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第三章 オンリー・ユー 君だけを
Episode 20
しおりを挟む--第二区画 第二階層ダンジョン 【決闘者の墓場】 4F
■【偽善者A】ハロウ
瞬間、私の目の前に黒い何かが現れて。
気が付けば、部屋の入口……後衛組の2人が居る方へと吹き飛ばされていた。
HPを見れば、大幅に削れていて。
私が何かしらの攻撃を喰らった事が辛うじて分かった。
『よく居るンですよォ……私が魔術しか使わないから接近戦を挑もうとする人達が。……実は接近戦の方が得意でしてねェ!』
「ハロウさん!」
辛うじて避けたのか。
それとも喰らいつつも、吹き飛ばされずにその場で踏ん張ったのか。
今だヨハンの目の前で攻撃を避け続けているCNVLを見ながら、私は近くへと走ってきたマギとメアリーに助けられ、HPを回復させていく。
「……私何された?」
「単純に殴られてましたよ。その割にHPが減ってますけど」
『多分【ラミレス】の攻撃系統と同じようなものかも(゜д゜)攻撃系統の方のスキルに、あのオーラで攻撃範囲拡張効果とかあったはずだし(;^ω^)』
「成程ね……」
……ということは、あの黒い何かは単純にヨハンの纏う瘴気か。
私の知らないだけで、恐らく掲示板辺りには普通に掲載されている内容なのだろう。
メアリーから【ラミレス】、その攻撃系統についての情報を貰いつつどう攻めるべきかを考える。
今もCNVLが1人で頑張って戦線を維持してくれているが、それも長くは続かないだろう。早く向かわねば。
とは思うものの。
私がまた考え無しに突っ込んでいっても、同じ事が起こるだけ。それでは意味がなく。
「メアリー。遠慮なしに攻撃開始して。マギはその援護で」
「ハロウさんは?」
「また突っ込むわ。まぁさっきと同じようなヘマはもうしないから大丈夫よ」
『了解!('ω')!』
そう言って、私は【HL・スニッパー改】をハサミの状態へと変える。
それを見たマギが何かを言いたそうにこちらを見ていたが、今は聞いている暇もなく。
私は再度地を蹴ってヨハンとCNVLが戦っている戦場へと近づいた。
ヨハンの攻撃を喰らってしまったからなのか、何なのか。
既にスキルによる【隠蔽】効果が切れているようで、再度近づいてきた私の方をみて笑いながら迎撃しようとするヨハンと。
それを阻止しようと攻撃を加えるものの、避けられたり逸らされたりしているCNVLを見ながら、私は思う。
……結局、このボスのギミックって何なのかしらね。
ボスならばこそ、何かしらのギミックがあるもの。現実ならまだしもゲームならば当然にあるべきものだろう。
それこそ、こういった近距離遠距離どちらも出来るような敵ならば最低限どちらかを弱体化させるようなものがあったりする。
そんなものはなく単純に強い敵もいるにはいるのだが。
「まぁ考えてもどうしようもないから、ねッ!」
私の方へと飛んできた火球を避けつつ。
私は更に強く踏み込み速度を上げる。
ギミック関係についての情報をマギが伝えてこなかった事を考えるに、それこそ見ているだけでは見つからない……もしくは本当にそういった類のものではなく単純に強いだけなのだろう。
この世界における悪魔という存在の立ち位置くらいは調べておくべきだったか、とそんなことを頭の隅で思いつつ。
私のしたいことを相手に押し付ける事を全面に出していこうと、ハサミを構えた。
……相手の近距離攻撃は、基本的に射程が長くなってる。どれくらいまでかはわからないけど、それこそ長物以上に届くって考えた方がいいかもしれないわね。
今現在、私とCNVL達の距離はおよそ15メートルほどしかないものの。
それでも十分届くかもしれない距離感であって、油断はできない。
それに加え、今も私の近くに飛んできている火球や氷柱もどうにかしなければならないが……それはもう避けなくてもいいだろう。
私を狙って放たれたそれらが、突然空中で爆発し霧散する。
それに加え、更に私の横を何かが風切り音と共に複数通り過ぎていき、
『くッ!?』
咄嗟に正面へと瘴気を展開したヨハンが、連続して爆発する。
何が起こっているか?簡単だ、後ろにいる我らが後衛組の支援が始まったのだ。
白い爆煙の所為でヨハンがどうなっているかはわからないものの、強いプレッシャーを未だ感じるため、弱ってはいないだろう。
しかし、隙が出来た。
それを逃すような者はこの場には居らず、
「あはッ!【祖の身を我に】!」
「さっきはよくもやってくれたわねッ!」
近くにいたCNVLと、その後ろから迫る私が攻撃を加えようと接近し。
白い爆煙の中から飛び出してきたヨハンの両手に集まっている瘴気に向かってハサミを大きく開いて突き出して。
一気に、鋏みこんだ。
ガキン!と凡そ生身からは発さないであろう音と共に、私とヨハンの動きが止まる。
鋏むことが出来たのはヨハンの右側の手首。当然瘴気を纏っていて、今鋏めているのもその瘴気だろう。
彼はそれを見て私の方をあざ笑うかのように見てくるが、忘れてはいけない。
「イッツミールタァーイム!」
私は1人で戦っているのではなく、パーティで戦っているのだから。
CNVLが笑いながら、動きの止まっているヨハンの胸……通常の人ならば心臓がある辺りを手にもったマグロ包丁で貫いた。
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