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炭を巡る情勢は慌ただしく

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 さて、籾殻が全部灰になり、多くの人が見守る中で、小山から完全に熱が引いた。これで多分終了していると思われる。恐る恐る籾殻の灰をかき分けて、中に配置した木を確認する。これで製作評価が低くても炭になっていてくれれば良いのだが……ゆっくりとかき分け、中にあった木材をつかみ取る。果たしてその結果は。


 炭

 製作評価3

 大きな炎を出さず、着火すれば魔力を用いずとも長く熱を発することから暖を取る為に魔王領では昔から使われてきた。これにとって代わる代替品は未だ見つからず、魔王領に住まう者にとっては炭を切らす事は死活問題となる為、需要は絶えず存在している。


 よし、成功した! 喜びよりも安堵の感情が自分を包む。作ろうと言い出して、失敗しましたでは格好があまりにもつかないもんな。次々と気を取り出してみるが、大半が製作評価三。たまに四が混ざる程度だが……全部の木が炭になっていたこと自体が大きい。とにかくこれで、この方法でも炭を作り上げる事が出来る。そして、魔王領の炭不足に歯止めをかける事が出来る可能性が生まれた。

「ど、どうだったんだ?」

 心配そうに問いかけてきたレイジに、炭となった木を一本投げて渡す。炭を受け取ったレイジも、無事に炭が出来上がった事を確認すると自分に向かって親指をグッと立ててきた。

「確認した、アースの方法で炭は作れる。最初から最後まで見ていた俺とコーンポタージュが保証する。職人チームは、早速アースから教わった方法で炭作りを始めてくれ。もしモンスターがやってきた場合は、俺達戦えるメンバーが全力で排除するから心配しなくていいぞ!」

 レイジに言葉にブルーカラーの職人さん達が一斉に頷き、次々と自分が用意しておいた木や籾殻を手にして小山を作り始める。手順は単純なので籾殻の小山が次々と作られ、中央の稲わらに火が灯される。このまま上手く行ってくれると思ったのだが……

「ひ、火が強くなりすぎて燃えちゃってる!!」「こっちも火が強くなりすぎた、全部普通に燃えてしまっている!」

 と、着火直後に静かに灰にならずに轟轟と火の手が上がってしまい、作った小山の全体から見て四割が消失。更に……

「これ、炭になってない……」「こっちもダメだ、ただのすすけた木材になっただけだ……ゴミになってしまったぞ」

 と、炭にならずに失敗してしまった小山が大半。結局自分が作った小山以外は全滅してしまった。自分が作った小山は無事に炭になったのだが……

「何故だ? アースさんの小山と、俺達が作った小山のどこが違う?」「同じように作ったはずなのに……なんで私達の方は全滅なの?」

 との疑問が上がってきた。だが、自分が見た限りブルーカラーの職人さん達の籾殻小山の作り方は間違ってはいない。火のつけ方だって自分と同じようにやっていた。なのになぜここまで差が出るんだろうか? 職人さん達の方が生産関連のスキルレベルが高いはずなので、自分が失敗して職人さん達が成功する、という事ならば納得がいくのだが……

「ちょっといいかな? アースさんの生産スキルって何があります? レベルとか細かい点は良いので、系統だけ教えてもらえませんか? 〈鍛冶〉とか〈料理〉とかの区分で」

 ──そうか、その可能性があったか。自分は持っているが職人さん達は持っていない物があって、その為に炭作りに失敗したのかも知れない。自分の持っている生産系統のスキルだが、〈木工〉〈鍛冶〉〈料理〉〈薬剤〉だな。そしてそのことを伝えると……

「私、〈料理〉が無い」「俺は〈木工〉や〈薬剤〉が無いな。もっぱら〈鍛冶〉担当だったし」「あたしは〈料理〉と〈鍛冶〉がないね」「〈料理〉以外持ってない……」「ギルドの職人同士で、生産に必要な加工材料のやり取りが出来たから、生産の種類を絞って集中する事には成功したけど……こんな所でその弊害が出ちゃったみたいね」

 あれま、まさかこの方法で炭を作ろうとすると広く浅くで良いから生産関連のスキルを複数修めていないといけないのか? 〈木工〉はまあわかる、木を使ってるからね。〈鍛冶〉もまあ、火を扱うって点で必要なのかもしれないな。こじつけに近いけど。〈料理〉は、木を蒸し焼きにするからか? 食べ物の製作じゃなくても引っかかる物があるのかも知れない。一番わからないのが〈薬剤〉だが……何らかの反応を起こすために必要なのかもしれない。

「つまり、自分が先ほど言った四種類の生産スキルを身につけていないと……この方法ではほかのスキルレベルが高くてもダメという可能性が?」

 自分の一言に、他の職人達が一斉に頷く。確かに同じようにやって、自分だけが成功して他の職人さんが全員失敗となればその線が一番有力なのかもしれない。そうするとどうするか……いや、待てよ? 今の時代に、一から十まで一人の人間が材料をそろえて加工して現物を作るなんてことをするか? 自分だって、弓を作る時の弦なんかは他の職人さんの作った材料を使用して完成させる。となると、今回の炭作りにもその方法が適用されるのではないだろうか?

