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ダンジョンから出てきたら……

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 そしてダンジョンから脱出すると、外は猛吹雪だった。ちょっとまてい、ダンジョンの中に入る前はあんなに穏やかだったのに、なんで今はこんな吹雪いているの!? ここは山じゃないんだが……まあ、自分は魔王様から頂いたマントのお蔭で全然寒くないのだが、PTメンバーのミリー、カザミネ、カナさんはというと。

「さ、寒い……」「ちょ、ちょっとこれは~……」「私冷え性なのに……ひどい」

 自分のような超絶防寒性能を発揮するマントを持っていない他の三名はたまったもんじゃなかった。一か所に集まって震えながら寄り添っているが、猛吹雪のせいで体温をガンガン奪われているようで何の意味もなしてなかった。このままでは三人が凍死してしまう。とてもじゃないが、かまくらを作る余裕なんて震えている三人には全くないだろう。かまくらを作るのは自分一人でやるとして、三人の凍死という結末を回避するため、頭にくっついていてもらったアクアに協力してもらおう。あんまり招待を人前で見せたくはないのだが、今は非常時だ。

「アクア、おっきくなってくれ! 非常時だ、三人が凍死しない様に一時的に背中に乗せて温めてあげて! アクアが時間を稼いでいる間に、自分が避難所代わりのかまくらを作るから!」

 アクアも了解したとばかりに「ぴゅい!」と一鳴きして本来のサイズに戻り、三人を嘴で加えてポイポイポイと背中に乗せる。とりあえずアクアの体に沈んでいて貰えば、即座に凍死すると言う結果は回避できるはずだ。後は自分がかまくらを作って火を起こし、その中で休んでもらえばいい。そうと決まれば……かまくら製作道具をアイテムボックスから取り出し、大急ぎで製作に移る。雪をかき集め、四人用なので大きめのサイズに設定し、集めた雪をとにかく固める。本来の作り方を知っている人から見れば色々とおかしいだろうが、そこは魔法的な要素でいくつかの工程をすっ飛ばせるようになっている。そこがこのかまくら製作セットの優れている所だ。

 かまくらの外側が作れたので、中に入っていくつかの補強を行って崩れないように固める。暖まっている所にかまくらが崩れて外の猛吹雪に体を晒す何て事になったらシャレにならない。此処だけは丁寧に処理を行い、しっかりと固まったことを確認してからかまくら製作セットの中に含まれている火鉢を取り出し、炭を入れてから火をつける。この炭は煙を出さずに燃える性質を持ち、煙による呼吸困難やダメージを受ける事が無いんだそうだ。炭に息を吹きかけて少々強引に火を行き渡らせ、かまくらの中を温める。

「アクア、そろそろ大丈夫だ! 三人をこっちに運んでくれ!」「ぴゅい!」

 てこてことかまくらの前まで歩いて来たアクアが、そっと身を屈める。アクアの背中である程度の暖が取れたと思われる三人は、次々とアクアの背中からかまくらの中に転がり落ちる様な形で入って来る。三人が無事に鎌倉の中に入った事を見届けたアクアは、再び一番小さい状態になって体に付着した雪を払ってから、定位置である自分の頭の上に乗っかった。

「三人とも、きついかも知れないがある程度暖まったらかまくら製作セットの中にある火鉢を出して。四人が余裕を持って入れるように作った為にサイズが大きいから、火鉢が一つだとなかなかかまくら全体が温まらないんだよ」

 するとカザミネが「分かりました、すぐに出します」と言いながら震える手で火鉢を用意してくれた。その火鉢に同じように炭を入れ、火をつける。火鉢が二つ増えた事で温度の上昇速度が上がり、数分後にようやく一息つけるだけの温度が確保できた。やれやれ、これで凍死は回避できたな。ミリーとカナさんも自分の火鉢を出し、これらにも火を入れる事でようやく人心地ついた表情を浮かべる。

「酷い吹雪ですね~……この寒さと雪による体温を奪うダブルパンチは、女の子には辛いですよ~。何よりダンジョンを出てきたら猛吹雪なんて、逃げ場も予測もできません~」

 ようやく体が温まった事で、喋る余裕が出てきたと思われるミリーの第一声がそれだった。そうだな、確かに女性には特にきついだろうな……そういやさっき、カナさんが冷え性なのにとかなんとか言ってなかったかな? そのカナさんは普段の凛々しい姿はどこへやら、二つの火鉢の間に体を置いて、必死で暖を取っている真っ最中である。もしどてらがあるのなら、その背中にかけてあげたくなるほどだ。

「そして、アースさんにはまた聞かねばならない事が増えましたね……なぜあの極寒猛吹雪の中でかまくら作りが出来たのか? そして何より、その頭の上に居る妖精の協力者が妖精国のピカーシャであると言う事実……アースさん、一体どこをどうすればピカーシャが協力者となるんですか? ピカーシャは、妖精国のシンボルの一つであったはずです」

