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第二章 【食人鬼】は被食者の夢を見るか?
Episode 34
しおりを挟む--浮遊監獄都市 カテナ 第二区画 デンス 第一階層
■【食人鬼A】CNVL
一足先にイベントフィールドから通常のフィールド……第二区画へと戻ってきた私は、早々にセーフティエリアへと入り、賞品の選択を行なっていた。
といっても、私が選べるのは2個まで。
5個も選べるハロウと違って悩まずにはいられない。
といっても、既に1つはほぼ決まっているのと同義だった。
「んー、素材詰め合わせは欲しいなぁ。特にデンスの奴は」
デンスのダンジョンから得ることができる素材の詰め合わせ。
通常のプレイヤーならば、その素材から作れる装備のことを考えるのだろうが、私の場合は少し違う。
試合中や終わった直後は色々考えたものの、結局のところ私の【食人鬼】はスキル特化……スキルに依存した【犯罪者】だ。
どうしたって切り離せないものなのだから、貯蔵を増やし、スキルがいつでも万全に使えるようにするしかない。
「……ま、【食人鬼】から変えるつもりもないし、暫くは模索してみますかねぇ」
兎にも角にも、そういった理由で【デンスの素材詰め合わせ】は絶対に必要だろう。
それ以外に何かないかとリストをスクロールしていると。
「おっ、これ良いじゃあないか。うん、決定だね。これにしよう」
あるアイテムを発見し、即決した。
瞬間、手に持っていた羊皮紙が光り出しその姿をプレゼントでも入ってそうな箱へと変える。
青色の包装に、赤色のリボンを付けたそれは【入賞者へのプレゼント】という名前の箱で。
多少びっくりしながらもそれを開けてみれば、
--System Message 『【デンスの素材詰め合わせ】を入手しました』
--System Message 『【午前から飲めるティーセット】を入手しました』
そんなシステムメッセージが流れ、選んだ賞品がインベントリの中に入っていることが確認できた。
私が選んだもう1つのアイテムは【午前から飲めるティーセット】。
名前はふざけているものの、内容はしっかりしていて。これだけで紅茶を淹れることが出来る代物だ。
使おうとすればすぐに使えるのを確認した後、私はチャットを使ってある人物に連絡をとった。
せっかく紅茶を淹れるのなら、話し相手くらいは1人いた方がいいだろう。
「というわけで、久しぶりのティータイムだぜ。マギくん」
「いきなり呼び出したかと思ったらそういうことですか……」
ハウジング機能によって設置された普通の椅子に腰掛け、呼び出したマギに紅茶を淹れさせる。
流石に肉片シリーズに腰掛けながらティータイムというのは、雰囲気が壊れるというレベルではないだろう。それにアレらは肉片で作られていたからか食べることが出来たために、既に残っていない。おやつ感覚で食べてしまったものの、味はそこまで変わらなかったのは、所詮材料が肉片だからということだろうか。
マギは溜息を吐きながらも、その手を動かし淹れる準備をしてくれていた。
「それにしても、賞品これにしたんですね先輩」
「あぁ、本当は他の区画の素材にでもしようかなって思ってはいたんだけど……こっちの方が良いかなって」
「先輩らしくて何よりですよ」
ゲーム内だからか、現実よりも時間が掛からず淹れられたそれを受け取り。
一口。
……うん、いいね。たまにはこういうのもありだ。
こちらが口を開かずに紅茶を飲み始めたからか、マギも何も語らず。
そのまま自分の淹れた紅茶を飲む。
最近では考えられないくらいには静かなそのひと時を過ごしていると、突然それは訪れる。
「お邪魔するわよー……あぁ、やっぱり」
「おや、ハロウ。どうしたんだい?自由行動の時間だろう?」
「そうなんだけどね。掲示板みたかしら」
掲示板?と首を傾げながらマギの方を見ても、彼も分かっていないらしく首を横に振っている。
一体なんだと怪訝そうな顔を彼女に向ければ、満面の笑みを浮かべながらこう言った。
「第二階層のダンジョンがやっと発見されたのよ!行きましょう!」
「あ、本当かい?そりゃ行かないとだ。……っていうか、それだけじゃあないだろう?多分」
「えぇ!決闘場あるでしょう!?そこにあるのよダンジョン!しかも入場資格として登録しないといけないの!いいじゃない!決闘プレイヤーが増えるわ!」
「……あー、成程。確かに。それだったら君のそのテンションにも納得がいく」
彼女の頭の螺子が外れるものは、私達の知っている中では決闘に関わるコンテンツのみ。
それに少なからず関係していると思われる第二階層のダンジョンは、ハロウのハートにクリティカルヒットしていたのだろう。
ただ、前とは違って1人ではいかずにこうやって誘いに来たのは、少しばかりこちらを頼りにしてくれているということだろうか。
「一回自分でも行ってみたんだけどね?進むのに2人とか必要なギミックとかあって、先に進めなかったのよ」
「もう挑んでたんですね」
……もう逝ってたかぁ……。
そんな彼女の言葉に、私とマギは顔を見合わせ少し笑う。
イベントも終わってない段階で、最前線の攻略を。
それに仲間は、こんなにも頭が狂ってるのがリーダーで。
それ以外のメンバーも、どこか絶対狂っていて。
そして私も第三者から見れば、狂っている。
私とマギは残っていた紅茶を飲み干し、立ち上がる。
先程までの静かな時間は少しだけ名残惜しいが……こういう騒がしいのもいいものだ。
「よし、じゃあ行こうぜ。メアリーちゃんは?」
「メアリーなら先に第二階層でやることがあるって。CNVLならどこにいるか分かるって言ったけど?」
「あぁ、成程。よし、じゃあ彼女を拾ってから攻略しにいこうか」
そう言って、私は2人をメアリーの元へと案内するために第二階層への道を歩き出す。
何か小物を作っていた彼女を攫い、ダンジョンがある決闘場の方向へと笑顔の狂人の案内で向かって。
プレイヤーの攻略の最前線。
第二階層のダンジョンの前へとたどり着き、私達はそのダンジョンへの一歩を進んだ。
ここからまた、新しい冒険が始まる。
……余談として。
その後、全員が全員ギミックに嵌ってデスペナルティを喰らったのはまた別の話だ。
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