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今後の活動方向

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「とりあえず魔剣の話は一旦終わりにしようぜ……個人的に受けた精神的なダメージがでかすぎるが。それはそうとアースはこれからどうするんだ? あの料理の日々から解放されたんだろ?」

 なんて言葉で、ツヴァイが話の方向転換を図って来たので付き合う。それとツヴァイには大雑把にこっちの状況をメールで教えていたからな、しばらくの間あのお店でひたすら料理をしていたって事は知っている。

「とりあえず、また薬草や木材が取れるダンジョンに入る予定。目新しい素材が取れなかったとしても、薬草はたくさんあればあるほどありがたいからね。いつどういうタイミングで大量のポーションが必要とされる日が来るか分からないし……しばらく公式イベントも無いから、そろそろ何かしら仕掛けて来てもおかしくないから在庫は潤沢にしておきたいと言った所」

 運営が派手に動くイベントってしばらくないんだよね。大抵MMORPGでは数か月単位で何かしらのイベントが運営によって行われるものだが、そう言った方面では運営は沈黙している。ちょっと不気味だよねって声も掲示板なんかで上がってるな……確かにここのゲームの運営は斜め上に突っ走りすぎている所が多いから気持ちは分かるけど。オーガキス事件とか。

「それならアースさん、また今回も私が同行しましょう。あのダンジョンとは相性も良いですし」

 そう言って来たのはカザミネ。切る攻撃がメインのカザミネなら、あそこに出て来る植物系のモンスターには効率よくダメージを与える事が出来るだろう。でもちょっとその前に確認をしておかないといけない事がある。

「それはありがたいんだけど、以前ツヴァイが言っていたギルドメンバーの方はどうなってる? ギルドメンバーを鍛えているんじゃなかったっけ?」

 いくらブルーカラーの初期メンバーが自分との傭兵契約をしてくれているからと言って、相手の都合を全く考えずにメンバーを借りる訳にはいかない。暇なら付き合ってもらうけど、用事がある時に無理してきてもらうのは心苦しい。ソロが無理なら臨時のPTを組んだって良いのだから、無理してきてもらう必要はない。

「ああ、そっちの方は大体終わった。というか、最低限の事だけを教えてあとは他の人に迷惑をかけない限りは自由に動いてもらってる。そうしなきゃ面白くないからな……一から十まで全てを教えてしまうと、何の楽しみも無くなってしまうだろ? たまに名作のゲームで『記憶を消してもう一回最初からやりたい』って意見も出てくるように、最初の高揚感とか緊迫感を他の人から奪っちゃダメなんだよ。その辺の感じはアースも分かるだろ?」

 このツヴァイの言葉には全面的に賛成だ。最低限の知識は立ち回りに必要だけど、それ以降はやっぱり自分の手で確かめていかないとね。一通り終わったら、情報を見るなりなんなりしても良い。この辺はコンシューマーゲームなんかにおける情報サイトや攻略本と同じような面がある。最初は何も見ずにクリアして、二回目からは色々と情報を集めて効率を求めたり隠し要素を発見したりする方が自分的には良い。最初から隠してある強烈な装備やアイテムの情報とか、対峙する相手の弱点が丸わかりになっていると試行錯誤も偶然見つけた時の喜びも無い。それじゃゲームじゃなくて作業じゃないかと個人的には考える。

「その意見には賛同するな、確かに攻略に関する情報ををいきなり全て知っちゃうと面白くなくなってしまう。それこそ興醒めと言った話になるか。──じゃあ今回もカザミネ、ミリー、カナの三名に出張してきてもらう事をお願いできるかな?」

 この三人は以前にも付き合ってもらったメンバー。そして実力も高いしバランスも良い。だからこの三人を指定したのだが……

「あー悪い。そこに俺も加えてくれないか? そしてあのダンジョンに行くと言うのなら、ちょっと相談があるんだが」

 と、ツヴァイも参戦の意を示してきた。別に問題はないのだが、相談か。何か問題でも発生してるのかね?

