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連載

ダンジョン内にて

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「で、これだけ戦ってるってのに見てるだけの状態を貫いたあっちの人型ゴーレム達はどうすればいいんだ?」

 ウルフ型ゴーレムがこれだけ殴られているにもかかわらず何にもしてこなかった人型ゴーレム。だがその大き目な体は維持されており、威圧感も感じるのでツヴァイに確認を取る。

「あー、ほっとけばいい。ノーラも言ってた通り、このゼロ階層ならこっちが攻撃を当てない限り襲ってこないし、珍しい素材も持っていないからな。一応言っておくと、このゼロ階層だと落ちる素材は鉄とか銅とかばっかりだ。うちのギルドの鍛冶屋プレイヤーがあったら嬉しいって言うグリンド鉱石やカッティン鉱石とかの使い道が多い鉱石は、マイナス二階層辺りまで下りないとまずでないぜ。だから、武器の耐久力を保つ意味でも、時間の節約をするためにも、ゼロ階層やマイナス一階層に出てくる人型ゴーレムは全部無視するのが基本だな。ほれ、さっきのウルフが落としたドロップ品だ」

 ツヴァイが投げてきた岩を軽く鑑定すると、これは鉄鉱石の様である。ゴーレムの核のような興味を惹かれる素材は無く、この鉄鉱石自体も品質はかなり悪い。こんな鉄鉱石を求めてダンジョンに入る位なら、ファストとかにある坑道に行って鉱石を掘り出した方がずっといい。

「アースも生産能力持ちだからそいつの品質は分かるだろ? この階層で出たドロップ品は基本的に捨てる。アイテムボックスに入れる価値なんて全然ないからな。持ち帰るのはマイナス二階層以降のドロップだな。今ギルドで集めてる鉱石はジグナル鉱石、マガーナ鉱石、アマテライタ鉱石って言う奴で、出て来るのは大体マイナス三階層あたりからで、運が良ければ二階層でたまにぽろっと出る感じってとこだ」

 ジグナル、マガーナ、アマテライタ鉱石ねえ? どれも初めて聞く名前の鉱石だな。以前のワームの一件で縁を結んだダークエルフの鍛冶屋さんにお願いされたのか、はたまたギルドメンバーの鍛冶屋さんが必要としてるのか。一つだけわかることは、自分の鍛冶技術じゃインゴット化する事すらまずできないレベルという事だろう。このダンジョンである程度活動したら、久々にスミスハンマーを握ろうかな? 冒険ばっかりで生産の方が明らかに疎かになっているし。

「とにかく鑑定できない鉱石が出てくるあたりまで下りなきゃ始まらないってのが分かったよ。確かにこのレベルの鉄鉱石は持ち歩く価値はないなぁ」

 ぽいっと部屋の端に鉄鉱石を投げ捨てる。もちろんゴーレムの居ない方向にだ。手元が狂って当たってしまいましたとかの迷惑行為をする訳にはいかない。カツンと音を立てて鉄鉱石が転がるが、視線を向ける人は誰も居ない。ゴーレムも自分達とは全く別の方向に投げられたと言う事で無反応のままだ。そのままゴーレムを無視して部屋を出ていくと、後ろでガラガラと何かが崩れる音がした。気になって振り返ると、先程まで立っていたゴーレムが地面に転がっている。なるほど、用事が終わればまたあんな風にバラバラになって地面に転がるのか。

「今回は外れかも知れませんね。下の階層に降りる緩やかな坂道がまだ見つからないと言うのは遅い方です」

 カナさんの言葉に、ブルーカラーのメンバーたちは頷く。ふむ、普段はもっと早く見つかる物なのか。

「仕方がありません、魔王領のダンジョンは完全ランダムですからそう言う事もそれなりにある物ですよ」

 と、こちらはカザミネ。まあそれはそうか。カザミネ達に付き合ってもらった草のダンジョンではいきなり大外れを引いちゃったし。ランダム要素ってのは飽きにくい代わりに、酷い時は容赦ない鬼畜難易度を叩き出してくる事もある。この辺は、ローグライクゲーム経験者だとよく解るかもしれない。こん棒だけでテーブル○○○テンまで行く羽目になったとかね。

「最悪見つかるまでに三十分以上掛かった事も何回かある。まだ嘆くような時間じゃないだろ。むしろ今回は初めて潜っているアースが居るのだから、馴らしのを兼ねる為にも時間はある程度かかった方がいいだろう」

