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異常事態発生?

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「やれやれ、今はどこも一緒か」

 ログイン前に掲示板を見に行ったが、どこでも薬草が足りないと言う事に対するやり取りばかり。しかしこの状態がいつまで続くのやら……農業系統のスキルを持っている人が、薬草にまでは至らなくてもその代用品としては使える者を生み出してくれる事に期待するしかないのかも知れない。例えば砂糖を得るのにサトウキビが育たないからテンサイを育てるような感じで。今、ファストの街にある個人倉庫の中にかなりの薬草を眠らせていると言う事は知られない様にしよう。過去に龍の国六が武の街で貰った薬草がまだまだ残っていたりするのだ……かといってむやみとポーションを作って売りに出したら、どこで薬草を手に入れたんだって問い詰められるだろうから、いましばらくは死蔵しておくしかない。

「とりあえず、今日もログインしてアクアの体をブラッシングしてあげた後に外を走らせますかね」

 と、今日の予定をつぶやきながらVRのヘッドセットを装着してログイン。ここまでは今までと同じであった……しかしログイン後、自分は真っ暗闇の中に立っていたのである。

(なんだこれ、バグか? それとも何かのエラーでも発生したか?)

 暗視能力がある為に周囲を見渡せるが、それでも真っ暗闇なのでとりあえず今の自分の状態を確認する。弓が無い。両腕につけている小盾も無い。足につけてある蹴りの補助具も無い。魔王様から貰ったマントは装備している。ドラゴンスケイルメイルセットも大丈夫。円花は……出せる。左手の薬指に指輪が無い! ルエットの声も聞こえない……慌ててアイテムボックスの方も確認するが、回復アイテムや強化オイルといった道具全てが無い。矢も無い。スキルの方を確認したが、弓や生産スキル系統が暗転しており、触ってみると『封印されています』との説明が。一体何があった? 使えるスキルは、〈砕蹴〉〈百里眼〉〈技量の指〉〈蛇剣武術身体能力強化〉〈ダーク・スラッシャー〉〈義賊頭〉〈隠蔽・改〉以上。変身も封印されていると出るな。随分と能力が制限されている。

(──原因は分からない。だが、バグとかじゃない様だ。何かがあるな、これは)

 バグだったらこんなことにならずにもっとおかしくなるはずだ。例えば完全動作不能とか。だが体自体は普段通り動くし、蹴り系統のアーツも試し打ちしてみたが問題なく発動する。そんな体の確認作業を行っていると、視界の端が徐々に光を放ち始める。なんだ? と考える暇も無く光は一気に辺り一面に広がり、その眩しさに目を反射的に閉じてしまった。恐る恐る目を見開くと、自分の目に映った物はスラム街の様な所だった。

(強制移動? しかし、ここはどこだ? MAP表示はほとんど死んでいるし、そもそもこんなスラム街はファスト、ネクシア、サーズの街どれにもなかったはず……しかし座り込んでいる人や歩いている人を見る限りでは、ここは人族の街だろう。ごく稀に獣人の人が居るが……)

 とにかく、何が起きたのかを確かめる方が先だ。武器やスキルが一方的に制限され、道具を全て取り上げられているこの状況は正常とはいいがたい。そう言えば、グローもゼロになってしまっている。金まで取り上げられてるのか……だが、ワンモアではこんなバグが発生しているなんて情報は目にしていない。公式HPでもエラーの報告は無かった。そうすると、この状況は自分に何かをさせたがっていると言う可能性がある。普通のゲームならあり得ないが、ワンモアならそんな無茶をいきなり押し付けてきても不思議に思わない。自分もワンモアに毒されてるな。

「おう、そこの真っ黒い外套を着たにーちゃん。良い物着てんなぁ? ぜひ俺達に譲ってくれよ?」

 考え事をしていると、そんな頭の悪そうな男たち六名ほどに絡まれた。何だろう、異世界転移もののお話だとテンプレだろって突っ込まれる事必死なこの連中は。──それは横に置いておくにしても、この外套をよこせって言われても、YESという訳がない。つまり、このあとやって来る行為も読めるってもんだ。少しだけ体を動かし、何時でも蹴りを繰り出せるように体勢を整えてから口を開く。

「生憎だが、これはある方から貰った大切な物でね。他の人に譲る訳ないは行かな……行動に移るのはこっちが台詞を言い終わった後でもいいだろうにねえ? ん?」

 譲る訳には──の所で、もう我慢できねえとばかりに突っ込んできた三名を蹴り飛ばして迎撃した。何とも、こらえ性が無いな。スラムって事で予想はしていたが、予想以上に治安も良くなけりゃガラの悪い連中も多い様だ。やれやれ、面倒だ。

