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ツヴァイからの情報

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 翌日、自分は魔王領の街の一つであるサルアに移動した。目的は薬草が取れるダンジョン。今回は腰を据えてじっくりと薬草探しに勤しみたい。その予定だったのだが、ここでツヴァイからのウィスパー要請が入る。何かあったのか? とりあえず許可を出してツヴァイとのウィスパーを繋げる。

【お、アース。突然悪かったな。ちょっと話しておきたい事があってよ……時間いいか?】

 まあ薬草集めも急ぎの用ではないから構わないか。それにツヴァイも何の理由もなしにウィスパーを送ってこないはずだし。

【大丈夫だ、それより話したい事ってのは?】

 ここしばらくはひたすら料理ばっかりやっていたからな、ワンモア全体の流れには疎くなってしまっている。その自分が約一か月籠りきりで料理をしていた間に何か大きな事件とか流れとかが起きていても不思議ではないからな……ここは時間を取ってツヴァイの話を聞いた方が良いだろう。

【二つあるんだが、まず一つ目だ。アース、アースの今居る場所って今何処だ?】

 ツヴァイの質問には、素直に今はサルアの街に居る。例の料理はお店の人が育って回るようになったので後は任せてきたと伝えておく。

【そうか、ならなおさら大事な話になるからしっかり聞いてくれ。アースがあの店で作っていた料理。魔族の人がとろビグと呼んでいたあの料理だ。あれを露店とかでばら撒かない方が良い】

 ──む。まさか、そういう事か?

【確認したいのだが、もしかしてあのとろビグの存在が魔族全体に広まりつつある?】

 この自分の質問に、ツヴァイは広まりつつあるなんてモンじゃないと返してくる。

【いいか、アースもさっきの俺の言葉から予想がついているかもしれないが、大事なことになるから恩押しで教えとくぞ。あの店がある街に向かう魔族の人数が滅茶苦茶な事になってる。あのお店がある街に向かうために護衛の依頼もかなりの件数が出て来ててな、一種のお祭り騒ぎになっていると言っても良い状態だ。そこにアースがあのとろビグの料理を他の街で屋台とかの方法を使って出してみろ。大混乱が起きる可能性があるぞ】

 おいおい、そんな大きな話になってるんかい。こりゃとろビグまんも自分で食うか、ツヴァイ達に配るぐらいしかできないな。魔族の人に渡したら、何故持ってるんだって問い詰められかねん。

【──こっちはひたすら連日のようにやって来る大勢のお客さんの相手だけで目一杯だったんだが、さすがにあそこまでお客さんが絶えないのはおかしいとは思っていた。なるほど、そんな状況に陥っているのであれば、あれだけ連日連夜、ひっきりなしにお客さんがやって来たのも納得出来る】

 それでもお店を離れる直前は人手もそこそこ揃って来てたからな、今も大変なのは変わりないだろうが、初期のころの異常な忙しさには陥ちいる事なく回っているはずだ。そうでなければあのお店を離れる事も出来なかった。

【だろうなあ、外から見てもすごい行列が出来てたからな……更に黒衣の料理人がいると言うのぼりが立ってる日は特にだ。なあ、黒衣の料理人さんよ?】

 まあツヴァイは予想がつくよな。むしろ予想がつかなかったら鈍いとかいうレベルじゃない。

【その名前はもうやめてくれ……いつの間にか定着してしまったんだ。決して自分から言い出したわけじゃない】

 自分からはとてもじゃないが言い出せないぞ、そんな恥ずかしい言い方。

【まあそうだろうな。さすがに俺でも、アースが自分からそんな呼ばれ方を好むなんて思っちゃいないぜ。だが、その名前も魔族の中じゃかなり広まってしまっているぞ。最近じゃ黒い服やマントを着ているプレイヤーやワンモア世界の冒険者たちに『黒衣の料理人を知らないか? もしかして貴方が……』と質問する魔族の人がすごく増えた。おそらくアースも聞かれるだろうが何気なく流せよ? 万が一ばれたらアースは料理から逃げられなくなるぞ】

