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待ち構えていた存在は

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 移動中は他のモンスターと出会う事は無かった。余計な戦闘は消耗を招くので、これはありがたいの一言だ。また、今回は走って移動している。偵察部隊から、ターゲットが移動を開始しそうな前兆が見られると言う情報が入ったのが走って移動をしている最大の理由だ。ここで見失う訳にはいかない。そして走り続ける事十数分、ようやく偵察部隊である魔族の皆さんと合流できた。ここまで走り通しであったものの、全員が多少息切れをしている程度である。

「お待ちしておりました、ターゲットはこちらの方向に存在しています。ですが、先程も念話でお伝えしたように、移動を開始する兆候が見られます。お急ぎください」

 ターゲットの知覚範囲ぎりぎりで待機していたと思われる偵察部隊は、この報告と共にこの場からすぐに引き上げるんだそうだ。戦いはやや不得手だそうで、足を引っ張りたくないと言うのがその理由らしい。

「了解した、ここまでの野外における偵察任務に感謝する。ここから先はこちらが片を付ける」

 ──彼らは一切口にしていないけど、こういった偵察部隊とかが動いている時点で魔王軍の一員ですよね、この魔族の皆さんたちは。もちろんその辺を探るつもりはないけどね、何の利益もないし。

「では、これより戦闘を開始する。今回のメインターゲットは繰り返しになるがアイスジャガーキングだ。欲を言えばアイスジャガーキングにところまで一気に押しかけて首を取れればいいのだが、アイスジャガーの知覚能力を考慮するとほぼ不可能だろう。とにかく途中で襲い掛かってくると思われるアイスジャガーたちを出来る限り素早く片付け、アイスジャガーキングが逃走する前に捕まえるぞ!」

 このリーダー格の魔族さんの言葉に、全員が首を縦に振る。そして息を整える時間を兼ねた戦闘準備時間が取られ……

「では、戦闘開始!」

 この言葉と共に、全員が一斉に走りだす。それとほぼ同時に、《危険察知》がこちらに近づいてくる反応を示し始めた。

「こちらに接近する反応あり、数は四、かなりの速度!」

 自分の声に、緊張感が高まったのを感じる。横で並走している魔族の魔法使いの男性の杖を持つ腕に力がこもったのが見えた。アイスジャガーの特性はこれまでにいくつか情報が流れてきているが、あと一つ大事な事がある。それは、鋭い爪や牙でこちらの心臓を一突き。もしくは首を食いちぎって来る事もあるのだ。要は即死級攻撃を持っている訳で、戦うだけでも命がけとなる。油断をする気は元からないが、より冷静に戦わなければなるまい。

 こちらが走っている事で、近寄って来る四つの反応との激突は本当に直ぐだった。真っ白い毛に包まれた四つ足の獣、こいつがアイスジャガーか。と考える間もなく、アイスジャガー達は目が合った直後にすぐさまこちら目がけて一斉に飛びかかってきた。

「総員迎撃!」

 そんな声も聞こえてきたが、この戦いは拍子抜けするほどあっさりと終った。一匹はレイジの片手斧に頭を叩き割られて即死。一匹はカザミネの大太刀に首を刎ねられた。もう一匹は魔族の槍使いの一撃を首に食らって即死。最後の一匹はリーダー格魔族さんが振るう片手剣にあっさりと心臓があると思われる個所を貫かれて処理された。──おかしい。なんでこいつらはこんな行動をした? 飛びかかって来ると言うのはまあわからないでもない。しかし、飛びかかって来る事でとっさの方向転換は出来なくなってしまうし、そもそも奴らは前足にあるはずの爪を立てていなかった。これではまるで……

「わざと殺されに来た? そうしなければいけない理由があった?」

 ボソッと、つい口からそんな言葉が漏れた。その言葉自覚こそしていなかったが結構な音量だったようで、この場で共に行動しているメンバーの視線が自分に対して向けられる。しかし、そんな事はあまり気にならない。この違和感を無視してはいけない気がする。

「今の一斉攻撃はそもそもおかしいような……もしキングを護るためにこちらの数を減らしたいと考えるのであれば、誰かに一点集中するか、比較的軽装備を狙って確実に数を減らすかという動きをするだろうに。なのに、さっきはわざわざ重装備をしている二人に向かって飛びかかっていた。その飛びかかる速度も、敏捷が売りだとされているアイスジャガーにしては遅かったような……こちらに接近してきた速度からも考えると、もっと素早い飛びかかり攻撃が出来るはず」

