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地下十一階

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 ダンジョンと言う物についての感覚が大きく揺らいだ翌日、自分は地下十一階の攻略に乗り出した。この地下十一階から、ダンジョンの空気が大きく変わっていた……まず、モンスターのランクがオーガレベルまで一気に跳ね上がった。オーガ、イエティ、バーサーカーアントといった強いモンスターが闊歩するようになっており、数もそれなりに多い。更に罠の内容も大幅に変更されており、毒のレベルは大きく上がってレアレベルの解毒ポーションでないと対処できない。また、小さな石が飛んでくるといった被害の少ない罠は一切なし。この階層からは罠がどれもこれも致命傷になりかねない被害を与える物になっている。

 更に石化系統の罠が追加。全身が石になってしまったら、ソロの自分はそこで全滅なので恐ろしい罠である。この石化の罠もガスタイプで吸い込んでしまうと石化する物と、ビームの様な物を浴びせて来てそれに触れると触れた部分が石化する物の二通りを確認。ガスの方は息を止めれば何とかなるが、ビームの方は危なすぎる。発射してくるエネルギーの弾が生成されたのちに石化ビームがふっ飛んでくるのだが、その発射までの溜め時間がほんの数秒しかなく、引っかかってしまった場合はすぐに伏せるか球体の下を《スライディングチャージ》でくぐって裏に回るかしないと当たってしまいそうになる。まあその流れ弾が後ろにいたオーガに命中して石化したおかげで罠の内容を理解できたのだが。ガスの方は灰色の煙だった事と、これまたイエティが石化した所で判明。

(なんか、モンスターに追いかけられたところに罠を踏むと言うパターンが多いな……しかも追われて走っている状況下だと罠の見落としがひどいし。罠のレベルも高いが、罠の隠蔽レベルも高いと見ていいな。ちゃんとモンスターのサーチはしてるのに、なんだかさっきから突然自分の真横や背後にぽんという効果音がつきそうなかんじでモンスターが湧いてくるのが気になる。──もしかして、そう言う将官罠がこの階層にはかかっているとか?)

 もし、そんな召喚罠が有ったら最悪だ。偶然だと思いたいが……そんな罠は今のところこのダンジョン内で確認できていないのだから、対処できない。罠の識別に偶然ながら協力してもらった形になったとはいえ、心臓にはあまり宜しくない。次湧いたら下手に逃げずに戦った方がよいかも知れないな。もちろんその湧いたモンスターが単体ならの話になるのだが。複数来てしまって逃げられない時は……頭に乗っているアクアの力を借りるしかない。でもそれじゃ自分の経験にならないから、極力頼らない方向で進めたい。

(それにしても、十階の宝箱から手に入れたこの片眼鏡はいい仕事するな。今まで以上に罠の機構を見やすくなったから、解除作業がやりやすい)

 罠の機構部分だけを拡大してくれる効果があるので、のぞき込むと言った行為を取らなくてもよくなったのが大きい。鍵穴をのぞき込んだり罠の機構を見る為に作業体勢を崩さなければいけない事など当たり前で、今まではそれが常識だったのだが……その常識もこの片眼鏡があれば過去の事となった。そしてしっかりとした姿勢で作業できれば、解除速度も上がるし失敗率も下がる。片眼鏡事態に成功率アップの能力が付与されているが、それ以外の部分でも効果を発揮してくれる良品だ。罠を解除する役目を担当している人ならだれもが欲しがるだろう。後で掲示板に情報を上げておくことにしようか。

 ポチポチとマッピングをしながら進むが、いまだに下におりる階段が見つからない。まあ無理も無い、どうもマッピングから察するにこの地下十一階からは地下一階から九階までのサイズよりはるかに大きくなっているのだから。多分四倍ぐらいかな? 今ようやくダンジョンの端と思われる壁を見つけて、マッピングして来たサイズから考えるとその辺だと思う。これから地下二十階を目指すためには、一階層ごとにマッピングを済ませてから最短距離を割り出して進む形を取らなきゃいけないか。そうしないと時間がかかりすぎて、自分のログイン時間内では突破できそうにない。

(今の時間は……十時三七分か。そろそろ今日は帰らないと駄目だな。階段探しは明日に持ち越しだ)

