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続・魔王城の訓練場

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「では、何か今回の訓練を行うにあたって何かしらの制限をつけると言った要望はありますかな?」

 と言ってきた魔族の男性に対して行った要望は──一つ目、お互いアーツや魔法は禁止。純粋な技量での勝負とする。数回戦った後にアーツや魔法を開放して戦ってみるのも良いが。二つ目、お互い使う戦闘スタイルの開示。自分は両手に装備している小盾を防御に用いて、蹴り技で戦うと宣言。つまり、盾に仕込んでいる隠しスネークソードは用いない。魔剣である円花も禁止。あくまで蹴りの訓練なんだから使っちゃ駄目だろう。魔族の男性は、剣と盾を用いるオーソドックスなスタイルを取るようだ。

「では次に、戦いの舞台となる場所の希望はありますかな?」

 これはオーソドックスな雪原地域とさせてもらった。これと言った障害物の配置も無い。そう言ったオブジェクトを利用した戦いもとりあえずは後回しだ。

「──これで設定は完了ですな。バリアの強さは一般的な魔族兵士が戦闘不能になる体力消耗レベルに設定しております。このバリアが破られて追放されれば負けとなります」

 まあ勝ち負けはどうでもいい。あくまでなまった蹴りのカンを取り戻すことが最重要なのだから。でも恐らく何度も戦っているうちに闘志が燃えがって来て、悔しい、もう一回! になりそうな自分が言るんだよな。ま、そうなったらそうなったでいいや。声をかけてきたんだからある程度は付き合ってもらいましょうか。この施設の特性上、スタミナとかは減るけど大怪我による事故はまずあり得ないはずだから、ちょくちょく休息を挟めば何回でも戦えるかな。

「了解しました。とりあえず二、三回ほど戦ってみればその辺りの感じも掴めると思いますので、よろしくお願いします」

 舞台に立ち、まずは一礼。その後は両者ともに構えを取って様子を見合う形になる。パッと見ではあるが、目の前に立つ魔族の男性はしっかりと中型盾の後ろに身を隠して、剣もこちらからは見えない位置に隠したようだ。剣先が見えないと言うのはかなりやりずらい話だが……とりあえず一当て行ってみるか。一歩一歩ゆっくりと近寄って距離を詰め、相手の剣が届く間合いの少し手前まで近寄る。向こうは完全に初手をけんに徹する様で動かずに、こちらの動きだけをしっかりと見ている。

(アーツや魔法は禁止されている以上、極端に変な動きと言う物は無いだろう。そうなると、一気に距離を詰めるか、それともあえて一回相手に剣を振らせた所を盾で受け流すなどで動きを制限してからにするか、フェイントで踏み込むと見せかけて前にでないという方法で揺さぶるかだが……よし、今回はフェイント無しで一気に近寄るか。それで相手の技量もおおざっぱに分かるだろう)

 考えを纏め、雪を蹴って距離を一気に詰める。向こうはまだ剣を振ってこない。まだ振ってこない。もう間合いに入っているのに──ならば、初手を遠慮なく頂くまで。盾をやや前に突き出しているので、ミドルキックやハイキックでは相手の盾に引っかかる。足元を狙った右足のローキックを繰り出して様子を見る事にした。だがこのローキック、向こうの予想範囲内だったようで、一歩後ろに引枯れる事であっさりと避けられてしまった。そして、その間合いは剣の間合い。なるほど、それが狙いだったか。右腕が振るわれ、片手剣の刀身がその姿を現す。

(が、ちょっと遅いかな)

 自分から見て左上から右下へと袈裟懸けに振られる予定だったはずの相手の剣は、自分を捕えることは無かった。相手が様子見ならこちらも様子見、右足で繰り出した先程のローキックは回避されたとはいえ、こちらの体勢を大きく崩すような物ではない。だから、相手の反撃に対してさらに反撃を加える事に成功したのだ。自分が蹴ったのは剣を持っている相手の手。一歩踏み込んでからの左足で回し蹴りのような軌跡で遠慮なく叩き込んだのだ。あくまで鈍ったのは蹴りの感覚だけ。そしてダミー人形を蹴ることでその感覚はある程度戻っていた。それに加えて、魔王様と共に戦ったあの魔力の暴走体? で得た経験はきちんと体の中に残っている。その経験から、これぐらいのスピードに対処して後の先もどきを繰り出すことは、今の自分になら決して不可能ではない。