 このレイジの発言に同意する声がいくつか上がる、まあ確かに、ある程度こうやって歩く事で雰囲気はつかめてきている。さっきの戦いでどういった存在が相手となるのかもわかった。そう言った面でも、ちょっと時間がかかっているのは自分的にありがたいという部分が大いにある。

「まあそれなりに時間もかかってるし、降りる坂道が見つかっても溶岩が噴き出す事を知らせる地震をやり過ごしてから降りるべきね──って、言ってる傍から」

 ノーラの会話の途中で、震度二ぐらいだろうか? ダンジョン内で地震が起こった。揺れていた時間は十秒も無かったが、地震があった事ははっきりと体感できるレベルの揺れだった。これが溶岩が噴き出す予兆の地震って事か。

「この地震には慣れませんわ……」

 と、か細い声がした方向に目を向ければ、エリザが小刻みに震えていた。ふむ、エリザって日本人じゃないのかな。キャラクタークリエイトで北欧方面の人っぽくしてると思っていたんだけど、地震に不慣れとなると海外の人の可能性がある。震度二なんて、日本人だと「あ、ちょっと揺れた?」程度のものでしかない。少なくとも恐怖を感じる事はまずないだろう。何かしらのトラウマがあるとかなら別だけど。

「と、収まったみたいだね。アース君、ノーラの説明を繰り返す事になるけど、この地震が有ったらとにかく高い場所を目指す事が最優先になるからね。戦闘中でも、あと少しで倒せると言う状況でも全力で逃げだして高い場所に向かわないと駄目。ボク達も以前もうちょっと大丈夫だろうって甘く見た結果、PT全員が溶岩のプールで泳いで焼死したことがあるから念押しさせてもらうよ」

 嫌な事を思い出すかのような目でロナからの注意が入る。まあ念を資するのも無理はないか、溶岩の中でどんぶらこっこと焼かれて死ぬなんてのは自分も御免だ。一定の痛みは再現されているワンモアだから、そんな状況を味わいたいなんて考えは一切湧かない。味わってみたいと言う人が万が一いた場合は……うん、別の世界に生きている人なんだなーと思う事にしよう。

「そ、それはきつかっただろうに……分かった、とにかくさっきのような地震が起きた場合は逃げを最優先にするよ」

 ちょっと震え声になってしまったが、そうロナに言葉を返す。その自分の言葉を聞いたロナも「そうして。ボクももう一回あれを味わいたいとは思わないし。熱いし痛いし、碌な物じゃなかったよ」との実体験を教えてくれた。さすがに溶岩相手じゃ、このインチキマントでも防ぎきれないだろう。防ぎきったらそれはもう頭がおかしいと言うレベルである。流石に防げない……よね?

「ま、ここはゼロ階層だから溶岩の心配はまずないわ。よっぽど運が悪いとたまに来るけど……今までの部屋に溶岩が噴き出すための穴は無かったし」

 ノーラの言う事も最もだ。ここまで来るのに戦闘は一回だけ。通過して来た部屋に落とし穴や溶岩が噴き出してきそうな穴は一つも無かったから、それらの心配はないだろう。

「おっ、前をみてくれ。ようやく降りる為の坂道があったぞ!」

 とと、ツヴァイの声に従って前を見ると、十字路の先が下り坂になっている事が確認できた。一応左右の道も確認したが、その先にはゴーレムが数体いる部屋があるだけの様子だった。ドロップ品もおいしくないし、装備品の消耗を抑える為にも喧嘩を売る必要性は全くないな。でも、さっき地震があったのだから降りるのは少し待つべきなのか?

「じゃ、ちょっと見て来るわね。不運な組み合わせがあると、マイナス一階層でも溶岩が容赦なく襲ってくる事があるから軽く下見してくる。アース君はPT周囲の警戒をお願いね」

 と、ノーラがそんな事を言い残してさっさっと降りてしまった。ここは経験者の指示に従うか。そうしてノーラが戻って来るまでの間、雑談を交えつつ周囲の様子を探るがこれと言った問題は発生せず。部屋の外に出て来るゴーレムの反応もないし、隠されていた罠があって発動してしまったなんて事も無かった。数分後にノーラが戻って来て、今回のマイナス一階層に溶岩がやって来る可能性はないとの情報を提供してくれた。完全に言い切った所から、そう言った部分を見極められる方法があるのだろう。

「よし、じゃあ前進だ。戦闘は最小限、人型ゴーレムは完全にスルーするからなー」

 ツヴァイの言葉に頷き、皆と一緒に坂道を降りる。さてと、この先には何があるのやら。
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