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 翌日のログイン後、魔王様との挨拶を済ませて魔王城を後にした。魔王様はまだいてくれても良いとは言ってくださったが、バッドステータスは全て解消されたのでこれ以上留まる理由も無いので丁寧にお断りさせてもらった。それと、クィーンとアクアには今後自分の事を報告をしない&受け取らないと昨日のうちに念を押させてから解放した。そして今は馬車ソリの中で、昨日のログアウト直前にクィーンから聞いた話を左手の薬指にはまっている指輪を見ながら反芻していた。


【アース様、これはルエット、ピカーシャを含めて誰にも教えないでください。大切なお話ですので、他者に聞かれない様に念話にてお話させていただきます】

 昨日の関節技お仕置きが終わった後、真剣な顔をして自分にそう話しかけてきたクィーン。その内容は、ルエットに関する事だった。

【率直に申し上げます。ルエットはもはや、私の分身体ではありません。自分の命と魂を持つ指輪を住居とする一人の妖精へと進化してしまいました。以前であったときは、自らの意識を獲得したと言っていましたが、せいぜいその時のルエットは三割が良い所。残り七割は私の分身体としての意識を持っていました。しかし本日確認した所、ルエットは完全に私とは別の存在へと変わっていました。故に剣を扱えるようになっていたり、私の知らない技を扱えるようになっていました。はっきり申し上げます、これは想定外どころでは済みません】

 その後のクィーンの話を聞いているうちに、これは完全な異常事態であると言う事が理解できた。クィーン曰く、ある程度の自我を持つところまでは何の問題もないし想定内であったそうだが、完全に別個の自意識と能力を持つのは普通ではあり得ないと教えてもらった。どんなに進化したとしても、ベースとなった元の人物の思考や戦い方は最後まで受け継ぐのが普通であり、ルエットの様に魔法剣士に成ったりすることはそうそう起こる事ではないとの事。

【──幸い、アース様に対しての敵対心などは持っていないのでそこはホッとしているのですが……ここまで変質してしまうと、自分の主人を殺して新しい主人を探すと言った行動に出る可能性もありました。片時も離れないアクセサリーが、最悪の暗殺者になってしまう。そんな展開を迎えずに済んだのは行幸としか言いようがありません。たとえどんなに大切にしていたとしても、その指輪が主人に対して嫌悪感等を持っていた場合はお構いなしに攻撃対象にされてしまいかねません。一種の呪いと言い換えても良いでしょう】

 変質により、性格なども新しくなると言う事らしく……その新しくなった性格が今まで使ってきた主人とそりが合わない場合は、血に染まる結末もあり得ると言う。

【そんな事にならぬよう、そう言った部分に関する封印や調整はしっかりと練り込んだ上であの時指輪をはめたのですが……それらを全て突破されてしまっています。さらに問題なのは、貴方の指輪かはなれないのはすでに私の魔力によるものではなく、ルエットの意思である部分が強くなってしまっています。もし、今後万が一何かがあったとしても……私の力ではすでに指輪を外す事が非常に難しくなってしまっています。指を切り落として無理やり離れようとしても……その指をルエットは必死で護るでしょう。ルエットはもうあなたが死ぬまで離れる事は無い】

 つまり、装備解除することは考えるなという事か。まあルエットとはそれなりに上手くやっているとは思うし、問題は今のところないと言えばないけど。

【これまた幸いなことに、精神が病んでいるがゆえに離れたくないと言うのではなく、貴方を護る守護者としての考えから離れたくないと言う考えである点は非常に良い事です。精神的な病みによる拘束はいずれ悲劇をもたらす可能性が高いですが、守護者や騎士であれば相応の礼節を持って当たればまず裏切られることは無い。逆に言えば露骨に冷たくしたり冷遇すればまずいと言う事ではありますが──それがもたらす結末は、一般社会であっても同じことですから細かく言う事でもないでしょう】

