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連載

二人の鬼

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「どうです?」「これも薬草だね、鑑定は後回しだけど……採取ペースはなかなか良い感じになって来てるな」

 先のマンイーターフラワーを倒して先に進むと、雑草は姿を消し、薬草が次々と摘める様になってきていた。この世界の仕組みはどうなっているのかは知らないが、薬草は全部引っこ抜かずにある程度残してきている。もしかしたら山で採れる山菜と同じ面があるかもしれないと思ったからだ。根こそぎ独り占めしてしまうのは好ましくない。

 戦闘の方は、あのあと数回マンイーターフラワーと刃を交えた。と言ってもカザミネと彼の妖精が張り切っているせいで、初戦の様な出番はほとんどなし。最初に自分が感知して陽動を掛けると言う点は変わらないが、その後は妖精からバックアップを受けたカザミネが一気に切り込み、マンイーターフラワーをばっさばっさと切り捨てる。そしてもしカザミネが切り落としきれなかったとしても、その後に続くカナさんの片手剣がとどめを刺す。なのでほとんど自分とミリーは見てるだけという状態に近い。なので、非常に楽をさせて貰っている。

「カザミネ、カナさん、疲れたら言ってくれよ? 別に急いでいる訳じゃないのだから」

 そして、また新たに現れたマンイーターフラワーを剣の錆として鞘に納めたカザミネとカナさんの二人にそう声をかける。最初こそいまいちだったが、その後は薬草の集まり具合は上々と言って良い。鑑定しないとその価値は分からないが、かなりの量を獲得できているから、何かしら新しい薬草や価値のある薬草が混じっている可能性は十分にある。焦る理由も急ぐ理由も無いのだ。

「いえいえ、最初の戦いが少々しょっぱい感じになってしまいましたからね。汚名は返上しませんと」「それとお恥ずかしい話なのですが、アース様にお誘いいただくまでいたダンジョンではあまり活躍できなかったこともありまして……少々うっぷん晴らしをしている面が否めません。私だけではなく、この子もですね」

 と、カザミネとカナさんのお言葉。二人と契約している妖精も、気にしないでいいよーと自分に視線で訴えかけてきているようだ。ま、変に無理さえしていないのであればこちらとしても言うことは無い。ただ、お前さんの戦いっぷりはしょっぱい感じなんてことは全く無いと思うぞ、カザミネよ。

「アースさんは心配性ですね~。大丈夫ですよ、あのお二方は最近のギルドの中では『鬼』なんて呼ばれ始めてますから~。このぐらいの戦いなら、余力を十分に保ってますし~」

 何て事をミリーが言い出した。それにしても鬼、ねえ? そんな疑問を持ちながら前衛二人を見ると、二人とも少々困ったような表情を見せる。

「正直、自分が鬼と言われてもピンと来ないんですよね。鬼と呼ばれるほどの実力はまだないと思っていますし」

 とのカザミネの発言だったが、それを即座に否定したのはカナさんだ。

「何を言ってるんですか、『首落としの鬼』と言ってギルドの構成員の一部の子が恐れてるんですよ? 模擬戦PvPでの笑顔がものすごく怖いと」

 にこにこ笑顔で人を斬る……をいカザミネ、貴方はどこの時代劇の悪役辻斬り浪人にクラスチェンジしたんですか。しかし、カザミネはこのカナさんの言葉に不本意だったようで──すぐさま反論を返した。

「待ってください、変に顔を強張らせてしまうと恐れさせてしまうと思って、敢えて笑顔を保つようにしているだけで──」

 あーうん。気持ちは分からんでもないよカザミネ。解らんでもないのだが……ここは言っておかないといけないよな。カザミネの反論はまだ続いていたのだが、そこに「ちょっといいかな?」と割り込ませてもらう。そしてカザミネの視点が自分に移ったことを確認してから、簡潔に告げる。

「カザミネ、一つ言っておくことがある。笑顔って、攻撃的な意味を多分に含んでいるんだ。そんな笑みを浮かべながら刃物を向けられたら、ゲームのPvPと言えど、VRである以上必要以上の恐怖心を相手に与えてしまっていると思うぞ?」

