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ダンジョン探索続行中

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 と意気込んで降りたと言うのに、マイナス一層はなーんにも無かった。何せあっさり下への坂道は見つかるし、道中モンスターにも会わないしで特筆すべきことは一切なし。

 もちろんもっと歩き回ればモンスターもこの階層内に相応の数が居るんだろうけど、戦う理由も無いのにわざわざ喧嘩を売りに行くのは無駄以外の何物でもない。ましてや三十分ごとに上層に戻らないと溶岩に襲われる可能性があるこのダンジョンで、無駄な行為はやるべきではない訳で。とにかく、先行してマイナス二層の簡単な調査を終えたノーラからはこんな報告が。

「次の階層からは、一定時間ごとに溶岩がやって来るのは間違いないわね。いくつかの場所に溶岩の残滓があったから。溶岩が覆う高さは深さは足元十センチって所かしら……だから、この階層にある程度の高台か、倒したゴーレムを足場にすればなんとか凌げる範疇ってとこね。でもマイナス二層でこれだから、三層からは間違いなく溶岩が完全に部屋その物を埋め尽くす形になるわね。この階層で避難所を見つけるか、ゴーレムを使って安置を作るかする必要があるわ」

 そうか、それにマイナス二層からは確か人型ゴーレムも襲ってくるようになるって話だったな。つまりここまでが軽い予行練習で、本番はここからという形となるのだろう。気を引き締めて向かわなければ。

「そうか、地震が来るまでの時間にはまだ余裕がある。ならひとまず降りてみようか。無理はせず、じっくりと行こうぜ」

 ツヴァイの言葉に皆で頷いてからゆっくりとマイナス二層に足を踏み入れる。坂道を降りると、周囲の壁がマイナス一層までと違ってより赤く燃えるかのような光を発している。そのお蔭で全く暗くない為に、松明を始めとした照明道具は一切必要ない。まあ自分には暗視能力があるので元から必要ないのだが、他の人は違う。明りに気を使わなくていいと言うのは大いに助かるだろう。

「──ねえアース君。そのマント絶対何か秘密があるでしょ! こんなに暑いのに全く脱がないのは明らかにおかしいよ!」

 と、坂道を降りて二層に入った直後、ロナからそんな声が飛んできた。その声に呼応するかのように、他のブルーカラーのメンバーからの視線も飛んできた。

「確かにな。マイナス一層まではまだ分からなくもないが、ここまで来たら初夏の気温を軽く超えていえる。普通はそんなマントで体を覆っていれば暑くて不快なはずだ」「ですね、ここの暑さは相当な物……背中につけるタイプのマントならまだ分かりますが、全身を覆う外套タイプをそうして身につけていれば無意識に『暑い』という言葉が漏れてもおかしくありません」「こんな場所でそんな恰好が出来ると言う時点でただの防寒具じゃないわね、とっても怪しいわ」

 しまった、完全に目をつけられた。実際このマントを身に纏っていれば暑いどころか涼しくて快適な状態なので脱ぐと言う考えが完全に抜け落ちていた。さて、どうした物か。なにか良い言い訳はない者かと考えていた所、不意に自分の肩に手が置かれた。え? と思って振り返ると、そこにはミリーの笑顔が。

「あ~涼しくて良いですね~。アースさんの周囲だけの様ですが、この暑さを完全に無効化してますね~」

 そのミリーの言葉に反応して、次々とブルーカラーメンバーの手が自分の体に伸びて来る。ちょっと、此処だけ見ればホラーゲームのワンシーンみたいなんですが!?

「うおっ、本当だ。アースのマントに触れると、肘辺りまでだが涼しくなるぞ!?」「なにこれ!? なにこれ!?」「この暑さの中、一人だけこんな快適空間で居るとか……ちょっと許せませんわ」「このマント、どこで手に入れられたのでしょうか? 耐寒性能だけでなく耐熱効果まで持ち合わせているとなれば、かなりの希少品のはずです」「あー癒される~涼しいいい~」

 このマントに、そんな効果まであったのか? さすがデミゴットなんて言うふざけたランク付けがされた一品だ。数値や説明文だけではわからない性能も持ち合わせてるんだな……って、そんなのんきな事を考えてる場合じゃないな。周囲の視線が厳しいよ!? 口に出されなくても分かる、こんなマントを持っているなんてずるいと言う非難の意思が込められている視線だ。そして、説明を要求するとも書いてあるな。

「黙秘権を行使します」

 そんな視線に対しての返答だが、こう一言で返しておいた。この自分の一言に、レアアイテムの情報はあまり流したくはないのも無理ないから、仕方ないかぁという感じの表情を浮かべるブルーカラーのメンバー。なにせ貰った相手が魔王様だからなぁ、例えブルーカラーのメンバーと言えどもほいほいと言う訳にはいかないのよ。ゆっくりとマントから手を離してゆくブルーカラーのメンバー。その直後に「あ~あっちいなぁ~」なんて言葉が零れ落ちてるけど。

