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ブラックドラゴンからの頼み、完了

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『今回は本当に世話になったのう、心より感謝するぞ』

 さらに翌日。治癒が進んで飛んでも良いですよとのホワイトドラゴンさんの許可がブラックドラゴンさんに下りた。そうなれば、当然ながらブラックドラゴンさんはここを立ち去ることになる。でも、本来こんな場所にドラゴンが居るということ自体が異常事態であり、一刻も早く立ち去った方が良いだろう。下手にここに長居をして万が一見つかってしまったら、ファストの街はまた騒がしくなってしまう。

「いやいや、こっちも貰う物は貰ってるし、気にしないでくれよ! それよりも、落ち着いた場所で養生してしっかり治してほしいぜ。せっかくみんなで治して奇麗にしたんだから、体を大事にな! おそらくお嬢様も、今のドラゴンさんを臭いとは言わないだろうしさ」

 ツヴァイの言葉に、皆でうなずく。臭い原因となっていた部分は切除してホワイトドラゴンの治癒を受けた今は、あのきつい匂いは完全に消えていた。一応今日も確認のためにブラックドラゴンさんの背中に乗せてもらって匂いを確認したが、再び匂うようなことは無かった。更に念を入れて、自分とブルーカラー面子全員でブラックドラゴンさんとおまけでホワイトドラゴンさんの体をしっかり磨いておいた。鱗もピカピカになったし、これでこちらが出来る事はすべて終了と言った所か。

『あの程度の品、命を救ってもらった上にこちらの悩みも解決してくれた恩人に支払うには少ないほどじゃ。だから、ここで宣言しておこうかの。貴殿らに感謝を示す証として、貴殿らの行動に理がある場合に限り、途轍もない窮地に陥った時に我らブラックドラゴンが駆けつけよう。無論それを当てにした無謀な行動をとってもらっては困るが……普段は頭の片隅にでも置いといておくれ』

 ドラゴンの援軍とは……凄い宣言だな。ピンチにドラゴンが駆けつける、何てロマンのある話だ。ツヴァイ達も驚きと興奮が入り混じった声を次々と上げている。

「まさか、ドラゴンがそこまで言ってくれるとはな……いかん、震えが止まらないぞ」

 レイジがそんな事を言っている。武者震いかも知れないな。その心境は理解できるよ、ドラゴンにここまで言って貰える展開なんてそうそう無い。

『それでは、今回は失礼するぞ。後ほど、他の手段を用いて貴殿らにもその後どうなったかは報告しよう。またいつか会おうぞ!』

 そうして、ゆっくりと宙に浮かび上がった後に具合を確かめ終わったブラックドラゴンさんは、ホワイトドラゴンさんと共に空高く飛び上がって姿を消していった。これで今回の一件はほぼ終わりだな。後はブラックドラゴンさんが、お嬢様に臭いですーと言われなくなったかどうかの報告待ちだな。

「終わったね、それにしてもドラゴンさんと触れ合えるなんてすごいラッキーだったよ!」

 特にブラックドラゴンさんをペタペタ触っていたロナ。その表情は満足げである。

「何にせよ、まさにゲームでしか味わえない体験と言う物でしたね~。ドラゴンさん達も、温厚な方々で良かったです~」

 ミリーの言葉に、同意する声がいくつも上がる。ドラゴンって、ホント色々だからねえ……サーチアンドデストロイなパターンも、今回の様に話し合いが通じるパターンもあるから……ワンモアのドラゴンが温厚な方で本当に良かった。やっぱりドラゴンって存在は、強さだけの存在じゃない。色々と夢が詰まってる。

「後は、お嬢様に臭いですと言われない事を祈るばかりですね。こちらが出来る事は全てやりましたし、後は結果を待つだけですか」

 カザミネの言葉にもある通り、事の始まりはそれだったんだがな。最終的には予想以上の大事になったな。まさか臭いとお嬢様に言われたので対策を求めて来た事が、病の発見につながって命を救う切っ掛けになるとは……何が幸いするか分からん物だ。ブラックドラゴンさんは命を拾い、こちらは数多くの報酬を得た。双方にとって得る物が非常に多い一件であった。

「多分大丈夫だとは思うけどな。原因は完全に取り除いたし、念を入れて体も磨き上げたんだ。敏感な鼻を持つお嬢様なら、一発で変化に気が付くはずだ」

 で、あのブラックドラゴンさんが今度は笑顔になれる事を祈りたい。かなりがっくり来てたからなー、出会った時は。涙もぼろぼろこぼすし、心が折れかかっていたのではないだろうか? ブラックドラゴンさんの実年齢は知らないが、おじいちゃんと言って差し支えない位なはず。そんなお爺ちゃんが、孫娘から臭いですと言われたからグサッと来たんだろうなぁ。精神的には吐血していたかも。

