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決着、回復、そして街へと帰還

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 それは他の人にとってはほんの一瞬の出来事であったのだろう。そして身をもって二分という時間をアイスジャガーキング変異体? という相手に稼いだブルーカラーのメンバー&魔族の兵士の皆さんにとっては、なおさら短く感じたかもしれない。自分の放った《デモンズ・ジャッジ》の矢部分はアイスジャガーキング変異体? の顔面を捕え、以前の暴走魔力と同じように空の彼方へと一瞬の内に吹き飛ばす。

「おわ……ったのか?」

 誰かがそう呟いたような気がしたが、まだ奴は終わっていない。大きなダメージが入ったのは間違いないが、この時点ではまだ止めをさせてはいない。気配が消えていないのだ。だから──

(マスター、チャージした魔力を右腕に! 今度こそ完全に暴走魔力の存在を文字通りチリ一つ残さず消し飛ばしましょう!)

 ルエットの言葉に応える為に、一度右手を大きく開いてから固く握る。その握りこぶしを一番リングの中に突き入れながらルエットと共に叫ぶ。「「《デモンズ・ジャッジ》!!」」と!

「この光はっ!?」

 また誰かの驚くような声が聞こえた気もするが今は無視だ。リングに突き入れられた右手の握りこぶしから、二分をかけてチャージされた魔力が猛烈なビーム状の光となってほとばしり、先に当てておいた矢に導かれるかのようにアイスジャガーキング変異体? の体を覆った事を伝わってくる感触で理解した。後はこのまま魔力を完全に放出し、存在を完全に消去する。

「おおおおおおおっ!」

 咆哮一発、更に出力を上げる。そうして照射していたのはほんの数秒だったのだろうが、チャージした魔力がすべて失われ、リングが消失すると同時にアイスジャガーキング変異体? の反応も、その体から感じていた暴走魔力の威圧感も全く感じられなくなった。

(こんどこそ、完全決着か?)(はい、今度こそ完全に消えました。お疲れ様でした──しかし、あの者に吸われた四人の事が気になります。マスター、申し訳ないのですが確認をさせていただけませんか?)

 そうだ、あの四人。回復の効き目がないと言っていたようだが……ルエットの言う通り確かに気になる。兵士は戦って民の為に盾となり死ぬ存在だが、むやみやたらと死ねばいいと言う訳ではない。戦闘も終了した事だし、救えるのであれば救っておきたい。傲慢とか言われるかもしれないが、今は偽物とはいえ魔王様状態だ。それに人命救助なら、少々傲慢になっても良いだろう。あ、もちろん多くの人を巻き添えにして不幸にする傲慢とかはもちろん含まない。そんなのは論外だ。

「済まんがちょっと通してくれ」

 戦いが終わった事で、歓声を上げた後に魔族の皆さんは大半が座り込んでいた。消耗が激しかっただろうから仕方ないか。実際司令官さんもそんな兵士の皆さんを見逃しているように見える。まあ十分もすれば魔族の皆さんの事だ、十分に立ち直るだろう。スペックはプレイヤーを含む人族より上だからね。今の自分は、まだ魔王様状態で行動している。戦闘は終わったが、この姿の方が魔力のチェックなどを行いやすい。そう、これは体内の異常も詳しく分かるのだと言う事をルエットが教えてくれた。

 アイスジャガーキング変異体? に吸われた四人は、目を閉じて微動だにしていない。ある程度魔力が戻ったと思われる魔法使いの皆さんが治癒魔法をかけているが、どうにも効いているような感じじゃない。むしろ、穴が開いたツボに水を注ぎこんでいるだけのような感じすらする。そんな事が感覚的にわかるのも、魔王変身を維持しているからなのだろう。

「こ、これは魔王様!」

 自分が近くに行くと一斉に頭を下げて来る魔族の皆さん。勘弁してくれと言いたい心境だがここはぐっとこらえる。そこら辺の会話をする時間も今は惜しい。まずは調べなければ。

