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今回はアースではなくツヴァイが引き当ててます

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「ねえ、ツヴァイ。ここ最近アンタの周りって不幸なこと多くない? リアルで」

 今後のテイマーゴーレムを相手取った時の行動を考えていた所に、突如そんなノーラの声が耳に入ってきた。なんだかこの時点でとっても物騒な話なのだが。

「いや、そんな事はないぞ。一般的な見方をしても普通なはずだぜ……事故もないし、友人関係も問題ないし……なんでそんな質問を突然するんだ、ノーラ?」

 確かに話が見えない。一体なぜノーラはそんな事をツヴァイに聞いたのだろうか? あまりにも唐突過ぎる。

「そう、なるほど。という事は、ツヴァイの運はこっちの世界でだけ悪いって事ね。ツヴァイ、簡潔に言うけど、ここ『カオス』っぽいわよ」

 カオス? カオスってのは何だ? 何か混沌とした物でもあったのだろうか? それともこれから何からの混沌とした現象が起きるのか? とりあえず口を挟まず会話を聞き続けるか。

「んげ、それはマジなのかノーラ? もしカオスだったら、俺のカオス当選率が四割超えそうなんだが……冗談抜きで?」

 ふむ、この会話の様子から見ると、カオスってのは草のダンジョンにもあった『大外れ』に該当するダンジョンって事でいいのかな? 草の場合は途中で何も取れず、最奥に即死攻撃を持つ草型のモンスターが待ち構えているだけという益の無いダンジョンだった訳だが。それとも、まさか自分の称号である『人災の相』がまた要らない仕事をしたんじゃあるまいな?

(今回はぼくのせいじゃないもん。最近は自重してるもん。本番はもっと先だもん)

 また幻聴が。それにしてもちょっと待て。本番はもっと先ってなんだよ!? いらん事せずに、大人しくしてくれた方がひっじょーに助かるんですけどねえ!

「残念だけどカオスじゃなかったら、さっき戦ったテイマーゴーレムがこんな浅い階層で出て来る事は絶対にないわよ! おまけにさっきのテイマーゴーレムは二種類のゴーレムを操る特殊型だったでしょ? あんな特殊型テイマーゴーレムは出て来る事自体がとってもレアだし……これらの条件が成立するのは『カオス』だけよ。アース君にも確認して欲しいんだけど、盗賊アーツの一つである《危険察知》の範囲がダンジョンに入った時と比べてどんどんと狭まってきていない?」

 ノーラの言葉を受けて、もう一度確認する。様子をうかがっていると、確かにゆっくりではあるがじわじわと効果範囲が狭められてきている。その事をノーラに告げると──

「やっぱりね、これでもカオスエリアに足を踏み込んじゃったって事は確定よ。始めてこの系統のダンジョンには居るアース君にはいきなり厳しい展開なんだけど運命と思って諦めてね。で、大雑把に説明するけど、カオスパターンって言うのはね……」

 と、ノーラからの説明を受けた所……カオス状態になってしまった場合は、モンスターの強さのバランスなどがぐちゃぐちゃになるらしい。つまり最下層のモンスターと最上階のモンスターが入り混じって同時にこちらに向かって襲い掛かってくる可能性があると言う事だ。もっともモンスター側も、普段は住み分けているのがごちゃ混ぜになる事でモンスターVSモンスターの争いが勃発することもあるらしい。そしてそんなモンスター同士の戦いを見かけた時は手を出さずにしばし放置し、弱った所を漁夫の利を狙うのが基本になる。

 さらに、溶岩の吹き出す間隔が不定期になる様だ。普段は三十分に一回ペースという話だったのだが、カオスだと三分に一回噴き出す事もあれば、一時間たっても噴き出さないこともある。幸い噴き出す前の予兆となる地震だけは健在なので、地震が来たら高台に逃げると言う基本は変わらない様で良かったけど。そしてカオスに滞在させられる時間は一時間。一時間を乗り切れれば、かつて存在していた死者の挑戦状のダンジョンの様に生存者全員が外に自動で脱出できる。

 ここまではデメリット的な話であるが、カオスならではのメリットも存在する。まずはドロップアイテムが全体的に良くなる。レアな鉱石だけではなく、時には強力な魔剣すら出る事もあるそうだ。特に魔剣はカオス状態限定ドロップらしいので、腕自慢が集まったギルドなどではカオスが来ると歓迎する事の方が多いとのお話。というのがノーラから説明されたカオスの説明となる。

「なんにせよ、カオスである可能性が高いとなれば、まずは避難所を作るしかないな。さっきのノーラの説明には抜けがあったぞ。このカオスに変貌したとたんに、上層へ戻る為の坂道は崩れ去ってしまうと言う事をアースに伝えていない」

