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報酬タイム

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 その日、ファストとフォルカウスの街の中間地点辺りで三匹のブラックドラゴンが大勢のプレイヤーやこの世界の人に目撃された。ブラックドラゴン達は、長老がちょっとした珍味を食べたいので取ってこいと頼まれてしまったためにこの周辺で探し物をしていたと集まった人達に説明。それも見つかったので直ぐに立ち去る事と、周囲を騒がせた事を詫びて立ち去った。もちろん掲示板が直接見れた人と見る事が出来なかった人との応酬で盛り上がった事は言うまでもない。

 この作戦を立てたノーラ曰く、「だったら一回姿を堂々と見せて、バカバカしい理由を言わせて引き上げるそぶりを見せればいいのよ。とにかく、この話はもう終わったと言う事を大勢の人に知らしめればいいのだから」という事だった。実際、この後ドラゴンは用事を済ませて静かに引き上げたと言う話が広まって、それで全部終わったと今回の治療を受けたブラックドラゴンさんと出会わなかった人たちは結論付けたようで、噂はあっという間に無くなった。全てはノーラの狙い通りに終わったのである。この事により、ブラックドラゴンさんは安静に回復を待つことができるようなった。


 翌日。治療を受けて今はブラックドラゴンさんが密かに体を休めている場所に、前日集まったメンバーがもう一回集合していた。ブラックドラゴンさんから『少し時間をおいて、もう一度来てほしい』と頼まれていたからである。

『もう一度来て貰ってすまんのう。しかし、多大な恩を受けておいて感謝の言葉だけで済ますと言うのはわしの信念に反する事での。若い物に命じておぬしらへの報酬を運ばせた。遠慮せずに受け取っておくれ』

 との言葉と共に、いくつかの報酬が渡された。まずは多大な金塊。全員で山分けしたが、それでも一人当たりに分けられた金塊を売れば軽く数百万グローにはなるだろう。もちろんこの金を生産素材として使っても良いはず。もちろん金単体ではあまり意味がないが、過去の裁縫職人さんに作ってもらったレザー装備の様な補強具としての使い方をすればいいのだ。効果が何だったかはちょっと思い出せないけど。

 さらに、ブラックドラゴンの鱗も報酬の一つとして提供された。自然に抜け落ちた鱗の中でも、品質の良い物とそこそこの物に分けたうえでどちらも一人につき二十枚。言うまでも無い事だが、超をつけても足りないレベルの高級素材である。過去のイベントに出てきた灰色ドラゴンの様なMP強制消費等のペナルティは一切なしで、高防御、高攻撃力を持つ武具の素材になる。特に品質の良い物を使えば、おそらくは一生ものの武具が出来上がる事だろう。それに加えて武具に自己再生能力も付与されると説明があった。これによってよっぽどむちゃくちゃな使い方をしない限り耐久力が尽きる事が無いのもポイントが高い。

「ドラゴンの鱗が手に入る日が来るなんて……これでナックルを作ればすごい事になりそう! それに耐久力の心配もほとんどしなくていいなんて最高だね!」

 なんて事をロナが言っていた。テンションが上がっていたのはロナだけじゃなかったけどね……無理もない。ドラゴンの素材で作り上げる装備ってのは、やっぱりロマンと実用性の両方に期待できるから。

『こちらは私から。治療をお手伝い頂いたお三方のみとなりますが……』

 と、ホワイトドラゴンさんからも報酬が。ただ、これはブラックドラゴンさんの治療に参加した自分、ツヴァイ、カザミネの三名のみであったが……ホワイトドラゴンの鱗を、品質の良い物とそこそこの物を各三十枚づつ。

『私達の鱗は、あまり武器には向かないと思います。防具に使えば、貴方達の体を長く優しく護ってくれるはずですので、必ず防具に使ってください』

 とのアドバイスもついた。さて、貰ったブラックドラゴンとホワイトドラゴンの鱗があれば、現在進行形で無理をさせ続けているドラゴンメイルの二代目が作れるだろうか? しかし、問題は誰に作ってもらうか。さらに、〈軽鎧〉スキル無しでも着こなせる一品となるのか。この二点が問題となる。