 あー、カザミネの疑問は尤もだろう。この三人なら口も軽くないから事情を話しても大丈夫かね……

「まず、防寒の面だが……理由はこのマントにある。外見はぼろっちいかも知れないが、このマントの防寒性能は非常に高い。そのお蔭で猛吹雪と言えど、それに負けずに作業が出来たという訳だ。あまり人には教えるなと言われていたが、ブルーカラーのメンバーは口が堅いから教えとくよ」

 少々話をでっちあげているが、そう間違ってもいないだろ。マントの性能の一つであることに違いは無いんだし。ただ、マントの性能はそれ一つではない事までは言うつもりはないけど。

「そっしてピカーシャの方は……うん、家出中らしいよ」

 ──という事になってるはずだったよな。かなり前の事で記憶が少々怪しくなっているが、普通はついて行くことができないアクアを連れ歩くための理由付けとして、アクアが妖精国から家出したからその保護を自分がいしていると言う話をフェアリークィーンがでっち上げていたはずだ。そういやクィーンは元気かな? 最初の時のはっちゃけぶりも収まって、今は政務を真面目にやっていると掲示板なんかの情報からうかがえるが。妖精国におけるSSの通行許可証を取った人がついに現れたそうで、直接フェアリークィーンと謁見したなんて話も掲示板にあったっけな。

(そう思うのであれば、妖精国に遊びに来てよー……)

 ──今何か聞こえたような? いや、気のせいだろう。指輪の機能も停止してるはずだしな。それとも、自分も内心そろそろ会いたいなんて思ってしまっているんだろうか? ふむ、この魔王領での冒険に一区切りついたら、妖精国を訪れてみようかな? 久々にゼタンやミーナ嬢にも会いたいしな。と、そんな事を考えていた自分であったが、目の前にいる三人の表情はなかなか面白い物があった。鳩が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべていたからだ。

「家出中、ですか? 国の象徴が?」

 体も暖まり、本来の落ち着きを取り戻しつつあったカザミネであっても、さすがにこの自分の返答は予想外だったのだろう。まあ、自分がカザミネの立場であったとしても、国のマスコット……いやいや、象徴の一つが家出してますってなんじゃそりゃ? と混乱したからこそ、疑問と困惑が入り混じった言葉が出てきたんだろうな。だから、あっけにとられるような表情を浮かべても無理はないよなぁ。とはいえ、普段は冷静な立ち振る舞いをするカザミネのそんな表情が見れて楽しいと言う本音もあるが。

「あーうん、気持ちは良く解る。自分が逆の立場で質問をして、そして家出中何て返答を貰ったら『何言ってんだこいつ?』という感想の一つも持つからね。でも悲しい事に、家出中というのは本当の事なんだよね……だろ?」

 相槌を打ってくれと願いを込めて、アクアに話を少しだけ振る。その願いは通じたと言うか、アクアは人の言葉をしゃべれないだけで十分に頭がいい。だから自分の言葉を肯定する様に「ぴゅい」と鳴いてくれた。頭の上に載っているから見えないが、おそらく頷くようなしぐさも交えてくれたと思う。

「という訳で、この子は家出中。普段はピカーシャだって察せられない様にこうやって小さい姿でいて貰っているんだよ。で、一応念押ししておくけどこの事も秘密で。そうしておかないと、妖精国で、ね?」

 ゴタゴタが起きる。という事を匂わせる。そして、目の前にいるブルーカラーの三人はそう言った事を察することができないほどの鈍感な感性の持ち主では決してない。状況を呑み込み、頷くまでにかかった時間はほぼ同時だった。

「どうにも見覚えがあるな、と思っていたのは事実です。ですが、まさか本物だとは……そして緊急事態であるとはいえ、憧れのピカーシャの背中に乗れたのは幸せでした。命の恩人であるピカーシャさんの害になるような真似は絶対にしないと、ここで私は宣言させていただきます」

 と、カナさん。ミリーとカザミネもカナさんの言葉に同意し、絶対に他言しないと自分とアクアに宣言してくれた。

「あのままでは凍死していました~、それを救ってくれた恩人、いいえ、恩鳥に対して仇で返すような真似は絶対にしませんよ~」

 普段と大差ないのんびり言葉で話すミリーだが、その言葉の声色にはのんびりの雰囲気は一切無かった。ミリーも結構義理堅い一面があったんだな。ま、それは良い事だ……アクアが騒ぎ立てられずに済むのであれば、それに越したことは無い。

「そうしてもらえると助かるよ、あと、一応他のメンバーにも内緒で」

 追加条件を出したが、その辺は言われずとも心得ているとばかりに即座に頷かれた。とりあえず、これで良いか。

「じゃ、とにかく猛吹雪でやられた体が回復するまで休憩という事で。その時間を利用して薬草の鑑定を行う事にするよ」

 さーて、何か面白い薬草は無いかなーっと。
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