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窪を使わない炭の製作

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「じゃあ、今日はよろしく」

 同行してくれるレイジとコーンポタージュにフォルカウスの街で合流し、挨拶を交わした。今日は色々とがんばらないとな。

「まずは木材の切りだしだったか? この辺のモンスターならば俺とコーンポタージュで十分対処できるから、モンスターの事は気にせず動いてくれ」

 と、レイジの頼もしいお言葉。まあレイジの実力なら、この周囲のモンスターは相手にもならない事は十分に理解している。更に魔法使いのコーンポタージュまで同行しているのだから、後れを取る要素は一切ないな。今回モンスターに絡まれた場合は、この二人に任せっきりで良いだろう。

「レイ君と私がモンスターを受け持つから、アース君は生産の方を宜しくね。うーん、私も何か一つか二つぐらい生産を覚えようかなぁ? でもそうすると成長限界が低くなっちゃうんだよね……」

 そうなんだよな、コーンポタージュの言う通り、手広くやろうとすると成長限界が低くなってしまうと言うのがこのワンモアにおける決まりの一つ。この制限がついているお蔭で、一人で何でもできる完ぺきなプレイヤーは存在しない。その一方でこちらの世界の人の中には、何でもこなせるスーパーなお方が稀にいるらしいが。

「よっぽどの事が無い限り、今日は戦闘に参加しないつもりなのでお二人には頑張ってもらう事になります。とりあえず最初の木材の切りだしが出来る場所に向かいましょうか」

 と、自分を先頭にして三人で行動を開始する。時々モンスターがこちらを見つけて襲い掛かってくるが……レイジの持つ片手斧の錆となるだけであった。自分はもちろん、コーンポタージュの出番すらほとんどなく、レイジが宿屋に閉じ込められていたうっ憤を晴らすがごとく斧を振り回してモンスターをブッ飛ばした。

「強い人と一緒だと楽が出来ていいな……じゃ、ここで数本木を切り倒して木材にするから護衛を宜しく」「ああ、任せてくれ」

 レイジに確認を取ってから、木こり用の斧を取り出して早速伐採を開始。一応念のためにログイン前にもう一度掲示板等で確認しておいたのだが、ここの木材の価値が急に上がったと言うことは無い様だ。良質な木材は相変わらず龍の国の方などが主な様で……あとは、この前言った植物メインのダンジョンの中でたまに生えている巨木が当たりとかなんとか……巨木の方は実際に目にしたわけではないので本当なのかどうかは不明だが。

「倒れるぞー、注意してくれよー」

 もちろんレイジ達の居る方向に倒れないように注意はしているが、それでも声をかけておくべきだろう。味方がこの倒れる木の下敷きになる……何て事は避けたいからなぁ。幸いモンスイターに襲われる事も無く、数本の木材を確保。とりあえず今日は様子見の部分もあるからこの程度で良いだろうか。

「この一本で最後にするから、もうちょっとだけ周囲の警戒を宜しくー」「りょーかいだよー」

 自分も《危険察知》で注意は払っているが、流行り伐採作業中は注意力が落ちてるから他の人の目視による警戒があった方がありがたい。コーンポタージュの声を聞きながら、最後の一本の木材も無事に伐採が完了。大雑把に処理を施してアイテムボックスの中へ。とりあえずこんな物か。前日に龍の国に飛んで用意した稲わらと籾殻で、アイテムボックスの中身が実はいっぱいいっぱいだったりする。

「おまたせ、とりあえずこれで材料は確保できた。次はいよいよ炭を作るために場所を変えるよー」「おう、了解」「はーい、それじゃいこっか」

 周囲の警戒をしてくれていた二人に声をかけてから早速移動開始。とりあえずそれなりに南下して、地面が雪に覆われていない地面があるところまで移動しないとな。火を使うので、雪の上なんかでやったら溶けだしてべちゃべちゃになるだろう。そうなってしまったら、炭作り何て成功するわけがない。

 そうして南下することしばし、ようやく良さそうな場所を見つける事が出来た。さあて、ここからは自分が頑張らないとな。

「この辺が良さそうなんで、そろそろ作業を始めるよ。悪いけど周囲の様子を見ていてほしい」「ああ、任せとけ」

 レイジの頼りになる返答を受けて、早速作業を開始する。まずは地面に籾殻を丸く平らに敷く。籾殻の量はケチらず、それなりに。その中央に稲わらをある程度束ねて立てておく。この稲わらが導火線代わりとなる。お次に敷いた稲わらの上に、ある程度細く切った木を数本配置する。この木は蒸し焼きの燃料となるので、忘れてはいけない。そのような準備が終わったら、その上からたっぷりの籾殻を上から振りかける。ある程度籾殻を振りかけて台形の形になったら、今度は炭にするための木材を置いて行く。ちゃんと熱が通るように隙間を明けておかなければいけない。

 木材を敷き詰め終わったら、もう一回籾殻を上から振りかけ、更に台形の形となっている籾殻の山を高くしてからもう一回炭とするための木材を置いて行く。それが終わったら、さらにその上から籾殻を振りかけて……小山を完成させる。横から見ると、大体籾殻の小山の高さから見て三分の一と三分の二に当たる部分に、炭となる木材が仕込まれている事になる。後は籾殻で出来た小山の頂上を少し掘って、中央に立てておいた稲わらの先端が見えるようにする。これで準備は完了。後は中央の稲わらに火をつけてゆっくりと炎上しない様にしながら木を蒸し焼きにすればいい。