 前衛の四人が、たやすく急所攻撃を成功させて即死させているのだ。いくら何でもこの魔王領に居るモンスター達はそんな簡単に急所や即死攻撃を当てさせてくれるような甘っちょろい存在ではないはず……少なくとも、今まで戦ってきた相手はそう言う連中だった。なのにここにきて急に? しかも敏捷を売りとするモンスターが? さっきの飛びかかる速度は、他のエリアに居るモンスターが行う攻撃に比べてもはるかに遅かった。こんなことをやられては、どう考えても違和感がぬぐえない。

「アース、何が言いたい?」

 レイジが、ややにらむ様な視線をこっちに送ってきた。その視線にはこっちの技量を信用してないのか? というような感情も含まれていたのかもな。だが、違和感は……より大きくなるばかり。

「死ななければいけない理由がある? もしくは殺された方がマシと思える状況が発生していた? そもそも、ここにこうして自分達を殺せる存在を呼び寄せる為に、敢えて最初の襲撃はほどほどに抑えて情報を流すメッセンジャーを残したのか? そんな状況に陥っているとするならば、今回のターゲットとなっているアイスジャガーキングは──」

 誰かのつばを飲む声が聞こえた気がするが、今はどうでもいい。それよりもここまでの考えが八割ぐらいの割合で当たっているとするならば。そうか。こんな死んだ方がマシ、という状況はあまりにも苦痛な状況は、ホラーゲームとかによくあるパターンの一つで、何らかの恐ろしい存在によって周囲に居る人達がおかしくなってしまい、正気をある程度保っている僅かな人が同じような『バケモノ』になりたくないが為に死を選ぶ──というような状況じゃないのか。

「──何らかの変質を起こしている可能性が高い? それとも、そもそもアイスジャガー達がおかしくなった理由はキングの登場じゃなくて、もっと別のおどろおどろしい存在がアイスジャガー達を汚染するかのように狂わせている可能性がある、か?」

 と、ここまで口にした所で、強烈な反応が《危険察知》に引っかかる。数は一? いや大勢? なんだこれは? 無数のモンスターの存在を示す光点が数珠繋ぎになっていて、それが一本の蛇のような動きをしている。その反応を一つとして考えると、反応は一つ……いや、同じような反応がもう二つ増えた。そしてその反応は、先程戦った事で《危険察知》に登録されたアイスジャガーではない事も分かる。

「敵勢反応、良く解らない反応が三つこちらに向かっている! そいつらはいくつものモンスター反応が数珠つなぎになって蛇の様な動きをしている! これ以上の詳しい事は分からない!」

 こんな奴、偵察部隊からの情報には全く無かったぞ!? いったい何が出て来るんだ?

「そう言えば何か音が聞こえないか? 何かを引きずるような音が……」

 誰かがそう言った。なので耳を澄ますと、確かにズル、ズルル……という音が聞こえる。もうこの時点でイヤーな予感しかしませんよ? そんな近寄って来る正体不明の存在をどうするか……この時点で、もうアイスジャガーキングの討伐なんて話は吹き飛んでいる。ここまでの異常な要素が絡んできた以上、一度撤収をしても良いと思うのだが。

「総員撤退! なんでこんな正体不明の存在を偵察部隊は察知できなかったんだ!? とにかく、相手の様子が明らかにおかしい! この場を離れ、体勢を立て直す! 念話を用いて、街の方に援軍も要請する! おそらくこのまま戦えば、こちらが全滅するだけだと言う事を、迫ってきている存在から感じる気味の悪い魔力から感じ取れる!」

 お、意見が一致したか。ならばさっさと逃げだすまでだ。全員が素早く百八十度反転し、全力で走り出す。こちらの移動速度の方が早い様で、徐々に正体不明の存在との距離が開いてゆく。だが、その逃げている最中に背中から感じる感じに覚えがある事に自分は気が付いた。そう、これは。あの時、魔王様と巫女さんと一緒に戦ったあの暴走魔力から受けていた感じとそっくりなのだ。もちろん感じる圧迫感みたいな物ははるかに弱いが……もしかすると、とんでもない置き土産をあの時の暴走魔力は残していったのかも知れない。あの時、何かしくじっていたのか?
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ドカポンシリーズってもう新作作られないんですかね?
それとも、もう壊すだけの友情が亡くなったとか?
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