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報告と、これからの活動

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「──と、言った感じで。結局はこの身につけているマントの性能でごり押したとしか言いようがないかな」

 集まって居たブルーカラーのメンバーに、例の猛吹雪をどうやって凌ぎきったのかと問われたので、あの時に行った行動の内容をすべて話した。ミリーやカザミネ、カナさんの補足もあって漏れはないと思う。アクアの正体もばれる事になったが、この面子ならまあ問題は無いだろう。

「正直、アースさんがあそこにいなければ私達もツヴァイと同じで凍死して死に戻りしていたでしょう。あの猛吹雪の中では、このペンダントすら効果を発揮しきれない状態でしたからね」

 と、カザミネが報告を纏めた。

「そういう事だったのか……アースが何かの気転を効かせて逆転の一手を打ったのかと思ったんだけどな……ごり押しとはアースらしくない言葉が出て来るとは思わなかったぜ」

 ツヴァイの一言も最もだ。自分は戦闘においては真っ向勝負をするタイプではないからな、ごり押しなんて言葉とは縁が遠いはずなんだ。だが今回は、このマントの性能に頼ったごり押しとしか言いようがない。三人がガタガタ震えて何もできなかったあの猛吹雪の中でも、全く問題なく動けたからな。さすがは軍事費の六割を食いつぶしたマント、性能の一つ一つがとんでもないわ。

「しかし、そうすると今後はどうするか。数日は足止めされるのはしょうがないとしてもよ、さすがに一週間以上何もできずに街に閉じこもってるってのはつまらないどころじゃないぞ。かといってもう一回凍死させられるのは御免被るところではある……」

 レイジも今後どうすればいいのかに頭を悩ませているようだ。確かにそうだよな、せっかくの冒険の場があると言うのに、街に閉じこもっているしかない現状は退屈極まりないはずだ。自分みたいに生産能力があるのなら、そっちに時間を使うと言う選択肢もあるが……。

「でも本当に困ったねえ、せっかく新しい鉱石が見つかってギルドメンバーの装備が一新できるチャンスが巡ってきたと思ったらこれでしょ? 足止め受けてるのはボク達だけじゃないけどさ、このままずーっと街の中にいるんじゃ腕が鈍っちゃうよ。PvPも良いけど、今はモンスター達と殴り合いたいんだよねえ」

 自分の妖精を撫でながら、ロナも不満気な声を漏らす。ロナもバリバリの戦闘職だから、街の中に待機しているしかない現状にイラついているのかも知れない。

「私の知り合いの中には、一旦魔王領から出て他の地域をもう一度探索することに決めた人も居ますね。もしかしたら、今まで行かなかった場所に新しい冒険の世界が開けているかもしれないのでもう一度見回って来ると言っていました。今の魔王領の状況を考えますと、それも一つの方法ではありますね」

 これはカナさんの発言。なるほどね、確かに吹雪で魔王領の中を歩けないのなら他の国にもう一度行ってみると言うのも一つの手だな。ワンモアはアップデートなどの際にシークレット要素を入れて来る事もあるし、今まで言った場所に新しい何かが生まれている事もある。妖精国のミミック三姉妹が居たダンジョンとかが良い例だろう。

「そうするしかないのか……? ギルドの鍛冶屋の子には悪いが、今この状況じゃ魔王領の鉱石取りは出来そうにないしな。それに、かまくら製作セットの道具の一つでもある炭が値上がりしてるって情報も入ってきた状況じゃ、無理やり突っ込んでキャンプを張る訳にもいかねえぜ……」

 ツヴァイも困り顔。と言っても、さすがに今回は相手が自然そのものだからどうしようもない。大人しくしているのが一番としか言いようがないだろう……が、一つ確認しておきたい事が出来た。

「なあツヴァイ、炭の値段の値上がりってどんな感じなんだ? 大雑把でいいから教えて貰えると助かるんだけど」

「ああ、大体二倍近くに上がったってよ。ただでさえ炭の原料である木材が魔王領の中からは手に入りにくいのに、今回の猛吹雪で持ち歩きが可能で火持ちが良い炭の需要は増えるばっかりらしい。ある攻略ギルドはそれでも炭を買いあさって、この吹雪の中を強行突入してるって話だ。途中途中でかまくらを量産して、二人ほどかまくらに配置。そうしてかまくらを維持しつつローテーションでダンジョンに入っているって話だ。あそこまでするってのはある意味凄い話だぜ、でかいギルドだからとれる戦法だな」

