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ぎりぎりの炭提供

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「よし、こんな所かな。作った炭の運搬は頼んだよ」

 それからログアウトする前まで、職人全員が協力して炭を量産。戦闘職はその職人さんをきっちり護衛という流れで動き、まとまった量が出来たので予定通りにツヴァイ達に運搬を任せる事にする。多数の煙が上がっているためなのか、ちょくちょくモンスターがやってきた。もっとも、ツヴァイを始めとしたブルーカラーの戦闘職メンバーの前にはなすすべも無く吹き飛ばされたのだが。

「おうよ、しっかり届けるから任せとけ。で、だ。もしこの炭を作った人物は誰だって魔族の人達から聞かれた場合は、アースの名前を出しても良いか?」

 ツヴァイの質問だが……うーん、どうしようか。今までけっこういろんな場所で動いてきたから、もう名前なんて知ってる人は知ってるだろうしな……良いか。

「聞かれたら、言っても良いよ。だけど、そっちのギルドメンバーの職人さん達の名前も言ってくれよ? これだけの量の炭を作るのは、自分一人じゃ絶対に無理だったんだからな」

 炭の品質はばらばらだが、今は質より量の方が大事だ。それに質は悪くても三だから、使い物にならないと言うことは無いので大きな問題にはならないだろう。

「それでもアースが音頭を取ってくれなきゃ、こうやって炭を作るなんて話にはならなかったんだ。だから聞かれたら答えておきたくてよ。言わずに行う善行も良いけど、ある程度は声に出すべき面もあると思うからな……安心しろ、あくまで魔族の皆さんの中でだけって話にしておくさ。最悪の展開を迎えて魔族の人達とプレイヤー同士が争う展開になっても、炭を提供するような手助けをする協力者には手を出さないだろうしな」

 ──そうか、そう言う面もあるのか。もちろん争うような展開を望んでいる訳ではないが、そう言った嫌な事が起こる可能性がある以上……それに対する対策といういい方になると腹黒い気もするが、争いの意思ではなく協力する意思があるという事を示しておくのは意味があるな。

「掲示板を見ても状況はあんまりよくないってのは嫌でも伝わるから、そう言った行動もやむを得ないか。その辺りはツヴァイの判断を尊重するよ。あと、いくらで売るかってのも任せるが、馬鹿みたいに釣り上げるような真似だけはやらないでくれよ」

 ツヴァイの考えも分かった事だし、ここはツヴァイの考えに乗っておこう。そして皆でフォルカウスの街に帰還する。自分はこの後、宿屋に入ってログアウトするだけだ。

「解ってるって、困ってる連中の弱みに付け込む様な真似は言われなくたって絶対やらないぜ。んじゃ俺達は魔王領に行ってくるから、運搬するメンバー以外はここで解散、明日余裕があるならまた集まってくれ!」

 そう言い残して、ツヴァイを始めとした炭の運搬メンバーは北に消えた。見送りを済ませた後に、現地で解散して宿屋に向かう。久々に大量の生産活動を行ったので、ちょっと疲れた気もするが……ログアウト前にやっておくべきことがある。宿屋を見つけて個室を確保し、中に入ってから自分は手を二回ポンポンと叩く。すると、待ってましたとばかりに義賊リーダーが下りてきた。今回は彼らにも協力を頼む事にする。

「親分、お呼びで」

 義賊リーダーの言葉にゆっくりと頷いてから、自分は今回の仕事内容を告げる。

「お前達ももしかしたらすでに情報を仕入れているかもしれんが、今魔王領では炭不足が問題となっている。その原因は、一部の阿呆が炭を買い占めたせいなんだがな……が、これを黙って見過ごしては義を掲げる我らの名に傷がつく。解るな?」

 この自分の言葉に、頷く義賊リーダー。

「へい、あっしらの普段の仕事とは異なるとはいえ、ここで救いの手を全く差し伸べぬのは義に背く行為であるとあっしも思いやす。むろん与え過ぎては怠惰を招いてしまいやすが、かといってかの地に住まう者達を凍死させるようなことになれば取り返しがつきやせん。実は親分、あっしらも今の魔王領の情報を集めた結果、配下の二人の表の稼業の一つでもある炭焼きを他の配下達に支援させておりやす。あと一日貰えれば、炭を提供できやす」

 なるほど、こっちはこっちですでに動いていたって訳か。相変わらず有能だな、ありがたい。

「よし、ならばその炭をある程度安値で魔王領の方に流してやれ。ただし、売るのは魔族の人達限定と但し書きを取れ。炭が入ってきてある程度安定したからという理由で、また買い占めを始めるような他種族の阿保が行動を開始したら目も当てられん。ひとまず今はあちこちから炭を魔王領に流し、魔王領に住まう魔族の者達が凍死すると言った最悪の結末を迎えないようにすることが最優先だ。冒険をしたい者達への炭の供給はずっと後で良いからな」

