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ファストへ

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 そして、久々にアクアに本来のサイズに戻ってもらってから乗り込み、一気に空路で移動。アクアの飛行速度なら、妖精国から人族のエリアに移動するのに対した時間はかからない。アクアも元の大きさに戻ると嬉しそうに空を飛ぶ。本当ならもっと本来の姿で居させてあげたいんだけど、自分と同行してもらう以上、どうしても小さい姿で居て貰う時間の方が多い。ダンジョンの通路だとアクアが本来の大きさになってしまったら完全に動けなくなってしまうしなぁ。

 人気のない所に下ろしてもらい、ファストの街へ。あちこち行っているせいかファストの街が懐かしく感じる。さて、まずは倉庫に向かって以前龍の国の薬師から貰った薬草袋から薬草を補充してから、街を軽く歩いて今日はログアウト。龍の国に向かうのは明日以降で良いだろう。倉庫に入り、薬草袋の中身を確認。うん、まだまだ在庫はあるな……と言っても、あくまで個人的に使う範疇の話であって、これを大勢の人に配るほどの量はない。ひとまず費用な分だけをアイテムボックスに補充。ついでにいくつかのアイテムを整理して身軽になっておく。もちろんかさばっても〈義賊頭〉の仕事に必要なアイテムは持ち歩かないといけないけど。

 いくつかのチェックの後、倉庫を後にする。以前作って壁に掛けてある騎士剣も崩れ落ちることなく健在だったのはホッとする。使わなければ壊れないんだろうけど、やっぱりボロボロの剣だからちょっと怖いのも事実……けど、あれを今の鍛冶屋が打ち直したらもうそれは別の剣になってしまう。それじゃ意味がないような気がして、下手にいじれないって所があるな。

 倉庫の用事が済んだ後は、ファストの街をのんびりと練り歩く。アクアが頭の上に鎮座しているので、たまに女性プレイヤーが『あれ可愛い~』なんて指さしてきたりもする。街中なので、たまにはと思ってフードとドラゴンスケイルヘルムの装備を解除して素顔を曝した状態だ。街を出ればまたフル装備になるのだから、今ぐらいは気を抜いた装備で良いだろう。いざって時も対応できるように、他の部分の鎧は一切脱げないのは、これまでの経験上仕方がないだろう。突然街にモンスターが襲い掛かって来るなんて突発家イベントをやらかすワンモア運営なんだから。

 街は相変わらず活気があり、そこにいる人も様々だ。何せ今まで出会った種族のほとんどがファストの街を歩いているのだから。妖精や龍族といった主要種族に加えて、ケンタウロスやハーピーもちらほら。ハーピーは以前獣人連合の南で出会ったみんなとは別だな、顔つきが違うし。そんな街の行為を楽しみつつ、いくつかの露店から食べ物を買ってアクアと一緒に食べたりしていると、声を掛けられた。

「すみません、ちょっとお時間いいですか?」

 声が聞こえた方向に視線を移せば、そこにはまさに今始めたばっかりです! と一目で分かる初心者装備を身につけた女性プレイヤーが。なんだろ、何か困った事でも起きたかな?

「ええ、大丈夫ですよ。何か問題がありましたか?」

 時間もあるから話を聞いてみたが、この女性プレイヤーの話を纏めると、『これから何をすればいいのかが分からない』の一言で片が付くだろう。つまり、VRの参加装置一式は手に入ってやってきたはいいが、そこで何から手を付ければいいのかが分からない。更に何をすればいいのかが分からなかったので、キャラクターメイキングでもスキルを一切選ばなかったんだそうだ。で、こっちの世界に入ってから話を聞いて、それからスキルを取ることにしたんだとか。というか、今のキャラクターメイキングってそんな事も出来るんだね。自分が始めた時はスキルを最初に十個選ばなきゃ始められなかった気がするんだけど。

「スキルもいっぱいありますし、ますますわからなくなっちゃって……ジョブとかも無いですし」

 ワンモアは自由度が高い。逆を返せば何をするのかを自分で決めて行動しないと何にも始まらないと言う事だ。冒険がしたい、物を作りたい。魔法を使ってみたい、家を建ててみたい。どんな目標でも構わない、やってみたい事があればそれをゴールとしてそこにたどり着くまでの方法を考える事が出来る。が、この初心者さんにはそう言ったとりあえずのゴール目標が無いのだろう。だから何も始める事が出来ずにいるんだろう。じゃあどうするか? 話をすればいい。やりたい事を本人に自覚させる。

「まあ、最初は悩むよね。じゃあ大雑把にいくつか質問するよ? もちろん答えたくないなら答えなくていいからね」

 この自分の言葉に、初心者さんは頷いた。さて、まずは。

「まず最初の質問。このゲームを友達をやる予定はある? もしくは一緒にやる人がもう決まってる?」

 これが決まっているのなら話が早いんだけどな。合流してもらって、後はやいのやいの話をしながら決めて貰えばいい。

「一応決まってはいます……でも、二人とも今日は急用が入っちゃって来れないって話で……」

 あれま、それは残念。じゃあ、次の質問に映っておくか。

「そっか、それはしょうがないね。じゃあ次。その二人とはどういう風に行動したい? 一緒に街の外に出ていろんな場所に行く冒険の旅か、それとも街に居て色んな武器や防具、食べ物やアイテムを作る生産者か? どっちをやりたい?」