 この自分からの言葉に、カザミネは一歩たじろいた。そしてミリーとカナさんを交互に見るが……無情にも女性陣二人は黙ってうなずく。その反応を見たカザミネはよろよろ~っと壁にもたれかかり、「そ、そんなつもりは」とぶつぶつ言い始めた。本人はあくまで、緊張をほぐしてほしくて笑顔を保っていたつもりだったのだろう。もしカザミネがリアル……現実でもやっていると言う剣道の試合でも、笑顔を保って面とかを容赦なくぶち込んでたら、そっちでも恐れられてきているかもしれない。

「で、カザミネの方は分かりましたけど。カナさんは何故鬼何て呼ばれているんですか?」

 カザミネが復帰するまで使い物になりそうにないので、ミリーから更なる話を聞いてみる事にした。モンスターの反応も周囲にはないから、襲われる心配はないはずだ。

「ちょ、ちょっと、私の方はどうでもいいじゃないですか!?」

 阻止しようとするカナさんだが、ミリーはそんな事はお構いなしとばかりに口を開く。

「あれ~? 『黒髪の鬼』さんはどうしてそんなに怯えているんですか~? それとも『先読みの鬼』の方がよろしいですか~? ことごとく攻撃の先を読まれて叩き潰されて、天狗の鼻を散々に叩き折った鬼さんじゃないですか~」

 天狗の鼻って所から察するに、自分は強いと思って我儘行為を行おうとしたギルドメンバーをPvPなんかで散々に叩きのめしたんだろうな。鬼と呼ばれるレベルとなると、相手の攻撃を一切受けずに一方的に押し込む感じかな? 格闘ゲームで言うならパーフェクトゲームで相手を圧倒したと言った所か?

「ミリーさん、その呼び方はやめてください! 私だってやりたくは無かったですけど、ギルド内での輪を乱す人を放置するわけにはいかないじゃないですか! たまたま皆さんが居ない時に他のギルドメンバーを威圧してたからちょっとお仕置きしただけですのに……」

 あーはいはい、昔のエリザの様な思考回路を持った人に教育したんですね。ただ、その教育の過程が強烈であったと。そういやどっかで誰かが言ってたんだっけか? 何かの本で読んだんだっけか? うろ覚えだが、戦いなどになると同性同士の方……つまり男性同士、女性同士の方がやり方が苛烈になる可能性が高いとかなんとか。逆に異性だと、よっぽどの恨みや憎しみがないとそこそこ止まりになるなんて話らしい。本当か嘘かは分からんけど。

「まあ、美人って事もあってかえって怖ろしく見えたのかも知れんが……」

 そう言いながらちらりとカナさんを見るが、「私は鬼じゃありません……」とぶつぶつ言ってる。ってか、前衛二人が使い物にならなくなっちまった。話の流れとは言え、困った事になった。自分の方にも不味い点はあったが、ミリーの方をちらりと見ると、いつも通りのにこにこ笑顔である。うん、やっぱり笑顔はおっかないものだって再認識したよ。あのミリーの笑顔に反論できる気がしない。

「とりあえず、鬼の話はここまでにするとしてどうする? このままじゃカザミネもカナさんも使い物にならないぞ? 自分は十分に薬草も集まったから、今日はここまでにして出口を探す事にしても良いのだけれど?」

 と、ミリーに方針を投げかけた。薬草の量は二人に配慮した、という訳ではなくて本当の事だ。だから、ここで引きあげても全く問題は無い。薬草の量が多いので、鑑定するだけでもそれなりの時間がかかるという事もある。

「そうですね~、アースさんがそう言うのであれば引きあげましょうか~。ちなみに、二人がすぐさま復帰できる魔法の言葉がありますので問題は無かったんですけど~」

 魔法の言葉。その響きに嫌な予感しかしなかった自分は止めようとした。しかし、ミリーの口をふさぐことは出来なかった。

「はいはいそこのご夫婦、そろそろ引き上げますよ~」

 このミリーの言葉を聞いたカザミネとカナさんの二人は即座に立ち上がって「「夫婦なんかじゃありません」」と見事なハモりを披露してくれた。ミリーさん、貴女も相当に人が悪いね……そんなミリーが生み出したトラブルを、ミリーが無理やり終わらせる形で〆た後にダンジョンから脱出した。カザミネとカナさん二人の頬がやや赤かったが……うん、微笑ましいなという事にしておきましょう。
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ちなみに、ミリーは『笑顔の鬼』と呼ばれているとかなんとか。
そしてもし本人に聞かれよう物なら

(言葉はここで終わっている)
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