「済まんが、この四人を調べたい。皆さんがあれだけの治癒行為を行っているのに癒える様子がないのはさすがにおかしい」

 この自分の言葉にすぐさま動いてくれる魔族の皆さん。今回の一件は後始末がすごい面倒な事になる事は確定だが、今は後回し。とにかくこの四人を救い出せるか否か、それを見極めなければ。ルエットが言うには、直接対象者に触れてみて魔力の流れを感知すると詳しく解るとの事なので、彼らの兜を外して頬に直接触れる事でその点はクリアする。集中するためにも目を閉じて、魔力の流れを調べてゆく。その結果、四人とも症状は同じ。何というか、命の核が完全に失われていると言う表現が一番しっくりくるような感じがする。

 魔力は体の表面を流れているだけ。心臓を始めとした内臓とかが全く動いていない感じだ。それだけではなく、徐々に体の内側から崩壊を始める寸前だ。一本の木が燃え尽きて、灰となって崩れて行く寸前とでもいいのだろうか? 周りにいる魔法使いの皆さんに治癒系統の魔法も使ってもらったが、表面を流れるだけで体の奥底に染みわたっていかない。これではいくら魔法をかけても効果が出るはずもない。

「そんな……では、もう彼らを救うことは出来ないのでしょうか……魔法に一番長けた種族と言われている我々の魔法力でも……っ」

 周囲に居る魔法使いの皆さんに調べた結果を伝えると、悲痛な表情を浮かべながら歯噛みした。悔しさは分かるが、こんな状態にまでされてしまっては……ポーションもほぼ意味がないだろう。それこそ新しい命を生み出す様なとんでもない物でもない限り。念のために市販されているこの世界の住人専用の蘇生薬も用いてみたが意味がなかった。まだ彼らは生きていると言う事なんだろうか? それともこんな特殊な形で死にゆく命までは救う事が出来ないという事か?

(そう言えば、エルの時もそうだった。エルもあのハイエルフにやられた後すぐに……)

 だが、エルの時と違うのは、まだ彼らはかろうじて生きていると言う点だ。ここに何らかの生命力を注ぐことが出来れば、何とかつなぎとめる事が可能なのではないだろうか? しかし、生命力なんて物どうやって用意する? それこそアイテムならば伝説級の物が必要となるだろう。霊薬とか神酒とかそう言うレベルの奴。しかし、手持ちにそんなのは──いや、あるな。生命力を注ぐ訳ではないが、自分の生命力の一部を糧に発動して癒す事が出来る技術があるじゃないか、黄龍に。

(──やっぱり、変身はポンポン使えないな。こういった時に切れないで救えずに終わると言う事になりかねない。これからも、変身は温存しておく流れになりそうだ。お蔭でレベルはなかなか上がってくれないのだが仕方がない)

 魔王の変身を解除。鎧姿から外套姿に戻る。そして即座に黄龍へと変身。周囲からの驚きの声は聞き流す。この四人のはもう何時消えてもおかしくない崖っぷちの状態だ。もたついている時間はない。自分の心臓付近に手を突っ込み、自分の生命力の欠片を取り出して握りつぶそうとした時にふと考えた。これを握りつぶしてしまったら、他の回復魔法とかと変わりがないのではないか、と。そして、生命力がない体なら、この生命力の塊であるこれを押し込む事が出来るのではないか?

