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円花の悪夢 第二幕その二

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 ターゲットははっきりしたが、さてここからどうしよう。強化オイルとかが手持ちにあるなら、兵士が固まっている今のうちに突っ込んでばら撒くと言う手段もあるのだが……とりあえず様子をもう少しだけ見よう。突入するタイミングを間違えたら、英雄二人まで敵に回る可能性がある。なので、助ける形で割って入って最悪でも英雄二人とは中立状態にしておきたい。もしくは英雄二人がやられて油断した所を強襲して、指揮官の首を刎ねてこの時代の円花を破壊すると言う手段もあるが……それは、ちょっとなぁ。義を名乗れなくなってしまう行為は避けたい。

「私や我が王の終わりはもはや覆しようがありませんが、貴方達二人もその終わりに付き合って頂きますよ。二人とも、まともに死ねるとは思わないでくださいね? 我が王を玉座から引きずり落とす大罪を犯した事を後悔させて差し上げます。この魔剣で死なない程度に切り刻み、我が王の前で「殺してくれ」と懇願するぐらいには血を流して痛みを受けて生き地獄を味わって頂かないと」

 と、指揮官は鞘からこの時代の円花を抜き放つ。それとほぼ同時に英雄二人も魔剣を抜いた。当然、指揮官の後ろに控えていた兵士達も武器を構えていつでも突撃できる体勢に入っており、一触即発の雰囲気が漂う。後はちょっとした切っ掛けで戦いが勃発するのは誰の目にも明らか。そうして数秒ほどお互いに向かい合っていたが、指揮官がこの時代の円花をスネークソード状態にして英雄二人に振るった。英雄二人はその攻撃に反応し、片手剣の英雄は盾で受け流した。しかし、剣で受けたスネークソードの英雄がその切っ先を剣で受けた所……英雄の魔剣があっけなく砕け散った。

「なっ、俺の魔剣が!?」

 砕け散って魔剣の破片が周囲にばら撒かれた。不味いな、スネークソードの英雄はこれといった頑丈な防具を身につけているようには見えない。あれでは回避以外に身を護るすべがないし、兵士たちが集団に襲い掛かってきたら武器が砕かれている為に反撃できないのだから、逃げる事もできなくなるぞ。さらに《危険察知》は追加でやって来ている兵士と思われる反応が英雄たちの背後に回っている事を教えてくれている。このままでは二人の英雄達は逃げる事すらできなくなる。

「はっはっは、やはり剣が寿命を迎えていましたね。確かに貴方達二人は英雄と呼ばれるほどの強さを持っている事は認めましょう。しかし、その強さの何割かは持っていた魔剣があってこそ。その魔剣が無くなれば、貴方達と言えど複数の兵士を跳ね除ける事は難しい。そして、後ろを見なさい。もはや貴方達に逃げる場所はありませんよ。さらに先に教えてあげますが、川に飛び込んだところで魔法の氷で壁を作り、網を投げて捉えるだけです。さあ、どうですか? 勝ち目も逃げ場も無い状況と言う物は? 私や我が王の味わった絶望感が少しでも理解できましたか? では、じっくりと嬲って差し上げましょう」

 徐々に詰め寄る兵士達。スネークソードの英雄は武器を失ったし、片手剣の英雄一人では強引に突破することは難しいだろう。二人は進退窮まったか……こうなるから、アイテムボックスの中に剣が二振り入っていたんだな。この二振りの剣は、あの英雄二人に渡すべき物、そうと分かれば後は行動するだけだ。この時の円花のトラウマは英雄二人を嬲り者にしてしまった事なんだろう。それを、阻止する。アイテムボックスからスネークソードを取り出し、鞘に入れたままで英雄の前の前に落ちる様にぶん投げる。

「そいつを使え、この場で生き延びる事を諦めるには早すぎるぞ!」

 突如聞こえた自分の声は、この場を一瞬ではあるが硬直させた。その硬直の間に、剣がスネークソードの英雄の前に落ち、すぐに英雄は剣を手に取って鞘から抜き放つ。ためらいが無いな、まあためらっていたら死ぬだけな状況下だからかもしれんが。

「何者です! 姿を見せなさい、この二人と一緒に嬲って差し上げますよ!」

 おやまあ、予定が狂った指揮官がかなりお怒りの御様子。でも普通に姿を見せてもつまらないので、英雄と自分の間に居る兵士を草むらから出ると同時に薙ぎ払って登場する。流石にこの一撃で倒せはしないが、それでも尻餅をつかせたり転ばせることは出来た。それに兵士の鎧も円花の刃が当たった所はひびが入っている。後一撃当てれば両断できそうだ。随分と脆い鎧だな……いや、円花の一撃が重すぎるのか。そうして生まれた隙間から、自分は英雄二人の元へと到着。

「お前は一体……?」

 片手剣の英雄が訝し気な視線を向けて来るが、アイテムボックスにあった片手剣を渡しながらこう一言告げておく。

「訳あって、一方的に助っ人として押し掛けさせてもらった。話はこいつらを全て薙ぎ払った後に行おう!」

 敵が目の前にいるのに長々と話が出来るのは古き良きRPGの世界だけです……いや、そんな事も無いのか? しかしワンモアではできない。指揮官の「構いません、あの者は殺してしまいなさい!」の声と共に兵士の皆さんがこちらに向かって襲い掛かってきてるし。

「何でもいい、とにかくこの場を切り抜けようぜ! 俺の死に場所は決まってるんだ、こんなつまらねえ場所じゃ死ねねえんだよ!」

 スネークソードの英雄の言葉に無言で片手剣の英雄が頷いた後は早かった。英雄の二文字は伊達ではなく……兵士たちは時代劇のクライマックスの様に兵士たちをなぎ倒した。もちろん自分も円花を振るって
戦ったが、戦果で言うならスネークソードの英雄四、片手剣の英雄四、自分二という割合だろう、たぶん。史実では負けたんだろうが、それは武器を折られた事による戦闘能力の大幅低下が原因なのだろうな。自分が割って入って、武器を渡したらこの結果なのだから。後は指揮官がちょこちょここの時代の円花で邪魔してきたが、それは全部自分の円花で阻止させて貰ったぐらいか。ポーションもほとんど使わずに済んでしまった。

「当初の予定が大幅に狂った……あの黒外套め、何者です! あいつが居なければ……」

 現在、相手の戦力は最初から比べると七割ダウンといった所か。残った三割も明らかに腰が引けている……ま、三人を相手取って一人も倒せないどころか同僚が次々と薙ぎ払われちゃったんだから無理も無いけどな。今更指揮官が掛かれと言った所で、誰が先陣を切るんだって心境だろう。一騎当千は千人と一人で掛かれば倒せるから大したことはないと言う人もいるが、じゃあそのブッ飛ばされて命が消える千人は誰が行くんだよって突っ込みたくなったっけ。向こうの残った兵士たちの心境はそんな所だろ。

「この二人にはまだ大きな仕事が残っているから生きて貰わないと困るんだよ。そして──この部隊を指揮しているアンタには個人的な用がある。お前の持っているその魔剣、砕かせてもらう」

 そう宣言して、円花の切っ先を指揮官に向ける。さあ、自分にとってはここからが本番だ。しっかりとこの時代の円花を砕いて、指揮官を斬り捨てるか二度とこんな事が出来ないようにしておかなければ。
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