 そう言うレベルか……予想よりはるかに上回ってるな。

【あと、アースが聞きたくなるだろうから先に答えておくぞ。どうも魔族の人達の味覚は、ビーランフの肉よりもピジャグの肉を好むって人がかなり多いみたいだ。ただ、ピジャグの肉は食いずらい事が原因で、それだったら多少味覚とは合わないが、食べやすいビーランフの肉を食おうって流れだったらしい。だがそこにアースが現れて、ピジャグ肉を改良ってか上手く調理しちまったことでその流れが一気におかしくなったって言い方をするとアースには悪いかも知れねえが……とにかく、魔族の人達にとっては一大事件と言っても良いぐらいショックを与えたようだぜ】

 口に入れる物だからねえ。誰だって健康や栄養バランスが取れているのであれば、美味い物を食いたくなる物だろう。そして美味い物の中でも、自分の持っている味覚に合う者であれば、なお結構である事は言うまでも無い事で……

【そのお蔭で、俺たちプレイヤーも護衛依頼を引き受ける事がかなり多くなったな。その仕事にしたってアースやノーラの様な《危険察知》持ちが行動するメンバーの中に一人いれば難易度はかなり下がるし、それなりのお金になって街の人達からも信頼を得られる美味しい仕事という感じだ。Wikiでも、街の人達と仲良くなっておいたり協力しておけば、いざってときにその恩を返してくれるから仲良くできるなら出来るかぎりしておけって情報も次々と上がり出してるからな、そう言った情報をもとに積極的に動く奴は増えてる】

 そんな流れが出来上がってるのか。

【そんな話になってるのか……いや、教えてくれて助かる。知らずに行動したら危なかった】

 教えてくれたツヴァイには感謝しないと。この情報を知らなかったら、軽い気持ちでとりピグまんを魔族の人に渡して「味見してみてください、気に入ったらぜひあのお店に~」なんてやる所だった。もう宣伝の必要が全くないレベルで有名になっている以上、とろビグまんを始めとしたピジャグ肉料理を売りに出すのは危険すぎる。

【アースはほぼ一か月間、あの店にいたから恐らくそこらへんが分からない状態に陥ってると思って、こうやって忠告しておいたんだがよかったぜ。流石に知り合いが望まない状態に追いやられるってのはいい気分じゃないからな……だが、マジでアースは気を付けろよ。各街の領主も、とろビグにご執心って奴だ。更に他の街の料理人もその調理法を何とか盗み出そうと躍起になってる。今や魔族の人達にとって、とろビグとかピジャグ肉の生姜焼きの調理法は、一獲千金を狙える金の延べ棒みたいなもんだ】

 赤いダイヤなんて言われる一級品のマグロみたいな扱いか。

【しかし、そこまで詳しいってのは、ツヴァイも何か聞かれたのか?】

 この自分からの問いかけに、ツヴァイは一回ため息をついてから──

【ああ、あの街から他の街に移動して来た連中はみんな聞かれるよ。特に俺達は実物を食ってるわけだからな……食った事をこぼしたら、すごい食い付きで話をねだってきたんだ。本当にそんな柔らかいピジャグ肉が存在しているのか? とか、美味かったのか? 噛んだときの感覚はどうだったのか? とかの質問がすごかったぜ……あれは疲れた】

 おそらくツヴァイだけじゃないな。ブルーカラーのメンバーはもちろん、お店に来た魔族の皆さんもそんな質問をされたんだろう。つまり、口コミって奴だな。そして興味が渇望に変わり、お店に誰だけの人が連日押し寄せる形となったか。連日仕込んだ肉全てが売り切れになるってのはさすがに異常だと思っていたが、一つの店がどんなに頑張っても全ての魔族の皆さんの口を満たせるわけがない。提供できる場所の少なさが招いた現象だったのだ。

【それは何というか、すまん。そんなつもりで店を教えたわけじゃなかったんだが】

 この言葉には【分かってるって、アースがそんな事を考えてるとは夢にも思ってないから心配しないでくれ。他のメンバーもそこは意見が一致してる】との事で一安心だ。

【と、ここまでが一つ目の話だ。で、もう一つの話なんだが……メテオに興味は無いか?】

 なんですと?
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