「──本当に窪とか使わないんだな。気になって軽くネットで調べてみたんだが、炭を作るのはそれなりの設備が必要だと知って難しいと思っていたんだが……」

 周囲に警戒しつつも、自分の作業を見ていたレイジからそんな言葉が漏れた。うん、確かにこのレイジの発言は間違っていない。普通は窪を使った作り方が普通だからだ。

「これは爺ちゃんがたまに炭を急きょ必要とした時にやってた手段でね。この中央に見えている稲わらに火をつけて、じっくりと籾殻を灰にしながら木を蒸し焼きにする事で窪と同じような状況を作り上げる方法って奴かな。もちろん窪を用いて作るより量も質も下がるんだろうけど、一々窪を作っている暇は今は無いからな……ひとまずこの方法がワンモアでも通じるか試して、通じる様だったらこの方法で炭を量産。とりあえずの一時凌ぎになればいい、と言った感じかな。おそらく魔王領の方でも、今必死に炭を作っているはずだろうから……その炭が出来上がるまでの時間稼ぎにはなると思う」

 ホントにもう、この簡素な炭作りの方法を使う日が来るとは思わなかったよ。後は稲わらに火をつけて、見守るだけだ。火のついた稲わらは静かに燃えていき、籾殻の山の中にその姿を消してゆく。後は火が上がらずに、籾殻がゆっくりと灰になって行けば成功するはずだ。逆に火が上がってしまったら失敗、炭にするためには蒸し焼きにしなければいけないのだから……火が出たらただの灰になってしまう。

「なんかこう、予想していたのと全然違うね……本当にこんなので炭が出来るの?」

 コーンポタージュがそんな言葉を吐くのも無理はない。自分だって爺ちゃんが目の前で作らなきゃ信じてないし。でもこれで一応蒸し焼き状態になって炭になる所は見た。現実だと大体籾殻が全部じっくりと炭になるまで数時間。そこからさらに一日放置しておく必要があるんだが……恐らくワンモアならそこまでの時間は要求されないはずだ。

「お、アース。ツヴァイ達が来たぞ」

 と、ここでツヴァイ達がこの場にやってきた。場所の連絡をレイジがやってくれたんだろう。そのツヴァイの後ろにはいつものメンバーに加えて、初見の人達が十人ほどついて来ていた。おそらく彼や彼女達がブルーカラーの中で生産に特化したプレイヤーなのだろう。ちなみに男性二、女性八の割合だと言っておこう。

「アース、調子はどうだ……ってそんなに早くポンポン物が出来るわけないか。とりあえず、今日都合がついたギルドの中でも生産に長けているメンバーを連れてきた。方法を教えて貰えれば、十分な仕事が出来るはずだぜ」

 ここで職人さんが合流か、さて、どう説明した物か──

「アース、ちょっと来てくれ! これで良いのか!?」

 突然レイジが大声を上げたのでその場に急行。レイジの指さした先には、徐々に灰になって行く籾殻の山。やっぱりゲーム故に、リアルだと数時間かかる事がここまで短縮されてるな……そう言う設定になっていてくれて助かったが。さすがにリアル一昼夜はきつい。

「大丈夫、これで良いんだ。火が出ていたら不味いが、これは静かにゆっくりと籾殻が灰になって行っているから炭にしたい木はじっくりと蒸し焼き状態になっているはずだ。このまま様子を見よう。とりあえずこのまま籾殻の山が全部灰になって、冷めるまでは放置だな」

 この自分の言葉を聞いたレイジは「そうか、ならいいんだが」と、落ち着きを取り戻したようだ。さて、とりあえずうまい説明方法が分からないから、実際のやり方を見せた方が良いな。アイテムボックスの中に大量に買いこんできた籾殻と稲わらをとりあえずある程度出してしまうか。

「おいおい、あれなんだ?」「なんか、稲わら出してるけど……何に使うでしょ?」

 何て声も聞こえてくるが、まあしょうがない。知らなきゃ炭を作るために使うとは予想もできないもんな。そんな彼らの前で、レイジ達の前でやったのと同じ手順で木を中に仕込んだ籾殻の小山を作る。小山が出来上がり、後は火を中央から出ている籾殻に付けるだけという所まで見せる。

「と、こんな感じで籾殻の小山を作り、中央の稲わらに火をつけて中に配置した木の蒸し焼き状態を作ります。大事な事は火を出さずにゆっくりと籾殻を灰にしていく点でしょうか? 炎上してしまっては、中の木が炭になるだけで終わってしまいますので……で、先程あそこに灰になっている小山がありますが、あれは今ここで作った籾殻の小山と同じ方法で作り火を入れた物です。上手く行っていれば、中に仕込んだ木が炭になっているはずです」

 リアルとは必要となる時間とかが全く違うので、自信がある訳ではない。全部が成功とはいかなくても、せめて半分ぐらいは炭になっていてくれるとありがたいんだが……窪を使う方法は逆に知らないし、作り上げるだけの資材も無い。この方法が通じてくれることを祈るのみだ。
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作中にも書いてありますが、この方法だと籾殻が灰に
なるのに数時間、そこから一日置かなければいけません。
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