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戻ってきたはいいけれど

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そうして自分はベッドの上で目を覚ます。上半身を起こして周囲を確認──うん、ログアウト前に泊めて貰った妖精城の一室だ。そしてさっそくアイテムボックスの確認……やはり予想していた通り、あの剣や支給されていたポーションは消えているな。これであの世界限定で使える物品という考えで確定した。装備品はログアウト前のまま何も変わってない事を再確認して……新しく出てきたINFOを確認。


INFO:貴方はその身に取り込んだ魔剣・円花のトラウマの一つを破壊しました。これによって、新しい円花の専用スキルである《パニック・ウェポン》が解放されました。《パニック・ウェポン》は、相手の武器に円花の刀身を当てる事により、付与されている能力を弱体化、もしくは低確率で効果を反転させる効果があります。特に魔剣に対して行うと、効果が非常に高くなります。なお、防具や人、モンスターには効果を一切発揮しません。


 新しいスキルが追加か。これはツヴァイの魔剣にも起きた事だったな。で、これは相手の武器の特殊効果を弱体化するアーツなのか。反映されたのは、あの指揮官がスネークソードの英雄の剣を叩き折った所からかな? 魔剣に対しての効果が高いってのは。対人戦をやる人ならばこれは強烈な効果になるか……魔剣持ちの人に大きなアドバンテージになる。自分には関係ないけどね。

(マスター、おはようございます。ご様子から、魔剣の世界に呼ばれたと予想しますが)

 おっと、ルエットから声が掛かったか。アクアも「ぴゅい」とあいさつして来たので、頭を軽く撫でてあげる。

「ああ、とりあえずそこであった事をかいつまんで説明させてもらうよ」

 ルエットに、先程の世界であったことを一通り説明する。ルエットも時たま相槌を打ちながら聞いてくれた。その説明をしながらここを出る準備も整え、ルエットからの意見を待つ。

(なるほど、英雄二人が不仲というのは英雄たちの策の一つだったのですね。そうして戦争を止めようと動いていたと……その詰めで、ひとつ前の妖精王が動かした配下の手にかかっていた為にあの歴史に記されている記録が尻切れトンボの様になったのですか……もちろん円花さんの記憶なのですべてが正しいとは言えないと言う点はマスターと同意見ですが……もし、全てが過去に起きた事実だとすれば、英雄と呼ばれる人は本当に報われない物ですね)

 その点は全く持って同意するな。まあ一人殺せば犯罪者だが百人殺せば英雄なんて言葉もあるから、報われないのも自業自得という見方もできる。結局戦争という状況下で、その手を血で汚している事は事実。それだけの事をしてきた以上、最後が悲劇で終わるのも因果応報なのかもしれんが……止めよう、いくら考えてもこの手の話には決着がつかん。

「妖精国と他の国が戦争を終えても、スネークソードの英雄が公開処刑という解りやすい形で罰される事なく表舞台から姿を消してしまったから、英雄二人の考えていたよりもはるかに妖精国と他国との緊張緩和は時間がかかっただろう……特に龍族とは一番やり合ったらしいから、いまだに尾を引いている所も今までの活動の中で時々見受けられたしなぁ。彼らの思惑通りに事が進んで他の種族に分かるように決着がついていれば尾を引く時間も短かっただろうに。結局あの時失脚した妖精王は、未来の妖精全員に多大な迷惑をかけ続けているって事になるな」

 この自分の言葉に、ルエットからは(当時の失脚した妖精王を殴りに行きたいですね)のコメントを頂いた。実際に会えたら殴るどころか三枚におろしそうなぐらいの殺気を指輪から感じるんですが気のせいですかねえ? うん、気のせいって事にしておこう。

「──うむ、それはまた置いといて。今回はそれなりに戦闘を行ったんだが……スキルの成長が一切ないな。アイテムを持って帰れないのは分かるが、成長すらなしか……前回は戦闘と呼べるレベルじゃなかったから成長しないのは分かるが、今回は兵士相手にそこそこ戦ったんだが」

 スキルはどれも上がっていない。これもまたルールの一つという事にしておこう。ただ、結構乱戦を凌いだのにスキルが全く上がっていないってのはちょっと損をした気もする。

(特殊な状況下における戦闘と言う物は、大きく成長を促す事が多いのですが……残念ながらそれに当てはまらないのですね)

 ルエットの言う通り、プレイヤースキル的な意味だけじゃなくスキルのレベルアップ的な成長もあって良いような気もするが、そこにいちいち愚痴を言っていても始まらないか。さてと、後は久しぶりにゼタンの所に顔を出して、その後に南の砦街に足を延ばそう。それとミミックの三姉妹が運営しているダンジョンにも顔を出してみるか。妖精国を出るのはそれらに出向いた後でも遅くないだろう。

