Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

文字の大きさ
56 / 192
第二章 【食人鬼】は被食者の夢を見るか?

Episode 26

しおりを挟む

--イベントフィールド 【決闘者の廃都】 交差点エリア
■【食人鬼A】CNVL

攻撃を行えば、カウンターを返され。
回避を行えば、深追いをせずその場でじっと待つ。
スキニットの使っている系統が何かは分からないが、彼の戦闘スタイル的に考えれば、恐らくは防御寄りのDか何かではあるだろう。

通常、掲示板では攻撃にには向かないと言われていた防御系統ではあるが。
私は実際に防御系統ではあるものの、強力な攻撃を繰り出してきた相手を知っている。区画順位戦中に戦った禍羅魔がそうだ。
そして、今もそれと似たような相手と戦っている。

しかしその時と違う点ももちろんある。
それは相手であるスキニットの【犯罪者】の情報がある程度割れているということ。
彼の【立会人】という上位職のスキルは、色々と不便なものが多い。
そのどれもが、最悪でも自分以外に1人以上のプレイヤーが必要となる制限がかかっている。

例えば彼が今使っている文字が身体へと纏わりつく自己強化のスキル【身体ハード誓約プレッジ】。
相手となるプレイヤーが対して、自分が成し遂げたいと思っていることについて語りかけることによって、その『成し遂げたいこと』が達成できるまでの間、それに関係する身体能力を強化できるというもの。

といっても、その語りかける内容について相手が聞いている必要はなく。
ただ、それを使っているプレイヤーが何かを喋っていると相手に認識させれば良いとのこと。
面倒な事この上ない、面倒なスキルだ。

今も口が動いているのを見てしまったために、彼の身体……主に腕へと文字が伝う。

「また何か強化したのかい?飽きないねぇ!」
「そりゃ強化するだろうさ!俺の【立会人】は、長時間の戦闘の方が向いてるんだから!」

ゾンビスポーナーの肉塊を喰らい、拘束用の人型を出現させながら。
私は【解体丸】を右手に持ち、彼との距離を縮めるために再度地を蹴る。
先程の接近とは違い、今回はゾンビスポーナーの能力で出現した者たちと共に接近しているために、彼の対応も先程とは違うだろう。

まずは勢いのままに突きを。
それが身体の動きのみで避けられれば、そのまま身体を回すことによって体術へと移行する。
足狙いの回し蹴りを。後ろに退くことで避けられたものの。
私の出した赤黒い人型達が彼を追撃していく。

触れた瞬間にその身を使って相手を拘束するそれらに対し、スキニットがとった行動は簡単で。
盾をインベントリへ仕舞い、新たにもう一本剣を取り出して。
身体に触れないよう気を付けながら、彼らを切って切って光へと変えていく。

……まぁ、そうなるよね。ここが弱い所か。
薄々気が付いていたスポーナーの能力の弱点。身体に触れない限りはその最大の利点である拘束ができないというもの。
そんな弱点を露呈しながらも、この能力はやることはやってくれた。

今、彼が手に持っているのは剣のみで。
盾は仕舞っているために、防ぐものは何もない。
そんな隙を晒しているのだ。

私はソルジャーゾンビの腕を左手に取り出し。今もなお、スキニットに切られている人型達の身体を隠れて再度近づいて。
それらを後ろから叩き切るように、私は【解体丸】を斜め上から振るう。

当然剣によって防がれるものの。
即座にソルジャーゾンビの腕を喰らい、剣を出現させ。外から薙ぐようにして斬りつける。
スキニット側からそれが見えていたのかどうなのか分からないが、そのまま防がれる事もなく。
彼の脇腹へと私の持つ剣は到達した。

囚人服しか着ていないように見えた彼の身体から伝わってくる感触は、見た目以上に硬く。
ダメージを与えられたとしても、それは少ない量だろう。

しかしながら、やっと一撃入れることが出来た。
そう思ったのも束の間、スキニットは無理矢理に足で私の腹を蹴り飛ばし、距離を強制的に開かせる。

「ゲホッ……お、おいおい……レディのお腹に対してそんな蹴りを入れるなんてどういう了見だい?」
「人の腕を食らいながら襲ってくる奴は俺の知ってるレディではないからな、それにこっちは脇腹に食らっちまってる。おあいこだ」
「あはっ、そりゃそうか」

そんな冗談を言いながら、私は次にどうするべきかを考えるために頭をフル回転させる。
……身体の硬さからして、最初の強化はそっちかな。保険として掛けといた、みたいなものだろうけど。

切れないほど、弾かれるほど硬くはない。
しかしながら、人間の身体というには硬すぎるその硬度。
それが分かった時点で、私の選択肢の中から出刃を使うというものは消えていた。
アレを使うよりも【解体丸】やナイトゾンビの剣の方が硬いものに対しては適しているだろう。

かといって、それらが彼の身体に到達するまでの道筋がこれっぽっちとして思いつかない。
それこそ今さっきのような奇襲でない限り、正面からいっても技量の差で防がれてしまう可能性がある。

……あぁ、ジョンソンの肉残しておけば良かった!
スポーナーとは違い、その場にあるものを加工しスケルトンを作り出す能力である彼の肉さえ有ればまた違うのだろう、と考え自分で全て食べてしまった事を思い出し嫌になる。
食欲旺盛というのも、時に欠点になるものだ。

一度息を吐き。しっかりと相手を改めて見る。
再び剣と盾のセットに持ち替えた彼は、油断なくこちらの動きに対応するため、その場から動かず、じっとこちらを見据えてきている。
向こうから攻めてこないのは、先程聞いた通り時間が経てば経つほどに彼の強化は増えていき、強くなっていくからだろう。

防御系統にすることで時間を稼ぎ、【犯罪者】によって強化して相手を叩く。
分かりやすく、強い。

もう一度息を吐く。
そして考える事を放棄した。

どうせ考えたところでどうしようもないのだ。
なら、私にできる事をやるしかない。
単純に、簡単に。考え過ぎずに馬鹿みたいに向かっていって食らうだけ。
それが私だろう。

にやりを大きく笑い、私は手に持った【解体丸】に力を込めて。
改めて駆けだした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...