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魔王城滞在中

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 それから二日、ツヴァイ達は魔王城観光ツアーを続け、自分は蹴りのトレーニングに没頭した。蹴りのトレーニング中はルエットにいくつかアドバイスを貰いながら行った。ルエットはある程度自分を少し遠くから見る事も出来る様子だったので、ここがダメとかバランスの悪い所などを指摘してもらった。そのお蔭か、二日目の最後の方はかなり蹴った時の感覚がしっくりくるようになった。

 さらに、何人かの魔族の兵士の皆さんと手合わせも例の場所を用いて行った。アーツや魔法が禁止状態であればそれなりのいい勝負が出来るのだが、魔法を使えるようになると魔族の皆さんには手も足も出なくなる事の方が多かった。自分は一点特化したプレイヤーではないので、弓やスネークソードなどが使えないとかなり厳しい。厳しい分、訓練という意味では非常に実のある時間が送れているのも事実なのだが。

 もちろん魔族の兵士の皆さんの中には、自分の事を知っている人も居た。だがそういった方々には「ご内密にお願いします」とお願いしておいた。訓練中に特別扱いされても何のプラスにもならない。魔王様の作った訓練施設なら大けがを負う心配はない以上、手加減の必要はない。だから目一杯やってもらった方がこちらとしてもありがたいからね。。負けが多い事は悔しいけれど、それもまた大事な事だ。ただ、何故かスキルレベルは何一つ上がらなかった。今までは訓練でも真剣に行えば一ぐらいは上がったもんなのだが……理由は不明。

 そんな魔王城内での生活? だったが、本日でツヴァイ達の魔王城観光ツアーは最終日になるんだそうだ。リビングメイドさん曰く、後はもう案内することは出来ないエリアばっかりになるんだとか。おそらく宝物庫とか魔王様の政務室とかのトップシークレットに当たる部分なんだろうな。そしてツヴァイ達は愚か者じゃない以上、そんな場所に無理やり行きたいなどとごねる事も無いだろう。そして自分はというと、そのトップシークレットに当たるであろう魔王様の政務室に招かれていた。

「今回の炭の一件、本当にありがとうございました」

 対峙している魔王様は、鎧姿ではなくドレス姿だ。四天王の皆さんはメイド長のリビングアーマーさんだけしかおらず、護衛も数人しかいない。この護衛の少なさは、こちらを信用してくれているからなのか、もしくは裏の魔王的存在に対する敬意か……まあどちらにしろ警戒されていない事は確かであり、それだけわかれば十分だ。

「まさか、裏からも手を回してくださっているとは思いませんでした。お蔭で貧しいがゆえに炭の値上がりについて行けず、そのままでは凍えて消えてゆく定めにあったいくつもの命がアース様達の義心によって消えずに救われました。今後は私の目を担う者達にも、短期間で炭を作る能力を持たせる事に致します」

 そして、自分の裏の顔である〈義賊頭〉の能力を生かした支援行動も知られていた。魔王様も独自の隠密部隊と呼べる存在を持っているようで、密かに見張らせつつ情報を仕入れていたらしい。もちろんこの情報もトップシークレット。下手な人が知った場合は、首と胴体が生き別れになる。が、自分は問題ない。何せ魔族の皆さんにとって本当のトップシークレットである魔王とは何か? という事を知ってしまっている例外的存在だし。そして裏の顔を知られてしまった以上、こちらも変にとぼけるのは止めておくか。

「使える手段を使っただけですので……金はまた稼げばいいですが、命は消えたらそれまでです。今回は勝手に多くの民家に不法侵入を繰り返した我々の行為に対し、不問に伏して頂ければそれで十分です。裏の私と彼奴らは表の人々では手が回らなかったり、助けられぬ人を助けるために必要な事を成す為だけに行動します。また、我々は表だって祭り上げられる事は絶対に望みません。できる事なら、私のもう一つの顔と彼らの存在は出来る限り忘れて頂くようお願いいたします」

 要は変に言いふらさずに黙っててね、って事である。まあ魔王様も黙っているつもりだろうけどね。さすがにべらべらとそう言った裏の事を喋るような方ではないだろう。

「ええ、それは当然の事。今回お呼びしたのは、その仕事に対しての褒賞をお支払いしたかったためです。どうかお受け取り下さい。そして、また何からの窮地に陥った時に、お力を拝借して頂ければ幸いでございます」

 ──ここはお金を受け取っておくか。変に固辞すると報奨を用意した魔王様の面子を潰すことになる可能性がある。貰ったお金は全額義賊リーダーを介して、今回炭の一件で動いてもらった連中に配ればいい。表の仕事で金を稼いでいるとはいえ、ある程度のお金はあった方が良い。あまりに多すぎるお金は人の心を腐らせるなどという人も居るが、彼奴らには義によって行動すると言う信念が通っている。それを信じよう。それにお金がもし余ったなら、獣人連合の方に出張している連中に渡して、適切な訓練機材の購入や製作資金に充てて貰っても良いし。

「確かに頂きました。そして部下にも魔王様から直々にお褒めの言葉を頂いたと伝えておきましょう」

 色々と手を出し過ぎてるなーとは思う。思うのだが、どれもこれも切れないと言うのもまた事実。それに義賊コミュミティは、忍者と怪盗との繋がりもできているから重要だ。忍者も怪盗も、敵だと怖いが味方だと頼もしい。極端にやり取りは無いが、以前の魔剣の時とかで協力を出す事が出来るってのは大きい。普通のプレイヤーでは、そもそも忍者や怪盗に対して協力を要請する事すらできないのだから。むろん、他のプレイヤーだって他のコミュニティを築いている可能性は十分あるから、別の形で協力し合っている可能性もあるけど。