「城に長居するのも不味いから、そろそろ行こうか。欲を言えば英雄たちの目的などを妖精達に知らせたいけど……証拠も証明する物も何一つないから伝えようがない、か」

 この一点は心残りだが、汚名を返上させるためには何かしらの証明できるものが必要だ。そんな物に心当たりはないし、結局は闇に葬られるだけか。せめて自分だけでも覚えておくぐらいしかできないが、それで許してもらうしかないな。

(そうですね、私の元ととなったぽけぽけ妖精女王が戻ってくるといろいろと面倒です。さっさとお暇する事にしましょう。英雄達に関しては、マスターと私が記憶にとどめておくのが精一杯でしょう)

 をいルエット。お前さんも結構容赦ないな!? まあ同意見ではあるんですけどね? クィーンが戻る前に出て行くと言う面も英雄たちに関しても。アクアを頭にのせて部屋を後にすると、ちょうどよく城のメイドさん出会ったので、城から出る事を伝えた所、外まで案内してくれると言う。なのでそのままそのメイドさんの案内で城門まで案内してもらった。

「またいらしてください、貴方様で張ればいつでも歓迎いたしますので」

 外に出る時にそう言われたので、「その時はよろしくお願いします」と返答を返して妖精城を後にした。さてと、この時間帯だとゼタンは学校かな……前にあの学校を訪れてからしばらく経つが、どうなったかな? そんな軽い気持ちで向かったのだが……なんだか学校周辺に到着すると妙に騒がしい。なんだかギャーギャー騒いでいる様な……なんとも穏やかじゃないな。そうして到着すると、ゼタンの周囲に複数の妖精達が騒ぎ立てている姿を確認。何かトラブルか?

「どうしてうちの子を入学させないんですか!」「ちょっと、それはこっちの台詞よ! この学校に入ると冒険の成功率が高まるし、色々な知識を得る事が出来るからぜひ入学させてほしいのに、なぜ断るのですか!?」

 うーん? つまりあそこでゼタンを囲んでいる複数の妖精達は、ゼタンが運営する学校への入学を断られた子供の親なのかね。ゼタンは困った表情を浮かべながら──

「いや、入学させたいのはやまやまですがね……もううちの学校は定員を迎えてしまっているんですよ。皆様の大事なお子様をお預かりする立場ですからね、こちらもしっかりとした訓練や食事、知識を与える義務があります。その義務を十分にこなせる限界にもう到達してしまっているんですよ。ですので、今鍛えている子供達が卒業するまでは新たに生徒を迎え入れる訳にはいかないのです」

 ああ、定員オーバーじゃあしょうがないのか。が、そんな事を周囲の親妖精はちっとも聞いていない様子である。

「何も十人二十人入れろって言ってるんじゃないわよ! 一人ぐらいねじこめるでしょ? あんた校長なんだから!」「ちょっと、入れるならうちの子にしてよ! うちの子は絶対成功する子なのよ! そんなうちの子を指導できるってだけでも十分名誉なことになるのよ! 分かったらさっさと手続きをなさい!」

 ──何が悲しくて、こっちの世界でもモンスターペアレントを見なくちゃならないの。滅茶苦茶な事を言っているので、ゼタンも大弱りだ。かといって、学校の事に関しては部外者な自分が割って入れる内容ではないしな……もし暴力をゼタンに対して振るえば即座に止めに入れるようにだけはしておくか。それにしても定員だから無理だと言われているのに、文句をあれだけ叩きつけて何が何でも自分の子供を無理やり入れようとしている姿ってのは醜いな。

「ですから、無理な物は無理なのですよ。指導がおざなりになって死者を出すような真似だけはこちらとしては絶対に避けなければならない事なんです! それは校長として絶対に譲れないラインなのです! 皆様は一人二人増えても問題ないだろう何ておっしゃいますがね、一人増えるだけで指導と言う物は非常に難しくなります! ですから此処でいくら騒がれてもこれ以上の生徒をお預かりするわけにはいかないのですよ!」

 ゼタンの声も大きくなってきたな。相当にイラついているのが嫌でもわかる。だが、そんなゼタンの声を聞いても周囲にいる親妖精の前には全く効果が無い様だ。さてどうするかねー……あんなモンスターペアレントの連中に正論は意味がないし。かといって手を出せばこっちが一方的に悪者扱いだ。言葉のナイフをあれだけ投げつけている連中に悪者扱いされるのは納得いかないが。さっき出てきたばっかりだと言うのに、もう一度妖精城に戻って兵士の皆さんを借りてくるしかないかな──あれじゃ学校運営の妨害だし、兵士の皆さんに止めに入ってもらうしかないだろう。


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お知らせにも書きましたが、近日中に作品を一部取り下げます。
ダークエルフ編の書簡提出までが取り下げ範囲となっています。
11巻が発売されるためですので、ご理解の程、宜しくお願いします。
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