「てめえ、良くも俺達の仲間を!!」

 そんな事を言いながら、懐からナイフなどを取り出すが……何の脅威も感じないな。ノーラとPVPした時の様な張りつめた空気が無い。念のため周囲も確認するが、自分に敵意を向けて来てるのはとりあえず目の前にいるこいつら三人だけのようだ。他の連中は傍観に徹して、自分がやられたら後でハイエナでもするって所だろう。まあ襲ってきたら円花を抜ことで対処させて貰うだけだが。

「脅してきたのはお前ら。仕掛けてきたのもお前ら。寝言を言うな」

 ちょっぴりイラッときたし、人に刃物を向けた以上話し合いにもなりゃしないと切って捨てる。予想通りに残りのナイフを抜いた三名は自分に襲い掛かってきたが……うん、弱い。おそらく妖精国のモンスターと戦える人なら、鼻歌交じりで倒せるレベルでしかない。蹴り倒して地面に這いつくばらせてから、さらに蹴りをねじ込んで六人全員の右肩を破壊する。こういった手合いに変な情けをかけるべきじゃないからな……どうせ見逃したって一方的に逆恨みしてくるのは容易に想像できる。ならばもうナイフを使えない様に右腕か肩を破壊しておく方がまだマシと言う物だろう。この場所では〈義賊頭〉の行動時にとる敵には容赦しない冷酷な思考で行こう。

 肩を破壊された六名は悲鳴を上げながら地面を転がっているので、後は放置した。しばらく自分が前に歩くとその六人に一斉に群がる周囲にいたスラムの人々。恐らく持っているナイフや服、多少のお金などは全てひん剥かれるのだろう。スラムってのはそう言う場所だ……兎に角こんな場所に留まっていてもしょうがない。ここから脱出する方法と、封印されたスキルや亡くなった物を取り返す手段を見つけないと。絶対に何らかの方法があるはずだ。

 そうしてしばらくスラム街を歩き回ってみた。それにしても広い、スラム街の規模だけでファストの街とほぼ同じ大きさだとマッピングしながら思う。地名も分からないし、このスラム街からの脱出方法も分からない。このままではちょっとよろしくないな、と考え始めていた所にそいつは来た。

「よーう、随分とこんな場所に居るのに良い物を身につけてんなぁ? 俺が貰っといてやるよ」

 またか、と思って声のした方に視線を向けるとそこには浮浪児、と表現するのがぴったりの男が一人。しかし、その腰に下げられている剣だけは不釣り合いなほどに怪しい輝きを見せていた。鞘なんか無い、本当に剣をなんかの革ひもで釣っているだけだ。

「生憎だが、そう言う訳には行かないのだが」

 自分が断りの一言を口にすると、そいつは舌なめずりをしながら非常にうれしそうな表情を浮かべた。その表情に恐怖を感る事は無かったが、嫌悪感は感じさせられる。

「そうかいそうかい、そりゃあ都合がいい。素直に差し出されたら、お前を切り刻む理由が無くなっちまう所だったからなあ!」

 言うが早いか、腰の剣を手に取って自分に目がけて斬りかかって来たのでバックステップで回避する。予想できる動きだったからな、回避は容易かった。それに、剣速もかなり遅かった。こいつも大した強さじゃないな。それだけに使う剣がやけに上物って所が気にかかるが……油断は禁物か。いつでも円花を抜けるように心構えだけはしておこう。

「へえ、逃げ足だけは早いな。良いぜ、そうでなくっちゃあ面白くねえ」

 勝手な事を。さっさと終わらせとくか? ──いや、あの剣には何かありそうだと直感が告げている。あと少しだけ様子を見るべきだろう。

「違う、俺の足が速いんじゃない。お前の剣がのろますぎるだけだ。そんな剣じゃ、剣先にハエが止まって手をすり合わせるんじゃないのか? ん?」

 軽い挑発をしてやると、実に分かりやすく顔を真っ赤にしてこっちに剣を振って来るが話にならない。振り方が滅茶苦茶なせいでより剣速が落ちてるから最初の一太刀よりも回避しやすいったらない。変な話だが、こんな所で自分も強くなっているんだなと感じてしまう。何より剣の先を冷静に見れている自分が居るのだ。何とも奇妙な気分だが、まあいい。むやみやたらと剣を振って、疲れてきた様子を見せる相手にカウンターで一発蹴りを入れてやる。それだけで、相手は軽くふっ飛んだ。

「はあ、こんな軽いカウンターでそんなざまか? 剣が泣いているぞ」

 立派な剣であるがために、使い手の残念っぷりがより際立ってしまう。

「──ぶっ殺す!」

 そんな自分の挑発に対して、そう一言だけ相手は返すと剣先を向けて……いや、剣先を飛ばしてきた。とっさに首をひねって回避したが、今のはかなりのスピードだった。なるほど、こいつは剣の強さで他者から色々な物を奪って来たって事か……そしてあの剣は、スネークソードだったって事か。さて、どうするかね。



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作者より読者の皆様に連絡です。新刊製作の作業が近く始まる為、更新頻度が落ちます。
どうかご理解のほど、よろしくお願いします。
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