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これから。

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「いやー、笑えるほどの効果が出たぜ。それと同時に、コミュニティ形成スキルって奴の恐ろしさも痛感したけどな……」

 先日からさらに数日後、ツヴァイの口からこぼれた言葉がこれである。ツヴァイはあれから、ギルドメンバーに対してポーション消費を今までの四分の一に抑えて欲しいと通達を出したらしい。普通はこんな通達をいきなり出されたら反発も出るもんなのだが、そこはハーレムギルドと名高いツヴァイのギルド。ギルドメンバーはその要請を迅速に実行に移したらしい。ある位程度いる男性も、ツヴァイに対しての敬意とか尊敬している面があるようで素直に従ったとかなんとかと、ロナが言っていた。ツヴァイに向けられている尊敬の内容がどういった物なのか、そこがちょっぴり気になる。

 で、ポーションをギルドメンバーが使わなくなったところ、ツヴァイに対してポーションの出どころを聞いてくる声がある日を境にぱったりと届かなくなったらしい。本当に急に声をかけてくる人間が消えたので、少々気味が悪かったとツヴァイは語る。そして同時に、それぐらい監視の目をギルドメンバーに向けられていた事にイラつきも覚えたとかなんとか。まあ一種のストーカー行為を仲間全員が受けてたような物だし、イラつくのも無理はないと思うが。

「とまあ、ちょっとすっきしりない点があるのは事実だけどよ……とにかく鬱陶しい連中が来なくなったのはありがたいってのは間違いなく本音だな。『どこで薬草かき集めてんの』とか、『ポーションに余裕があるなら回してください』とかのメッセージが本当に邪魔だったぜ……ギルメンには窮屈な思いをさせちまうのが申し訳ないが、薬草稼ぎの回転数もうかなり落ちてきたからな……今は我慢してもらうしかないか」

 どうやらツヴァイ、複数のプレイヤーからメール攻撃を受けていたようだ。とにかくお疲れ様としか言いようがない。

「ポーション節約は仕方ないわ、実際私達も集めるのが困難になってきてるものね。日に日に伸びるダンジョン入場待ちの列を見るだけで少々うんざり気味なのはアタシだけじゃないよね?」

 ノーラの言葉に、全員が同意する。いやほんと、ズラーっとまるで有名新作ゲームが発売になる当日みたいに人がダンジョン入り口が発生する付近に人が並ぶ姿が日常になってしまった。お蔭で一日では一回入るのがやっと。それで薬草が取れるエリアに入れれば良いが、ハズレパターンを引いてしまうと泣くに泣けない。あれから自分を含めたダンジョン侵入メンバーははずれを引いてはいないが、掲示板だと長時間並んでハズレ引かされた、運営○ね! なんて言葉もいくつか見かける。気持ちは分かるよ、うん。

「HP回復は出来るだけ魔法と食事で行う形になってますね。露店もHPを回復させる効果がある料理はかなり早い速度で売り切れになりますし……このゲームは満腹度が満タンでも食べ続ける事は可能ですからね。戦闘終了後にHPが減っていて、MPが少ないと言う状況なら迷わず食べて回復すると言う人はかなり見かけます。ギルドメンバーでもそうやっている人は多いですし」

 カナさんの言う通り、HPの回復を促進する料理の価値がここに来て爆上げ状態となっている。ポーションの様に即効性はないし戦闘中には当然食べる余裕なんかないのでできないが、それでも戦闘終了後に手ひどいダメージを受けている時などは迷わず食べて回復にかかる時間の大幅な短縮を図るのだ。ただ山ほど食べる為か、リアルに帰るとしばらくの間食欲がわかなくなる人も出てきていると言う話も聞く。まあ満腹になって苦しいと言う状態にはならないとはいえ、食べた感覚と味はある訳だからなぁ。大量に食べればその辺の感性が狂う事も十分にあり得るか。

「リアルでやったら全員食べ過ぎによる腹痛で何もできなくなるな。ゲームだからこそ可能な荒業ではあるが……ああやってがっつくのは少々精神的に堪える」

 レイジが嫌そうな表情を浮かべつつ呟く。ポーションだったら軽くくぃっと飲むだけで済む事なんだけどねえ。飲めない状態でも体に振りかければ効果は出るから何が何でも口に含まなければいけないと言う事はないからな。

