「お風呂の神様になった柴犬、異世界を癒す温泉伝説」

ソコニ

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第23話:「七色の湯の恵み」

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温泉株式会社の設立と温泉倫理条約の締結から二週間。ぽんずたちは次なる展開として、テラマリア大温泉郷の医療分野の充実を検討していた。

温泉科学研究所の一室。カラムは数々の試験管や測定機器に囲まれ、七つの温泉郷から採取した湯のサンプルを分析していた。眼鏡の奥の目が興奮に輝いている。

「これは素晴らしい発見だ!」カラムは分析データを見ながら声を上げた。ぽんずとエリック、ミナが彼の元に集まってきた。

「何を発見したの?」ぽんずはカラムの机に飛び乗り、データを覗き込んだ。

カラムは七色に光る試験管を並べ、一つずつ説明し始めた。

「七つの温泉郷、それぞれの温泉には全く異なる治癒効果があることが科学的に証明できた。これらを組み合わせて使うことで、様々な病や怪我に対応できる総合的な治療システムが構築できる」

彼は大きな図表を広げた。そこには七つの温泉と、その効能が詳細に記されていた。

「翠泉の緑の湯は心の安定作用があり、不安や恐怖、ストレスからくる症状に効果的。紅泉の赤の湯は活力増進作用があり、疲労回復や筋力強化に役立つ。蒼泉の青の湯は解毒浄化作用があり、体内の毒素排出を促進する」

カラムは息もつかずに続けた。

「黄金泉の黄の湯は細胞再生を促し、傷の治癒を早める。翠緑泉の淡緑の湯は免疫システムを強化し、病気への抵抗力を高める。虹泉の多色の湯は五感を活性化させ、感覚障害の回復に効果がある。そして星泉の紫の湯は精神統合の効果があり、記憶障害や意識の混濁を改善する」

部屋の中は一瞬静まり返った後、エリックが興奮した声を上げた。

「カラム、これは大発見だ!温泉の医療利用は今までもあったが、七つの泉を組み合わせた体系的な治療法は前例がない」

ミナも目を輝かせた。「これなら様々な症状に対応できるわね。テラマリア大温泉郷が医療センターとしても機能するようになるわ!」

ぽんずは思案顔でカラムの図表を見つめていた。「これを実用化するには、専門の施設が必要だね。『七色湯治センター』を建設しよう!」

彼の提案に全員が賛同し、早速計画が進められることになった。

七色湯治センターの設計では、温泉エルフのシルヴァーミストと湯舞竜のマグマスケイルも協力することになった。シルヴァーミストの「湯質向上」の技術と、マグマスケイルの「温度調整」の能力を融合させることで、各温泉の治癒効果を最大限に引き出す仕組みが考案された。

建設が進む中、カラムは各温泉郷を訪れ、守護者たちと協力して医療研究を続けた。彼の熱意に動かされ、多くの学者や医術師たちが研究に参加するようになった。「温泉医学」という新たな学問分野が生まれつつあった。

「治癒の七色エネルギー」と名付けられた各温泉の力を最大限に活用するため、カラムは複雑な浴槽システムを設計した。複数の温泉を順番に、あるいは同時に使用できる「複合湯治法」の開発も進められた。

建設が始まって二ヶ月。七色湯治センターは、七つの温泉郷の中央に位置する丘の上に、七角形の大きな建物として姿を現しつつあった。建物の各角は七つの温泉郷に向かって伸び、それぞれの方向からパイプラインで温泉水が運ばれる設計になっていた。

オープンまであと一週間というある日、テラマリア王国の北部地域から奇妙な報告が届いた。多くの村人が「冷え病」と呼ばれる奇妙な症状に苦しんでいるというのだ。

「症状は体の一部だけが異常に冷たくなり、その部分が動かなくなるというもの」報告書を読み上げるエリックの表情は暗かった。「すでに数百人の患者が確認されている」

「冷泉軍団の仕業に違いない」ミナは眉をひそめた。「七色湯治センターのオープンを妨害する作戦ね」

カラムは早速患者の一人を診察するため、北部へ向かった。彼が戻ってきたときの表情は複雑だった。

「確かに冷泉軍団の魔法の痕跡が見られる。しかし、単なる妨害ではなく、より複雑な魔術が使われている」

カラムの説明によれば、患者の体内に「冷気の種」と呼ばれる小さな氷の結晶が植え付けられており、それが徐々に冷気を放出して周囲の組織を冷やしているという。この魔術は高度な医学知識と冷却魔法の両方を持つ者にしか使えない代物だった。

「冷泉軍団に医術師がいるの?」不思議に思ったミナが尋ねた。

カラムは古い記録を調べ、ある人物にたどり着いた。

「コールドフェバー。かつて北部地域で名医として知られた女性だ。彼女は冷却魔法を使った特殊な治療法で多くの命を救った。しかし、三年前に突然姿を消した」

更なる調査の結果、コールドフェバーは温泉の普及によって自分の医術が不要になることを恐れ、冷泉軍団に加わったことが判明した。「冷え病」は彼女の医学知識と魔術を組み合わせた作品だったのだ。