 二倍か。えーっと、そもそも炭ってどうやって作るんだっけな……? 酷く大雑把にいえば、炭ってのは木材を蒸し焼きにする事で酸素と炭素を化合させず、水蒸気やガス分を抜いた物の事だ。もちろん炭の製作に合う木材云々はあるが、それはいったん考えの外におく。ふむ、こう考えると炭の制作って木を扱う所から〈木工〉スキルの範疇に入っているのではないだろうか? 今までは必要なかったから作ろうとも思わなかったけど、特別に強力な物を作ろうとさえしなければ自作できそうだな。

「あー、それでですか。使ってしまった炭の補充に道具屋に行ったら一気に値段が跳ね上がっていたので、買うのに躊躇したんですよね。急いで冒険に出なければいけない理由があるのであれば買うのも止む無しなのですが、そんな予定がない以上……今の所は止めておこうと考えて買ってないんですよ」

 カザミネは実際の値段を見てきたのか。そして躊躇したと……一回買ってお終いなら値段が上がっても買って良いが、常時使う物が値上がりすると厳しい物があるからなぁ。というか、このままだと過去にあったポーション売りきれによる大混乱の再来が炭バージョンとしてやって来るかも知れない。その為にも、木炭を作ってみるのは悪くない手段かも知れない。その木炭政策をしているうちに、吹雪の兆候が収まってくれれば万々歳だ。

「みんなの話を聞く限り、ちょっとこのままでは魔王領での冒険を続けるのは厳しいな。なので、自分は少しの間魔王領から出ようと思う。そしてそれに伴って、ブルーカラーから派遣してもらってたミリー、カザミネ、カナさんをお返ししておくよ」

 緊急時を除いて、強行突破をするつもりはない。こういう時は他の事をしているに限る。

「それは構いませんが~、アースさんは何をするおつもりなんでしょうか~?」

 別に隠す事でもないし、言っても良いか。

「いや、猛吹雪を切っ掛けとした冒険不能状態に加えて、炭の値上がり。吹雪の方は自然環境だからどうしようもないけど、炭の方は何とかしようかなーと思って……炭を作るためにいったん他の国で行動するつもり。移動手段はこの子が居るからね」

 頭の上で寝息を立ててるアクアを指さしながらブルーカラーの面子に行動予定を告げる。

「炭ってそんなに手軽に作れるの? 確か窯を始めとして色々と道具や設備が必要になるんでしょう? かなりの資金がふっ飛ぶと思うんだけど?」

 と、ノーラからの指摘。この指摘は間違ってはいない。良い炭を作るには、それなりの時間と設備、そして適した木材が必要だ。が、炭の作り方はリアルでもある程度なら簡略化が可能なのだ。

「ノーラの言う通り、良い炭を作りたいとなれば相応の設備や木材、時間が必要なんだけどね。品質をそこそこでいいと割り切れば、そこまで大掛かりな物は必要ない。そして、このワンモアにはスキルがある。そのスキルによる補正が掛かれば、一級品には程遠くても、二級品なら作れる可能性は十分あると思う。なにより、ずーっとこのまま街に籠ってばっかりというのは退屈だって言う本音もあるし」

 一応義賊リーダーにも何か問題が起きていないかいろいろ調べさせているが、そっちの裏の方でもこれと言った血生臭い事は起きていないらしい。その為〈義賊頭〉としての裏の仕事は休業中。部下である義賊の小人たちも、今は表の仕事に精を出しているそうで、平和その物らしい。

「なければ作ればいい、か。確かに自分で調達できるの出れば、店の値段に振り回されなくて済むな。作っている所を是非見てみたいんだが、同行していいか?」

「私も見たい、ずーっと宿屋の中にこもりっきりじゃ退屈すぎる~」

 と、レイジ&コーンポタージュの恋人二人が名乗りを上げた。見たいと言うなら見せても良いけど、一発目から上手く行くかは未知数だからな。余計退屈かも知れない……という事を一応伝えたが、それでも構わないという事なので、それならば……と。

「二人はフォルカウスの街に向かって貰っていいかな? とりあえずどうしても必要な物を手に入れるため、今日中に龍の国に行かなきゃいけないんだ。恐らく龍の国にしかないと思われるんでね……その後フォルカウスの街で合流した後に、炭の材料となる木材の切りだしを行う予定だけど、ここには同行してもらう予定。そうして材料が揃ったら、フォルカウスの街の近くで炭の試作をしてみようか。何か質問はあるかな?」

 フォルカウスの街の近くにあるちょっとした林から取れる木材は、確か掲示板情報でサーズの街でとれる木材より数段質が落ちる……という情報だったはずだ。なので、自分がある程度伐採しても問題は起きないだろ。伐採が禁止されている、という情報も無かったし。

「いや、特にないな」「移動に関しては了解だよ」

 と、レイジ&コーンポタージュからも質問が無いようなので、明日から炭の生産活動を開始する事を決定。さて、この後は龍の国に行って、もみ殻を大量に手に入れないといけない。もみ殻の中に木をうずめて、蒸し焼きにするのだ。この方法ならば窯は必要ない。

