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第28話「恐怖との対峙」
しおりを挟む「あれこそが零の中に眠る怪異の力...」
柊の囁きが部屋に響いた。全員が息を呑み、鏡の間から現れた怪異化した零の分身を見つめていた。その姿は人間の形を留めながらも、明らかに別の何かだった。
黒い体液が全身から滴り落ち、床に小さな水たまりを作る。左目だけでなく右目も完全に黒く染まり、顔の各所から新たな目が浮かび上がっていた。胸から腹部にかけては大きな口が開き、鋭い歯と長い舌が覗いていた。
「お前は私だ。いずれこうなる」
分身の声は零自身のものでありながら、何か別の存在の声も混ざっていた。それは深い井戸の底から響くような、不気味な反響を伴っていた。
零は恐怖で足がすくみ、竹刀を構えたまま動けなくなっていた。
「零!それはあなたじゃない!」凛が叫ぶが、零の耳には届いていないようだった。
一方、静馬も自分の恐怖の具現化と対峙していた。戦場で死んだ戦友たちの亡霊が彼を取り囲み、血まみれの軍服を着た彼らは銃を構えていた。
「お前が生き残ったせいで俺たちは死んだ」
「責任を取れ」
「一緒に来い」
亡霊たちの声が重なり、静馬は膝をつき、頭を抱えていた。
凛も同様に、血に染まった父親の幻影に囲まれ、震えていた。
「みんな...これは幻だ...恐怖に打ち勝て!」蓮が叫ぶが、彼女自身も自分の恐怖—暗闇に閉じ込められた幼い自分の姿—を目の前に動けなくなっていた。
零の分身が一歩ずつ近づいてくる。その足跡には黒い液体が残り、床を腐食させていく。
「受け入れろ。お前は人間ではない。『原初怪異』の血を引く者だ」
「違う...俺は...」零の声は震えていた。
分身は腕を伸ばし、零の喉に手をかけた。その瞬間、零の体に激痛が走る。皮膚が焼けるような痛みで、零は悲鳴を上げた。
「ぐああっ!」
零が苦しむ中、柊だけは冷静さを保っていた。彼は部屋中の鏡を観察し、「核」を探していた。
「あそこだ...」と柊はつぶやく。「部屋の中心にある大きな鏡が核だ!」
だが、柊の声も零には届かない。零は分身の握力で喉を締め付けられ、呼吸が困難になっていた。同時に、彼の体に変化が現れ始めた。左目から黒い液体が溢れ出し、首筋にも黒い筋が広がっていく。
「そう...受け入れろ...」分身が笑う。
絶体絶命の状況で、零の意識が徐々に遠のいていく。その時、凛の声が彼の耳に届いた。
「零!あなたは怪異じゃない!私たちの仲間よ!」
彼女の声に、零の意識が戻り始める。
「凛...」
「恐怖に負けないで!あなたはあなたのままでいい!」
凛の言葉が零に力を与えた。彼は分身の手を振り払い、封魔竹刀を握りしめる。
「俺は...俺だ。怪異になんかならない!」
零は分身に向かって竹刀を振りかぶった。だが分身は醜い笑みを浮かべ、素手で竹刀を受け止める。
「無駄だ。お前の力は私の力だ」
零は竹刀を引き離し、再度攻撃するが、分身は容易にそれを避けた。
「どうすれば...」
そのとき、柊の声が聞こえた。「零!核だ!部屋の中心の鏡を壊せ!」
零は分身との戦いを諦め、柊の指示した鏡を探した。部屋の中央に、他より大きな鏡があった。それは床から天井まで届く巨大なものだった。
「あれか...!」
零は分身を振り切り、中央の鏡に向かって走り出した。分身は彼を追いかけるが、凛が間に割って入る。
「あなたは通さない!」
凛のグローブが光を放ち、分身を一時的に押しとどめる。零は鏡の前に立ち、その中に映る自分の姿を見た。そこには恐怖で歪んだ自分の顔があった。
「俺は...怪異なんかじゃない!」
零は竹刀を鏡に叩きつけた。鏡にひびが入り、それが蜘蛛の巣のように広がっていく。分身が悲鳴を上げ、その姿が歪み始める。
「やめろ!」
零は再び竹刀を振り下ろし、鏡を完全に砕いた。砕けた鏡の破片が部屋中に飛び散る。同時に、怪異化した分身や他の幻影が霧のように消え始めた。
「みんな!今だ!自分の恐怖と向き合うんだ!」零が叫ぶ。
静馬は戦友の亡霊に向かって叫んだ。「俺はお前たちを忘れない。だがもう自分を責めない。前に進む!」
凛も血まみれの父親の幻影に立ち向かう。「あなたは父じゃない。父はこんな人じゃなかった。私を殺そうとなんてしなかった」
次々と幻影が消え、部屋の壁にあった鏡も砕け落ちていく。最後に残った蓮の恐怖—閉じ込められた暗い部屋—も光に包まれ、消えていった。
「やった...」零は膝をつき、深く息を吐いた。
部屋は元の姿に戻り、壊れた鏡の破片だけが床に散らばっていた。全員がそれぞれの恐怖と向き合い、克服したことで、18階の怪異「鏡の中の影」を倒すことができたのだ。
「みんな...大丈夫か?」零が尋ねる。
静馬は深くうなずいた。「ああ...あれは俺が長く向き合ってこなかった過去だ。特殊部隊時代、俺の判断ミスで仲間を死なせてしまった...」
凛も小さく頷いた。「私は幼い頃に父を亡くしたの。でも、あんな姿じゃなかった。あれは私の恐怖が作り出した歪んだイメージだったわ」
蓮は静かに言った。「私は...幼い頃から霊が見えて、恐がられ、家族に閉じ込められていました。あの暗い部屋は...私の原点です」
零は自分の左目に触れた。「俺は...自分の中にある怪異の力が怖かったんだ。でも、今はもう違う。この力は俺の一部だけど、俺自身じゃない」
柊が立ち上がり、部屋の奥に現れた扉を指さした。「向こうに進むぞ。18階を突破したことで、17階への道が開いたようだ」
零たちは立ち上がり、互いを見つめた。恐怖との対峙を乗り越えたことで、彼らの絆はより強くなっていた。
「行こう」
彼らは新たな扉に向かって歩き出した。マンションの深層へと続く道は、まだ始まったばかりだった。
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