 まず誰に作ってもらうかだが、これは腕前だけではなく口の堅さも大事になる。貴重品を持ち込んだから、どうやって手にしたのかを根掘り葉掘り聞いてくるような人は駄目だ。余計な噂が広まれば、厄介ごとなんていくらでもやって来る事は散々体験した。そして、今装備しているドラゴンメイルの後釜となってもらうためには、〈軽鎧〉スキルが無くても問題なく着用できる点と、行動をしても大きな音を立てる事が無い点の二つを最低でも満たしてくれないと切り替えられない。スキルの方は入れる枠に余裕がないし、行動する事でいちいち音を立てるのは〈盗賊頭〉の行動に制限が掛かりすぎる。

「良し、んじゃ鎧を新調するか! 今使っている鎧もかなりへたって来てるからな~」

 ツヴァイは早速鎧を新調することにした様だが……鍛冶屋に心当たりでもあるのだろうか? 自分が危惧した口の堅い鍛冶屋に心当たりがあるのかと問いかけてみた所、「ああ、それは問題ないぜ。前にアースに協力してもらったダークエルフの鍛冶屋を覚えているか? あの人なら信用できる」との返答が。そう言えば、ダークエルフの谷でそんな事もあったな。で、あの時地下に落とされて円花を手に入れる事になった訳だが……もう結構前の事だな。

「アースさんもどうです? もし作りたいのであれば、顔つなぎは私達が行いますが」

 カザミネの言葉に、少し考える。ブルーカラーのメンバーが信用しているのだから、人格とかは問題ないだろう。ただ、自分の鎧って確かドワーフが作ったんじゃなかったっけ。ダークエルフの鍛冶屋さんの腕前が悪いかどうかは一回も会っていないから何とも言えないが、今装備しているドラゴンスケイルメイルとほぼ同じものを作り上げる事が出来るだろうか? この鎧には色々とおかしい能力があったから、それを再現すると言うのは相当難しい事だなんてのは予想するまでも無い。とはいえ、ドラゴンの鱗の加工先に当てがないのも事実。

「ツヴァイ達の鎧が新調されて、その出来栄え次第ではお願いするかも。とりあえず今は保留で頼む」

 結論としては、完成品を一度見てから決めると言うちょっと卑怯臭い形に。ツヴァイ達は〈軽鎧〉スキルを持っているだろうから普通に軽鎧に属するスケイルメイルで問題はないが、こちらは鎧装備に関係したスキルを全く持ってないから、貴重な素材を使って普通では身につける事が出来なくなってしまうので非常に困る。まあ、良い物が手に入ったんだからそれぐらいはツヴァイ達にやってもらって、その出来具合を見せて貰ってもいいだろう。。

「それにしても、途轍もない報酬を貰ってしまったな。このメンバーの武器がいろいろおかしい事になりそうだが……迂闊に人前では使えないレベルになるやも知れん」

 ボソッとレイジが言葉を漏らす。今流通しているドラゴンの鱗と言えば、サーズの街の坂道を上った所にいるレッサードラゴンの鱗がメインだ。と言ってもレッサーという枕詞がつくので性能としてはあんまりパッとしない。それに見た目もなんかくすんだ汚い赤っぽい色なので人気も無い。なので、手に入れた人はたいていこっちの人達が経営してるお店に売り払ってしまうとかなんとか。過去の戦争で手に入った灰色ドラゴンの鱗は、もうとっくに品切れだろう。もしかしたらまだ持っている人が居るかもしれないけど、それは例外。

 で、そんな考えが一般的になっている所に、ドラゴンスケイルの装備に身を固めた一団が出たらどう思われるだろう? それも駆け出しとかじゃなくて最前線にいる人達がそんな装備に身を固めていたら? 当然疑問を持たれるだろうし、質問も飛んでくるだろうね。ああ、自分と同じ道をたどることになるんだろーな。今ツヴァイ達が身につけているマントは一般的な後ろのみの物だけど、鎧を一新したら、そのうち自分が使っている外套タイプになりそうだわ。

『それとじゃな、これは報酬というには少々微妙かも知れんが……アースと言ったかの? お主に個別に試してほしい食材があるのじゃよ』

 と、名指しで食材の提供?

