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街への帰還

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 さて、どうなる事かと思った猛吹雪だったが、自分とカザミネが持っている炭が九割ほど無くなった頃合いでようやく弱まり始めた。この事に全員がホッとした表情を浮かべたのは言うまでもない。まだミリーとカナさんが炭を持っているとはいえ、ぎりぎりまで追いつめられると言うのは精神的に厳しい物がある。そんな状況の中、薬草の鑑定を終わらせた自分はちょっとした木工を行っていた。ちなみに、鑑定した薬草はほとんどが毒草。と言っても鈍足草などのアイテム製作に必要な毒草が補充できたので、これはこれで助かったが。

「どうなる事かと思いましたが、確実に吹雪は弱まってますね。後十五分ほどもすればここを出て街に帰ることが出来そうです」

 カナさんの言葉に、安心したような心境が伺える。かなり長く吹雪が続いたから、心配になるのは無理のない話だ。最悪、炭が切れたらアクアに三人を運んでもらうと言う手段を使うつもりだったが、それは回避できて何よりだ。アクアにそこまで重労働はできる事ならさせたくなかったし。

「所で、アースさんは先程から何を作っているんでしょうか~?」

 ん、ミリーが先程から自分の行っている作業に興味を持った様だ。まだ製作途中だからわからんかな?

「──ああ、これはありがたいですね。ミリーさん、おそらくアースさんが作っているのはかんじきですよ。雪の上を歩くために使う道具の一つです。あれをつけて歩けば、足が雪に深く沈みこまずに歩けると言う利点があります。多分突然作り始めた理由は、この猛吹雪で多くの雪が降った事が原因でしょうか。ワンモアの事です、ここに来る時には普通に歩けていた雪でも、猛吹雪後は状況が変わって足が沈むようになっているなどのいやらしい変化があってもおかしくありません」

 っと、カザミネに全てを言い当てられてしまったな。しかし、それだけの知識があるって事はカザミネって北国の人なのかな? まあいい、オンラインゲームでリアルの詮索はするものではない。それに、面倒な説明を全部してもらえたわけだからこっちとしても助かる。

「まあ、厳密にいえばモドキ止まりだけどね。とりあえず街に帰るまで持てばいい、ぐらいの性能しかないから。あまり材料がないからあちこちつぎはぎだらけだし、こういった紐や縄の扱いは〈裁縫〉系統のスキルだから、すでにあるものをある程度利用するぐらいしかできないんだよ」

 色々と使い道があるので、基本的に紐と縄はアイテムボックスの底に忍ばせておいてある。と言っても今までこれと言った出番が無かったが……今回で遂に日の目を見る事になった。先端をひっかけて上る鉤爪ロープなんかも作りたいが、良い鉤爪が出来なくて後回しになってるんだよなぁ……薬草集めが終わったら、鍛冶を上げてそろそろ作ってみるかね? とりあえず今はかんじきモドキの製作に集中しようか。

「そう言った知識は、一体どこから得ているのでしょうか……?」

 カナさんが首をかしげているが、大した理由じゃない。何というか、ネット上で暇な時にあれこれ見ておいた物とか、興味を持って調べてみた物がたまたまこういう形で役に立っていると言うだけのお話。それに、本職の人が見たら「ちょっとこっちへこい、本物って奴を教えてやる」という感じで怒鳴られること間違いなし。しょせんこういった物の製作はモドキどまりでしかないって事だな。それでも急場をしのぐことができるのであれば、無意味でもない。耐久力に不安が残るが、それでも距離を稼ぐことが出来れば……


 雪上靴

 製作評価2

 柔らかい雪の上でも歩けるように、靴につける補助具。これをつけて歩く事で、雪の中に足が極端に沈むと言った状況を回避できる。しかし、質の悪い素材と作り手の製作経験が足りないという条件で作られたために、繰り返し使えるほどの耐久力も性能も無く、その場しのぎレベルにとどまっている。


 製作評価は二と来ましたか……仕方がない、こんな猛吹雪に襲われるという事自体が想定外なんだ。木工作業で余った端切れと言って良い木材で作っている以上評価が高くなるわけがない。しかも四人分作らなきゃいけない以上、ぎりぎりまで一つに使える材料の量を落とし込んでいる事も製作評価を下げている原因だろう。が、とにかく使えればいいんだ。本格的に作りたいなら、色々と素材と資料を集めてから、街の製作所でしっかりと作ればいい。

「アースさん、ちょっといいですか?」

 と、三セット目のかんじきモドキを作り上げた所で、カザミネに声を掛けられた。何かあったかな?