「ちょっと聞いてほしい、今までの話で得た情報を元にしてやれそうな方法を思いついたんだけど、試してみないか?」

 つまりだ、職人さん達を役割分担させればいいんじゃないだろうか、という事だ。最初の籾殻の山を作るのは〈木工〉スキルを持った人が。火をつけるのは〈鍛冶〉。経過を見守るのは〈料理〉持ちが。終盤から最後に取り出すのを〈薬剤〉持ちがやってみればいいんじゃないだろうか? 〈薬剤〉の立ち位置が良く解らないが、最後の仕上げに何らかの要素が絡むのではないか? とあたりをつけたのでこの立ち位置にしてみた。ある程度のトライ&エラーになるだろうが、自分一人しかできないのでは生産性が悪すぎて話にならない。それでは魔王領の炭不足に対する応急処置すらできないだろう。

「──そうね、生産は色々挑戦して物を作り上げるんだものね。何回かやってみましょう」

 と、ブルーカラーの女性職人さんの一言で試してみる事が決定。その後も数回の失敗こそあったが──〈木工〉職人が組み立て、〈鍛冶〉職人が火をつけて籾殻が全て灰になるまで見守り、全て灰になったら〈料理〉と〈薬剤〉職人さんが待機すると言う形で炭作りに失敗が無くなった。スキルがどう関わっているのかはその工程から想像するしかないが、一番肝心事は、炭を失敗せずに多く作り出せるようになったと言う一点だけだ。

「できたぞ、評価五の炭だ!」「こっちも評価四だけど完成よ!」

 そんな声があちこちから上がる。作り方が安定すれば、自分よりもスキルレベルなどが高い職人さんのチームは、評価値がそこそこ高い炭をいくつも量産するようになった。木材が途中で足りなくなった時には何回か〈木工〉職人の人達に木材の切りだしに向かってもらった。もちろんツヴァイを始めとした護衛付きで、だ。更にツヴァイがブルーカラーのメンバーに指示を飛ばし、龍の国から籾殻と稲わらの追加注文をこなし始めた。買いに行った人がこの場所にやって来るのは明日になるが、今日の所は自分が用意しておいた分で何とか賄えるだろう。

「これだけ炭が出来れば、少しは今の状況を良くすることができるでしょうか」

 自分とブルーカラーの職人さん達が次々と作り上げて山になって行く炭を見つめて、カザミネがそう漏らしていた。

「そうだと良いんだが、状況はもっと悪くなってるようだ。アース、ちょっと手を止めてこれを見てくれ!」

 ツヴァイの言葉に、一旦炭作りを職人さん達に任せて傍による。何か問題があったのだろうか?

「ツヴァイ、どうした? 一応会話はある程度聞こえていたが……炭の問題で何か悪化したのか?」

 自分の言葉を聞いたツヴァイは、ある掲示板を自分にも見えるように表示する、そして……

「一部のギルドがやっていた連日の炭の買い占めの影響で、炭の販売がプレイヤー達限定で一時停止されたようだぞ……これは荒れそうだ」

 そんなツヴァイの言葉を確認すべく、掲示板の内容に目を走らせると……なるほど、例の炭を買い集めて無理やりダンジョン探索を行っていたいくつかのギルドによる炭の買い占めによって、街に住み魔族の皆さんの暖を取るのが難しくなった。そのため、全ての店でプレイヤーにだけ炭を売ることを一旦停止して、街に住む魔族の人達を最優先とする形に切り替えたのか。

 掲示板にはそう言った情報の他に、炭を買い占めていたギルドへの怒りの声や、それに反論する声。そもそもこんな状況を作る運営が悪い……などの声も上がっており、掲示板が進むごとに書き込まれる内容が荒々しい物になっていた。

「なるほどな、これは尚更この炭作りに力を入れなきゃ不味いな……プレイヤーは冒険できない程度の問題だからまだいいが、魔族の皆さんの中に炭がないために凍死する者が現れた何て事になったらプレイヤーと魔族の皆さんとの間に争いが起きかねない。そうなったら魔王領の冒険どころじゃないぞ……」

 どんなことでも、想像できることはワンモアの世界では十分に起こり得る可能性がある。今までは発生しなかったから、という理由で今後も発生しないと断言できるものは何一つないのだ。そしてなにより、ワンモアではプレイヤーがプレイヤーを無差別に襲う行為、いわゆるプレイヤーキラー行為は不可能である。しかし、プレイヤーがワンモア世界の住人を襲ったり、またその逆でワンモア世界の住人からプレイヤーが襲われると言った事は普通に起こっている。

 実際自分もワンモアの住人の一部を斬っているし、ツヴァイの様に魔剣を目的として襲われた事もあるからな。それがより大きくなり、一国の住人達全員&その国を支援するプレイヤーVSプレイヤーという構図の戦争も十分に起こりえる。

「ゲヘナクロスの時のような事態は御免だぜ……そのためにも、アースやうちの職人達には申し訳ないが頑張ってもらう事になるな……出来上がった炭は俺達が必ず魔王領に届けるからよ、頼むぜ」

 事態は予想より深刻化しているな……よし、ログアウトする前にアイツらの手も借りる事にしようか。
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昨日は祖母の七回忌に入っていたため更新できませんでした。
お詫びいたします。

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