「ちょっと良いかしら? その炭生産が上手く出来上がったらアース君はその後どうするつもりなの?」

 と、ノーラからの質問。自分が首をかしげていると、更なる言葉が。

「今回の炭の値上がりで、ずーっと前にあったポーション売り切れの一件を思い出したのよ。ワンモアの商品には在庫って物がきっちりあるわ。今のまま炭を買い続ける人が居れば炭の値段が上がるだけでは絶対に済まないのは予想できる。このままではそのうちもう売れない、在庫がないと炭を扱っている商人の人から言われる日が来る事はまず間違いないのよ。そうなったら、吹雪が収まったとしても結局冒険が出来ない状態に陥ると思うの。それに冒険者だけじゃなくて、街を行き来するこちらの世界の住人の人達にもいざという時の暖を取る為に炭は必要となるのよ。そんな時に炭がありません、プレイヤー側に買い占められましたとなったら険悪な空気がお互いの間に流れかねないの。お金を出して正当な方法で買った、なんて言葉が通用しないほどにね」

 言わんとする事は分かるけど……

「それは、個人ではどうしようもない事でもあるよなぁ。その炭を大量に買いあさってる? 大きなギルドに『炭を買うのを控えて』と言う訳にもいかないぞ? せいぜい自分にできる事は、ある程度まとまった量の炭が出来るのであれば、それをある程度魔王領の方に回すぐらいしか……これ以上は、それなりのまとまった人数が必要になって来る。例えば大量生産をする事で、魔王領に不足気味となった炭を供給するとかの支援活動などをするのであればね」

 一人で出来る行動とはすぐに限界が来るだろう。いくらアクアに頑張ってもらったとしても、自分一人では大量の炭を用意できるわけがない。そもそも大量に炭を作るとなれば、それこそきちんとした設備を用意して、時間をかける代わりに大量に作ると言った方法に切り替えた方が良いかもしれない。と、自分の言葉を聞いたノーラが、今度はツヴァイに視線を向けて……

「ねえツヴァイ、ギルドの〈木工〉持ちを始めとした生産職の皆に今回の一件に関する支援を呼びかけていいわよね? 実はちょっと私のスキルを活かして暇つぶしがてらに街の情報収集を行ったんだけど、炭の件はもうすでにぎすぎすし始めてるの。プレイヤー側が大量に買っちゃっているせいで、こっちの世界の人が炭を買う事が難しくなっていく事に不満を持つ兆候がもうはっきりと出て来てる。このままプレイヤー側が誰も炭を魔王領に供給しなかったら、絶対大きく揉める。今回は暖を取る炭が焦点となっている以上、いざという時に生きるか死ぬかの問題に直結しているから尚更大きな問題になるのよ」

 そういや、ノーラも〈盗賊〉系統のスキルを持っているんだったな。そしてそんな情報を集めてきたとなると、ノーラは自分とは違った系統の〈盗賊〉系スキルに進化したんだろう。こっちの〈義賊〉系は、悪事には敏感に反応するが、街の人の様子とかはもうちょっと話が大きくなって来ないと手に入りにくい情報だ。

「──なるほどな、そうなってくるとなるとちょっと見過ごせないな。どうせ魔王領の方は吹雪がそれなりに収まる兆候を見せるまでは冒険すべきじゃないってのが現状だし、この状況が解除されるまで宿屋でぼけーっとしてるのは時間の無駄って所だよな。よーし、んじゃ今回はアースと協力して、ギルドブルーカラーは炭の生産に乗り出す事にするぜ! 戦闘できる奴は生産職を護衛。生産職は炭が作りやすい環境を作り上げる形で動射て貰う事になる。そしてアースと〈木工〉スキル持ちに炭を作ってもらおう。出来上がった炭を魔王領に運ぶ役目は運搬は俺達初期メンバーがやることにしようか」

 ブルーカラーの面子が力を貸してくれるのであれば、大量生産も可能となるか。よし、魔王領でのもめ事を回避すべく動く事にしようか。そうなればまずは……

「じゃ、その為に自分は早速行動を開始するよ。木材はともかく、他の材料をかき集めて来る」

「ああ、アース、頼んだぜ!」

 よし、目指すは龍の国。あそこは稲作をやっていたから、もみ殻と稲わらがあるはずだ。その二つを手に入れてこないといけない。事情が変わった事を宿屋のオヤジさんに告げて、部屋の方もお金を払って維持しておかないとな……。
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魔王領は一癖も二癖もあるので、
魔王領と他の地域を行ったり来たりとなります。
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