「その料理で思い出しましたが、アースさんは大丈夫なんですか? その、色々な意味で」

 カザミネの言葉に、自分はこう返すのが精一杯。

「あんまりだいじょばない……」

 この自分の返答に、ブルーカラーの皆さんは苦笑を浮かべる。また黒衣の料理人として魔族の皆さんに問い詰められることが増えてきたのだ。もちろん全員に違いますよと返答を返しているのだが、聞いて来る魔族の皆さんの数はここ最近で増加傾向にある。おそるべしとろピグの広がり具合。ここまで多くの魔族の皆さんが食いたい料理になると、あの時は全く予想してなかったよ……。

「でも、そのマントって多分だけど魔族のお偉いさんから貰ったんでしょ? そうじゃなきゃ即座に脱いでしまえばいいだけだもんね」

 ロナの指摘のとおりである。実際街中では小さく自分に向かって敬礼して来たり頭を下げて来る魔族の方がごく少人数ではあるが居るんだよね。つまり、このマントの本当の姿を見抜ける実力者が少数とは言えあちこちに居るって事で……そんな人達と何時出くわすか分からない以上、魔王領にいる間このマントは脱げない。もし脱いでいたら、おそらく魔王様かその側近に連絡がいきそうな気配がするんだよね。考え過ぎかも知れないが、自分が魔王領に来て早々やらかした事は相当に大きい。このマントは褒美であると同時に魔王様との友好関係の証になっている可能性もあるから、なおさら脱ぐ訳にはいかないのだ。もちろん性能的にも。

「アースさん。魔王領の探索はあらかた片付いて来ている事ですし、ここはひとつしばらくの間魔王領を離れてみてはいかがでしょうか? 正直あれだけ大勢の魔族の人に毎日詰め寄られるのはストレスでしょう。だったらいっそのこと、魔王領を離れて他の国をのんびり回ってきた方がよいかも知れません。それに、ブルーカラーの初期メンバーで話し合ったのですが、とりあえず薬草取りのためにあのダンジョンに通うのはアースさんの反対が無ければしばらく見合わせようと言う結論も出ています。もちろんアースさんが行きたいと言うのであれば今まで通りの流れでも一向にかまわないのですが、どうでしょう」

 ふむ、カザミネの言葉も最もか。自分としてもそろそろ魔王領意外の場所に出向きたくなってきていたし、ツヴァイ達に取り付いていた可能性のあるストーカー連中も引いたとなればソロに戻っても問題はないか。それにさすがに連日同じ場所で薬草探しばっかりやっていれば流石に飽きて来る。それにずーっと頭上に居るアクアもちょっと運動不足気味だし……ここいらで目一杯走らせてやった方が良いかも知れない。

「そっか、そう言う話が出てるのならここらへんで一回解散するのも良いか。それに他の国にもこちらが気づかないうちに新しい何かが生まれている可能性もあるから、ソロ活動再開と行くかねえ」

 このまま魔王領内に居ても、作業をしているような行動ばっかりになりそうな気もしていたからな。頃合いという事にしておこう。それにPTプレイばっかりで、蹴りを全然使っていないと言う問題もある。ルイ師匠に会いに行く前にもう一度磨き直さないと怒られてしまう事になる。そんな展開は避けたいな……もし魔王領に何かあっても、アクアが本気で空を飛べばあっという間に戻ってこられる。そこら辺の心配はする必要がない。

「あ。ねえツヴァイ、アタシもソロ活動していい? ダンジョン行くときはアタシの一番弟子のあの子を連れて行けばいいから」

 と、突如ノーラがそんな事を言い出す。

「ん? そりゃ別にかまわないが、急だな。ノーラ、何かあったか?」

 ツヴァイが首をかしげながらノーラに問いかける。

「えーっとね、実はあるスキルへと進化させたいんだけど、その条件の幾つかがソロプレイじゃないと達成するのが非効率的なのよ。だけどそれの進化に成功すれば、《短剣》系スキルと《盗賊》系スキルが融合するみたいで、スキル枠が一つ空くの。そうなれば、もっと強くなれそうなのよ」

 へえ、そんなスキルもあるのか。まあ短剣と盗賊ってのは色々と縁がある組み合わせというか定番の一つか。それに十枠しかないメインスキルが一枠開くってのはデカい。そりゃノーラじゃなくっても習得したいわな。

「そう言う理由か、分かった。ノーラ、頑張ってきてくれよ。もし何かあったら連絡する、もちろんアースにも連絡は流すから連絡先は閉じないでくれよ?」

 ツヴァイに言われた言葉に苦笑する。一時期酷くメールとか飛ばされたから、その対策として一切のメール等が届かないように設定していた事も過去にあったな。ま、とにかく明日からはソロ活動再開だ。まずは人族の街に戻ってみるか。そこで情報を集めて、どの国に出向くかを決めれば良いだろう。
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