「薬草をこっちにも流してもらえないか? 実は最近ギルド内でのポーション消費量が大きく増えててな。ギルドメンバーがいろんな所でレベル上げに挑戦しているからなんだが、消費に見合った生産が出来てない状態になりつつあるんだ。その理由が薬草不足で、効果の高いポーションを作るために必要な薬草がもうほぼ在庫切れになってしまってるってギルドの薬師プレイをしているメンバーから報告されててな、買い集めてたら資金がいくらあっても足りないんだよ」

 なるほど、それは辛いな。かといって戦いに出向いているメンバーにポーションを使うなって言う訳にもいかないしな。ブルーカラーの経済状態がどうなっているかなんて知る由もないが、協力できるところは協力しておきますかね。さっき笑ってしまった詫びも兼ねて。

「了解、なら六:四の割合でいいか? こっちが四で良い。どのみちあのダンジョンはソロ行為は厳しいし、ブルーカラーのメンバーの実力は信じている。そんなメンバーに来て貰えるのだから、こちらが四でも十分な取り分になる」

 ダンジョンに行けなければ、収入はゼロだからね。だったら自分の取り分をやや少なくしても行った方が得だ。それに、やっぱり友人価格とか友人優遇とかはあっても良いと思うのですよ。何もガッチガチに固め切らなくても十分やっていけるのだから。もちろんリアルではガッチガチに固めなければいけない所はあるが、それをこっちにまで持ち込んでもねえ?

「悪い、正直助かる。薬草を集めに行きたいのはやまやまだが、ギルドメンバーにはアースの様なゼネラリストっていなくってな……最上の物や生産安定のためには生産一点特化のスペシャリストの方が良いってのは分かるんだが、いざ素材最終となるとアースのような人材が居ないのがもろに響くのが辛い所だ。草があるからって適当に持って帰って鑑定して貰ったら、大半が雑草だったとか採取方法が悪すぎて使えない状態になってしまっていたなんてのがざらだからな……やっぱりスキルが無いとまともに採集するのは無理だ。かといって生産のスペシャリストの方は全く戦えんから、ダンジョンに連れて来ると簡単に倒されてしまうし」

 あーうん、そうなるよね。これ、掲示板でも言われてる事の一つ。特に薬草採取場が特殊なダンジョンになってしまっている魔王領では大きな問題になりつつある。他の国や地域でも薬草採集は行われているが、取れる量は確実に減っているんだそうだ。理由は単純で取りすぎ。何せ世界全体で消費されるポーションの量は非常に多い。過去を知っている人の中には、再びポーション不足の事件が起きるんじゃないか何て怯えている人もいる。さらに、薬草の栽培も成功例が無いらしい。

 その一方で、魔王領内のダンジョンで取れる薬草はまだまだ数が多い。しかし、重力の向きが変化したりする上に植物系統の厄介なモンスターが出る場所なので、戦いに向かない生産者を護衛するにも完ぺきとはいかない状況になっているらしい。戦えないと言うのは予想以上につらい物で、重力反転による落下ダメージだけでも相当重い物になるらしい。極端な例を出すと、戦闘能力が一定以上ある人は一割にも満たないダメージで済むが、生産者が同じ状況に陥ると八割以上のダメージを受けるような物なんだとか。下手をすれば即死。もちろん生産者だって重い物は持つし、重労働もするのだから並の人よりは丈夫ではある。しかし、だからと言って満足に戦えるわけではないという事になるんだそうだ。

「という訳で、重力の向きがコロコロ代わるあのダンジョン内に生産者を連れて行くにはあまりにも厳しい話になっちまってるからな……フィールドならこれといった問題点も無く護衛できるんだが、ここのダンジョンでは色々と勝手が違い過ぎてな……無理に連れてきて死亡させたら、デスペナ中はステータス低下による生産成功率が著しく低下しちまう。人によってはそれが原因で感覚が狂って、デスペナが解除された後もしばらくの間生産するアイテムの品質が下がってしまうって事もあったからなぁ」

 これも運営の狙いなのかね。複数の成長属性を持つスキルを習得すると成長限界を下げるような仕掛けをしておいて、後半になって来るほどに二足の草鞋を履く人が居ないと困る様にもしておく。その二足の草鞋も、物理攻撃と魔法、物理と生産、魔法と生産、全て取ると選択肢もいくつかあるから尚更厄介な話になる。

「確かに生産者の人を連れてこれる場所じゃないからね……ツヴァイ達と潜ったあの溶岩洞窟の様なダンジョンだって、生産者の人が入ったらあの熱で衰弱させられてモンスターではなく地形によるダメージでコロッと殺されそうだからな。まあ、なんにせよ手に入った薬草はきちんと分けるよ。こっちとしても手を借りられるのは大きなプラス要因なんだから」

 と、話を纏めて翌日から薬草を取る為にダンジョンに潜ることにして今日は解散した。以前行ったときはイマイチな結果だったが、今度はどうかな。
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