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第三章 オンリー・ユー 君だけを
Episode 2
しおりを挟む--浮遊監獄都市 カテナ 第二区画 デンス 第二階層
■【偽善者A】ハロウ
ハサミの状態とは違い、双剣の状態というのはやはり小回りが利くもので。
前までならば確実に反応しにくかったほぼ0距離での戦闘もある程度出来るようになっていた。
酔鴉の右ストレート、それに合わせるように回し蹴り、掌底、アッパー。
彼女の小さい身体のどこにそんな力が込められているのか、双剣で受け流すように対応したとしても、ある程度の衝撃は伝わってしまい、徐々に手が、腕がしびれていく。
彼女の【犯罪者】は今だ不明ではあるものの、それでもこれまでの戦い……つい先日あった決闘イベントや現在の戦いっぷりからでも、格闘戦……それも無手でそれを行う事に特化している戦闘系の【犯罪者】であることは分かっている。
最終的には何処かの超人のように、空中で格闘戦を行えるくらいには物理法則を無視できるようなスペックがあるのも理解している。
そんな彼女の攻撃を訓練とは言え捌けるのは、単純にまだ彼女が本気ではないからだろう。
いつか本気を出させたいとは思うものの、本気でない彼女の攻撃を捌くのに精いっぱいになっている状態では厳しいものがあるだろうな、とも思う。
隙のようなものを見つけ、苦し紛れに剣を振るっても。
軽く身を引く程度で避けられてしまう。
当然だろう、双剣をそれっぽく使えているように見えても、まったくのド素人の私の攻撃を、戦闘力が高い彼女が避けられないはずもない。
「ほら、そこ。身体が開きすぎ。相手の前でそんな風にしてたら、こんな風にカウンター入れられるわよ」
「うっ……!」
彼女の前に無防備に身体を晒した私は、小言を言われながら腹部に拳を入れられHPが減っていく。
かなりの手加減をしているのか、思った以上に軽いそれはあまりダメージはないものの。それでも、少しだけ……そう、少しだけイラっとする。
教えてもらっている側が何を言うのかというレベルではあるのだが。
それでもいつもならば同じくらいの実力があるプレイヤーから手加減されているという事実に、酔鴉ではなく手加減されている私にムカついて。
先程よりも両手に入る力が強くなる。
……今の状態はどうやっても酔鴉に手加減されるのは分かりきってる。
ならば、この状態から本気を出させるように。
酔鴉から言われる事、自分で考え無駄だと思う事。その全てを自分の中で双剣の扱いという一点に絞って動きに昇華させていく。
動く。動く。動く。動く。
剣だけではなく、身体も使って。
右の剣を袈裟斬りのように振るい、そのまま身体を横に回転させ左の剣で横から狙う。それらが避けられようと、右の剣を今度は下から跳ね上げるように。それに合わせて左の剣を上から振り下ろし。
流れるように、見る者が見れば我武者羅に。
私は自分の剣が酔鴉へと届くようにと、振るい振るい振るい振るい。
「良いじゃない。突然動きが変わったというよりは、ほぼほぼ考えてなさそう。当てることだけに特化したして身体が動いてる感じ」
その全てを避けられ、受け流されながらも。
私の動きは止まらず、更に無駄を削いでいく。
剣を振るう、だけではなく。
時々フェイントとして剣を振るわずに足払いを仕掛けたり。
右の剣の先を揺らし、そちらに視線が言った瞬間に左の剣を振るうなど。
今出来る事を出来る限りの範囲で繰り返していく。
「うん、貴女がそういうつもりなら私もギアを上げましょうか。【ギアアップ・ワン】」
彼女の姿がブレる。
瞬間、私の身体は強い衝撃と共に上へと引っ張られた。
否、私の身体が上へと……空中へと飛ばされたのだ。
「なっ!?はぁ!?」
「いらっしゃい、空中戦はまだ私だけの領域よ」
そんな声が聞こえたかと思えば。
何故か滞空しているように見える酔鴉の姿があって。
私は無理やりに……不格好に、彼女へと剣を振るおうとしたものの。
それ以前にどんどん高くなっていく周囲の景色が目に入ってしまい、身体が動かなくなってしまった。
その姿に不審げな顔をさせながら、彼女は私の身体へと打撃を入れていく。
そして最終的に無防備な身体へと踵落としを決めて、地面へと叩き落とした。
-Your Loser!-
視界中央に文字が出現し。
私のHPゲージが1になったことを伝えてきた。
「……お疲れ様です」
「お疲れ様。途中から動きがよくなったけど、相手の動きが見えなくなってたわね。集中しすぎよ」
「全く見てませんでしたね。もう全部攻撃を当てることに集中してたんで」
「まぁ少しは当たってたけど……うん、少なくとも敵モブになら通用する程度にはなってると思うわ。ハードになると分からないけど、ノーマルの雑魚になら問題ないはず」
「ありがとうございました、流石にぶっつけ本番でやるのは嫌だったので助かりましたよ」
空中から降りてきた酔鴉は、私に手を差し出しながらそう言った。
その手に捕まり立ち上がりながら、感謝を述べ。
そして、彼女の後ろに立っている笑顔の男にも話しかける。
「じゃあ、禍羅魔。あとはよろしく」
「応。世話ァかけたな」
「なァ!?」
「いえ、結構こちらも良い経験になったわ」
「馬鹿!アホ!放しなさいよ!!」
「なら良しだ。今度一緒にダンジョンでも潜ろうや」
酔鴉を米俵のように抱え。
暴れる彼女をそのままオリエンスがあるであろう場所の方へと連れて行ってしまった。
そんな彼らを笑顔で見送った後に、他の見物者……CNVLとメアリーの方へと目を向ける。
苦笑しながらこちらに手を振っている彼女と、今もなお唸っている小さな女の子の方へと近づいて。
「あら、まだメアリーは唸ってるの?」
「お疲れ、まぁ難しいんじゃない?ディエスの方の素材とか結構難しいと思うぜ?私でも使うの躊躇ったし」
こちらとしても難題を出している自覚はあるために。
苦笑しながら、ベンチに座りながらも唸っている彼女の頭をやさしく撫で続ける。
そうしてCNVLと使ってみた印象などを話し合いながら、時間は過ぎていく。
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