「んじゃ、街に戻って解散しようぜ。ここに長く留まって居る所を他のプレイヤーに見られたら、何かあるのかと勘繰られそうだしな。それに、ドラゴンと話をしていたなんてばれたら面倒な事になりかねないから、この数日の事はギルドメンバーにも内緒って事で頼むぜ」

 それはまあ、言われるまでも無いね。過去に妖精国周辺で出会ったレッドドラゴンの一件も、他のプレイヤーには喋ってないし。それに、今の情報が行き渡ったワンモア世界であっても、人以外なら狩り対象とみなす人はそれなりにいるようだしな……今回のドラゴンなんて、そういう人達からしてみれば弱っているから倒して素材ゲットのちゃーんす! ぐらいにしか考えない可能性が高い。

「言われるまでも無いわよ。変に目を付けられて付きまとわれたら面倒な事この上ないもの。そう言う人ってどうしてもいるからねえ」

 ノーラが吐き捨てるように言う。過去にそう言う経験があったのだろうか? ノーラにしては珍しく、なんか恨みっぽい言い方なのが気にかかる。女性プレイヤーってだけで、付きまとうアホはどこにでもいるからなぁ……困った物だ。

「さて、街に戻ったら色々な準備を整えてからログアウトかな」

 このままだと、ノーラから負のオーラが漂い始めそうなので無理やり話の流れを変えておくことにした。下手な事を言ったら地雷を踏みそうだから。踏む可能性があるのは自分を含めた男性陣全員だ……何が切っ掛けで重い話とか暗い話が始まるか分かった物ではない。だから前もって地雷原とは別の道を進む事にするのである。

「アース、まだどこか行くのか?」

 自分の言葉に、レイジが乗って来た。良く見ると、レイジの目が感謝すると言っている様な……なので、気にするなと目で返しておく。理解してもらえるかは分からないけど。

「明日からは龍の国かな。仕入れたい食材もあるし、久しぶりに大きな風呂に入って寛ぎたい」

 さらに言うなら、円花の一件も調べたい。恐らく龍の国でも何らかの話があるはずだ。トラウマを破壊するだけ円花の力が伸びる以上、実利的にも感情的にもこなして行きたい。

「風呂か……アースは二が武にある旅館に泊まれるんだったな。あそこにあった風呂は最高だったからまた入りに行きたい所なんだが、女将さんからは今だ許可を貰えないのがなぁ」

 ほう、レイジは密かに挑戦してたのか。でもまだダメ、と。でもレイジなら、腐らず頑張っていればそのうち許可貰えるんじゃないかねー?

「私達は、ひとまずダークエルフの鍛冶屋さんに今回手に入ったドラゴンの鱗を持ち込んでみないと。その結果次第では、アースさんの真似をする必要が出てくるかもしれませんが……特に鎧がドラゴンスケイルになった場合は、外套を纏って見ただけでは分からなくする必要性がありますから」

 そうだな、そうしておいた方が良いだろう。特に今回手に入ったのはブラックドラゴンの鱗だ。はっきりと黒い鱗ってのは、自分のワンモア知識の中にはブラックドラゴンの鱗以外には記憶にない。もちろん知らないだけで存在する可能性も十分にあるが、数はそう多くないはず。そんな黒い鱗で作ったスケイルメイルを着ていれば目立つだろう。しかも一人ではなく複数人数が同時に着込んでいれば嫌でも目に付く。

「そうなると、良い外套を手に入れなきゃいけなくなるねー。まあ今回金塊もドラゴンさんから貰ったんだから、お金をガッツリ掛けちゃってもいいかな。良い防具にはお金ケチる訳にはいかないもんね」

 ロナの意見は正しい。装備は金食い虫だけど、掛けただけ相応の見返りをもたらしてくれる。金塊も貰ってるんだから、売り払って装備の向上資金にするのは一つの正解だ。自分もそうしたいんだけど、このドラゴンスケイルメイルは、どこの鍛冶屋さんもさじを投げるからなぁ。簡単な手入れなら良いんだが、今のドラゴンスケイルメイルは過去の一件が原因で、おそらく根本的な所にヒビが入った状態だ。

 そしてそのヒビは徐々に大きくなっているはずなのだが、そのヒビの進行を止める手段も、代替物を使った補修もできない状態。自分の鍛冶スキルじゃ、どこをどうすればいいのかさっぱりわからないし、かといって他のプレイヤーには見せられない装備なので手の施しようがない。なので、いつ突然バリンと砕け散っても良いように覚悟だけはしている。それしかできないとも言うが。

「んじゃ、また何かあったらすぐ呼んでくれ。よっぽどの所じゃない限りそっちに向かうから、遠慮なんかすんなよ!」

 雑談を交えながら街に到着した後、ツヴァイの言葉を貰ってから別れた。金塊を倉庫に置いたりしてからログアウト。明日からは龍の国で、円花のトラウマ探しになる。
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