「な、なんと!?」

 その一方で、相手となっている魔族の男性は驚いたようだ。数歩後ずさって、お互いの間合いから外れていく。もちろん、ここで追撃を行わない理由は一切ない。再び距離を詰め、今度は水面蹴りのような形で再び足元を狙う。この水面蹴りは命中こそしたが、相手を転倒させるまでには至らず。が、蹴ったのが軸足だったのか動きが止まった。ここで盾に仕込んでいるスネークソードが使えれば追撃を続けるのだが……盾が邪魔で、蹴りの通りそうな道がない。仕方なくここは後ろに下がって間合いを取ることにした。アーツ禁止の縛りは、こうやって戦うと存外に厳しいな。《大跳躍》も《フライ》も使えないのでこうやって盾を持って戦う人を相手にすると攻撃に幅が狭まってしまう。投げ技持ちなら無理やり掴んで投げてしまえるのだが。

 そしてしばしのにらみ合い。向こうがどう思っているのかは分からないが、こちらからするとただひたすらに盾が邪魔だ。弾き飛ばすか、一時的に使えなく出来れば良いのだが、その手段が思いつかない。強化オイルをぶん投げると言う手段も取れないし、こちらから崩すのは難しすぎるか。相手の攻撃を誘ってカウンターを狙うか。攻撃によって生まれる隙間にこちらの攻撃を差し込むしか手段が思いつかない。その為には、再び相手の間合いに入るしかない。この時になって、障害物があればまた違った方法があったんだろうな、なんてことを思う。

 お互いに無言で距離をじりじりと詰めていく。こちらが剣の間合いに入ると、再び剣が自分目がけて振り下ろされた。しかし、その速度は先程と比べると段違いに早い。無理をせずバックステップを行って回避する。なるほど、なるほど。向こうもどうやらそれなりに本気になったらしい。こうなると、さっきやったような後の先モドキは無理だな。盾を使って受け流していかないと不味い。自分の使っている盾は小盾だから、アーツが使えないとなるとまともに受け止めるのには向いてない。

 息を整えてからもう一度、今度は先程よりも早く前に出る。三度剣が振られるが、今度は横薙ぎのような形で襲い掛かってきた。なので、こちらは体勢を低くしながら左手につけている毒蛇の盾で受け流す事で、剣の軌道の下に潜り込む形を取る。ジャリィンと金属のこすれ合う音が頭上から聞こえ、剣が横薙ぎされたことによって起きる風を感じる。受け流しは成功した、という事は当然正面に魔族男性の防御に穴が開いている。逃さない。

「セイッ!」

 声を発しながら、立ち上がりつつ右の膝を魔族男性の腹部あたりに叩き付ける。うっ、といううめき声が上がったのを確認してから遠心力を乗せた右の回し蹴りを魔族男性の顔面に叩き込む。これは結構なダメージになったようで、魔族男性が大きくよろけた。なので遠慮せずに回し蹴りを二回、三回と連続で側頭部にぶち込む。三回目の回し蹴りで軽く吹き飛んだので、倒れた所に追い打ちのニードロップを叩き込んだ。このニードロップが決め手になったようで、対戦相手の魔族男性はフィールドから追放された。なるほど、魔力のバックアップがなければ一般兵士はこんな感じなのか。だが、実戦ではここに魔族の特徴でもある魔力による大幅な強化が入る。今回の結果はあてにできないだろう。

「いやはや、やられました。まさかあそこまで見事に受け流されては言い訳の使用がありませんな」

 システムが停止したようで、足元が雪原から最初の状態に戻る。そして魔族男性が近寄って来て、そう褒めてくれた。しかし、こちらにも余裕があった訳ではない。

「いえいえ、こちらもあの受け流しを失敗すれば頭を叩ききられていた訳ですから……そうなった場合は、こちらが一発で戦闘不能になっていました」

 あの受け流しの成否が全てを分けたと言って良い。正直に言えば、今更ながら心臓がバクバクと早く動いているような気がしてしょうがない。アーツ無しでの盾を使った受け流しがこんなに恐ろしいとは……久しく忘れていた事だった。最近はブルーカラーのメンバーの協力もあって、ソロの時間が少なかったから、なおさらそう感じるのだろうか。

「いえいえ、それでもそれをやろうと一瞬で決断する事が出来る度胸は素晴らしいものです。さて、一休みした後にもう一戦と参りませんか? もちろん、次はアーツや魔法も解禁しての戦いを行いたいと考えておりますが、如何でしょうか」

 ──そう言いつつ、表情が『逃がしませんぞ』と言ってるんですけどねえ? まあいいか、痛風の洞窟にあった闘技場よりも気楽にやれる条件が整っているし、もう少し体を動かしていこうか。
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最近GODHANDに出て来るアゼルというキャラの
「ウワァーウワァーウワァー」という声が耳から離れない。
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