「でも、やっぱりずるい」

 そんなロナのつぶやきに、うんうんと頷くブルーカラーの一同。まあそうかも知れないけど、下手したらキャラクターそのものがふっ飛んで消失していた可能性もあるんだ。あの時は勢いでやってしまったが、一歩間違えばすべてを失う事になってしまっていた可能性がそれなりにあった訳で……かなり危ない橋を渡っていた訳だ。人災の相から見ればいつもの事かもしれんけど、そんな危ない橋をこちらとしては渡りたくはなかったよ。そんな状況を乗り切ったご褒美ともいえるので、ここで使わないと言う選択肢はない。

 まあ、大勢のプレイヤーからすればツヴァイの真の魔剣や、グラッドが獣人連合でお披露目した特殊変身だって羨望の的だ。しかし、そこにたどり着くには運と巡りあわせとその場における行動力が求められる。そう言った物事に関われるチャンスはそう多くないから、その数少ないチャンスをつかみ取れるかどうかが肝心となる。

 そこら辺はリアルと一緒だ。もちろん他のプレイヤーにだって、自分が出会う事が出来ない存在と巡り合っている可能性は十分にあるはずだ。しかし、そこからこういった特殊な報酬や縁を結ぶと言った結果をつかみ取れるかどうかはその人次第だしな。面倒事は嫌だと回避してたり、レベル上げばっかりやって他の事に視野を広げないような過ごし方では、そう言った出来事に巡り合う事事態が難しくなるだろう。

「羨むのはしょーがねえけど、アースはソロで結構無茶して来てるからこその出会いもあったって事なんだろうぜ。実際にこの魔剣の一件では、情報の入手とかはアースがいなけりゃ切っ掛けも掴めてなかっただろうし、こうやって一体化するのもまだまだ先だった可能性もあるから、アース自身がそれなりの物を持ってるのは個人的には納得してる面もあるってのが俺の意見だけどよ」

 ツヴァイの一言に、「なるほど、そう言う考えもあるわね……」なんて言葉も聞こえる。ま、確かに色々と無茶してるな。判断失敗すればそれこそ一発アウトな場面もいくつかある様な……真似をしろというのは酷だな。そもそも、あの魔王領に生まれた暴走魔力とはもう二度と戦いたくないぞ。《デモンズ・ジャッジ》も次は通用しないだろうからな……長い溜め時間を狙われておしまいになる。それにあの時は魔王様や封印を護る巫女様みたいな人との共闘だったわけで……個人の力じゃどうしようもなかったな。

 そんなマントの性能の一部がばれると言った何ともアレな始まり方をしたマイナス二層だが、一層の時とは違って早速モンスターの反応が見つかった。数は四か……人型が一、他が三だ。識別できないと言う事は、動物型ではあるがウルフのような形をしたゴーレムではないと言う事になる。

「敵の反応を見つけた。このまままっすぐ向かった先にいる。数は四、一匹は人型ゴーレムで間違いないが、残り三は分からない。ノーラの方の反応はどうだ?」

 自分の報告を受けてノーラがしばし沈黙し、その後にモンスターの内容を報告して来た。

「残りの三は、イノシシ型が二、鳥型が一だと出たわ。イノシシタイプは重量があるし、鳥タイプはゴーレムの癖に空を飛んで空中からの強襲が得意……アース君は鳥型ゴーレムを対処してくれる? 魔法で攻撃する方法ももちろん取るけど、速度が出る弓矢での攻撃をしてくれるとより確実だから。そして人型が一って事で、おそらくゴーレムテイマータイプと思われるわ。本体の強さはあまりないけど、動物型ゴーレムを上手く操ってこちらを倒そうとする奴よ。その一角である鳥形ゴーレムを叩いて空中からやって来る脅威をいかに早く取り除けるかで難易度がかなり変わって来るわ」

 この階層からは、そんな奴も現れ始めるというのはちょっと面倒だな。ゴーレムを動かす司令塔の役割を持つゴーレムか、欲を言えばそいつを真っ先に叩ければ速そうだが、その作戦を言わないと言う事は何かしらの理由があるんだろう。例えば、手下を倒さない限り解除されないバリアーを纏っているとか。

 もちろんゴーレムの指揮がうまいので、手下を削ってから戦わないと被害が増えるだけってパターンもあるか。なんにせよ、ここから先は今までとは大違いであるって事だけはしっかりと頭の中に入れておく必要がある。

「とはいえ、敵の布陣があらかじめ分かっていると言うだけでも随分と違ってくるからな。ノーラやアースの探知能力は本当に助かるぜ、やっぱりこういったダンジョンには盗賊スキルを磨いている人材が必須だな……いない時の事を思うとぞっとする」

 片手斧と盾を構えながらレイジがそんな事をいう。そうだな、情報は力だ。もちろん間違った情報は猛毒にもなり得るのだが……ノーラの探知能力が判断ミスを犯すとは思えない。やや移動を速度落し、慎重に歩を進めて部屋の中に入ると、ノーラの言った通り宙に浮く鳥型ゴーレム、大きいイノシシを象ったゴーレム。その奥に人型ゴーレムが待ち構えていた。こいつらはこちらが部屋に入るより前に戦闘態勢に入っていたらしい。間髪入れずに、人型ゴーレムがこちらを指さし──動物型ゴーレムの三体が襲い掛かってきた。
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