「これからもアース様とは良い関係で居たい物です。欲を言えば魔王の跡を継いでほしい所なのですが──無理強いもできませんし。ああ、アース様が魔族であれば何が何でも即座に結婚して魔王の座に着いて貰う所なのですが」

 勘弁してください。王なんてやりたくないです。立身出世? 面倒なだけです。フェアリークィーンの時にも言ったが、王なんてのは国に一番奉仕しなければならない国一番の奴隷という一面がある。リアルでも社長は椅子に座ってふんぞり返っている──なんてのはマンガやアニメの世界だけだ。

 うちの工場の社長だって毎日忙しそうにあれこれ仕事をしているようで、たまにすれ違って挨拶をした時に疲れた表情を見せる事が結構ある。歳がそれなりに行っているんだから無理をしないで、とは言えない立場なんだよねえ。そう言うのを見てるから、なおさらやりたくない。正直、現場の主任すら務められそうな気がしないよ。

「お言葉だけ頂いておきます。種族の違いばかりは産まれを選べないのが定めですのでどうしようもございませんが。それにもし私が魔族としての生を受けていたとしても──魔王様にはもっと立派なお方がお似合いですととしか言えなかったと思います」

 怖いぐらいの美人だからね、魔王様。美人は三日で飽きるなんてことは言わないけれど、精神的な面で気が休まらない状態に陥った自分がありありと目に浮かぶようだ。うん、やっぱりお断りしただろうな。もちろん、魔族として生を受けていた場合は魔王様を支えるという事自体は受け入れただろうけどな。

「なかなか現実とはままならぬものですね。愚痴になりますが、今だ次の魔王候補が育たぬ現状を見てしまうと、いっそもうアース様と結婚して子を成した方が早いのではと思う時もありますので」

 前言撤回。魔族に生まれてきていたとしても全力で逃げました。目の前にいる魔王様がライオンか大虎に見えてきましたよ……なんか体がぶるっと震えたような気もする。不味い、捕食されそうな気がします。

「あ、あははは……とはいえ早々人とは育たない物です。十を教えて二か三ほど伝われば上々であると今は亡き我が祖母が申しておりました。焦れるお気持ちは察しますが、根気よく育てられた方がよろしいかと」

 祖母の言葉を引っ張り出して矛先をずらす。ちなみに天才は十を教えたら十二、十三を理解してしまう人の事を言うらしい。なんで十なのに十二、十三になるの? と祖母に聞いたら、教わった事からさらに先にあり得るもの、予想できるものまで一気に理解してしまうからなんだそうだ。たまーにいる、ちょっと話をしただけでその先を理解してしまう人がその天才の芽を持つ人物なんだろう。自分? 無理に決まってます。

「そうですね、焦っても仕方がありませんね。見るべき所はあるのですから、あの子達はゆっくりと鍛えましょう。アース様の時のようなぶっつけ本番などという酷い形にならぬ様に、極端にゆっくりという訳にも参りませんけれど」

 矛先がそれた事に内心でホッとする。先程感じたライオンや大虎もかくやというオーラも消失してくれた。とはいえ長々とここに居てもこちらがぼろを出すかもしれないし……そろそろ失礼するか。ログアウトには早いが、まあいいか。

「それでは、そろそろ失礼いたします。本日は──」

 失礼いたします、と続けることは出来なかった。部屋の中に次々と料理が運び込まれてきたからである。もう少し早く退出するんだった!

「そう焦らずともよろしいではないですか。部下曰く、アース様は訓練場で体を動かし、部屋にお戻りになると言うサイクルを送っていらっしゃったとの事。そしてそのサイクルから、まだ部屋にお戻りになる時間には達しておりません。是非、わが城が誇る料理人の作ったこれらの料理を堪能していってください。これも、今回の一件に対する報奨の一つなのですから。もちろん、魔王城を観光なさっているアース様のお知り合いである他の皆様にも今頃召し上がっていただいていると思います」

 うわあ、そんなところまで調べなくてもいいじゃないですか。これじゃ逃げ道がない。しかたない、ここは大人しく目の前の料理を頂くことにしよう。

「分かりました、ありがたく頂く事に致します。ですがあまりテーブルマナーに詳しくない一面がございますので、その点だけはご了承ください」

 別にクチャラーという訳ではないが、細かいテーブルマナーは知らない。なので先に無礼を詫びておいた方が良いだろうと考えた。さすがに音を出来るだけ出さないように食するべき、ぐらいは基本で抑えているけど。こうして食事が始まった……結論から言うが、さすかは魔王様が誇る料理人、自分の腕何て比べ物にならないレベルで美味しかった。魔王様との会話も先程とは違って、ドキリとさせられるような質問やひっかける内容も無かったので助かった。もしそんな話を振られていたら、せっかくの料理の味がほとんどわからない状態になっていたかもしれない。

 とにかく、これで魔王城に滞在する理由は無くなったかな。後は魔王城から魔王領の街に帰って、冒険の再開を始めるだけだ。炭の一件がなければ、もうとっくにダンジョンの中に入れていたんだけどなぁ。
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政治関連は肉食系魔王様。木工作業中はのんびり魔王様。
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