57 / 192
第二章 【食人鬼】は被食者の夢を見るか?
Episode 27
しおりを挟む--イベントフィールド 【決闘者の廃都】 交差点エリア
■【食人鬼A】CNVL
三度目の真正面からの突撃。
流石にそんなあからさまな手は取らないだろうと考えていたのか、少しだけ目を見開いていた彼だったが、それでも腰を低くしていつでも動けるように準備はしていた。
恐らく彼は、何か私が絡め手やらスキルを使って何かをするとでも思っているのだろう。
ある意味で絡め手なのかもしれないな、と。
そんなことを考えながら、私とスキニットの距離は再び0となる。
まずは一撃、上段からの振り下ろしを彼へとお見舞いしようとするが、しっかりと盾で防がれ勢いがそこで止まる。
それを好機と捉えたのか、スキニットはそのまま右手に持つ剣を私の腹に向かって突き出して。
それはずぶりと、私の腹の中へと沈み込んでいく。
「なっ……?!」
その感覚に刺した本人が驚いているのか、彼の声が漏れ。
私は逆に、自分がピンチだというのに大きく頬を歪ませた。
一瞬の思考の空白。
視界の隅で減っていく自分のHPバーを見て焦らないように。
私は【解体丸】をインベントリへと戻し、ナイトゾンビの腕を右手で取り出しながら。
突き出すように、というか現在進行形で私の腹を突き刺している剣を握るその手を、空いている左手で掴んで逃げれないようにした。
その手の感触に、私の考えというかその無謀とも言える策を察したのか、焦ったような顔をした彼の顔を見ながらも。
私はナイトゾンビの腕を喰らい、スキルを発動させて。
白銀に輝く剣を右手に出現させ、逃げれない彼の右腕へと振り下ろす。
スキニットは咄嗟に盾を構え、それを防ごうとしたが少しだけ遅く。
剣の腹へと盾の縁が当たり、軌道を少し変えただけでほぼほぼ勢いは変わらずに、彼の腕へと剣が触れた。
先程も感じた、肉にはない硬さを感じながらそのまま力を込め。
彼の右腕をそのまま切り落とした。
「一本ッ!」
「このっ!はな、れろッ!!」
切り落とされた腕はすぐに光へと変化していき、私の腹に刺さる剣にかかっていた力も抜ける。
それによって唯一私と繋がっていた部位が消えたからか。スキニットは盾を使い、押しのけるようにして私との距離を開けた。
私も私でこのまま彼の近くで戦うには、現在進行形で減っていっている自分のHPバーが少し心配だったため、それに身を任せるように彼との距離をとった。
すぐさまインベントリ内からスポーナーの肉塊を取り出し、それを喰らう。
スキルによってのHP回復、自己強化バフの延長、それに加え【祖の身を我に】を発動させ、私の身体から再度赤黒い人型が計3体生まれ落ちる。
「クソッ!本当に厄介だな!」
片腕がなくなった彼にとって、先程よりも対応しにくいはずで。
ある程度の量の肉を喰らった事で傷が塞がったのか、私の方のHPの減少がなくなって。
盾から片手剣に変え、迫ってくる人型達を何とか遠ざけようと奮闘しているスキニットへと近づき、左腕へと歯を立てた。
私をどうにか離れさせようと腕を振り、地面に叩き付けたりするものの。
現在進行形で人肉を喰らい回復をしている私には、少し強い衝撃程度でしかなく。
むしろその腕を振る勢いで肉を噛み千切り確実なダメージを与えていった。
そしてそんなことをしていれば。
「ぐっ!?」
「あはッ!万事休すッてェ奴だねぇ!」
私の方へと集中していたために、周囲への対応がおざなりとなってしまい、彼は人型に拘束されてしまう。
腕、両足が固定され、顔だけが自由に動かせるその状態で。
スキニットは苦しそうに舌打ちを漏らした。
「チッ……一瞬油断しちまった結果がこれか」
「いやぁ、あれで油断しなかったらこっちが普通に殺されて終わってただろうね」
「こういう所がまだ甘いんだよ。だからまだHardの2Fから先に進めねぇ」
「言っちゃアレだけど、私も相手が突然自分から刺さりに来たらびっくりするけどね」
「本人が言うなや……」
そう言いながら、彼は諦めたように首をだらんと下げる。
恐らく首を切って終わらせてくれと言外に伝えているのだろう。
私はインベントリから【解体丸】を取り出し、後ろへと回る。
彼のこの態度が私の油断を誘うための演技かもしれないからだ。
見た目だけでは本当にその人が諦めているかどうかはわからない。
私が考えられないような、ゲーマーならではの逆転方法もあるかもしれないから……出来る限り対応できるように自分が有利な位置へと移動して。
右斜め後ろから、彼の首へとマグロ包丁を突き入れた。
一瞬びくんと身体が跳ねた後、彼の首から血が溢れ出る。
暫くそれが続いたかと思えば、身体の端の方から光の粒子へと変わっていく。
--System Message 『CNVL選手の勝利です。転移しますので今暫くその場でお待ちください』
「ふぅー……」
流石に疲れを感じてしゃがみ込む。
時間だけ見ればそこまで経っていないものの、内容的に少しだけ精神的に疲れてしまったのだ。
特に刺された後なんてゴリ押しもいいところ。
本当に一瞬彼が呆けてくれなかったらどうしようもなかっただろう。
……というか私、基本的に回復できるからって結構無茶な攻撃してるなぁ。
【食人鬼】にランクアップしてからだろうか。そういう傾向の戦闘スタイルでやっていくことが多くなった気がする。
これから先、今までのように一撃喰らって何とかするというのは流石に意識的に辞めた方がいいだろう。
例を出すなら禍羅魔のような。一撃喰らったらアタッカーとしては致命傷となりえるスキルや技を持っている相手も増えていくかもしれないからだ。
今のスタイルから、どう自分を変えていくか。
それを考えながら、グリンゴッツによる転移が行われるのを休みつつ待つことにした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜
O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。
しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。
…無いんだったら私が作る!
そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる