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第二章 【食人鬼】は被食者の夢を見るか?
Episode 25
しおりを挟む--イベントフィールド 【決闘者の廃都】 ショッピングモールエリア
■【食人鬼A】CNVL
「……転移されないなぁ」
試合が終わって数分。私はまだ転移されていない。
休憩も終わり、そのまま座っていては身体が鈍ってしまうという事で、とりあえず反復横跳びをしているのだが……それにも飽きてきた所だ。
……実際、このVR空間で身体が鈍るって事はなさそうだけど、気分の問題だよねぇ。
そんな時。
もはや御馴染みとなってきた破裂音が響いた。
『すまない待たせ――何故反復横跳びをしているんだ……?』
「暇だったからね。グリンゴッツが来たってことは、もう片方の試合が終わったってことかな?」
『あ、あぁ。長引いてしまって先ほど終わった所だ。そちらの勝者が休憩を少しとった後、ここから予選決勝のエリアへと転移させる』
「了解了解」
やはりというか何というか。
もう片方の、スキニット側の試合が長引いてしまっていたようで。
これから少しだけ休憩時間をとるとのこと。
そんな話を聞いた後、彼に一度最初のフィールドへと戻るかどうかを聞かれたが、どっちにしろやることはないために、どうせならとショッピングモールを探検することにしてみた。
廃墟となったショッピングモールでウィンドウショッピングというのも、たまには乙なものだろう。
『――すまない、そろそろ転移させる。準備はいいだろうか?』
「ん、あぁ試合かい?問題ないよ」
手に持っていた、既に壊れていた小物を元の位置へと戻し。
軽くその場でジャンプして身体の調子を確かめる。
特に何か不調を訴えるような部位はなく。自身の得物も特におかしなところはない。
アイテムの在庫に関しても、ある程度残っているため、まだまだ【祖の身を我に】を筆頭としたスキルも使えるだろう。
『では、転移を開始する。君の試合の行方に幸あらん事を』
グリンゴッツがそう言った瞬間に、私の視界が歪み始め。
暗く、黒く。闇に染まる。
--イベントフィールド 【決闘者の廃都】 交差点エリア
視界が戻ると同時。
目の前にいる人物を見て、にやりと笑う。
「やぁ、試合長かったみたいだね」
「……やっぱりか」
予選最後の相手。
それは、同じ区画のプレイヤーであり。
囚人服で包まれた屈強な身体と、スキンヘッドがチャームポイントの彼の名は。
「さぁ、殺ろうぜスキニットくん!」
「CNVLさんとは戦いたくなかったんだけどなぁ……!」
私は右に出刃を、左にマグロ包丁を構え。
彼は左に盾を、右に片手剣を構えて。
カウントダウンが0となったと同時に、お互いが距離を詰めるために飛び出した。
私はインベントリから自分の頭の高さ……進行方向の空中に腐った肉片を取り出して、それを喰らい。
自己強化スキルを発動させた。
それに合わせたように、彼は何かを呟き。
瞬間、彼の身体に複数の文字が纏わりついて一気に彼の速度が倍以上に跳ね上がる。
そして瞬きをする間に彼我の距離は0へとなって。
私と彼の得物がぶつかり合った。
火花が散り、音が響き渡り。そして私の腕に強い衝撃が走り痺れ。
その感覚に頬が緩むのを感じながら、私は二撃三撃と彼に届くように左手のマグロ包丁を振るう。
型もなく。我流でもなく。ただただ力任せに振るうだけのそれを、彼は剣で、盾で防ぎつつ。時に身体の動きだけでそれを捌き切る。
単純に、プレイヤースキルだけで捌き切られ。
そのままの勢いで、スキニットは剣を振るう。
上段からのそれを、私は後ろへと跳ねることによって距離を取り避け。
一度、息を吐く。
「いや、強いねぇ。今どこまで攻略してるんだい?」
「……CNVLさんにいわれッと色々あれだな。背中を追ってるよ。まだHardの2Fだけどな」
「うちは私含めて前に出て攻撃する役が2人いるからね。その分敵を倒しやすいさ」
「それで何とか出来てるのがおかしいんだよな。きちんとしたタンク無しで攻略出来てんのがやべぇ」
苦笑いされながら。
私は仕方ないと肩をすくめ、しょうがないと薄く笑い。
【解体丸】と【菜切・偽】をインベントリへと仕舞い、代わりにナイトゾンビの腕を2本両手に取り出した。
「まぁ、私以外はゲーム経験者だからね。初心者なのは私だけだからさぁ……ご教授、お願いするよ?スキニットくん」
「はは、実力が上の人に教えることなんてあるのかねぇ……!」
そんな言葉を交わしつつ。
再度距離を詰めるために、地を蹴った。
先程まではスキルは乗っているものの、純粋な技量を使った……言わば肩慣らしで。
ここから先は、他のスキルを使った上での本当の試合の開始だった。
彼は動かず、その場にどっしりと構え。
私は彼へと近づき、まずは右手に持った腕を喰らう。
【祖の身を我に】が発動し、右手に甲冑と共に剣が生成され。
まずは一撃と、突くようにして頭を狙う。
但し、やはりそんな雑な攻撃では彼の盾を抜くことは出来ず。
咄嗟に頭を守るように構えた盾によって防がれてしまう。
刃先が刺さり、前へ進もうと力を込めても全くもって動かない。
完全に動きが止まってしまった私を見てチャンスと思ったのか、彼は横から剣を振るおうとする。
絶対絶命だろう。
しかし、それは持っている剣が普通の装備品だった場合は、だ。
私は咄嗟に【祖の身を我に】を解除し、その場で身をかがめ。
左手に持っていたもう一本のナイトゾンビの腕をコストに、再度【祖の身を我に】を使用した。
頭の上を剣が通過していくのを風の流れで感じながら。
再度手に出現させた剣を使い、彼の足を傷つけようとその体勢のまま薙ぐようにして振るう。
が、それは読まれていたのだろう。
スキニットはスキニットで、その場で軽く跳ねることで私の振るった剣を避けていた。
剣は光となって消えていく。
有効打が与えられない。
長引くだろうなと、そんな考えが頭に過りながら。
私は一度後転をするように背中側から転がりながら、腕の力を使って跳ねるように距離をとった。
……いやぁ。どうするかな、これ。相性が悪いパート2だよ。
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