 まあそりゃそうか、裏切りなどによって他者の信頼に背を向ければ相応の報いがある。歴史でも、裏切って生き延びた後に変死している奴っていたりするんだよね。有名どころを上げれば、関ケ原の合戦で西軍を裏切った小早川秀秋氏を上げる所か。彼は家康の鉄砲隊に撃たれてようやく裏切ったなんて話もあるので、その辺の辺りから『ああ、アイツか』と分かる人もいるかもしれない。さて、肝心なのは関ケ原の合戦が終わった後。この小早川秀秋氏は、その後裏切りが遅れた事により追撃の先鋒をやったり(やらされたり?)したがその辺はざっくりカット。

 で、その後褒賞として五五万石の大名になった訳なんだが……その二年後に小早川秀秋氏は死亡している。で、今の調べによるとアルコール中毒で死んだとか言われているらしいが、何故そんな若さでアルコール中毒になるほどに酒を飲んだか……ここでも有名な逸話っぽい物として、裏切って自刃に追いやった大谷吉継氏の呪いを受けて早世したんじゃないか、なんてことも言われている。もちろんそれが事実かどうかなんて分かりはしないが、そう言われるだけの事を彼はやってる。更に後継ぎも居なかったらしく、小早川の家は断絶しちゃってるんだよな、これが。こんな話なので、呪いだとか人を裏切ればこういった結末を迎える、というたとえ話にはもってこいといういい方はひどいかも知れないが、持ち出しやすい方ではある。

【ですので、誠実なお付き合いをしてください。決して驕ったり彼女の信頼を一方的に傷つける様な事の無いようにお願いします。アース様はその様な方ではないと信じてはおりますが、貴方様を思うが故の諫言とお受け取り下さい】

 ルエットを裏切るつもりは初めから一切ないが、心しておくべき事だろう。なのでこのクィーンからの忠告はしっかりと心に刻んでおく。──ああいう感じで真剣な表情をしてれば普通に頼れる女王陛下なんだがなぁ。ため息がこぼれてしまうよ。

『マスター、どうしました?』

 そんなため息に反応したのか、指輪からちびルエットが出て来る。

「ああ、いや、ちょっと考え事をな。どうしてあの女王陛下(おばかさん)はああもう暴走するかねーと。ましてや今回は魔王様の前でだよ? 知り合いって事もあって頭が痛い。ため息が出るのも仕方ないだろう?」

 こんな自分の意見に、ルエットもなるほどーという感じな頷いた。

『あんなのがオリジナルという私も頭が痛くなるんですよねー。しかし事実は変えられませんし、困った物です。マスターがいくつもの関節技をかけてしっかりお仕置きしてくださいましたから、スッとしたのも事実なんですが。世の中ままならぬ部分が多いってのは本当ですねえ』

 やれやれ、という感じのポーズをとって首を左右に振るルエット。まあそう言いたくなる気持ちは分かる。自分の親が極端にアホばっかりやってると、子供としては辛いよね。

『それからアクアさん、今後は貴方の事を私はしっかり見張りますからね? まさかマスターとの制約を破る様な事はしないとは思いますが──失った信頼はそう簡単には戻りませんよ? 良いですね?』

 更にちびルエットは、自分の頭の上に居るアクアにもそんな警告を飛ばしていた。アクアも少々おびえたように「ぴゅい!」と返事を返す。ふむ、羽根周辺を念入りに関節でお仕置きした痛みをもう味わいたくないと言う恐怖心もあるかな。とはいえ、けじめはきちっとやっておかないと駄目だからな。

「ルエット、そこら辺はこっちの目が届かない所も数多くある。頼んだよ」

 自分の言葉に、ルエットは『お任せください』と言いながら、ビシィッ! という効果音が似合いそうな勢いで敬礼をする。そうだよな、こんな感じでやっていけばいいんだ。難しい事は何もない、ちゃんと敬意を払って接すればいいんだ。ごちゃごちゃ考える必要などない。むしろ下手に考えるからこそ、物事を悪化させるんだ。クィーンからの忠告は忘れないが、それを気にしすぎて動けなくなってしまうのは一番駄目だって事。

「さて、そろそろ街に着くかな。レイジのメールだと合流場所は確か──」

 とりあえず今は次の冒険に繰り出しますか。
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