 十分な睡眠時間を設けないと、次の日に響く。徹夜なんてもってのほか。徹夜なんかしたら体調はガタガタになるからなぁ……学生時代はそうでもなかったんだが。それに過去の事故で負った傷の事もある。体に無理をさせれば、古傷は容赦なくその口を開けて痛みと共に襲い掛かって来る。そんな事態に陥らない様に、休むときはしっかりと休まなければならない。サービス残業なんてものは出来る限りお断りだが、基本的な労働が出来ない、では社会人として話にならん。

 帰りはマップを見ながら戻ればよいし、罠もまだ復活していない。モンスターはさすがにうろついているが、突如真横や後ろに湧かれない限りは戦闘を回避できる。一回湧かれたけど。その湧いたオーガさんは、円花で拘束して蹴りで吹き飛ばしてトドメに風迅狩弓のアーツ《二矢の競演》で射ぬいて瀕死に追い込む。その後は覚えたが今まで一回も使った事のない〈義賊〉のアーツ《奪い取る》を試してみた。オーガ辺りなら何か良いもの持ってるんじゃないかなーと。だが、奪い取った物はレア等級の解毒ポーション。まあ自分で使えるからいいかな……その後はさっさと円花を使ってとどめを刺して終了。円花のトラウマ解除を二回行ったおかげか、円花の動きが良い。それに展開コストも減っているから、以前より気軽に使えるのも嬉しい所だ。後幾つトラウマがあるのかは分からないが、全部解除させるぐらいの勢いで頑張ろう。

 その後は特にトラブルも無く、地下十階に戻る階段に到着。時間もあと数分で十一時になってしまうな、急いでログアウトするために宿屋へと戻ることにしよう。ログアウトしたら、この片眼鏡の情報を盗賊関連の掲示板に上げておくか。入手確率がちょっとわからないが、一定以上の腕がある盗賊系の人ならばソロでやれるレベルだったから問題はないだろう。もちろん過去のログを確認して、同じ情報がすでに上がっていれば書かないが。

「お帰りなさい、どうでしたか?」

 地下十階に上がると、店員さんがそんな言葉と共に出迎えてくれた。

「地下九階までとは全く違いますね。広さもそうですが、生息しているモンスターのレベルや罠の難易度などが段違いでした。ここからが本番である、というダンジョンマスターさんからのメッセージとも受け取れました」

 そんな感想を伝えると、店員さんは満足そうに頷く。

「そうです、この地下十階まではある程度の力があれば来れますが、地下十一階からは厳しくなるので本番と言ってよいでしょうね。我がマスターも十階までは半分観光気分で来れるように設定していらっしゃると聞いたことがありますので」

 あ、やっぱりそうなのか。地下十階までは小手調べって事か。それにしては宝箱の中身が良かったが、そう言うエサも無いと人は集まってこないか。どんなに立派なダンジョンを作っても、人が来なきゃ意味がないから……それなりのエサが必要になる。経験を稼ぎやすいとかお宝が手に入りやすいとか、そう言う人の欲を掻き立てるエサが。

「道理で。ここからは一階ごとにコツコツとやっていく必要がありますね……では、今日は失礼しますね」

 店員さんに別れを告げて街まで帰還し、そこからは宿屋に戻ってログアウト。ログアウトした後にPCに向かって盗賊掲示板で『片眼鏡 罠 解除成功率アップ』と検索をかけてみる。すると、アイテムの情報はあったが、かなり品質にばらつきがある。最高品質は今のところレジェンド等級で、最低品質はコモン。当然性能も差があって、レジェンドは罠の解除成功率アップや防御アップだけでなく、MP回復効果などの追加オプションがついている。一方コモンは成功率アップの数値も一%止まりで罠の貴公部分を拡大する能力も無く、さらに攻撃を受けると割れて目を傷つけてしまうというマイナス効果まで付いていた。

 どうやら盗賊系の皆さんにとってはもはやメジャーな一品であった様で、調べずに書き込まなくて良かったと一安心。しかしドロップ情報は募集されていたので、ミミック姉妹のダンジョン地下十階にてハイレア等級の片眼鏡を発見と書いておく。レジェンド等級ならともかく、ハイレアぐらいなら問題はないだろう。もちろんほしい人がそれなりに来るだろうが、それはダンジョンマスターにとっても都合がいい事だろうから、そこも気にする必要はない。さて、今日はこれぐらいで休んでおこう、明日もしっかり仕事をこなさないとな。
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