(こういう時の直感ってのはばかにできない。やってみよう。駄目ならば本来の扱い方をすればいい)

 紅に輝く宝石の様な自分の生命力の欠片を、兵士の一人の胸に突き立てる様に押し当ててみる。すると、何の抵抗も無くするりと体の中に入り込んでいった。まるで水の中に意思をぽとりと落としたかのような感じ。あまりに奇妙だが、通じる可能性があるのならば他の三人にも──一つ生命力の欠片を体から抜くたびに眩暈がひどくなったり、力が入らなくなっていく。四つ目を抜き出した後は立っている事が出来なかった。それでも意地で四人目の兵士の胸に生命力の欠片を入れ終える。これ以上、自分が打てる手はない。黄龍状態を解除すると同時に自分は雪の上に突っ伏した。しばらく休まなければ、立ち上がる事すら困難であると体が訴えて来る。

「だ、だいじょ──」「──く、屋根の──」

 駄目だ、耳もバカになってしまった様で、周囲の会話も聞き取れない。

【おい、アース! 大丈夫なのか!?】

 おっと、ウィスパーチャットは問題なく聞きとれるんだな。PTチャットの方は……だめか、こっちは全然まともに聞き取れない。

【ああ、ちょっときっつい技を使ってへばっただけだから大丈夫だ、レイジ。ただ、しばらくの間は立ち上がれそうにない。色々と肉体能力系のバッドステータスがてんこもり状態と言った所】

 自分からの返答にレイジがはぁーっと息を吐く。

【そうか、もしかしてリアルのプレイヤーの方に何かしらの問題が発生して、それがこっちの方にも反映されたのかと思ったぞ。とりあえず大丈夫なんだな? それならいいが……それとだな、今回色々と聞きたい事があるんだが……お前いつの間にか魔王にでも転職してたのか? 周りの魔族の兵士が魔王様魔王様の連呼状態なんだが。この辺を詳しく】

 うわぁ……どえらい事になってるな。どうやって説明したもんかな。この魔王変身は、特に魔族の皆さんには出来る限り隠しておきたかったのに……今回はやむを得ない形だったとはいえ、思いっきりやっちゃったからなぁ。この後どうなるか頭が痛い。最悪魔王領から逃げるしかないかも知れない。そして後から聞いた話となるが、自分は兵士の皆さんの手によって街まで丁寧に運ばれる事となった。その運び方もタンカではなく、ベッドが収まる特別製の馬車ソリをここまで持って来て、そこに寝かされて運ばれたらしい……カザミネ曰く、

「あの時は素晴らしく目立っていましたね。しかも指揮官さんが『魔王様は力を振るってお休み中である! 街に戻ってお休み頂ける場所に戻るまで気を抜くな!』と大張り切りで指示を飛ばして、兵士の皆さんも総員最敬礼でしたよ。その時に、此処であったことを外で風潮しないでくれって命令に近いお願いもされました。いやー、本当にすごかったですね。アースさんはやっぱり面白いです」

 なんて事を後になって言われてしまった。色々と手遅れになってるなと、この時で確信したのは言うまでもない。確信なんてしたくなかったよ。
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やってみようと考えた結果、爆発オチって実はけっこう難しいと気がついた。

スキル

風迅狩弓Lv50 The limit! 砕蹴(エルフ流・限定師範代候補)Lv42  百里眼Lv39 技量の指Lv66 小盾Lv42  蛇剣武術身体能力強化Lv18 ダーク・スラッシャーLv9 義賊頭Lv60 隠蔽・改Lv7 妖精招来Lv22 (強制習得・昇格)(控えスキルへの移動不可能)

追加能力スキル

黄龍変身Lv4  偶像の魔王 2.31 ↑UP 

控えスキル

木工の経験者Lv14 上級薬剤Lv47  釣り LOST!  料理の経験者Lv27  鍛冶の経験者LV31  人魚泳法Lv10

ExP 22

所持称号 妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 竜と龍に関わった者 妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相 託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人 妖精国の隠れアイドル  悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮) 呪具の恋人 魔王の代理人 人族半分辞めました 闇の盟友 魔王領の知られざる救世主  無謀者 魔王の真実を知る魔王外の存在  天を穿つ者  魔王領名誉貴族  NEW!

二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人

強化を行ったアーツ

《ソニックハウンドアローLv5》
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