『この肉はブル・フォルスの肉と言ってな。儂らが手に入れられる肉の中では最高級の肉なんじゃ。こいつを使って、何か料理を作れんかのう?』

 ブル・フォルスの肉? なんかずーっと前にどこかで聞いたような気がするが……どこだっけ? 思い出せん。とにかく、これがドラゴンの皆さんが手に入れられる最高のお肉様ですか。ひとまず味見と行くか……うすーく切って、軽く火を通して、塩コショウだけして味見。

「──え」

 美味しい。何というか、最高のトロの様にすぐ口の中でとろけるのに味はしっかりとある。それでいて、肉のしつこさがほとんどない。何これ……こんなおいしい肉があったとは。──でも。

「素晴らしい肉ですね。火を入れて塩コショウだけで物凄い旨みがある。それ故に……つまらなくもある」

 素材が素晴らしすぎるんだ、コレ。手を加える必要が無い。焼き過ぎない様に火を入れて、後はちょぴっとだけ味付けをして完成させるしかない。本当にそれだけ……今まで色々な食材で取り組んできた様な苦戦も何もない。だからつまらない。

『つまらない、と来たか。ふうむ、それはどういう事なのか聞いても良いかの?』

 都のブラックドラゴンさんからの質問に、素直に思った事を伝えておく。素材が良すぎるってのも考え物なんだな。とりあえずステーキにして、ブラックドラゴンさんとホワイトドラゴンさん。そしてブルーカラーの全員に食べて貰った訳なんだけど……ドラゴン側からの反応が大きかった。火を入れて軽い味付けをしただけなんだが、素材が良いからね。それだけで一級品の食べ物になっちゃうんだよ。


 フォルスステーキ

 柔らかく、肉汁もたっぷりな最高級ステーキ。

 製作評価8 一定時間全属性耐性(弱)付与 一定時間HP自動回復付与 一定時間MP自動回復付与


 と、評価も八が簡単に出ちゃったし、食べる事によって発生する追加効果もものすごい事になっている。全て素材が良いから、って一点が全ての理由になってしまうのがなぁ。腕の振るい甲斐が無い。確かに美味しいんだけどさ、このレベルだったら〈料理〉系統のスキルをある程度使った人ならみんなできそうな所がな。一級の料理人の方々だったら、簡単に評価十を叩き出しそう。唯一注意しなければならない所は焼き過ぎにならないようにする事だけど……それぐらいしかないとも言う。

『実に素晴らしいですね。少し手を入れただけで、ブル・フォルスの肉がさらに美味しくなるとは……本当に素晴らしいです』

 ホワイトドラゴンさんもそんな事を言いながら次から次へとお召し上がりになっている。と、そこに数匹のブラックドラゴンさんが。髭とかが一切ないので若い個体だと思うのだが何だろう?

『お待たせしました、ちょ……上からの指示で、数人の人族を乗せて空の旅を楽しんでいただく準備が整いました』

 あ、これはブルーカラーが最初に希望した報酬か。最初のせるつもりだったブラックドラゴンさんがこんな状態だから、代わりに乗せてあげられる面子を寄こしたって事なんだろうな。ブラックドラゴンさん達はしっかりしてるねぇ。過去に顔を合わせたグリーンドラゴンとは全く違う。

「ドラゴンの背中に乗って空を飛ぶ……楽しみですね~」

 相変わらずいつもニコニコ顔のミリーであるが、少々その笑みが普段とは違う。そんな感じで、ブルーカラーのメンバーはブラックドラゴンさんの背中に乗って、空中の旅に出かけて行った。自分はアクアが居るからね、ここは辞退した。まあ、ブラックドラゴンさんとホワイトドラゴンさんがもっと食べたいと言う表情を浮かべていたってのも残った原因の一つかな。
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