 義賊リーダーは黙ってうなずく。声に出さなくても分かる、その辺は心得ているって事だろう。

「そこから炭の供給量の塩梅あんばいはお前達に一任する。一々指示を飛ばさずともやれるだけの能力をお前たちは持っていると理解している。だがこの炭の一件、しくじれば罪なき民の血が大量に流れる事態に発展しかねん。直接斬り合うような仕事ではないが、腑抜けた行動だけはするな。良いな?」

 義賊リーダーは「へい、親分の顔に泥を塗る様な腑抜けた結果を招く事だけは致しやせん」と言い残して姿を消す。これの炭の供給量はもう少し上がってくれるだろう。後はひたすら自分がブルーカラーのメンバーと協力して炭を作り続けるだけだ。吹雪ももう少しで去る可能性があると言う情報もある、ここが踏ん張りどころだろう。とりあえず、今日はログアウトだな。


 ──そして、炭を運搬して売りに言ったツヴァイ達は……

「ああ、いらっしゃい。何が入用だい? あと悪いが炭は品切れだよ」

 魔王領の街にある道具屋に入ったツヴァイを見ると、道具屋の主人はそう声をかけてきた。そこでツヴァイは出来るだけ穏やかな表情を心がけつつ、道具屋の主人に近寄って小声で話しかけた。

(いや、俺達は逆なんだ……炭を売りに来た。だけど、今の状況だと大きな声を出してやり取りする訳には行かない。どこで炭を買い占めたい奴がうろついているか分からないからな……)

 このツヴァイの小声の内容に、道具屋の主人も顔色を大きく変える。

「ああ、その商品でしたらこちらにある別室にあります。お手数ではありますがついて来ていただけますか? (本当ですか!? と、とにかくこちらへ) おい、ちょっと俺はお客様を案内するから店番頼むぞ」「へーい」

 宿屋の主人は他の店員に店番を任せ、ツヴァイ達を店の奥に案内する。そしてある部屋に案内し、ツヴァイ達を座らせた。

「単刀直入にお聞きします、本当に炭を売ってくださるのですか?」

 道具屋の店主の表情は真剣そのもの。この時点で炭の在庫はほんのわずかになっており、売るどころか自分達で使う分すら危うくなってきていた。炭は仕入れを待っている状況であったが、今の炭不足の環境下ではいつになるか分からないと言うかなり切羽詰まった状況下に置かれていたのである。

「百聞は一見に如かずと言うからね、まずはこれを見てよ」

 ロナがそう言いながら、持ってきた炭の一部をアイテムボックスから取り出して店主の前に提示する。ロナの出した炭を手に取り、確認する店主。念入りに見て居た様子であったが、やがて「確かにこれは炭ですな。かなり品質にばらつきこそありますが、使う分にはすべて問題のないレベルでしょう」と認める。

「今回、一部の連中が行った炭の買い占めによって魔族の皆さんが寒さに怯える日々を送っている事を知った俺達は、詫びという訳じゃないがこうして炭を何とか用意し魔族の皆さんに安値で提供することにした。そして肝心の買取値段だが、炭の買い占めが行われていなかった時の金額位で良い。多少は貰わないと、次の炭を作れないんでな」

 ツヴァイの言葉に考え込む道具屋店主。が、長考した後に口を開く。

「こちらとしてはどんな条件を言われても、炭が手に入るのであれば飲むしかないのですが……なぜその炭を高く買う奴らに売らないので? 炭を買い占めた人達は、各地のダンジョンで金になる物を得るために行動を起こしていると聞いています。今回の行動によって、皆様が受ける恩恵が見えないのですが」

 この質問に答えたのはレイジである。

「恩恵という訳ではないが、俺達は魔族の人たちと仲良くやっていきたいだけだ。炭を作った奴も同じ考えでな、今回の急場を凌ぐために炭を作ることを提案したんだ。皆が皆、我欲を満たす為だけに行動しているって訳じゃねえんだ。そこだけは分かって欲しい」

 この言葉に再び長考する道具屋の店主だが、やがて「そうですか、分かりました。その考えに感謝します」と口にした後に頭を下げた。

「それともう一つ、これはこっちの勝手な我儘だから聞いてくれなくても良いんだが……これから俺達が売る炭は、あくまで魔族の皆さんだけに売ってくれないか? 炭が入荷してからってまた買い占めでもされたら意味がない。俺達は魔族の皆さんのために炭を作ってきた訳であって、買い占められるために作った訳じゃないからな」

 ツヴァイの言葉に、了解しましたと頷く店主。そして──

「この炭を用意してくださった方は何方なのですか? 最低限の金銭しか要求せず、炭を提供してくださると言う。商売人としては失格かも知れませんが、情に厚い方であると感じます。是非、お名前だけでも伺いたい──」

 そしてツヴァイは、アースの音頭で始まって自分達のギルドが協力する形で今回の行動が行われている事を告げる。この後ツヴァイ達は魔王領にあるいくつかの道具屋を回って、炭を安値で売っていく。この行動によって、アースとブルーカラーの名声は、大半のプレイヤーの目に見えない場所で上がっていくことになった。
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