「今、ギルドメンバーチャットで知った事なのですが、今回の猛吹雪でかなりの凍死者が出たそうです。街の方もかなりひどい事になったらしく、露店を出している人達を始めとして、皆がどこかの家の中に緊急避難しているようで……特に今回、各地のダンジョンに出向いてたプレイヤーが大勢猛吹雪によってやられたみたいですね。ツヴァイさん達も凍死者メンバーの中に入ってしまった様で、街で復活したはいいけどそこでも寒すぎな上にステータスがデスペナルティによって下がってしまった影響で、危うく街中でもう一度凍死しかかったそうです」

 自然によってリスキル (リスポーンキル、死亡した後に復活した場所で再び殺される事、対戦ゲームの用語かな?)されかかるとは……さすがワンモア、容赦ないしえげつない。ツヴァイは炎の魔剣を持っているはずだが、それでも耐えられなかったのか……恐らくMPが無くなってどうしようもなくなったんだろうな。カザミネ達もあの猛吹雪によるあまりの寒さと雪の量に何もできなかったし……魔王領の自然がここまで過酷だとは。

「ツヴァイさんが街の人に聞いた話ですと、数年に一度あるかないかの猛吹雪だったそうです。ですが、一度この猛吹雪が来た年は二度三度襲い掛かってくる可能性が高いと言う一面もあるそうで……渋い顔をしていたとの事です。そしてツヴァイさんからギルドメンバーに、吹雪に対抗するための対策を話し合うために一度、ギルドメンバーが多く利用している魔王領の宿屋に明日集合してほしいとの要請が出されました。なので明日は申し訳ないのですが──」

 そういう事になっていたか。そういう事なら仕方ない、明日は街中でコツコツと何かしらの道具を作っている事にしよう。

「了解、確かにあの猛吹雪が二度三度やって来るとなったら対策を立てないとやってられないな……それにしても凍死者多数か。おそらくプレイヤーだけでなくこちらの世界の人もかなりやられてしまったんだろうな……」

 自分の言葉に、カザミネは頷いた。やっぱりそうか、死亡したのはプレイヤーだけなんて話は無いと思っていたが。この世界は本当に容赦ない時はとことんだな。

「とにかく、吹雪が収まったらここを出て街に引き上げよう。もたもたしててもう一回吹雪に襲い掛かられたらたまった物じゃない……あとワンセットでこのかんじきモドキも全員分揃うから、出来上がったら足に装着してもらうよ」

 その後出来上がったかんじきモドキをみんなに装備してもらい(そして自分は、靴につけている蹴りの威力を強化してくれているブレードを外してからかんじきモドキを装着)、かまくらの始末を済ませた後に街に向けて移動を開始した。そして数歩歩いて実感したことは、モドキと言えど作っておいて正解だったという一言に尽きる。雪質が大幅に変わってしまっており、このかんじきモドキを装着して居なかったら歩くのがかなり大変だっただろう。

「アースさん」「皆まで言うな、自分でもそう思ってる。街に帰って素材を揃えて、もっとしっかりとした物を作る予定だ。これで良いかな?」「ええ、お願いします」

 カザミネとそんな会話も交わす。モドキであり、品質もよくないかんじき(ゲームでの名前は違うが、かんじきで通させていただく)ですらこれだけまともに歩けるのだ。カザミネを始めとしたメンツが欲しがるのも無理のない話だ。というより、使っている自分自身がこれは良いと感じている。もっとしっかりとした物を作れば、魔王領での行動に大きな助けとなるだろう。その為にも、〈裁縫〉スキル持ちの人と交渉をして、しっかりとした品質の良い紐と縄を購入しないといけないな。

「街が見えてきましたね、吹雪がまたいつやって来るか分かりませんし、急ぎましょう」

 街が見えてきた時に、カナさんの言葉が耳に伝わる。そうだな、雲行きはあまり良くないし、ついでに風もまた少々強まってきたような気もする。もう一回吹雪が来てもおかしくない、そんな感じが漂っている。もたもたしていると宜しくなさそうだ。こうして、この日は何とか凍死を避けて街に帰還し、宿屋でログアウトすることが出来た。明日は予定を変更してかんじきの生産だな。
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申し訳ありません、今週の更新はこれだけにさせていただきます。
ちょっと裏でやりたい作業がたまっており、そっちをある程度
やっつけてしまいたいので……宜しくお願いします。
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