころか、二流を名乗ることすら危うい自分の生産系スキルのレベルから考えると安請け合いはできない。

「そうだな、では内容を伝えよう。それはな──」

 その魔王様からの言葉に、あっけにとられる自分。そんな自分の反応に、四天王の皆様からは「うんうん、解る解る。魔王様の口から出るとは思えない内容だよね」と同意してくれた。何で魔王様がそんな事をしてるのやら……。
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魔王様と、魔族の職人さんがわるのりしてとことん突き詰めた結果、
こんなトンデモマントが誕生しました。
ドンドン人に見せられない姿になって行くアースでありました。
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