上 下
409 / 550
連載

戦闘の前に

しおりを挟む

「このまま走りつづけろ、連絡はもう行った! 援軍は必ず来る! だから今はひたすら走れ!」

 リーダー格の魔族さんの言葉に従って、同行メンバー全員は全力で走り続けていた。後ろからやって来る化け物を街に近寄らせる訳にはいかない為、走る方向は街とは正反対である。その為援軍との合流が送れてしまうのだが……とにかくスタミナが切れるまでは走り続けるしかない。何とかある程度の距離を稼いだところで、ついに息を切らす人が現れた。コーンポタージュと魔法をメインにしている魔族の女性一人がかなり苦しそうだ。

「ひとまず距離は稼げた、一息入れる為にここで小休止とする!」

 その言葉と共に、雪につっぶしてしまうコーンポタージュ。だが、彼女を笑う者はだれ一人としていない。多少差こそあれど、皆荒い息を吐いているのだから。

「アイスジャガーキングの討伐のつもりが、とんでもない事に、なって、しまいましたね」

 カザミネの言葉に、自分はつい頷いてしまった。戦いに出向いたら予想外の敵がやってきましたなんて事は今までにもあったが、今回のは規模がかなりデカい。以前街を移動するだけのつもりが、ユニークモンスターが乱入して来た龍の国の時以来かな……だが、幸いにしてこうして退避できた分、エルの時よりは状況が良いともいえる。

「しかし、相手の足が遅かったのは助かった。足が速い相手だった場合は、こうして生きていることは出来なかっただろう」

 魔族の男性も、そんな言葉を漏らす。うん、足が速くて逃げきれず、戦う事を強要された場合はかなり厳しい展開になっただろう。その時はさすがに魔王変身を躊躇せずに使うつもりだったが。

「援軍の方はどうなっていますか?」

 すでに息が整いだしているレイジが、リーダー格魔族さんに尋ねていた。

「進む方向はこのまままっすぐ。連絡によると、全体の四割が集合済みのようだ。おそらく我々が合流した時には九割以上が集合して陣形を敷いていると予想されるな。とにかく、あと少し休んだらまた走ってもらう。我々の今の役割は、生餌として奴を街とは別の方向に引っ張りつつ援軍と合流する事だ。──今回は、この様な事になってしまって申し訳ない」

 そう言って頭をこちらに下げて来るリーダー格の魔族さん。今回の一件は完全に予想外のモンスターが出てきた形だったわけで、魔族側に大きな問題があった訳でもないと思うが、それでも一応現場のトップとして詫びておくと言う事なのだろう。こうなるとなおさら偵察部隊の偵察方法に疑問が出て来るが、接触しないギリギリの範囲で、刺激を与えずに観察するだけに留めたと言うのであればやむを得ないか? 下手につついて、こちらを今追って来ている正体不明の存在の目を覚ましてしまいましたなんて事になったら余計状況は悪化していたからなぁ。

「今回は予想外すぎる展開を迎えていますので、そちらを責めると言うのは間違っていると私は考えます。それよりもそろそろ移動を開始しないと不味い頃合いかもしれません。アース、奴の姿は引っかかっているか?」

 レイジの言葉に「こちらの探知範囲の隅に引っかかり始めた!」と返答を返す。レイジから話を振られなければ、こちらから言うつもりだった。そこからの皆の行動は早く、すぐさま立ち上がって再び走り始めた。休息を挟めたお蔭で走るスピードは元に戻り、再び正体不明のモンスターを引き離しにかかる。そして、魔族の援軍と合流するまでの間、HPは一も減らずに済んだ。もちろん正体不明のバケモノが追いかけてきている訳だから、精神的にはゴリゴリ削られていたんですけどね。こちらの速度が速いと分かっていても、追われている恐怖は抜けない訳で。コーンポタージュが少々涙目になっていたのが印象的だった、ホラー苦手なのかな? 自分は苦手です。


「良くここまで無事にたどり着いてくれた! そして貴官らの働きがなければ、恐ろしい事になっていたであろう! 最悪街一つが壊滅するような事態に陥っていたやも知れぬ」

 合流して息を整え、情報の細かい提供を行うために自分達は待っていた援軍の指揮官の前にやって来ていた。そしてこちらからの情報を全て聞いた後に指揮官が発した言葉が先程のセリフである。

「この戦いが無事に終われば、協力してくれていたそなたら五名に相応の報酬を支払うと約束しよう。ここからは我々に任せてほしい……と言いたい所なのだが、貴殿らはあの名高い人族のギルド、『ブルーカラー』のメンバー、ならびに深い付き合いがある友人という布陣だそうだな。今回の敵はこちらとしても全く資料がない未知なる敵だ。そのような相手に対する突破口を貴殿らが持ち合わせている可能性もある。そこで、これから始まる戦いに参加しては貰えぬか? むろん、貢献の度合いによって報酬は弾む」

 ここまで関わった以上、終わりをみないとすっきりしない。それがこちら全員の総意であった。なので二、三点の確認を取ってから協力することに決めた。今回はレイジを頭とした遊軍扱いで、チャンスがあればガンガン攻めて良いとの事。もちろん魔族の皆さんに対して極端な邪魔をしてはいけないが……それはまあ、言うまでも無い事って奴だね。

「ありがたい。では、よろしく頼む。奴が来るまでのわずかな時間ではあるが、休息をとられよ。あと、申し訳ないが、そこの外套を身に纏って顔を隠している弓使いだけはもう少々話をしたい。済まぬが付き合って頂きたい」

 なんだ? 名指しでご指名とは。何か失礼なことでも知らない内にやってしまったかな? とりあえず話をするだけだろうし、ここは頷いておく。レイジ達は小声で『もし何かあった場合は連絡してくれ』と言い残してこの場を去る。そしてレイジ達が十分に離れた所で、ゆっくりと指揮官が口を開いた。

「──大変失礼をいたしました。本来であればそのマントをお身につけられている以上、こちらが平伏せねばならない立場である事は理解しております。しかし、今は緊急時故、どうかご理解のほどを」

 あれ、この指揮官さんにはこのマントの本来の姿が見えているのか。それにしても平伏って……止めてくださいと言っておくべきだな。

「いえ、私はその様な大層な者ではありません。ですから、平伏など私に対してする必要はありませんよ」

 そうできる限り柔らかく伝えてみたのだが……

「そんな事はありませぬ、貴方が居なければ今頃魔王様は……そして、世が世なら人族でありながら我らの頂点に立っていたお方です。そのようなお方に対して、先程の様な喋り方は許される事ではありませんが……お許しいただいたことに感謝いたします」

 わあい。自分の知らない所でとんでもないことになってたあははー。ってか、本当に魔王様はあの時の一件は内緒にするんじゃなかったの? それとも何らかの作り話を上層部に流したのか? もしそうだとしたら、適度に真実を入れた作り話なんだろう。そうでなければ魔王様と自分の関係をああもはっきりと言えるはずがない。とりあえず、自分に言えるのはこれだけか。

「どうか、ご内密にお願いします」

 他に言う言葉がない。

「はっ、承知しております」

 敬礼が重いよ……戦う前から妙に疲れた。
************************************************
次回から戦闘開始です。
しおりを挟む

処理中です...