「早急に対策を立てなければ」ぽんずは決意を固めた。「七色湯治センターを予定より早くオープンさせ、患者たちの治療に当たろう」

センターは急ピッチで仕上げられ、完成を待たずに一部の施設が緊急オープンした。カラムの指導のもと、「七色の湯治療法」を活用した冷え病の治療が始まった。

翠泉の緑の湯で患者の心を安定させ、紅泉の赤の湯で体を温め、蒼泉の青の湯で冷気の種から放出される毒素を排出する。さらに黄金泉の黄の湯で冷えで損傷した細胞を再生させ、翠緑泉の淡緑の湯で免疫力を高める。虹泉の多色の湯で冷えで鈍った感覚を取り戻し、最後に星泉の紫の湯で心身を統合する。

この複合療法は驚くべき効果を示した。重症患者でも数日の治療で症状が改善し始め、一週間もすれば完全に回復するケースも出てきた。

噂を聞きつけた患者たちが各地から七色湯治センターに押し寄せるようになり、ぽんずたちは昼夜を問わず治療に当たった。温泉職人ギルドの卒業生たちも治療を手伝い、センターは活気に満ちていた。

そんな中、ぽんずは治療中の患者に混じって変装した女性がいることに気づいた。「伏せ」の力で姿を隠し、彼女を尾行すると、彼女は人目を避けて建物の裏に回り、何かの調査をしているようだった。

「あなたがコールドフェバーですね」ぽんずは突然姿を現して声をかけた。

驚いた女性は逃げようとしたが、ぽんずの「待て」の力で動きを止められた。彼女は肩を落とし、覆面を取った。そこには知性の光を宿した青い瞳と、銀色の髪を持つ中年の女性の姿があった。

「そうだ、私がコールドフェバーだ」彼女は静かに認めた。「お前たちの治療法を調べに来た」

「なぜ冷え病を広めたんですか?」ぽんずは優しく尋ねた。「あなたはかつて多くの人を救った医術師だったはず」

コールドフェバーは複雑な表情を浮かべた。

「私の冷却療法は多くの炎症や発熱を抑え、命を救ってきた。だが、温泉が広まると人々は私の治療を求めなくなった。『温泉で治る』と言って」

彼女は苦々しい表情で続けた。

「温泉は万能ではない。時には冷やすことが必要な症状もある。それを忘れた人々に、冷却の大切さを思い出させたかった」

ぽんずは彼女の言葉に頷いた。「あなたの言う通りです。温めるだけが治療ではありません。実は私たちも、あなたの技術に興味を持っていました」

彼はコールドフェバーを七色湯治センターの内部に案内した。そこではカラムが新たな治療法の研究に取り組んでいた。

「我々が目指しているのは、温泉と冷却技術を組み合わせた総合的な治療法の確立だ」カラムは彼女に説明した。「七色の湯の効能は素晴らしいが、それだけでは不十分な場合もある。あなたの冷却技術と組み合わせれば、より高度な治療が可能になるはずだ」

コールドフェバーは驚いた様子で研究データを見つめた。そこには「温冷交互療法」「局所冷却温浴法」など、温泉と冷却を組み合わせた新しい治療法の構想が記されていた。

「私の技術を...認めてくれるのか?」彼女の声には感情が滲んでいた。

「もちろんです」ぽんずは真摯に答えた。「医療は温かさと冷たさ、両方のバランスが大切。あなたの知識と技術は、多くの命を救う可能性を秘めています」

深く考え込んだ後、コールドフェバーは決意を口にした。

「わかった...冷泉軍団を離れ、あなたたちに協力しよう。ただし条件がある。冷え病の患者は全員、責任を持って治療すること。そして、温冷両方の技術を公平に扱う研究施設を設立すること」

こうして、コールドフェバーはカラムとともに「温冷療法」の研究開発を始めることになった。七色湯治センターには「冷熱調整部門」が新設され、彼女はその責任者に就任した。

冷え病の患者たちは、七色の湯治療法と彼女の冷却技術を組み合わせた新療法によって次々と回復していった。コールドフェバー自身も、冷え病の治療に献身的に取り組み、かつての医術師としての誇りを取り戻していった。

七色湯治センターの正式オープンは大盛況だった。リリア王女や各国の要人も出席し、「テラマリア大温泉郷の医療革命」として高く評価された。センターには各地から病人や怪我人が訪れるようになり、温泉リゾートは治療と療養の場としての評判も高めていった。

新たな医療技術の開発も進み、「七色の湯」と「冷熱調整」を組み合わせた様々な治療法が確立された。「温泉医学」は急速に発展し、テラマリア大陸全体の医療水準を押し上げる原動力となっていった。

ある夕暮れ時、ぽんずとカラム、コールドフェバーは七色湯治センターの屋上から、七つの温泉郷に沈む夕日を眺めていた。

「温泉の七色の恵みと、冷却の技術。相反するように見えて、実は互いを補完し合う力だったんですね」ぽんずは感慨深げに言った。

「そうだな」カラムは頷いた。「自然の力を一方的に否定せず、バランスを取りながら活用する。それが真の医学というものだ」

コールドフェバーも静かに微笑んだ。「私はかつて温泉を敵と考えていた。だが今は分かる。温かさと冷たさは対立するものではなく、調和するものだということを」

三人の視線の先で、七つの温泉郷から立ち上る湯気が七色に輝きながら夕焼けに溶け込んでいった。治癒の七色エネルギーは、テラマリアの大地に新たな希望の光をもたらしていたのだ。

(この話は続く)
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