怪異住居 ゼロ円の家―タダほど怖いものはない

ソコニ

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第25話「20階の核」

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落下した先は、血のような液体に覆われた部屋だった。零は呻きながら体を起こし、周囲を見回した。凛と柊も近くに倒れていた。

「大丈夫か?」と零が声をかける。

「なんとか…」と凛は肩をさすりながら立ち上がる。「ここは?」

「まだ20階だ」と柊が答えた。「落下したとは言え、そう遠くには飛ばされていないようだ」

彼らが立ち上がったとき、部屋全体が異様に変化していることに気づいた。壁が肉のようにうねり、床は呼吸をするように上下していた。天井からは赤黒い液体が滴り落ち、床に小さな水たまりを作っていた。

「ここは…核だ」と柊が言った。「20階の怪異の核心部」

その瞬間、扉が開き、数人の生存者たちが駆け込んできた。キッチンエリアから逃げてきたようだった。

「大変だ!家電がすべて動き出して…」

言いかけた住人の頭上に、天井から赤黒い液滴が落ちた。

「あああっ!」

彼は悲鳴を上げ、頭を掴む。その手も赤く溶け始め、顔から皮膚が溶けていく。肉が流れ落ち、骨が露出し始め、やがて全身が床に溶けていく恐ろしい光景が広がった。

「動くな!」と柊が叫ぶ。「あれは酸だ!天井から落ちてくる液体に触れるな!」

生存者たちは恐怖で凍りついた。誰もが天井を見上げ、次の滴りが自分の上に落ちないかと震えていた。

「どうすればいい…」と凛が声を震わせる。

零は部屋の中央にあるメインコンピューターに目を向けた。その巨大な装置は、マンションのシステム全体を制御しているように見えた。しかも、それ自体が生命体のように脈動していた。

「あれが核だ」と零は直感的に理解した。「あれを破壊すれば…」

零が一歩踏み出した瞬間、床が突然隆起し、彼を吹き飛ばした。

「ぐっ!」

壁に叩きつけられた零は、激痛で顔をゆがめる。

「零!」と凛が駆け寄ろうとした瞬間、壁から無数の腕が生え、彼女を捕らえた。

「きゃっ!」

腕は生肉でできているようで、指が凛の体を締め付け、その一部は鋭い歯のような形状で彼女の腕に噛みついた。

「凛!」

零が立ち上がろうとした時、床から同様の腕が現れ、彼の足を掴んだ。同時に、残りの生存者たちも次々と腕に捕らえられていった。

「この部屋全体が…怪異だ!」と柊が叫んだ。

彼もまた複数の腕に首を絞められ、苦しそうに抵抗していた。

壁や床、天井から次々と伸びる腕。それらは人間の腕そのものだったが、肌は青白く、血管が浮き出ていた。中には腐敗して黒ずんだものや、骨が露出したものもあった。

残っていた生存者たちは恐怖の悲鳴を上げながら、腕に捕らえられていった。ある者は天井へと引き上げられ、別の者は壁に押しつぶされ、また別の者は床に引きずり込まれていく。

「たすけ…て…」

弱々しい声が聞こえ、零は振り返った。そこには蓮がいた。彼女も来ていたのだ。いくつもの腕に体を持ち上げられ、宙吊りになっていた。

「蓮!」

零は必死に抵抗したが、腕の数が多すぎる。彼の体は次第に動けなくなっていった。

「くそっ…!」

完全に拘束された零。彼を取り囲む腕は骨が露出したものが多く、その鋭い先端が彼の皮膚に食い込み、血を流させていた。痛みと恐怖で視界が歪む。

「このままじゃ…みんなが…!」

絶望的な状況の中、零の左目に激痛が走った。黒い液体が溢れ出し、頬を伝って落ちる。しかし今回は、痛みと共に力も湧いてきた。

「この力…使わせてもらう!」

零の体から突如として黒い波動が放出された。それは衝撃波のように広がり、彼を拘束していた腕を次々と千切っていった。

「うおおおっ!」

解放された零は、迷わずメインコンピューターに向かって突進した。床が再び隆起し、壁から新たな腕が伸びてくるが、零の体から放たれる黒い波動がそれらを弾き飛ばしていく。

「零!」凛の叫び声が聞こえる。

彼女もまだ拘束されていた。零は立ち止まるべきか、進むべきか一瞬迷ったが、このままでは全滅すると判断し、前進した。

「核を破壊する!それですべてが終わる!」

メインコンピューターの前に立った零は、封魔竹刀を両手で握り締めた。コンピューターの表面には無数の目と口が浮かび上がり、それらが一斉に零を見つめる不気味な光景。

「来るな…来るな…」

低い声がコンピューターから漏れ出す。それは多くの声が重なったような、異様な響きだった。

「終わりだ!」

零は渾身の力で竹刀を振り下ろし、コンピューターの中心を貫いた。

突然、竹刀が青白い光を放ち始めた。その光はコンピューター内部へと広がり、中から悲鳴のような音が響いた。

「ぎゃあああああっ!」

コンピューターが激しく震動し、爆発的な光を放つ。その衝撃で拘束されていた凛たちが解放された。

「逃げるぞ!」と零が叫ぶ。

部屋全体が揺れ始め、壁が崩れ、天井から大量の瓦礫が落ちてきた。床にも亀裂が走り、部屋全体が崩壊しつつあった。

「全員、急いで!」

零は凛の手を引き、蓮を助け起こした。柊も何とか立ち上がり、残りの生存者と共に出口へと向かう。

彼らが廊下に出ると、そこも同様に崩壊が進んでいた。壁が肉のように裂け、床は波打っていた。

「階段だ!」と柊が指さす。

一行は崩れゆく廊下を必死に走った。頭上から落ちてくる瓦礫をかわしながら、彼らは階段へと向かう。床は所々が抜け落ち、赤黒い液体が噴出している。

「気をつけろ!」

凛が叫んだ瞬間、零の前の床が完全に崩壊した。

「うわっ!」

零は身を翻そうとしたが、床の崩壊が急速に広がり、彼の足元もまた崩れ去った。

「零!」

凛が彼の手を掴もうとするが、間に合わなかった。零は暗い穴へと落下していく。

「凛!皆!」

零の叫び声は、闇の中に消えていった。意識が遠のきながらも、彼は次の階層での新たな恐怖を予感していた。

落下の衝撃で、零の視界が真っ暗になる。しかし、彼の左目からはまだ黒い液体が溢れ続け、その力が彼を生かし続けていた。

「まだ…終わりじゃない…」

零は意識を失う直前、自分が何かの上に落ちたことを感じた。それは柔らかく、生暖かい感触だった。まるで生きた肉の上に落ちたかのような感覚。

「ここは…?」

彼の周りから、低いうめき声が聞こえてきた。それは多くの声が重なり合った、痛みに満ちた声だった。

「助けて…」「痛い…」「ここから出して…」

闇の中で、零は目を閉じた。次に目を開けるとき、彼はさらなる恐怖に直面することになるだろう。
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