 要は冒険者か生産者かって事。この二つは基本的に同居することがシステム上難しいから、聴いておかないといけない事の一つ。

「うーん、そうですね……一緒に旅をしたいです」

 ならば冒険者側だな。もちろん冒険者だって生産能力を取っちゃいけないと言う訳じゃないが、それはこの後の質問次第かな。

「分かった、冒険者側だね。そうなると、冒険には身を護る為にも一定の戦いをこなせる力が必要となって来るんだけど……どんなふうに戦いたい? 最前線に立って戦うのか、それともちょっと距離を開けて戦うのか。どっちが自分の居場所としてしっくりくる?」

 近接系か遠距離系か。とても大事な事なので、ちゃんと本人に決めさせないとね。それにワンモア世界は、ダメージを受けると痛みも感じるハードな一面もある。だからこそ、おすすめするのではなく本人に決めさせないといけない。自分の意思で決めた事なら、人間は意外と諦めずに粘る物です。

「遠距離は、友達の一人がやるーと言ってたから近接の方が良いかなぁ? 遠距離二人だと、ちょっとバランスが悪そうですし」

 そう言う考えもアリだね。もちろん前衛一人でもなんとかなるっちゃなるけど、当然その一人に負担がかかりすぎる展開も多い。それが原因でいがみ合うようになるのはよろしくないし。

「なるほど、じゃあ次。前に立つとなると、使える武器は剣、槍、斧、ナックル、短剣って所かな……後は補助として盾か。もちろん両手剣とかもあるんだけど、それは剣スキルなんかの派生らしいからひとまずはそんな所かな。先に行っておくけど、どの武器が強くてどの武器がゴミ何て事はないから。全部の武器に活躍の場があるので、好きな物を選んでいいと思うよ」

 敢えて言うなら短剣やナックルは射程が短い分扱いが難しいか。逆に槍は射程がある分かなり強い。時代劇なんかでも雑兵とされる兵士が持っている武器が大半槍なのは、強い武器だからなのである。が、どの武器だってきちんとスキルを上げて使いこめば強くなっていく。だから好みで選んで構わないだろう。

「メイスって無いんですね」

 ああ、そこに気が付いたか。そう、なぜかワンモアにメイスはない。メイスも重量こそあるが、その威力は高い一品なんだけど……なんで存在してないんだろうね?

「そう、なぜかメイスはこの世界にないんだよね。この世界における打撃攻撃というのは、半分斧が担当しているかな……アレは斬撃攻撃判定と打撃判定があるらしいから。純粋な打撃となると、殴る攻撃がメインなナックル系かな」

 他にも剣が多少。槍も殴る方法を取ればある程度。工夫すればできるって事で削除したのかね? ま、開発者しかその辺の事は分からないだろうから別にいい。

「そうですね、その中ですと……オーソドックスなファンタジーに習って、剣を使ってみたいです」

 ここまで決まれば、もうほぼ取るスキルは決まったような物だ。剣を生かすために必要な物を揃えればいい。

「じゃあ、その剣を生かすために……剣スキルはもちろんとして、筋力や体力と言った物理攻撃を底上げしてくれる補助スキル。そして鎧も着ることになるから、軽鎧か重鎧のスキルを取る方が良いね。ただ重鎧は重量が本当に重いから、しっかりと鍛えないといけないけど」

 残りは好きな物を取ればいい。盾も使いたいなら盾スキルを。剣以外の武器を使いたいならその武器に合わせたスキルを。

「あと、一つ大事な事があるからよく聞いてね。ワンモアの世界ではスキルって、大まかに四つに分かれてる。剣や槍と言った物理的な武器用いて直接攻撃する系統。魔法の力を使う系統。武器や食べ物、薬を作る生産系統、筋力などを上げる補助系統。補助系統はどのスキルとも組み合わせられるけど、物理系と魔法毛糸生産系を複数取ると、成長限界を迎えるのが早くなっちゃうからね」

 と、極めたいなら一つの系統と補助だけに絞った方がよいと言う事も教えておく。

「剣と槍、火魔法と風魔法、という組み合わせなら問題ないんですね?」

「そそ、そう言うのは問題ない。剣と火魔法とか、鍛冶と槍という組み合わせだと成長限界が下がる。ただ、そう言った成長限界が下がる組み合わせじゃないと発現しないスキルもあるんだよね」

「結構いやらしいですね……」

 そう、嫌らしい。成長限界が下がりますよーと言っておいて、それを組み合わせないと覚えられないスキルがある。それも一種の開発からプレイヤーへの挑戦状の一つではないかとも思うけどね。自分の人らめきが、この世界に受け入れられるかどうか試してみろって感じだろうか。

「もちろん、そんなスキルの発現に賭けたいと言うのであれば挑戦するのもアリ。堅実も良いし、少々賭けても良い。ただし自己責任でって所」

 そう伝えると、女性プレイヤーはうーんと声を上げながら悩み始めた。さて、どんな選択をしますかね?
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