 こちらはレイジ。そうか、意地が悪いな。まあ崩れてしまっていても自分一人ならば《大跳躍》と《フライ》の組み合わせで戻ることもできそうな気がするが……他のPTメンバーはそうはいかない。ロープはひっかける所がないし、忍者とかが使う先端が何か引っかかりやすい形になっていて、どこかに当てる事で登れるようになる縄付きの矢なんてものは今回この場に持ち込んでいない。

「とにかく、周囲のゴーレムを倒して避難所を作らないと不味いです。溶岩がいつやって来るか分からない以上、この部屋に足場をくみ上げなければ全滅します。ノーラさんにアースさん。とにかく近くにいて、倒すのに時間がかからないゴーレムを何とか察知してください」

 カザミネの言葉に頷く自分とノーラ。そうだな、まずは安置を作る必要がある。今はゴーレムの体を集めて、一定以上の高さを得る事が最重要となる。そうなるともたもたしていられない。この足場作りだが、幸い今までのノーラの経験のお蔭で、弱めのゴーレムを選別して狩ることに成功した。そして自分もその弱めのゴーレムの情報を得る事で《危険察知》にそのゴーレムの情報を選別することができるようになった事で、より効率よく探せるようになった。危惧していた《危険察知》の効果範囲も、一定以上狭まる事は無かったのは助かったな。その一方で、レアな鉱石とかのドロップは無かった。魔剣ももちろんなし。

 しかし狩るのは良いが、ゴーレムの残骸を所定の部屋に運びこむのが大変だ。一定の筋力がないとそれなりの足場になりそうなゴーレムの大きい残骸を運ぶ事が出来ない。さらにアイテムボックスに入れて運ぶと言う手段は禁じられているようで、手に持つか肩に乗せて担ぐ格好で運ぶしかない。もちろんその運搬途中に歩く事になる通路にもゴーレムが数体うろついているので、油断できない。

 しかも通路を歩いているのはかなり強い下層に居るゴーレムの様で、ノーラからは絶対に絡まれないで! と強く念を押されている。そもそもゴーレムの残骸を持ち歩いている時は、戦闘行為をする訳にはいかないのだが。戦ってその戦闘中に流れ弾のような形で残骸が砕け散ってしまったら、使い道が一気に減ってしまう。

「よし、急いで組み上げよう。力仕事が出来ないメンバーは周囲の警戒を頼むぜ!」

 何とかある程度の大きさを持ったゴーレムの残骸の数がそれなりに集まったので、避難所となる高台を部屋の隅に作ることになる。崩れないように残骸を選別しながら行うために結構疲れる。とりあえず柱に使えそうな大きめの残骸をメインにしながら、細かい残骸を隙間に敷き詰める様に入れていく。この作業中に、小さな地震をPTメンバー全員が感じたので、急がなくてはいけない状況に追い込まれているのがより焦りを生み出している。

「まだですの!?」「もう少しかかる!」「溶岩がやって来るまであと一分も無いわよ!?」「ボク達だって急いでるよ!!」

 その言葉のやり取りがより焦りを生むのだが、こればっかりは仕方がないだろう。せめてあと五分遅ければもう少し余裕をもって足場を作れたのだが……限界時間は容赦なくやってきた。ノーラの「何かが流れて来る音がするわ! おそらく溶岩!」の叫びと共にツヴァイが「まだ未完成だが、仕方がない! 皆高台に乗るんだ!」と指示を下す。

 その指示に従ってみんなが次々と高台の上に避難する。ぐらつきがみられるが、これ以上強度を増すための作業をする時間がない。高い所に乗るのが苦手なメンバーもいたため、自分は一番最後まで下に居て高台の上にメンバーが乗るのをサポートした。自分の背中を足場にしてもらって、上に昇りやすいようにしただけだが。

「アース、お前が最後だ!」

 ツヴァイの言葉とほぼ同時に、部屋の中に溶岩が流れ込んできた。《大跳躍》と《フライ》で高台まで一っ跳びで昇り切れるので問題は無かった。しかし、ゆっくりと着地したと言うのにぐらついた足場に不安を覚える。それでも、今はこの足場に頼るしか方法がないのだ……入り込んできた溶岩は徐々にその嵩を増し、あっという間に腰位の高さまでせりあがってきた。この階層に入った時にノーラが言っていた溶岩の高さ予想と大きく異なるのは、カオスだからなのだろう。

「この足場、持つのかな?」

 コーンポタージュの不安げな言葉に、返答を返せる人は誰も居なかった。ちょっとでも動くとぐらりと来るので、誰もが静止状態でただただ足場が崩壊して溶岩の中に放り出されない事を祈るのみ。そんな嫌な時間が一刻一刻と過ぎてゆく……。
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体の方もボチボチと調子を取り戻してきたので再開です。
ですが、六月中は様子を見たいので、更新ペースが遅めになる事だけは
ご了承ください。皆様もお体は大切にしてください。
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